コラム
今年に入り、政治やメディアの世界でも、「物流の2024年問題」が取り上げられる機会が大幅に増えた。ドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に制限されることによって、モノを運べない状況が生まれるのではないかという危機感が背景にある。
「物流の2024年問題」が起きた真の原因は、一言で言えば、企業経営にロジスティクス概念が定着していないことにある。
企業経営におけるロジスティクス
林周二『流通革命』が著されたのは、1962年である。高度経済成長期には、大量生産・大量消費を支える流通革命が唱えられた。モノが不足して、作れば売れる時代において、物流に求められるのは、大量輸送・大量保管の能力向上である。それは技術論・方法論であり、物流に関して戦略は必要とされなかった。
しかし、石油危機以降の低成長時代になると、マーケットに対応した生産が求められるようになる。適切な商品を、適切な場所に、適切なタイミングで、適切な費用で納品する必要が高まった。市場が求める「適切な商品」を生み出すのがマーケティングだとすれば、それ以降を担うのはロジスティクスである。1980年代後半以降、物流活動に対する効率の追求に加えて、市場適合を含むロジスティクスという概念が普及する。

しかしながら、現代にいたるまで、本格的にロジスティクスに取り組んだ企業は多くなかったのではないだろうか。競争優位を築くためロジスティクスに積極的に取り組んだ先進的な企業もあった。一方で、多くの企業にとって物流は依然としてコストであり、市場適合ではなかった。それらの企業は、とにかく安く物流活動を委託できる物流業者の選定に力を入れた。物流業界も一部では付加価値の高いサービスを展開しようという企業はあったが、差別化できずコスト面でしか勝負できない企業も少なくなかった。コスト競争に巻き込まれれば、労働集約型である物流業界の人件費は抑制され、長時間労働に陥る。
企業におけるロジスティクスとは輸送コストを下げたり、保管効率を高めたりすることではない。むしろ、市場適合を行いながら不必要な物流を発生させないのがロジスティクスである。しかし、ロジスティクスという用語を使っていても、多くの場合、それは物流コストの話であり、物流業界への期待は物流活動にかかるコスト削減だったのである。
物流が経営課題の中心に
トラックドライバー不足は決して最近起こった議論ではない。昔から景気が良くなると議論の俎上(そじょう)に載ったものの、リーマン・ショックや長く続いたデフレ経済の影響で、議論は雲散霧消してきた。物流業界の人々は、物流という存在が電気や水道と同じく社会のインフラであり、平時には存在を意識される機会は少なく、それを誇りに思っている印象がある。そのために、厳しい労働環境や長時間労働をよしとするマインドセットを感じる。しかし、働き方改革の流れを受けて潮目は変わった。これからの日本で、持続的な物流を実現するために、2024年問題の克服は避けて通れない過程である。そして、物流業界の多くが、物流を止めてはいけないという矜持の中で、2024年問題に対する取り組みを続けている。
高度に分業が進んだ現代社会では、物流が無ければ、生産も流通もできず、消費活動に影響をもたらす。「物流の2024年問題」によって、物流活動の供給量は減少する。それにもかかわらず、トラックドライバーの待遇を改善しなければドライバー不足は加速するため、企業による物流支払い費は増加する。企業は、これから物流コストの大幅な上昇を前提として、経営を考えていく必要がある。すなわち、財を扱うすべての企業の経営課題の中心に物流が加わるのである。
SDGsの推進にも
物流を単なる活動としてコスト削減対象とするのではなく、不必要な物流活動を発生させずに、市場に適合する物流システムを構築する。これがロジスティクスの本質であり、「物流の2024年問題」は物流活動の供給を制限する形で、企業のロジスティクスの巧拙を問うていると言えよう。販売見込みのない商品の保管、消費に直結しない物流拠点間の移動や返品といったムダな輸送を行っていないか。付加価値を生まない物流活動を減らせれば物流コストも削減できる。さらに、物流活動によって生じるCO₂排出量も減少するため、環境にも良い効果をもたらす。労働力不足が進む日本において、少ない人手で済むメリットもある。すなわち、企業経営の中心にロジスティクスを置くことはSDGsの推進であり、労働力不足対策でもある。
働き方改革による他産業の時間外労働の上限規制は年間720時間である。早晩、ドライバーの時間外労働も上限960時間から他産業の水準に近づいていくだろう。2024年は始まりに過ぎない。これを終わりの始まりにしないために、ロジスティクスを経営の中心課題とする時代が到来したのである。
大下 剛(おおした・たけし)
千葉商科大学サービス創造学部准教授。1972年愛知県生まれ。明治大学大学院商学研究科博士後期課程修了 博士(商学)。専門は物流論。2023年より現職。
【転載】週刊エコノミスト Online 2023年10月13日「『物流の2024年問題』が問いかけるもの」大下剛
(https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230919/se1/00m/020/001000d)
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