教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

地域・暮らし

「倫理的消費(以降は、エシカル消費という)」という言葉を聞いたことがありますか?
私たちは一日の生活の中で多くのモノを消費しています。限りある資源を使用して、大量にモノを生産し、消費することは、地球の温暖化など異常気象の発生や、途上国における貧困問題、格差に関わる人権問題など様々な問題を発生させてしまいます。私たちの消費行動について、モノを売る企業も購入する私たちも、人や環境への配慮を意識した行動が求められています。このようなエシカル消費の現状について、企業の事例や消費者行動ついて解説します。

エシカル消費とは何か?

エシカル消費は、「自然環境(例:植林木、動物愛護、環境保護に関する商品)」や「人(例:児童労働によらない商品、フェアトレードによる商品)」に対して便益がある消費行動であり、個人が購入や不買(ボイコット)によって選択できるものと定義されています(Carrigan and Attalla 2001; De Pelsmacker et al. 2005)。具体的には、フェアトレード商品、寄付付き商品、エコ商品、リサイクル製品、資源保護認証の商品、障がい者支援用の商品、動物への配慮がされた商品など広く存在します(消費者庁『倫理的消費』調査研究会、2017)。

このエシカル消費は、1980年代のイギリスからはじまり、ヨーロッパ、アメリカ、アジアと現在は世界的に広がりを見せています。

日本でのエシカル消費の歴史(日本エシカル推進協議会、2015)は、1974年フェアトレードの開始、1989年エコマークの開始、1999年エコプロダクツ展の開始、2011年東日本震災後「応援消費」活発化、2015年消費者庁「倫理的消費調査委員会」の設置と、政府・企業の取組みにより、エシカル消費は少しずつ世の中に浸透しつつあります。特に東日本大震災の後に、エシカル消費が広まってきているといわれていますが、まだまだ日本におけるエシカル消費の実行や認知は諸外国に比べると割合は低いといわれてています1

消費者の行動について

日本の消費者のエシカル消費ですが、いくつかの調査でも明らかになっています。

「消費者行政の推進に関する世論調査」(内閣府、2015)では、「日頃、環境、食品ロス削減、地産地消、被災地の復興、開発途上国の労働者の生活改善など、社会的課題につながることを意識して、商品・サービスを選択しようと思っている」(64.3%)。また「消費者意識基本調査」(消費者庁、2015)では、消費者として心掛けている行動として、半数以上の回答者が「環境に配慮した商品やサービスを選択」していると答えています。このように日本でも多くの人がエシカル消費を心がけるようになってきています。また、そのような商品や販売する企業に対してポジティブなイメージを持つといわれています。

エシカル消費は、社会にとっても、企業にとっても、消費者にとっても、良いことばかりのように思えますが、なぜ実際の消費市場で、大きなヒット商品やトレンドとなっていないのでしょうか。

実は、こういった消費者のエシカル消費への意思と実際の購買行動にギャップがあることは、様々な研究や調査においても指摘されています。その原因は、商品に付随する社会貢献に関わる情報自体の不足、情報に対する信頼性の欠如、消費者の懐疑的傾向の他に、高価格であるという認識を持たれていることが挙げられています3。また、現在のように多少景気が上向きになっても将来不安を持つ日本の消費者は、余計なモノを同情などでは購入しません。必要なもの、自分の気に入ったものを厳選して購入しています。このような全体的な消費動向に加えてエシカル消費に対する認知・情報不足によっても、エシカル消費がなかなか進まないといわれています。

ただし、2017年の消費者庁の調査によると、消費者はエシカル消費を認知することによって、約2割がエシカルな商品の購入やエシカルな行動を実施するそうです。つまり、エシカル消費を促進させるためには、まずはエシカル消費が何かということについて、消費者自身が知ることによって、消費行動が変わってくるということです。

エシカル消費に対応する企業の取組み

では、エシカル消費に対して企業はどのような対応をしているのでしょうか。ここではひとつの事例を見てみたいと思います。

コーヒーや紅茶等の輸入・加工・販売を行っているUCC上島珈琲株式会社(以下UCC)ですが、「森林コーヒー」という商品があります。この森林コーヒーは、エチオピアの「森林保全プロジェクト」2による商品です。エチオピアでは、畑の拡大や燃料のまき採取など現金収入を得るために森の木々が伐採されてしまい、環境破壊が進むことが国の重大な問題でした(JICAによるとかつて34%あった森林面積が、2000年は4%に減少)。本プロジェクトでは、住民が森に自生するコーヒーの実を集めると、UCCが豆をグレード別に分けて、販売チャネルを決めるよう指導しています。自然に森に自生するコーヒーの木が住民たちの収入源となるために、住民たちはむやみに森林の伐採を行わなくなります。UCCは、この住民らに対して品質向上のための技術指導を行い、より品質の高いコーヒーの収穫と生産管理や物流体制の構築に対して支援をしています。

エチオピアはアラビカ種の起源となっているコーヒー生産国です。エチオピアで自生している森林コーヒーは、味はもちろん、森を守ることや森林に自生しているコーヒーといった商品の背景にあるストーリーも魅力があると思いませんか。私たちの普段飲む一杯のコーヒーからも、エチオピアの緑豊かな風景が広がります。

ただし、この森林コーヒーについてご存知の方は少ないかもしれません。

もちろんUCCはこれらの活動について、ホームページで情報を公開しています。ただ、この商品は、野生のコーヒーのため、生産量が限られているので、自ずと販売先も限られているとのことです。

一般小売店で購入できるようになるためには、上記のような生産量の問題に加えて、消費者のニーズが前提となります。エシカル消費が今よりも普及したらスーパーなどの棚でこの森林コーヒーを見られる日も来るでしょう。

まとめ

倫理的消費(エシカル消費)について少しご理解が頂けたでしょうか。消費は毎日の私たちの生活に欠かせない活動です。エシカル消費は、まだまだ日本では普及への過程にあるといえますが、知ることだけで私たちの消費行動は変化します。一人一人の消費行動が集まって社会の変化へとつながっていきます。

今日からの買い物、自分と社会の何か良いことにつながると良いですね。


【注】

  1. 例えばエシカル消費に含まれる「フェアトレード商品」の市場規模(2015年)は、95億円であり(前年比+7%)、全世界の市場規模の9436億円の1%程度となっています(Fairtrade International Annual Report 2015-2016)。また、『倫理的消費』調査研究会(2017)でも、人々のエシカル消費への関心は高まっていますが、まだその認知や購買行動に対してはまだ初期段階であることが指摘されています。2017年の消費者庁による消費者調査でも「エシカル」や「倫理的消費」という言葉の認知は1割程度でした。
  2. JICA(国際協力機構)の「ベレテ・ゲラ参加型森林管理プロジェクト」に協力して、UCCのプロジェクトは実施されています。このプロジェクトは森林で収穫できるコーヒーの価値を引き出し、高付加価値製品として認知度を上げるため、品質の改善に取り組むプロジェクトです。(UCCのホームページより)
  3. 商品に示されている情報に対して本当に社会に貢献されているのか懐疑的傾向を持つこと(大平・スタニスロスキー・薗部, 2016)やその情報に対する信頼性の欠如(Carrigan and Attalla 2001; Lee and Lee 2004; Roberts 1996)が研究では指摘されていますし、2017年の消費者庁による消費者調査でも「エシカルかどうかわからないことや高価格が、エシカルな商品を購入しない主な理由」と示されています。

【参考資料】

  • 消費者庁、「倫理的消費」調査研究会(2017)、「『倫理的消費』調査研究会取りまとめ ~あなたの消費が世界の未来を変える~」(http://www.caa.go.jp/region/pdf/region_index13_170419_0002.pdf、2017年7月31日確認)
  • 日本エシカル推進協議会(2015)、「倫理的消費の簡単な歴史」(http://ethicaljp.com/blog/2015/03/31/19、2017年7月31日確認)
  • UCC上島珈琲株式会社 ホームページ「エチオピア森林保全プロジェクト」(http://www.ucc.co.jp/company/csr/country_of_origin/ethiopia.html)
  • Carrigan, Marylyn and Ahmad Attalla(2001), "The myth of the ethical consumer – do ethics matter in purchase behaviour?," Journal of Consumer Marketing, 18(7), 560-78.
  • De Pelsmacker, Patrick, Liesbeth Driesen, and Glenn Rayp(2005), "Do Consumers Care about Ethics? Willingness to Pay for Fair-Trade Coffee," Journal of Consumer Affairs, 39(2), 363-85.

解説者紹介

准教授 増田 明子