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公立の小中学生8.8%に発達障害の疑いがあるという調査結果を2022年12月13日、文部科学省が発表した。ただし、この調査は教員へのアンケート結果であって、実際にそれだけの発達障害の児童・生徒がいるということを示すものではない。あくまで教員側がそう考えているという結果となる。

ここで、私個人の幼少期について少し書いておきたい。朝から晩までマークやロゴをひたすら描いて過ごし、他人に話しかけようとする気質がなく、3歳になった時点で日本語を話すことができなかった。小学校に入学してからは、1時間目の授業が図工で粘土だった場合には、その後の2時間目から4時間目まで、ずっと粘土を勝手にやり続けるような子どもであった。

こうした幼少期の状況を踏まえると、仮に私が今、子どもだとして、現代の学校環境下に置かれていると仮定すると、文科省調査が示す8.8%に該当するとされる可能性は高いだろう。

文科省の調査の質問項目には続きがある。この8.8%に該当する小・中・高生について、通級による指導を受けていない児童・生徒は71.8%いるとしたうえで、「発達障害の児童・生徒を支援する教育体制が整っていない」という現状を訴える報告書となっているのだ。

この報告書が意図するように、今後、小学校、中学校、そして高校で支援・配慮が強化されていくのであれば、実際の私は体験することはなかったものの、今の子どもであれば通級による指導などの対象になっていくのだろう。

支援で狭まるキャリアの選択肢

この「支援」「配慮」という言葉自体は万人に受け入れられるものであろうが、その中身については注意深くあるべきだ。

現状の支援・配慮は多くの場合、通級と特別支援学級を指し、どちらも通常学級とは異なる個別指導教室の活用を意味する。通級はあくまで通常学級に在籍し続けて個人指導教室の指導を受けるのに対し、特別支援学級では通常学級に在籍せず、個人指導教室の指導のみを受けることになる。

個人指導教室での学習では内申点が得られないので、そこに依存するほど、進学を考える際には内申点が必要なく、さらに特別支援に対する準備が整った学校を選ばなければならなくなる。そうなると選べる中学校の数は少なくなり、支援体制が乏しい高校段階においては、さらに選択肢が減ってしまう。

現実の私は京都大学に入学し、その後、フランスの大学に進んだのだが、文科省のインクルーシブ教育システム政策の進む先では、今の私のようなキャリアは存在し得なくなるのだろう。支援・配慮強化の先にあるのは、実はキャリアの選択肢が狭められる未来である。自分の人生は自分で自由に選び取っていけるべきという、自由主義社会の価値観と反する状況がここにはある。

特別支援学級は教室からの隔離

通級による指導や特別支援学級という仕組みが果たしている一つの機能は、通常の教室から該当児童を隔離することであるということについて、社会は注意深い目を持つべきだ。発達障害だろうが何だろうが、それの何が問題なのか。誰にとっての問題なのか。

周りの学習ペースについていけないことを問題視するのは、学習時間数でもって学ぶべき単元を身に着けたと自動的に見なし、省エネをしたい学校行政側の都合である。団体行動ができないことを問題視するのは、教員が管理しにくいという、教員側の都合である。それぞれの人間が自分の都合を押し付けるのではなく、他人を尊重し、さまざまな人間が同じ時間、同じ場所にいることを許容する寛容性を教員と児童・生徒の双方が育むことの方が、個人の自由とダイバーシティ(多様性)を尊重する社会では求められていくべきだ。

私は5年前に、カナダの小学校のフランス語の授業を見学したことがあるが、教室ではフランス語どころか英語も十分に身に着けていないアジア系移民の子どもたちも混ざって、仲良く勉強していた。今の日本の学校の「支援」「配慮」はこうした学習環境を促進する性質のものではないことに注意が必要だ。

影浦亮平(かげうら・りょうへい)
千葉商科大学基盤教育機構准教授。1981年愛媛県生まれ。京都大学総合人間学部卒業後、ストラスブール大学(フランス)で修士課程、博士課程を修了。博士(哲学)。稲盛財団、京都外国語大学、クエンカ大学(エクアドル)等を経て、21年から現職。専門は哲学・倫理学で、理論・応用両面の研究を進めている。昨今は、SDGsやビジネス領域への研究関心を深めている。

【転載】週刊エコノミスト Online 2022年12月27日「発達障害の子どもへの『支援』は本当に必要か」影浦亮平
(https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20221227/se1/00m/020/001000d)

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

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