ガソリン税を考える

2008年4月7日
千葉商科大学経済研究所 所長 栗林 隆

ガソリン税(揮発油税及び地方道路税)の暫定税率の失効で市場が混乱している。ガソリン税の約85%を占める揮発油税は暫定税率が適用されている平成19年度予算では国の税収の5.2%であり、関税(1.7%)及びたばこ税(1.7%)の約3倍、酒税(2.7%)の約2倍を占めている。また、ガソリン税はその使途が道路特定財源に限定されている目的税である。今回、平成19年度末(平成20年3月31日)で暫定税率の時限立法が切れ、4月1日よりガソリン税が1リッター当たり25.1円引き下げられた。暫定税率はガソリン税以外にも自動車取得税や自動車重量税などにも適用されてきたので、今回の失効で総額約2兆6千億円の大幅な税収減となった。今回大きな問題になっている点は、税収減により地方への交付金が削減され、必要とされる道路整備ができなくなることにある。

財政学の伝統的なノンアフェクタシオン原則によれば、特定の税収と特定の使途を結びつける目的税は財政硬直化を招き非効率となるから望ましくない。このように、目的税の観点からガソリン税は望ましくないのである。また、ガソリン税は、特定の財及びサービスを狙い撃ちするように課税する個別消費税であり、すべての財及びサービスに均等に課税する一般消費税と比較して、課税の中立性(効率性)を損なうから望ましくない。さらに、ガソリンにはガソリン税の他に消費税も課税され二重課税となっている点も見逃せない。同一課税ベースへの二重課税は不公平及び非効率を招く。このように見てくると、ガソリン税は理論的には悪税の代表格である。

それでは、なぜ今までガソリンに対して暫定税率による重課がまかり通っていたかというと、道路特定財源という旗印のもと、国権によって、「取りやすいところから取っていた」からである。そもそも、ガソリン税に暫定税率が適用され重課されるようになったのは、1973年のオイル・ショックが引き金になっている。オイル・ショックによって景気が失速し大幅な税収減による歳入不足を生じたわが国の財政は、緊急避難措置として財政特例法による赤字国債の発行を余儀なくされたが、増税策の一環として白羽の矢が立ったのがガソリン税であり、1974年から本則税率の28.7円(揮発油税24.3円+地方道路税4.4円)に加えて暫定税率適用による重課が始まった。以後、30年以上の長期に渡り税率の引き上げを繰り返しながら維持延長され、1993年には53.8円(揮発油税48.6円+地方道路税5.2円)になった。たしかに、ガソリン税は道路特定財源としてインフラ整備に貢献してきたのは事実だが、今やその役目は終わったと言えよう。

近代国家は租税国家であるから、国は財政活動に必要な財源を租税として徴収しなければならない。税制改革において所与の税収をどのように調達すべきかを論じる時のキーワードは、公平・中立(効率)である。この観点から、消費課税においては一般消費税のほうが個別消費税より望ましい。したがって、純粋な財政理論に立脚すれば、ガソリン税は暫定税率どころかそのものを廃止すべきである。廃止による税収の減少分は、消費税(一般消費税)の税率を引き上げるなどして確保すればよい。懸案である地方の道路整備コストも、効率性を重視して一般財源で必要に応じて賄えばよいのである。

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