CUCの倫理教育

2021年9月30日
千葉商科大学経済研究所 所長 小林 航

『CUC View&Vision No.52』特集の狙い

本学では現在、ディプロマ・ポリシー(学位授与方針)のなかで、身につけるべき力の1つとして「高い倫理観」を掲げている。これは、「有用の学術」に加えて「商業道徳の涵養」を重視する建学の精神に沿ったものと考えられる。それでは、本学では実際にどのような倫理教育が行われているのか。本特集では、関連科目の授業内容や運営方法などを紹介するとともに、倫理教育をめぐる諸課題について考察する。

1本目は、「商業と倫理」の内容を紹介している。この授業では、学生が将来、実際に仕事をするうえで倫理的な意思決定を行い、最適と判断したことを行動できるようになることを目標としている。就業経験の少ない学生が実際の職場での行動を想像できるよう、事例を多用するが、最初は学生がアルバイトや入社直後の仕事で経験する身近な題材から始め、徐々に管理職や経営者になったときに遭遇するテーマへと移行していく。また、学期の前半は題材を扱いやすいように実例を簡素化した架空事例を用いるのに対して、後半は新聞記事や企業不祥事の報告書などを組み合わせて実際に起こった事件を扱っている。履修者には、こうした情報を事前に読ませ、倫理的な問題の定義や当事者だったらどうするかを記述して提出させるとともに、授業中には自主的な発言を求めており、人によって考え方や判断が異なることを知る機会となっている。

2本目は、「環境と倫理」の内容を紹介している。この授業では、倫理を「環境に関する言動の判断の源」と定義し、自分なりの価値基準を踏まえて論理的な判断ができるようになることを目指している。授業のなかでは、毎回、ポータルサイトのクリッカー機能を用いて、「正しい答え」のない設問に回答させている。回答は複数の選択肢から選び、選んだ理由を説明する形式で行われる。例えば、エネルギーをテーマとした回には、「あなたが使うエネルギーについて、今すぐ見直すとすれば、どれを実行しますか?」と問い、「照明等のつけっぱなしや家電の待機電力を見直し、小まめに切る」や「エネルギー浪費のライフスタイルをまったく見直さない」などの選択肢を用意している。いずれを選んでも減点とはせず、説明の論理性のみに依拠して評価を行っている。

3本目は、「情報と倫理」の内容を紹介している。この授業では、「まず自分を守ること、他人を守ること、そして社会を守り次の世界を構想すること」を目標としている。ネット炎上やフェイクニュースなど、情報と倫理にかかわる話題は急速に増加しているため、既存の教科書だけでなく、新聞記事やテレビ番組などから新しい情報を取り入れて講義の題材としている。履修者には、毎回、質問を提出させ、次の回の最初の20~30分を質問の回答に充てる形で進めている。また、ケース(事例)をストーリーマンガとして作成したものを、教材として使用することもある。これは経験学習の題材になると同時に、マンガのコマに埋め込まれた状況に依存する情報に気づかせることを意図したものである。そして、最終レポートでは、自分が興味をもった概念についてまとめさせるとともに、「あなたが担当教員だとしたら、期末試験としてどのような問題を学生に与えるか?」という課題を設定し、履修者に「新しい問」の創造を求めている。

4本目は、本学を含む多くの大学がディプロマ・ポリシーのなかで「倫理」や「倫理観」といった言葉を学位授与の要件に含めていることを踏まえ、知識や技術と同じように学生の「倫理観」を測ることができるのか、という問題について考察している。まず、倫理系の科目を受講して高評価を得ることが、学生の高い倫理観を示すことになるかを検討する。次に、看護医療のように具体的な倫理綱領が存在する分野で行われている倫理的行動を自己評価させる取り組みについて紹介したうえで、そのような評価手法が一般の大学における教育課程にも活用できるかどうかを論じている。さらに、米国大学協会が策定した評価ツールにおいて、評価の対象となる能力が「倫理観」や「倫理的行動」ではなく「倫理的推論」であることに注目し、その内容を詳細に検討している。

5本目は、本学の建学の精神や教育の理念について、私たち教職員がどれだけ共通の認識を持っているのか、という問いを投げかけながら、「CUC(千葉商科大学)の倫理教育」を考えるための前提要件について考察している。建学の精神と教育の理念は大学の公式Webサイトに掲載されているが、例えば、そこに記載されている「実学」の意味や、その意味を簡潔に示す表現として記載されている「実社会に役立つ学問」の意味を一歩踏み込んで問う人がどれだけいるだろうか。また、学問と倫理はどのような関係にあるのか、教育が持つ倫理的意義とは何か。このような論点について議論し、認識を共有するには、本学の創設者である遠藤隆吉先生の考え方や希望を知るところから始める必要があり、そのためには、遠藤先生の生々主義哲学を学ぶところから始めてはどうかと提案している。

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