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インタビュー

常見陽平

常見陽平(つねみ・ようへい)
国際教養学部専任講師。リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年から現職。専門は大学生の就職活動、労使関係や労働問題、キャリア論、若者論など「労働社会学」。働き方の裏の裏まで知る評論家として、執筆や講演など幅広く活動中。近著に『僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う』(自由国民社)。

時代に取り残された男たち

——共働きでも、家事育児を手伝わない夫は今も多く存在しているようです。なぜなのでしょうか?

「仕事が忙しい」「疲れている」「やり方がわからない」「やってもダメ出しされる(笑)」など色々な理由が考えられますが、その根底には「昭和の父親像」の刷り込みが根強く存在していると思いますね。

核家族化が進んだとはいえ、まだまだ家父長制が色濃く残っていた昭和の時代に幼少期を過ごした現在の30代後半から40代の父親たちのなかには、いまだに「本来、家事育児は母親がやるべき」という家庭のイメージを払拭できずにいる人が少なくないです。

実際に、内閣府による「女性の活躍推進に関する世論調査(平成26年度)」では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について「賛成」と答えた人が44.6%、「反対」と答えた人が49.4%ですから。まだ半数近くの人が「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」と考えていると思うと少し驚きますよね。あくまで意識調査ではありますが。

とはいえ、一億総活躍社会と声高に叫ばれるこの時代。収入の面から見ても大黒柱1本で家庭を支えていくって大変なことです。家庭運営上のリスクヘッジのためにも、2人で働けるのなら働いた方がいい。

「女性は家、男性は外」と決めつけるのではなく、家事と育児、そして収入面で役割分担をしながら協力し合っていくべきなんです。

常見陽平

——常見先生は家事育児にかける1日の時間が6~7時間ということですが、奥様とどのように役割分担をしているのですか。

うちの場合はまず、「どちらが時間を作れるか」「どちらが向いているか」ということを考えました。

私自身、30代前半までは朝から深夜まで仕事をするタイプでしたが、娘が誕生したのをきっかけに、外資系IT企業で働く妻との役割分担を大きく見直すことにしたんです。

現在は保育園の送り迎え、料理、買い出し、掃除、ごみ捨てを私が担当。料理は好きですし、トヨタ生産方式を勉強していたこともあって整理整頓も得意ですから、廃棄ロスをおさえ、無駄なく効率的に、けっこう楽しみながらやっていますよ。週末は妻に休んでもらうために、娘と2人で外出する時間を作るようにしています。

代わりに、子どもをお風呂に入れる、着替えさせるのは、私よりもスピーディー且つ丁寧に行える妻にお任せ。向き不向きで分担することは、効率UPに加えてストレスの軽減にもつながります。

家事育児は労働です。極論を言えば仕事はサボれますが、育児はサボったら子どもが死ぬので絶対にサボれない労働です。だからこそ2人で担うべきなんです。夫婦2人で役割分担しながら家庭を回していくことがとても大事だと考えています。

常見陽平

合格点を下げてみんなで合格

——これまで家事育児を全くやってこなかった男性に役割分担を受け入れてもらうにはどう働きかければよいのでしょうか。

やらざるを得ない機会を設けることです。仕事でも実家でも何でも良いので、どうしても外出しなければならない用事を入れて、父親と子どもが2人きりになるシチュエーションをつくってみてください。

もし有給が取りにくい、子連れ出勤にも理解がない会社なら、まずは休日だけでもいいでしょう。家事育児をしない男性の中には、「やったことがないから自信がない」という人も少なくありません。定期的にこうした時間を設けることで徐々に自信がつけば、当事者意識も醸成されていくはず。役割分担はそれから決めればいいと思います。

あるいは、ドラスティックに「明日から役割を半々にする」というのも1つの方法かなと思いますね。ただ漠然と「もっとやってよ」と言っても彼らは何をどうすればいいのかわかりませんから、どんなタスクがあり、そのうちの何を担当してほしいのかを具体的に伝えることが大切です。

料理なんかはプラモデルを作ることによく似ているので、男性向きの作業だと思いますよ。何事も渋々やるのではなく、面白がってやれるといいですよね。

いずれにしても大切なのは、合格点を下げるということです。カレーに玉ねぎが入っていなくても、洗濯物がきれいにたためていなくても、子どもを寝かせる時間が遅くなっても死ぬことはありません。いきなりプロ野球を目指すのではなく、まずは草野球のベンチ入りをめざしてもらいましょう。

常見陽平

「忙しさ」の可視化で見えてくる現状

——とはいえ、突然「役割分担しましょう」と言うのはなかなかハードルが高いように思います。ただの愚痴としてスルーされてしまいそうな(笑)。

たしかに、妻が妊娠中や出産直後なら話題にしやすいですが、すでに数年間ワンオペできてしまった場合は難しいですね。まずは普段から会話の絶対量を増やし、相手が今どれだけ忙しいのかを知りつつ自分の忙しさを伝えることからはじめてみてはいかがでしょうか。できるだけ感情を盛り込まず、ファクトベースで話すのがいいですね。

ちなみに、うちでは紙のカレンダーとGoogleカレンダーで仕事もプライベートもお互いのスケジュールを常に共有しています。「忙しさ」を可視化することで、もしかしたら夫だけではなく妻の意識も変わってくるかもしれません。

というのも、まだまだ長時間労働の問題が根深いからです。日本の雇用システムは長時間労働を誘発するようにできていますから。人に仕事をつけるシステムですし、仕事の絶対量が多いため残業ありきの働き方になっていて、その結果として家事育児に参加できていないということは大いに考えられます。

一方で、働き方改革で早く退社できるようになったのはいいものの、家庭に居場所がないから外で1杯やって帰る「フラリーマン」なんて言葉も生まれていますが。

なかには家事育児をやってもらうことを諦めて、その分しっかり稼いでもらおうと割り切っている方もいると思います。「収入を得ること」も立派な家事の1つですから、家庭円満に暮らせているのならそれも80点の解決策だと思いますよ。ただ、それは健康上の問題など、何かあったときのリスクも大きいことを意識するべきですね。

常見陽平

妻か夫かAI家電か

——常見先生は「イクメン」という言葉が嫌いということですが、それはなぜですか?

イクメンと持ち上げられたところで、結果として労働強化になってしまう。イクメン手当が出るわけでもありません。忙しさが是正されることもないまま、どうにか仕事と育児を両立しようともがく子育て世代に向けて、理想的なイクメン像や凄母像をもてはやすメディアの論調はいかがなものかと思っています。

イクメンを持ち上げている限り、男性の家事育児がまだスタンダードではないことを表しているようなもの。そもそも、「男性が」「女性が」ではなく、2人で力を合わせて協力し合いながら子どもを育てていくことが大切だと思いますね。

——共働きなのに夫が家事育児を手伝わないことで悩んでいる女性にアドバイスをお願いします。

まずは自分が家庭や会社、社会において役に立っているんだという視点を忘れないでほしいです。自分を認めてあげることが大切です。

そして、男性が家事育児をやらないのは「社会(刷り込み)」「会社(長時間労働)」「家庭(コミュニケーション不足)」のどこかに問題があるはずなので、まずはその背景を探ってみることを提案します。

そのためにも、夫婦間のコミュニケーション量を増やすことは不可欠。「お互い仕事頑張らないといけないよね」と現状の認識を確認し合うところから、「そのためにはこうすればできるよね」と具体的な提案を行っていけたらいいですね。

ちなみに、お金で解決できることは解決しちゃいましょう。たとえば共働き家庭の「新三種の神器」とされるロボット掃除機、全自動洗濯乾燥機、食器洗い機。そして、保存性能が高く容量が大きい冷蔵庫と、私は使いませんが自動調理鍋があれば完璧です。

家電は「AI家電」として今後ますます進化していくことでしょう。また、今は行政も民間も育児系のサービスが充実しています。スマホですぐにシッターの予約もできる世の中ですから、利用できるものはどんどん利用していくことをおすすめします。

常見陽平

——常見先生の著書『僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う』(自由国民社)のご紹介をお願いします。

僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う

育児に積極的に参加する1児の父として、家庭では旅館の「仲居さん」として生きる私ですが、仕事と育児、家事の両立にモヤモヤする自分もいます。家事育児に没頭しても誰にも褒められず、仕事はおろそかになり、このまま100歳まで生き抜けるか不安な気持ちになることも。

そんなモヤモヤを抱える今どき育児の当事者として、これから男性がどのように生きるべきか、そして夫婦のあり方について問題提起したいと思って執筆しました。一見すると題名は男性向けのようですが、仕事と家事育児の両立に悩む女性にこそ読んでいただけたら嬉しいです。

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