教員コラム

政治・経済・IT・国際・環境などさまざまなジャンルの中から、社会の話題や関心の高いトピックについて教員たちがわかりやすく解説します。

地域・暮らし

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私が担当する科目に「金融リテラシー」があります。「金融リテラシー」は、私たちがより良い暮らしを築く上で身につけておくべき「お金」の知識と判断力のこと。家計の管理、ライフイベントや万が一の備え、給料と税金・社会保障制度などを学びますが、2017年度は1年生の大半を占める164人が受講しました。この授業では例年、学生に「あなたのお金に関する7つのルール」というレポートを書いてもらっていますが、今年度は「奨学金を上手に返すこと」を挙げた学生が多かったことが印象に残っています。

最近、「奨学金破産」という言葉を耳にしたことはありませんか? 大学生の半数が奨学金を借りている時代。その返還に苦慮する若者が増えていることをご存知でしょうか? 将来の「お金」の知識として、奨学金の返還をイメージしておくことがとても重要になっています。

自分で借りて、自分で返す奨学金

人生100年時代に最も重要な資産は、住宅などの有形資産でも、金融資産でもなく、知識やスキル・経験などの無形資産(人的資産)です。AIやICT、シェアリングエコノミーなど、テクノロジーや経済システムは急速な進化を遂げつつあります。「ワークモデル2030」(リクルートワークス研究所)では、“今の若者は一生で50年働くことになるが、企業は平均25年で倒産したりして交代するので、一生に最低1度は転職せざるを得ない「職業寿命50年、企業寿命25年」の時代に遭遇している”と述べられています。これは、大学水準の新しいスキル・知識・経験の蓄積が最低2度求められるということです。しかし、これによって職業生活や収入が継続するのですから、無形資産を蓄積して金融資産を獲得していくことが、今まで以上に求められるとことになります。その意味では、大学で学ぶということもこれまでにも増して重要になってきます。

さて、そこで大学進学ということになると、学費を納入するために奨学金の貸与を受ける学生が増えています。銀行等の教育ローンは親が借りて親が返しますが、奨学金は学生自身が貸与を受けて、本人名義の口座に振り込まれます。ですから、自分でそれを管理し、将来自分で返還しなければなりません。現状では、大学生の2人に1人が奨学金の貸与を受けており、そのうち日本学生支援機構については大学生の2.6人に1人、38.4%が奨学生となっています(平成26年度)。金額としては平均月5~8万円、4年で300万円から400万円です。卒業半年後の10月から返還が始まりますが、返還額は毎月1万6000円から2万円前後で、15年から20年かかります。つまり、22歳から返還し始め、最長で42歳までかかるということになります。

仮に奨学金の返還を延滞したらどうなるでしょうか。延滞すると年5%の延滞金が付き、電話や郵便で催促され、場合によってはクレジットカードが使えなくなったり、スマートフォンの割賦契約や住宅ローン契約ができなくなったりすることもあります。つまり、将来の生活に大きな問題が生じる可能性があるのです。

奨学金返還の3つのヒント

そこで、奨学金を上手に返すにはどうしたらよいのでしょうか。

第一に、奨学金の返還を、学生自身の家計管理の習慣化の一環として位置づけることが大切です。大学生になることは、経済的自立への第一歩です。自分の収入と支出、そして貯蓄という家計管理を自分でして、それを習慣化することです。毎月1万円貯蓄し、大学卒業時までに50万円貯める目標を持ちましょう。最近は家計管理のためのPFM(パーソナルファイナンスマネジメント)用アプリがいくつも手に入ります。収入−支出=貯蓄ではなく、収入−貯蓄=支出という原則、つまりアルバイト代や仕送り・奨学金などの収入が入ってきたら貯蓄分を先に取っておいて、残りで家計のやりくりすることを心がけてください。ペットボトルの飲料水を買うのでなく、保温や保冷ができるタンブラーや水筒を用意して、自宅の水やお茶を作って大学に持っていけば、節約にもなり、環境にも優しいエシカル消費にもなります。節約と言えば、自炊も大事です。50ぐらいのレシピを覚えれば、買った食材でやりくりする生活力も身につけることができます。

第二に、奨学金の返還そのものについてです。ある学生は、貸与された奨学金を全額使わず、月1万円を貯蓄に回すとレポートに書いていました。奨学金は「繰り上げ償還」といって、早めに返すこともできます。まずは、奨学金の中から卒業までに50万円貯めておくこと。さらに、アパートを借りている人は、正しく敷金を返還してもらって、それを奨学金の返還に充てることを考えてみてください。卒業の半年後から始まるプランに沿った毎月の返還以外にも支払うことができれば、返還期間を短くすることが可能です。できれば30歳までに返還を終え、同時に「つみたてNISA」のような非課税の長期・分散・積立の制度を活用して、30歳時に300万円の金融資産を作るようにするのが、懸命で安定的な資産形成の方法でしょう。

第三に、返還し始めてから返還が難しくなってきた場合、返還額を調整する方法があります。その1つは減額返還制度といって、1回の返還額を1/2または1/3にして、減額返還適用期限を2倍または3倍にする制度で、適用期間は通算で最長15年間です。もう1つは返還期限猶予制度といって、一定期間の返還を停止して、返還を先送りする制度で、適用期間は通算10年です。

これらは、一時的には有効ですが、将来の返還期間が更に伸びるというデメリットもあることを知っておく必要があります。

経済的な自立に向けての行動を

ところで、冒頭で紹介した学生のレポートには、「家計管理」や「繰り上げ償還」など、講義で学んだキーワードが並んでいました。大学で一生懸命勉強し、アクティブラーニングで経験を積み、自分の無形資産を作り上げることは大切なことです。それと同時に、大学生のうちに、きちんとした家計管理を行い、貯蓄を習慣化することはもちろん、「つみたてNISA」などで長期・分散・積立の安定的な資産形成に取り組んでみること、エシカル消費を心がけること、そして、奨学金を上手に返還するスキルを身につけることなどを通して、親に安心してもらえるような経済的自立を図っていくことが重要だと思います。そのきっかけに、身近な奨学金問題を考えてみてください。

最後に、奨学金とその返還方法についてさらに詳しく知りたい場合は、私が専務理事を務めているNPO法人日本ファイナンシャル・プランナーズ協会の以下のアドレスから小冊子『進学にかかるお金と奨学金の話』をダウンロードして読んでください。

解説者紹介

教授 伊藤 宏一