教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

環境

東日本大震災時の津波による福島第一原子力発電所事故以来、私たちは「放射能」や「放射性廃棄物」という言葉をよく見聞きするようになりました。今回は昨年より頻繁にニュースで取り上げられている「高レベル放射性廃棄物の地層処分」について解説します。この問題について、興味を持ち、一緒に考えていただくきっかけになれば幸いです。

最近の主な報道記事:

  1. 昨年5月には
    「原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物の処分地選定について、政府は22日、公募に頼る従来の方式から、国が主導して選ぶ方式に転換する基本方針を閣議決定した。」(朝日新聞デジタル2015年5月22日21時57分)
    と報道されました。
    実は「高レベル放射性廃棄物」の処分方法は「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(2000年5月成立、2002年6月公布)」で「地層処分」するということがすでに決められています。そのため、2002年10月には、最終処分の実施主体となる「原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立され、「最終処分施設」設置の可能性を調査することを受け入れる自治体の公募が開始されました。しかし、その後、自治体からの応募がほとんどなく、処分地の選定が難航する状態が続いたため、この日、新たに基本方針として、公募だけに頼らず国の主導で候補地選定を進めるように方針転換することを閣議決定したということになります。
  2. そして昨年12月には
    「政府は18日、原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場に適した「科学的有望地」について、2016年中の提示を目指すことを決めた。」(朝日新聞デジタル2015年12月19日05時00分)
    と報道されました。
    国が主導して処分場の選定を行うわけですが、処分場の建設に適していると考えられるところをまず、2016年の内に国が発表することを決めたということです。今のところ、国が複数の「科学的有望地」を提示したのち、国民の理解を得るための十分な説明を行い、自治体からの応募を募ったり、国から複数地域に申し入れを行うという手順が考えられています。

そもそも「高レベル放射性廃棄物」って何でしょうか?
その処分をめぐる皆さんからのご質問に以下のQ&Aでお答えします。

Q:「高レベル放射性廃棄物」って何? 福島第一原子力発電所事故から出た廃棄物ですか?

いいえ。
紛らわしいのですが、福島第一原子力発電所事故によりでた一定以上の放射性物質を含む廃棄物は「指定廃棄物」と呼ばれ、こちらの最終処分も現在社会的に関心の高い問題となっています。しかし、「高レベル放射性廃棄物の最終処分」の問題とは異なるのです。というのは、原子力発電で使い終えた燃料を「使用済燃料」と呼びます。この「使用済燃料」から、まだ利用できる部分を再処理工場で取り出しますが、このときに放射能が強い放射性廃液がでます。この廃液をガラスに溶かして固めたものを「ガラス固化体」と呼び、これが「高レベル放射性廃棄物」です。 したがって、現在ある「高レベル放射性廃棄物」は全国の原子力発電所から発電を行った結果でてくるもので、福島第一原子力発電所の事故に由来する汚染物質のことを指すわけではありません。

Q:なぜ地層処分にするの? 「ガラス固化体」にすれば安全なのでしょう?

いいえ。
高レベル放射性廃液を「ガラス固化体」という形にするのは、放射線を遮断するためではなく、放射性物質を閉じ込め、それが簡単に流れ出したり、溶けだしたりして、外に出ていくことを防ぐためといえます。したがって「ガラス固化体」となった「高レベル放射性廃棄物」は、製造直後にはとても高い放射能をもっています。また、熱も出て、熱くなります。現在までに原子力発電により発生した「ガラス固化体」は青森県六ケ所村にある高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターで収納管に入れ、一時貯蔵して、冷却しています。1本のガラス固化体はおよそ高さ1.3m、直径40㎝、重さ500㎏の大きさで、現在までの使用済燃料すべてを再処理すると25000本ほどになるといわれています。これらは地層処分が始まるまで貯蔵しておかなければなりません。大変な数ですね。
地層処分する「ガラス固化体」は外に溶け出したり放射線が漏れることがないように何重にも人工的な容器に入れてから地下に置きます。しかし、人工的な容器が1万年以上も壊れない保証はありません。考えて見れば、1万年以上も壊れない容器を私たち人類は作ったことがないのです。よって、たとえ容器が壊れても放射性物質が私たち人間の生活圏に入ってこないように、、地層の力をかりる必要があるため、地層が十分に安定した場所を選んで処分するということが必要となります。

Q:いつまでも隔離処分しなくてはいけないの? 「高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)」からはずっと放射線が出続けるのですか?

いいえ。
放射性物質は放射線を出して安定な(放射線を出さない)物質に変わっていきます。したがって、時間がたつと放射性物質はだんだん減少して放射能も小さくなります。放射能が減るスピードは、どの放射性物質でも初めは早く、だんだんゆっくりとなります。しかし、人間が近づけるレベルまで減る時間は放射性物質の種類により大きく異なります。現在の高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性物質の種類からガラス固化体の放射能は100年後には20分の一、10000年後になると10000分の一となると推定されています。それでも数万年間は人間の生活環境から「高レベル放射性廃棄物」を隔離する必要があると考えられています。気の遠くなるような長い間私たちから隔離する必要があるということになります。

図1 高レベル放射性廃棄物の放射能減衰

図1 高レベル放射性廃棄物の放射能の減衰
(電気事業連合会「原子力 エネルギー図面集 2015」)

Q:なぜ「地層処分」にするの? ほかの方法も考えてみたのですか?

はい。
現在考えられている「地層処分」は、地下300m以上の地層が安定している深いところに埋めて、将来は人間の管理を必要としない、つまり、基本的には放っておくという方法です。高レベル放射性廃棄物を処分するということは、人間の生活圏から廃棄物を長い時間隔離するということです。従って、そのほかの方法として、宇宙や海洋底など人間の生活圏からさらに遠い所に処分するといった方法も検討されたようです。しかし、宇宙への発射に失敗する可能性や国際条約などの制約からこれらの方法は難しいと判断されました。また、放射能が少なくなって安全になるまで貯蔵し続ける方法も検討されましたが、一万年以上も管理しながら貯蔵することは困難と判断され、現在の「地層処分」が最も適当と定められたといいます。
筆者はこれまでに「地層処分」に関連する専門家の様々な意見を聞く機会があり、放射性物質が漏れだす心配を考えるとずっと監視しながら貯蔵する「管理貯蔵」が最も安全ではないかという意見をよく耳にしました。確かに、そうかもしれません。また、今後、放射性物質を人工的に崩壊させて放射能を無くすような技術が開発されるかもしれないことを考えると、廃棄物をいつでも取り出して処理できるようにしておくことが少なくとも必要です。「貯蔵」のような「地層処分」がよいのかもしれません。

Q:「地層処分」をする場所は300mより深ければどこでも大丈夫なの?

いいえ。
日本中どこでも300mより深くに埋めれば安全というわけではありません。先に述べたように、地層処分する「高レベル放射性廃棄物」から、たとえ容器が壊れても放射線が私たち人間の生活圏に入ってこないような特性を持った地層でなければなりません。地下ですから津波や洪水の影響は心配ありませんが、地震や火山活動、また、それらに伴う地殻変動の影響が確実に無い所を選ぶ必要があります。これは、今現在、それらの影響が無いことはもちろん、今後1万年以上もそのような影響が無い所を選定しなければなりません。そのように地層自体が安定していて、さらに人口や現在の土地利用状況など社会的条件も処分地に適すると考えられるところを政府は「科学的有望地」と呼んでいます。

Q:「科学的有望地」になるとそこに処分場を造ることが決まったということなの?

いいえ。
政府は2016年に「科学的有望地」を提示することにしたようですが、これは複数の地点となる予定です。実は本当にその地点が処分場に適しているかどうかは深い地下についてかなり詳しい調査をしないとわかりません。よって、「科学的有望地」を提示し、各自治体や住民の理解が得られて初めて、本当に処分地に適する場所であるか、科学的な調査を行うことにしています。この調査には20年程度かかると見込んでいて、その結果、不適であれば当然処分場をそこに作ることにはできません。また、自治体や住民の理解がなければそのような調査をすることも、処分場もつくることもしないと政府は述べています。本当に処分場が稼働するのは少なくとも20年以上先、住民の理解がスムーズに得られなければそれよりずっと先の話となるわけです。

図2 高レベル放射能廃棄物処分地の選定プロセス

図2 高レベル放射性廃棄物処分地の選定プロセス
(電気事業連合会「原子力 エネルギー図面集 2015」)

今後について

ここまで読んでくれた方は「地層処分」は随分時間のかかる作業だと驚いているかもしれません。それでも、今年は2016年、国が「科学的有望地」を提示する年となり、事態が少しずつ動き始めそうです。現時点における原子力発電所の再稼働の是非はともかく、「高レベル放射性廃棄物」は私たちが使っていた電気を作った結果すでに発生しているものですから処分をしなくてはなりません。処分の仕方によっては私たちや私たちの子孫に悪い影響を与えることとなります。ですから、処分の実施は政府や専門家に任せるとしても私たち国民は、この問題についてよく理解し、その計画や方法を監視して、時には声を大きくして意見を述べる必要があります。そのためには「高レベル放射性廃棄物の最終処分」に関する報道等を興味をもって見聞きし、常に客観的に、状況を理解しておかなくてはなりません。私たちが、これからの政府やNUMOの発表を注視し、冷静な判断ができるように準備をしておくことがとても大切なのです。

【引用文献】

  • 朝日新聞デジタル(2015年5月22日21時57分)「高レベル放射性廃棄物の最終処分場」
  • 朝日新聞デジタル(2015年12月19日05時00分)「処分場有望地16年提示 政府」
  • 電気事業連合会(2015) 「原子力 エネルギー 図面集」
    http://fepc-dp.jp/pub/pub7m/p208.png、http://fepc-dp.jp/pub/pub7m/p206.png

【参考文献】

  • 原子力発電環境整備機構(2009)「地層処分 その安全性」,176p,
  • 総合資源エネルギー調査会、電力・ガス事業分科会原子力小委員会、地層処分WG(2015) 「科学的有望地の要件。基準に関する地層処分技術WGにおける中間整理」
  • 資源エネルギー庁、原子力発電環境整備機構(2015)「「いま改めて考えよう地層処分」~処分地の適性と段階的な選定の進め方~」、高レベル放射性廃棄物の最終処分、国民対話月間 全国シンポジウム(2015年10月)資料

解説者紹介

杉田 文