空き地・空き家対策と住民主体のまちづくり

2020年4月22日
千葉商科大学経済研究所 所長 小林 航

『CUC View&Vision No.49』特集の狙い

 全国で空き地・空き家の増加が問題視されている。空き地・空き家の存在は、土地や建物という利用可能な資源が有効に利用されていない状態にあることを意味するため、まずはその利用者や利用方法を見つけることが課題となる。しかしながら、利用者が短期間で出現するとは限らず、それまでの間は所有者等が適切に管理する必要があるが、その責務を放棄する者がいたり、責任の所在が不明確な場合もあったりするため、そのような問題に対処することも重要な課題である。そして、各地で進行する少子高齢化や人口減少は、この問題への対応をより一層困難なものとしている。

 この難問に対処すべく、国は法整備を進め、各地域では様々な取り組みが行われているが、当然ながら課題は山積している。本特集は、こうした問題意識のもとで「空地・空家を活用、新しいまちづくり」と題して行われたCUC政策研究フォーラム(2019年7月20日)の参加者に、当日の議論も踏まえつつ、各自のプレゼン内容を再構成してもらったものである。

 1本目は、これらの問題に関連する5つの新たな法制度を紹介し、その課題について考察している。ここで取り上げているのは、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(2014年11月公布)、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(2018年6月公布)、「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律」(2014年5月公布)、「社会福祉法の一部改正(地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律)」(2017年6月公布)、および「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(通称、住宅セーフティネット法)の一部を改正する法律」(2017年4月公布)である。著者の野口氏は、これらの法整備には「市町村、地域社会の役割が重要であるとの認識が共通している」としたうえで、自治会・町内会といった既存の地縁団体の役員の高齢化や、子ども食堂・空き家活用等の「新しい自発的市民活動」との連携の弱さ等を課題として指摘している。

 2本目は、葉山の事例を紹介しながら地域住民の参加を促進する仕組みについて検討している。著者の桑原氏は、神奈川県葉山町でコミュニティカフェを営みつつ、葉山堀内協議体の構成員として活動している。この「協議体」とは、各地域で地域包括ケアシステムを構築する際に、主に「生活支援・介護予防」の領域で多様な関係主体間の連携を促進する場として位置付けられているものである。2018年6月に開催された同協議体の初回全体会議では、情報共有不足、担い手不足、拠点不足といった課題が抽出されたが、このうち「拠点不足」については「熟議と協働習慣の未成熟さ」が一因であると指摘している。地域内に福祉サービスや住民活動の場に適した空き地・空き家が存在したとしても、利害関係者が同物件の利活用の可能性について熟議を行う習慣が成熟していなければ、その課題の解決にはつながらないからである。こうした課題を解決するために、近隣住民間の互助活動を行う「互近助エリア」を段階的に形成していくための具体的な仕組みを提案している。

 3本目は、地域包括ケアシステムにおける高齢者の「居場所」に焦点を当て、地域福祉における空き家の利活用に関する取り組み事例を紹介している。そこでは、先述の住宅セーフティネット法に基づく「居住支援協議会」や、空家等対策特別措置法に基づく「空き家等対策協議会」の事例が取り上げられ、いくつかの課題が指摘されている。前者は、入居候補者となる住宅確保要配慮者と住宅提供者となる賃貸人の双方に対して、住宅情報の提供等の支援を実施する組織であるが、著者の松本氏は、相談件数に対する成約率の向上に加え、住宅確保に困っていながら相談に来ない居住者の住宅問題の解消を課題として挙げている。また、後者については、空き家を地域の施設として利用するための検討を行っている事例を挙げ、その維持に必要な課題を指摘している。

 4本目は、スペインの協同活動による空き家管理の事例分析を通して、空き家の「総有管理」について検討している。「総有」とは、共同所有の形態の1つであり、財産の管理権や処分権は団体に帰属する一方で、各構成員にはその使用権や収益権のみが与えられる、というものである。それを踏まえ著者の高橋氏は、「所有者が利用と管理を放置せざるを得ない地域における空き家について、何らかの中間組織が、その管理を所有権とは切り離された形(総有)により代行しつつ利活用すること」を「空き家総有管理」と再定義し、その可能性を検討している。そこでは、町会・自治会と協同組合との連携や、スペインの住宅協同組合のような組織の役割等が考察されている。

 5本目は、「現代総有論」と題して「市民社会論」を再検討し、市民の共同事業の持続可能性について考察している。著者の五十嵐氏によれば、「コモンズ」が「共通の土地資源」を基礎として形成された共同体の在り様を検討対象としてきたのに対して、現代総有論は、土地資源には依存しない現代都市を対象にしながら、様々なつながりを研究検討するものであるという。他方、市民社会論は、人口の増加に伴って都市が膨張するなかで、「都市住民とは一体どう見るべきなのか」という問題意識に答えようとしたものである。そのなかでも、農村型社会から都市型社会への移行に伴い、古くからの地域慣習等に縛られていた人間関係が解体され、公共心をもつ自由な人間としての「市民」が誕生するようになるとした議論に着目している。そして、実際には自由になると同時に戻るべき拠点を失い、孤立するようになった人々も多数生まれたが、彼らをどう位置付けるか、という点について従来の市民社会論ではあまり深く考えられてこなかったと指摘する。そのうえで、従来、市民社会論は市民が権力に抗するというイメージで語られる傾向が強かったが、被災地では、権力も活用しながら自らの力と合わせて目標を実現するという「横繋ぎ」の構図が生まれ、地方自治体も、利便を給付する主体から「市民との協働の対象」として位置付けられるようになったとしている。重要なことは、そうした共同作業を被災地の一過性の「美談」で終わらせることなく持続させることであり、そのために必要なことについて検討している。

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