救急救命の手引き
  
参考資料
 日常の生活の中でも見られがちな傷病に関して,その応急処置を中心に参考資料として記載してあります。


1. スポーツ外傷 2. 熱中症 3. 心肺蘇生法 4. その他 ///[目次に戻る


1.スポーツ外傷

  不慣れ,練習不足,体調不良,緊張の欠如,自己能力の過信,不可抗力などが原因として上げられる。

(1)創傷

擦過傷
擦り傷のことである。処置としては,傷口をよく洗浄することが大切である。 化膿菌を除去することが目的である。その後は,ガーゼなどを当てがわず乾燥させてしまう。

裂 傷
比較的鋭利な断端をもって皮膚が切れた状態である。 度合いによっては多量の出血があり,救急に止血の必要に迫られることもある。処置としては傷口の洗浄は擦過傷と同じく必要であるが,傷が深くに及び激しい出血がある場合はまず止血が先決となる。止血法は,直接圧迫止血法と間接圧迫止血法の二つが考えられる。なお,緊縛による止血は絶対に避けなければならない。

刺 創
竹,釘などのようなもので刺した傷である。傷口は小さくとも深部に及んでいるため,化膿菌が発生しやすく,破傷風が恐い。効果的な処置が難しく,せいぜい出血によるわずかな受創部の洗浄にしか期待できない。必ず,医師の治療を受けること。
刺し傷の場合は,その異物を抜かないことが鉄則とされている。異物が止血効果の働きをもたらしていたり,無理に抜くことによる受傷部組織の損傷拡大の恐れがあるため。

(2)打撲・挫傷,および捻挫(靭帯損傷)
打撲・挫傷とは,打撃,衝突など直接の外力によって起こる皮 下組織の損傷である。皮膚の損傷はないが,皮下の血管がやぶれて皮下組織内に出血する。また捻挫とは,関節に外力が加わり生理的運動範囲を超えた動きによって,関節の構成体である関節包や靭帯に損傷が生じた状態である。軽症のものでは靭帯の繊維がほんのわずか切れた程度であり,腫れや疼痛も少ないが,疼痛で歩行が困難であるような場合では部分断列を起こしている恐れもあり再発しやすい。ときには完全断列などの重症な場合もある。
以下に述べるRICEの4原則と呼ばれる処置が大変有効である。

RICEの4原則

est)
局所の安静。受傷部位を休ませる。
ce)
局所の冷却。氷や冷却シップ等で,受傷後素早く冷やす。
ompression)
局所の圧迫。外部からテーピング等で圧迫し,内出血を止める。
levation)
局所の挙上。受傷部を心臓より高いところに挙上し,止血を助ける。

(3)骨折
基本的には骨折部位の固定である。 その際,副木などを用いて固定するが,骨折部位の上下2関節を動かさないように固定すること。特に注意することは,骨折端で2次 的に血管や神経,皮膚などを損傷しないようにすること。
また,骨折の際に血管を著しく損傷した場合は内出血から来るショック症状に注意しなければならない。患者を横に寝かせ,骨折部の挙上と全身の保温が急務である。メンタル面でのケアも重要。

(4)アキレス腱断裂
患者を仰向けに寝かせ,足首を軽く伸ばした状態で足の裏全体から 腱の上部までを固定し,直ちに受診させる。
アキレス腱の処置


TOP][NEXT


2.熱中症

<原因>
睡眠不足,体調不良等のコンディションに加え,長時間にわたる直射日光の下や高温多湿な環境下で活動したときなどに,脱水状態や体温調整機能低下によって起こることが多い。
<救急処置>
熱中症は,その症状の重度によって病名が違います。

多量の発汗はあるが,体温の上昇はない軽度の症状
 熱痙攣あるいは日射病と言い,直射日光下での活動による大量の発汗のために脱水状態に陥り,血液循環が低下することで発症します。血流が悪くなるため下肢に血液が停滞し,脳に血液が届かない状態に陥る。顔色が悪い。風通しの良い,涼しい場所で横にして休ませ,衣類,靴下,ベルトなどの体を締め付けるものはゆるませ,水分を十分に与える。

発汗があり,やや体温の上昇がある中程度の症状
 熱疲労と言い,発汗が多く血圧が低下し頻脈となる。顔面蒼白でめまい,倦怠感,吐き気,嘔吐がある。処置は軽度の場合と同じであるが,若干の塩分補給(0.2%濃度の水)をすると良い。

発汗がなく,体温の上昇が高度である高度障害
 熱射病と言い,きわめて重篤な状態である。多量の発汗による脱水のために,血液濃度が上がり血液が凝固して多機能不全を引き起こす。血液循環が悪くなるために皮膚の表面の血管が収縮し,体皮からの熱の放散が出来ずに体内に熱がこもり急激な体温上昇を引き起こし,脳の体温調整中枢神経にまで及んだ状態である。処置は迅速さが求められ,発症から20分以内に体温を下げなければ最悪な事態になる。

<予防>
普段のトレーニングから暑さに慣れさせておくこと。また,メンバーのコンディションの把握に努る。特に,睡眠不足や行動日までの生活状況まで把握したい。高温多湿や熱い場所での行動は極力避け,適度な水分補給を実施し,陽射しなどを遮るためにつばの広い帽子(麦わら帽子など)の着用を心掛けること。また,既往症として熱中症を持っている場合は,再発しやすいので注意すること。


TOP][NEXT


3.心肺蘇生法(CPR)

 心肺蘇生法(CardioPulmonary Resuscitation)とは, 人工呼吸でもっとも効率の高い吸気蘇生法 (Expired Air Resuscitation)と,閉胸式心臓マッサージ(Close chest Cardiac Massage)を組み合わせた一連の救急救命活動の手技を言う。具体的な実 施方法は実技で行うが,CPRを実施する際に特に注意しなければ ならない点を,以下に上げる。

  1. 倒れるまでの前後を確認できていない状況下では,患者の状態を素早く観察すること。 例えば,出血はないか,失禁していないか,嘔吐の後はないか,特 に頭部,脊髄への損傷の可能性はないか。
  2. 循環のサイン(呼吸,咳,体動)の確認。

  3. 協力者の要請。 出来るだけ多くの人を呼びつける。
  4. 周囲の状況を判断して実施する。
  5. ひとたびCPRを始めたからには,意識がはっ きりと回復するか,救急隊等に引き渡すまでは絶対に断続してはな らない。


TOP][NEXT


4.その他

  高山病
頭痛や吐き気を伴う高山病では,上半身を起こしての腹式呼吸が非常に効果的である。高山病は平たく言えば,尿として体外に排出されるべき水分が細胞組織に貯留することによって発症する病気である。そのため兆候としては排尿の減少などが上げられる。予防策としては充分な水分の補給と排尿である。利尿作用の高いカフェイン(お茶やコーヒー)や利尿剤(アセタゾラミド・商品名ダイアモックス。服用に際しては禁忌事項,副作用もあるので説明書を読むこと)の服用が効果的。
  過呼吸
ヒステリックや,パニックに近い状態の中で陥りやすい症状である。メンタルなケアが大切であり,精神的な誘導が必要。従来は紙袋などを利用して吸気を減らす処置がよいとされていたが,狭心症の発作との誤判断が指摘されている。
  血・気胸
血胸とは何らかの外的受傷や内的出血等による肺からの出血であり,気胸とは肺に穴があき空気が漏れることである。普段は胸腔内圧により,胸腔内は陰圧状態が保たれておりスムースな呼吸ができる。緊急を要するのは肺そのものへの受傷ではなく,出血が胸腔内に貯まったり,外傷による場合は,胸腔内から空気が抜け出ることによって生じる心肺臓器への圧迫障害である。外傷であれば直ちに傷口を塞ぐこと。サランラップ等を巻くのも1つである。
  喘 息
気管支喘息発作による長時間(4〜5時間)の多呼吸は,多くの水分を息から放出するため脱水症に陥るケースがある。喘息の発作が本格的になると口からの水分補給は難しくなるため早めの水分補給が肝心である。
  やけど
とにかく素早く,熱傷部位を水で冷やすこと。その際注意することは,水泡が出来ているようなときは,絶対に水道水 を直接かけないこと。水泡が破れる恐れがある。
  毒 蛇
咬まれた傷口より,出来るだけ心臓に近いところを軽く縛り,走ったりせず(血液の流れを活発にさせない。), 傷口を心臓より低いところに保ち搬送する。
  喉の刺
魚の刺などは,割り箸に綿をつけ,水を浸して患部付近で回転させればとれる。
  鼻 血
酢を浸した綿を鼻の入り口につける。
  喉内異物
咳を続けさせる。指を入れる。叩打法(背部に回り,肩胛骨の間を掌打する)の実施。


TOP


目次] [NEXT