教員コラム

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「ビットコイン」って、いったい?

ビットコインねこ

イラスト「ビットコインねこ」
政策情報学部4年 齋藤友貴さん

最近、新聞やTV、ネットのニュースで「仮想通貨」や「ビットコイン(Bitcoin)」という言葉を目にしたことはありませんか? 2013年12月4日にNHKニュースウォッチ9で放送された「広がる仮想通貨 ビットコイン」では、「価格が急騰。1年で、100倍の10万円以上に」、「拡大が続くビットコイン」、「違法な闇取引に利用」など、その魅力と恐怖が入り混じったまま語られていたのがとても印象的でした。その放送直後に、中国の金融機関がビットコインの使用を禁止したことを受け ビットコインは急速に値を下げ、また、2014年2月26日未明、大手取引所 のマウントゴックス社が破綻し、すべての取引を停止するという異例の展開を見せました。マウントゴックス社がサイバー攻撃を受け、顧客から預っていたビットコインがほとんど盗まれてしまったということでしたが、2015年1月1日の読売新聞は一面トップ記事で 「ビットコイン、不正操作で99%が消失…警視庁」 と報じました。強盗にあってコインが盗まれたのではなく、誰かが横領した疑いが出てきたというのです。
これら一連の報道は一体何を意味するのでしょうか。ビットコインは怪しいもの?終わったもの?それとも、波乱に満ちた幕開け?そのまえにビットコインって、いったいなに?
このコラムでは、私のこれまでの理解に基づき、ビットコインに関するいろいろな「?」について、情報分野の立場からお話ししたいと思っています。

『「ビットコイン」って、いったい』の目次

ビットコインって、なに?

ビットコインは「インターネット上に構築された、参加者の総意で運用されている決裁システムの一つ」とされています。この説明で理解できる人はまれでしょうから、まずはインターネット上の通貨と考えることから始めましょう。

ところで、あるモノや仕組みをネットワーク上に作りこむためには、そのモノのもつ重要な性質を情報メディアの言葉で表現する必要があります。例えば、電子メールのアドレス「◯◯@cuc.ac.jp」は、右から「日本(jp) 教育機関(ac) 千葉商科大学(cuc) の ◯◯」と読めば、普通の郵便の「日本 千葉県 市川市国府台 1-3-1 ◯◯」という「住所」に対応していると、なんとなく、理解できます。

同じように、私達がビットコインは理解するためには、まず、通貨(もしくは貨幣)の性質を理解しなくてはなりません。そうは言っても、私は貨幣論をよく知らないので、野口悠紀雄氏の「通貨革命ービットコインは始まりにすぎない」(ダイヤモンド社)を参考にすると、「実は、日銀券は、支払い手段の一部を占めるにすぎない。現代経済では、支払いの大部分は、銀行預金を用いて行われて」おり、「最近時点で、預金通貨は現金通貨の約六倍ある」とあります。つまり、現代経済の決済システムを作るためには預金通貨(銀行預金など)をお手本にするのが自然なのです。ここで、郵便の現金書留をイメージしてしまうと誤解しやすいので注意しましょう。

かきかえるねこ

さて、AくんとBさんが同じ銀行に口座を持っていて、AくんがBさんに口座を使って3000円を送金するものとします。この時、銀行はAくんの口座(通帳)の残高を3000円と手数料を差し引いた金額に、Bさんの通帳の残高を3000円増やした値にそれぞれ書き直すでしょう。このように、口座決裁ではAくんとBさんの間で現金の移動はなく、単に通帳のデータを書き直すこと自体が「送金」に相当します。現金書留をつくるために、ネットワークの通信線に「現金」を無理やり詰め込むことはできませんが、データの送受信とデータベースの書き換えはできます。インターネットを利用した高速低コストの口座決済システム、ざっくり言うと世界規模の預金通帳とその書き換えシステムが仮想通貨の正体なのです。

ビットコインって、だれがなんのために作ったの?

wikipedia の記事によると、ビットコインは中本哲史 (Satoshi Nakamoto)を名乗る人物によって投稿された論文に基づき、2009年に運用が開始された」とあります。このビットコインの創始者とされる中本哲史氏は本名、実在かどうかを含めて不明となっています。ここで、ビットコインは中本氏一人ではなく、彼の思想とアイデアに共鳴した、たくさんの技術者によって開発、運用が行われていることを強調したいと思います。

ビットコインや仮想通貨を作る本当の理由は作っている人たちに聞いてみるしかありませんが、それらしい想像はいくつかすることができます。わかりやすいところでは、

  • 情報技術でよりよい世界を作りたいから
  • 通貨発行益(シニョリッジ)を得たいから

などが考えられます。ちなみに、中本哲史氏は推定100万BTC (2013年12月の時点でおよそ1000億円) 所持しているといわれています。これは彼が得たシニョリッジと言ってよいでしょう。

ビットコインって、だれが使うの?

まず、考えられるのは

  • 高額な送金手数料を支払いたくない
  • 送金に時間をかけたくない人

でしょう。日本の主な銀行の海外送金手数料は、インターネットで検索するとわかりますが、通常一件につき数千円程度かかるため数万円程度の送金では割が合わないことがあります。ビットコインの手数料はほぼ無料と言ってよいほど低くおさえられるため、マイクロペイメントとよばれる少額取引に向いているといわれています。例えば、無名のアーティストの曲を一曲だけネットで購入したり、災害時に募金をすることなどが可能になるでしょう。

  • 自国の経済が不安な

も考えられます。ビットコインの価格が急騰した理由として、2013年3月 のキプロス金融危機をあげることができます。ユーロ圏がキプロスへ金融支援する条件として全預金に対する課税を決めたことから、預金者が銀行から預金を引き上げ、ビットコインに流入させたといわれています。ビットコインは、中央機関を持たない P2Pネットワーク上で維持されています。これは、ある国家が特定のコンピュータを差し押さえても、その他のコンピュータが連携してネットワークを維持するため、預金の送金、引き出しを止めることができないことを利用しています。
逆に、この性質と後述する匿名性を悪用する例として、

  • 資金洗浄(マネーロンダリング)
  • 脱税

があります。これらの違法行為への対処方法は未だ十分ではなく、仮想通貨が世界に受け入れられるために是非とも解決しなければならない重要な課題の一つです。そして、

  • 投機目的

も無視できません。これについては、次で説明します。

ビットコインって、もうかるの?

もうかったねこ

2013年にビットコインの値段が100倍にもなり、投機目的でビットコインを所持し始めた人も多いでしょう。ビットコインを持ち続けることで値上がりを期待するのはその人の自由ですが、ビットコインの価格は乱高下する可能性があります。2013年に価格が急騰しその後暴落したことをみてもわかるとおり、ビットコインに向かう貨幣量に対するビットコインの供給量は未だ十分でないと判断せざるをえません。ビットコインの供給量 は時間に比例して緩やかに増加するように管理されていること、2013年12月からそれほど時間が経ってないことから、前回価格が乱高下した時とほとんど状況は変わっていません。また、今後ビットコインよりも魅力的な通貨が登場することや、致命的な欠陥が発見され他の通貨に流出してしまうことも考えられます。
ビットコインで利益を得る方法として採掘もあります。これは、それぞれの支払いが正当であるということを承認するという、ビットコインネットワークを維持するための仕事に対する正当な報酬です。しかし、最近、採掘に必要な計算量(難しさ)は急激に増加しており、一般の採掘者が参加しても採掘できる可能性は殆ど無いと言われています。

ビットコインって、危ないんじゃないの?

まず、

  • コインの値段が急変するんじゃないの?

という点からみた場合には、既にお話したとおり、十分に危険です。次に、

  • ハッカーにねらわれるんじゃないの?

という点はどうでしょうか。ビットコインが通貨としての機能を持っている以上、あなたのPCや電子財布(ウォレット)がハッキングの対象となる危険性は十分にあります。また、秘密鍵やパスワードが盗まれるなどして他人に送金されてしまったコインを取り戻す方法は、一般に、ありません。さらに、 各国におけるビットコインの法的な扱いが各国で統一されていない以上、それを国際的に保護する仕組みもないと思ったほうがよいでしょう。これも、仮想通貨が一般市民に受け入れられるためにクリアしなければならない課題の一つです。
しかし、通常の送金がすべて危ないわけではありません。ビットコインは

  1. コインの送受信の記録から個人が割り出されない(匿名性)
  2. 正常に行われた送金が第三者に横取りされない
  3. 同じコインが二重に使用されない

ようにするための防衛システムを備えているからです。この仕組みを理解するためには、(暗号学的)ハッシュ関数公開鍵暗号について理解していることが好ましいのですが、ここでは

  • 「ハッシュ」とはデータをツブすことであり、
    • ツブれたデータからツブす前のデータを予測することはできない
  • 「公開鍵暗号」とは公開鍵と秘密鍵の鍵ペアを使う暗号システムであり、
    • 原則として、秘密鍵は秘密に、公開鍵は公開して使う
    • 公開鍵から対応する秘密鍵を推測することはできない
    • 秘密鍵で暗号化したデータは対応する公開鍵でのみ解読できる

ことを了解してもらえれば十分です。

なぞなぞねこ

ビットコインの送金方法として、相手の公開鍵(からつくったアドレス)に対し て送金する方法(P2PKH: Pay-To-Public-Key-Hash)やあるスクリプトに対して送金する方法(P2SH) などの方法がありますが、ここでは P2PKH について説明します。P2PKH の送金先(アドレス)は送金を受ける人の公開鍵をツブしたもの(ハッシュ化したもの)を使用します。ツブれた公開鍵から対応する秘密鍵を推測することは非常に困難なので、単に送信アドレスを眺めているだけでは、そのアドレスを生成するときに用いた共有鍵を推測すること、すなわち送受信のアドレスから個人を割り出すことは非常に困難になります。
次に、コインを送信する人は、コインの最後に受信者の情報をつかった「なぞなぞ」を「練り込み」ます。そして、このなぞなぞが解ける人を正当な受信者と認めるわけです。P2PKHのなぞなぞは、「あなたが正しい受信者なら、もってる(はずの)公開鍵をツブして受信者のアドレスをつくれるでしょ?」という部分と「あなたの秘密鍵をつかえば、その公開鍵で解読できる暗号文がつくれるでしょ?」からなります。両方とも、送信アドレスに対応する秘密鍵を持っているなら簡単に解けるなぞなぞですが、秘密鍵を知らない人には歯が立ちません。この仕組みを使って、正常な送金が第三者に横取りされないことを実現しています。

最後に、二重支払いを許さないために「みんな」で監視します。まず、二重に支払った可能性のあるコインは正常なネットワークから拒絶されてしまいます。
正常な支払いはブロックと呼ばれる箱に集められ、箱ごとに承認印が押されます。承認印は、その前のブロックと現在のブロックの中の取引データにノンスというよくわからないデータを加えてハッシュした「値」です。ハッシュ値は特別なパターンになっている必要があるのですが、ツブれたデータから元のデータを推測できない、もっというと、ある特定のパターンのハッシュ値を作るためのノンスを推測することは出来ないため、「力づく」でノンスを探します。このノンスを大量に変化させ、あるパターンのハッシュ値を作る作業を「採掘」といいます。一番早く採掘に成功した人には、その報酬として 25 BTC(2014年11月の時点で約10万円)が渡されます。

なぞなぞねこ

正しく承認されたブロックは、今までのブロックの後ろに継ぎ足され、ブロックチェーンの一部となります。もし、ブロックチェーンが枝分かれしてしまった場合には、最長のチェーンに含まれるブロックが正当であるとされます。もし、ネットワーク上に裏切り者がいて、ブロックチェーンを勝手につくり直そうとした(分岐させようとした)場合、同時に伸びているチェーンよりも速く「にせもの」チェーンを伸ばす必要があります。その間、採掘レースで世界中の採掘者を抑えてトップを独走せねばならず、そんなことをするくらいなら「正しい採掘者として参加し、正当な報酬をもらい続けたほうがはるかにマシ」、つまり、監視の裏切り行為がワリに合わない仕組みになっています。

ビットコインって、なにがすごいの?

2000年には「IT革命」という言葉が流行語大賞に選ばれましたが、未だITの革命的進化は終息していません。IT革命の原動力であるインターネットは、参加者みんなが維持する世界中に広がる情報基盤です。この情報基盤の上に新たなサービスがつくられると、それを利用する私達の生活は大きな影響を受けるます。例えば、インターネット上の電子メールは高速低コストの郵便システムを作り上げ、人と人とのコミュニケーションのありかたに大きな影響を与えました。

ビットコインを始めとする仮想通貨は、貨幣という商取引に欠かすことのできない決裁システムをインターネット上に構築しようとするものです。電子メールやWWWが新たなコミュニケーションや商業活動を生み出したように、仮想通貨が新たな経済活動を促進する重要な役割を担うことが期待されます。
ビットコインの出現により、いよいよ金融システムがIT革命の射程距離内に入ってきたと考えてよいのではないでしょうか。

ビットコインって、どうやって勉強するの?

ビットコインは、今まさに開発と運用と改良が同時に進行している状態にあり、「ビットコイン教科書 決定版」のようなものは残念ながら見当たりません。ここでは、私がビットコインを勉強するときに参考にした文献、サイトを紹介することでご容赦いただきたいと思います。

初級編

「暗号が通貨になる ー 「ビットコイン」のからくり」吉本 佳生、西田 宗千佳
(講談社、ISBN-10: 4062578662、ISBN-13: 978-4062578660、2014/5/21)

「これでわかったビットコイン ー 生きのこる通貨の条件」斉藤 賢爾
(太郎次郎社エディタス、ISBN-10: 4811807723、ISBN-13: 978-4811807720、2014/4/25)

中級編

「仮想通貨革命 ー ビットコインは始まりにすぎない」野口 悠紀雄
(ダイヤモンド社、ISBN-10: 4478028443、ISBN-13: 978-4478028445、2014/6/6)

上級編

現在の取引状況、採掘量などの実データ

ビットコイン:よくある質問

最後に宣伝です。 ビットコインは、新しい国際貨幣であり、ソフトウェアでもあり、ネットワーク上で運用されるサービスでもあります。このため、ビットコインを正しく理解するためには、それぞれの基礎となっている分野を横断的に、かつ、専門的に理解する必要があります。 千葉商科大学政策情報学部は、このような複雑な問題に対応する人材を育成することを目的とした学部です。機会がありましたら、一緒に勉強しましょう。

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