CUCのオンライン授業

2020年11月30日
千葉商科大学経済研究所 所長 小林 航

『CUC View&Vision No.50』特集の狙い

本学を含む多くの大学では、これまで大学の教室という物理的な空間のなかで学生と対面し、そこで授業を行ってきた。パソコンやインターネットが発達し、それらを活用する機会が増えてはいたが、それはあくまで教室での授業の利便性を高めたり、授業時間外の学修を円滑に進めたりするためのツールとしての利活用にすぎなかった。

しかし、新型コロナウイルスが世界的に猛威をふるうなかで幕を開けた2020年度は、教室を含む大学自体を封鎖せざるをえず、新たなツールを使って授業の場を作ることとなった。本特集では、春学期に行われた本学のオンライン授業を振り返り、実際にどのような授業が行われたのか、様々な制約のなかでどのような工夫を行い、どのような教訓を得たのか、といったことを、個々の事例に基づいてまとめている。

1本目は、学生の通信環境の多様性に配慮することが求められるなかで「学びのユニバーサル・デザイン(Universal Design for Learning)」の視点に立って行った「教育課程論」と「教職概論」の内容を紹介している。その際、授業における各実践と、UDLの3原則および学びのユニバーサルデザイン・ガイドラインにある31のチェックポイントとを関連付けながら、全13回の授業を3期(1~3回、4~10回、11~13回)に分けて振り返っている。また、その効果と課題を、各回の学修内容の正確な知識・理解の獲得状況、各回で獲得した知識・理解に基づく思考・判断・表現をみる設問での達成状況、および受講学生の意識調査から分析・考察した。その結果、Microsoft Teamsによるリアルタイム等の遠隔授業のオプションを追加したことが、学修内容の正確な知識・理解、思考・判断・表現に関する障壁を下げることを促進し、学生の遠隔授業の学修を進める上での不安を解消したことが明らかになったとしている。

2本目は、簿記科目(「初級簿記」と「中級簿記」)におけるオンライン授業の取り組みを紹介するとともに、それぞれの授業における履修者へのアンケートについて若干の検討を加えている。その結果、いずれの授業においても定量的には高いスコアがみられた一方、定性的な記述アンケートにおいては、1年生についてはオンライン授業に対して否定的な記述がみられた一方で、2年生については肯定的な記述がみられたとしている。

3本目は、英語の授業におけるグループワークを取り上げている。ビデオ会議を利用したグループ会話は、取り組みを促進する仕掛けを組み込むことにより、有益な学習活動になりえることが確認できた。また、ビデオ会議でのグループ会話練習は「使える」が、そこでのツール選択やグルーピングを含めた活動設計には改善の余地が多々あり、「常態化」には程遠いことを自覚し、より良い授業設計を目指していくとしている。

4本目は、デザイン科目(「画像表現基礎」と「デザイン基礎」)についての報告である。昨今の教育機関におけるデザイン教育はデジタルアプリケーションの技術習得に比重が傾き、身体的な技術が希薄になりつつある。しかし、デザインワーク、つまり情報を視覚化することは自身の頭で考え、手を動かすことが基本となる。そのため、今回の授業オンライン化はデザイン教育におけるアナログとデジタルの有り様を再検討する好機となったという。さらに、再検討の内容をもとに実施した授業の結果としての学生の成果を取り上げ、今後のデザイン教育について考察している。

5本目は、オンライン授業でビデオ会議を活用する際のカメラの使い方に焦点を当てている。多くの学生は、教員側から求めない限りはカメラをオフにして授業に参加するが、それでは学生同士のつながりを実感することができず、オンライン授業のメリットを十分に享受することができない。そこで、この授業ではカメラをオンにして参加することを求め、服装や身だしなみを整えることも促した。これは、就職活動のオンライン化が進むなかで学生のスキル向上にも役立つとしている。

6本目は、社会学系の科目(「社会学入門」「都市と地域の社会学」「情報とメディアの社会学」)についての報告である。100名以上が受講する講義科目においては、学生に対しどのように授業への参加を担保するかという課題があるが、これらの授業では、2019年度から千葉商科大学の学習支援システムである「CUCポータル」を活用したコメントペーパーのICT化を行ってきた。そのため、今回の授業のオンライン化においても、比較的スムーズに移行できたという。また、以前から教育現場でのICT活用の必要性が論じられており、それらの議論を検討したうえで、今回の事例について検証するとともに、今後のオンライン授業の必要性・可能性について検討している。

7本目は、Teams上での3階層の会議構造を用いたディベート実習と、画面共有を用いたペアプログラミング実習という、2つの教育事例についての報告である。事前課題・事後課題などを含めた授業運営の具体的な手順、履修者を評価する観点、実際の履修者からのコメント例などを示しながら、オンライン授業を実施する教育組織が、ビデオ会議システムを用いて協同学習を行わせることの意義について検討している。

8本目は、遠隔授業の方法と課題について、本学での事例を中心に技術と情緒というふたつの側面から考察している。本学で授業に利活用されている遠隔授業の支援ツールは、不慣れな学生・教員にとって一見敷居が高そうにみえるが、20年以上前に確立された既存技術に基づいており、「習うより慣れろ」という方針で使いこなすことができる。実際に、学生の授業評価も教員の成績評価も、従来の授業とほとんど変わらない。この状況を支えることができたのは、従前にも増す関係者の努力に依存するものであるが、一方、インターネットを通じた全国的な情報共有によるノウハウ共有化の成果も多い。遠隔授業でも教員と学生の間に共感と情緒を感ずることができる。このような遠隔授業の経験は、今後の大学の在り方について大きな変更を強いることになるとしている。

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