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コラム

世界の「食」の持続可能性が心配されています。

世界の人口は、2050年には97億人となる見通しで、将来、需給のひっ迫が懸念されています。以下は世界全体の食料需要量の見通しです。

世界全体の品目別食料需要量の見通し
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出典 農林水産省「2050年における世界の食料需給見通し」(https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_zyukyu_mitosi/attach/pdf/index-12.pdf)

上の表では2010年と2050年を比較したときに畜産物の需要が1.8倍、穀物需要が1.7倍になるという予測値を示しています。ところで2010年の人口は約69億人。2050年までの40年で人口が1.4倍になりますが、それ以上の割合で食料需要が増えると見込まれるのはなぜでしょうか。

「持続可能な食」を考えるとき、この数字の背景を理解する必要があります。今回は、世界の食の現状と、サステナブルフードなどの取り組みについてご紹介します。

世界的な食肉需要の高まりで、穀物需要がひっ迫

世界の食肉需要の内訳は以下の通りで、鶏肉を含む家きん肉の増加が大きいですが、牛肉や豚肉も増える見通しです。

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出典 農林水産省「平成28年度食料・農業・農林白書」(https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12232574/www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h28/index.html)

増加の主な原因は、人口の増加と開発途上国が経済成長することによる食肉需要の増加です。すでに十分な肉を食べている先進国と、これから豊かになり肉食の割合が増える開発途上国を比較すると、需要の増減は以下のように大きく違います。1995年比では先進国も人口は増えますが、牛肉は減少し、豚肉は微増となっています。

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出典 農林水産省「平成28年度食料・農業・農林白書」(https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12232574/www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h28/index.html)

食肉需要が増えると、畜産のために必要な穀物需要が増えます。畜産物1kgの生産で必要となる穀物量をトウモロコシ換算すると以下のようになります。特に牛肉で多くの穀物飼料を必要としていることがわかります。
※以下は日本の畜産業事例をもとに試算しているので、世界の畜産業の実測値とは違います。

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出典 農林水産省 平成28年「知ってる? ⽇本の⾷料事情」( https://www.maff.go.jp/j/pr/annual/attach/pdf/kokumin-2.pdf)

つまり食肉需要が増えると家畜飼料としての穀物需要が増えるため、全体で人口の増加以上に食料需要が増えてしまいます。これが「食の持続可能性」の大きな課題です。

畜産業の環境負荷はどれくらい?

畜産業では家畜が食べる飼料穀物のほか、水資源も大量に使われます。
たとえば牛肉1kgを生産するには、約20,000リットルの水が必要です。穀物と肉類の生産に必要な水の量は以下の通りです。

肉1kgの生産に必要な水の量(ℓ)
牛肉 20,600
豚肉 5,900
鶏肉 4,500
穀物1kgの生産に必要な水の量(ℓ)
3,719
とうもろこし 1,800
大豆 2,498

出典 環境省「virtual water」(https://www.env.go.jp/water/virtual_water/)

必要とする水資源の量においても牛肉が突出していることがわかります。私たちが100gの牛肉を食べるときに約2,000リットルの水資源を消費し、茶碗1杯のご飯では約278リットルの水資源(米1kgは茶碗16杯で換算、炊くときの水を加算)を消費しています。

CO2排出量はどうでしょうか。
畜産業では飼料の生産・輸送、排泄物の処理過程、その後の加工・運搬などでCO2が排出されます。豚肉1kgあたりCO2排出量は7.8kgという宇都宮大学の試算例があります。鶏肉はそれより少ないと考えられています。
一方、牛肉のCO2排出量は豚肉の2倍から4倍などと算定するいくつかの報告例があります。牛はゲップにより温室効果が高いメタンガスを排出するため、それをCO2換算すると単位あたり排出量は他の食肉よりかなり高い数値となります。

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先進国ではこうした現状がすでに知られるようになり、欧米中心に肉食をやめる人、「環境負荷が特に高いから牛肉だけは食べない」という人が増えつつあります。さらに新たな選択肢として、肉の代わりとなる「大豆ミート」が広まっています。

「大豆ミート」が日常の食卓へ

「大豆ミート」は大豆のタンパク質から作られた加工食品で、ハンバーグや唐揚げにするとほぼ肉のような食感と味わい。大豆以外の豆や米などを原料とする食品もあり、まとめて「ベジミート」と呼ばれることもあります。

大豆ミートは食料需給のひっ迫が心配される将来の貴重なタンパク質食品として注目されています。環境にやさしいだけでなく、食肉よりも低カロリー・低脂質・高タンパクなので健康食として消費者に歓迎され、2019年ごろからアメリカで市場拡大し、日本でも商品化されています。

「大豆ミートってどんな味?」「一度食べてみたい」という人は探してみてください。大型スーパーやコンビニ、ファストフード店など多くの店で取り扱っていて、意外なほど身近に浸透していることを実感するはずです。

ファミリーマート

惣菜・サラダカテゴリーで大豆ミートを使用した総菜メニューを展開。

モスバーガー

大豆たんぱくを原料とするソイパティを使ったモスバーガー、パティだけでなくバンズやソースも植物性素材にこだわったグリーンバーガーを提供しています。

ドトールコーヒー

大豆のミートを使ったメニューを販売しています。

イオン

「大豆からつくった」ミンチ素材やハンバーグなどを、自社ブランド「Vegetive(ベジティブ)」シリーズとして展開しています。

環境省食堂

2021年から大豆ミートなどを使った「プラントベースメニュー」が導入されました。植物性素材100%の素材を使った中華やカレーなどの定食が食べられます。

次に、環境省食堂にも登場して話題の「プラントベースフード」について解説します。

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日本でもプラントベースフードのバリエーションが拡大

植物性原料を使った食品全般をプラントベースフードと呼び、大豆ミート以外にも種類が増えています。2020年の東京オリンピックでヴィーガンやベジタリアンの外国人が多く訪れることを見込んで日本の各メーカーは植物性の食品を開発してきました。コロナ禍により観光客を迎えることはできませんでしたが、その代わり、ステイホーム中に食への関心が高まり、国内でもプラントベースフードが注目されています。

プラントベースミルク

牛乳の代わりに飲む飲料としては豆乳やココナッツミルクがすでに浸透していますが、ほかにも種類が増えています。日本でも穀物ベースのオーツミルク、ライスミルク、ナッツベースのアーモンドミルクなどが店頭で買えるようになってきました。

植物性のチーズ・ヨーグルト

豆乳などから作られて一般のチーズと同じように料理に使える植物性のチーズです。スライスチーズのほかピザなどにのせるシュレッドタイプも出ています。植物性ヨーグルトの代表例「豆乳ヨーグルト」は豆乳の発酵食品として人気が上昇しています。

プラントベースチョコレート

乳製品など動物性の原料を使わないチョコレートです。

プラントベース・フィッシュ

欧米ではすでにプラントベースの寿司が提供されています。近年日本でもプラントベースのツナやサーモン風食材が提供されるようになってきました。

プラントベースフードを選ぶときに注意したいのは、「植物性でも健康にいいとは限らない」ということです。加工の過程で食品添加物を使用していたり、油脂が多かったりという例もあります。消費者庁ではプラントベースフードをよく知り、確認したうえで購入することを呼び掛けています。

日本人は「和食」を見直すことも有効

冒頭で世界の食肉需要が増える将来見通しを紹介しました。ところで日本は、経済成長と同時に肉食が急拡大した典型例といえます。

1960年ごろは農業に支えられた伝統的な和食を食べていて、食材の8割以上を米と野菜が占めていました。高度成長期に肉食の割合が急増し、1975年ごろ米を逆転しました。平成に入った1990年代以降でさらに畜産物の消費が増えています。1960年に比べて2005年の食事は高脂肪・高たんぱくで肥満や生活習慣病の原因にもなっています。

「プラントベースフード」のような新しい試みも有効ですが、日本の場合は「和食を見直す」ことも、以下のような点でサステナブルな選択となります。

  1. タンパク質をとれる伝統食がある
    もともと日本は肉を食べる習慣がなく、タンパク質を大豆などからとっていました。「豆腐」「味噌」「納豆」などは栄養豊富で味わいのバリエーションも豊富、かつサステナブルです。
  2. フードマイレージを減らせる
    フードマイレージとは食材の輸送距離のことです。輸送で燃料が使われるため、輸入食材は多くのCO2を発生しています。洋食のメインである肉や小麦は輸入割合が高くフードマイレージが大きい食材です。和食のメインとなる米はほぼ国産、その他の食材もフードマイレージの少ないものを選ぶことができます。
  3. 食事におけるCO2排出量を減らせる
    食事に占める肉や乳製品の割合が多ければ、野菜や米、大豆よりも多くの水資源やエネルギーが消費されたことになり、CO2排出量も多くなります。特に牛肉の場合は顕著です。
  4. 地域の土地や資源を無駄なく消費してサステナビリティに貢献できる
    日本では「米余り」が指摘されていますが、和食の機会を増やせば国内の資源をムダなく消費できます。さらに自分の住んでいる場所の近くのものを食べる「地産地消」を実践すれば、地域の生産者、地場産業、伝統文化、生物多様性のサステナビリティに貢献できます。

選択肢はほかにも! 持続可能な食生活のために私たちができること

「食品ごみを減らす」など、ほかにもわたしたちがサステナブルな食生活のために実践したいことがあります。以下にまとめます。

フードロスを減らす、なくす

日本では年間600万tの食品ロスが発生し、その約半分が家庭ごみです。食材を買いすぎない、保存の仕方を工夫するなどの方法で、食材を捨てないようにすることが大切です。
参考:もったいないだけじゃない、「フードロス」は世界の大問題。世界の取り組みや「食品ロス削減推進法」などを紹介

魚はMSCやASC認証を選ぶ

肉とともに魚の需要も近年増加傾向ですが、水産資源も無限ではありません。魚介選びの参考として、最近スーパーで見かけることが増えてきた2つのラベルがあります。

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「海のエコラベル」といわれているのがMSC認証です。MSC(海洋管理協議会Marine Stewardship Council)が水産資源と環境に配慮し適切に管理された、持続可能な漁業で獲られた天然の水産物を認証しています。
ASC(水産養殖管理協議会 Aquaculture Stewardship Council)は養殖品を対象として、生態系保全、水資源保全などの7原則に基づき養殖海産物を認証しています。

地元産や旬の食材を食べる

住んでいる地域の食材を選ぶことはフードマイレージ削減に役立ちます。また、ハウス栽培の野菜より露地で育つ旬の農産物を選ぶほうがCO2抑制に貢献できます。夏はトマト・なす・きゅうり、冬は大根・白菜・カブなどを国産米といっしょに積極的に食べましょう。魚介の場合なら上で紹介した認証マーク以外に地元の魚・旬の魚を選ぶのも有効です。

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肉食の割合を見直す

1960年代には豚肉や牛肉を食べるのは週1回程度でしたが、現代は週3~4日、ほぼ毎日という人も多いでしょう。肉食の回数を減らすことはサステナブルな選択であり、かつ健康的です。肉食を魚や大豆食品に置き替える、週1回はベジタリアンメニューにするなど、様々な工夫ができます。

新鮮な食材と保存食を組み合わせる

生鮮食料品は栄養が損なわれないよう、新鮮なうちに食べ切ることが理想です。しかし家族のために用意する食材は足りなくなることもあるので、十分な量を用意すると余りがち。そこで、食材が余ったときは冷凍、足りないときは缶詰やレトルト食品をうまく使うことにより生鮮食料品をムダなく食べ切ることができます。
参考:常備食を非常食に! おいしいレトルトカレーのススメ

フードドライブを実践する

フードドライブとは、家庭にある余剰の食品を必要とする個人や団体に寄付することです。寄付する団体としては地域のフードバンクなどがあります。寄付先がわからないときは自治体に問い合わせてみましょう。フードドライブは食品のムダをなくし、かつ地域のサステナビリティに貢献できるしくみです。

食のサステナビリティをけん引する「フードテック」への期待

食料の需給ひっ迫の解決策として、「フードテック」に期待が寄せられています。フードテックとは、フード×テクノロジーのことです。従来の農業・水産業・畜産業とは違う、ITを活用したイノベーションにより、ムダなく効率よく、しかもおいしくて安全な食を提供するビジネスがすでに世界中で拡大しています。

現代の食の大きな課題であるフードロス、食肉不足などを解決するビジネスのほか、スマート家電や業務用調理ロボットなどもフードテックに含まれます。

以下はフードテックビジネスの一例です。

ユーグレナ

ユーグレナは藻の一種で和名ミドリムシ。植物性・動物性両方の優れた栄養素を豊富に含むサステナブルなスーパーフードです。バイオエネルギー事業なども手掛けています。

ネクストミーツ

同社の公式サイトは「地球を終わらせない。」という言葉から始まります。焼肉・牛丼など多様な姿のおいしくてサステナブルな代替肉を独自開発し、販売まで手掛けています。ESG投資銘柄として、2021年1月にアメリカで上場しました。

ゼンブ

ミツカングループの新規事業。「ZENB NOODLE」は、豆100%からできた麺で、皮まで丸ごと使っているからこの名がついています。フードロスが削減でき、しかもグルテンフリー、植物性・糖質オフ・タンパク質豊富など、健康に関心のある人が求める条件をそなえています。植物性のスープやソースを一緒に販売し、食のスタイルを提案しています。

インテグリカルチャー

「食文化であふれる、持続可能な世界へ」をテーマに、培養肉などを開発する細胞培養スタートアップです。汎用性の高い細胞培養プラットフォーム技術「CulNet システム」をBtoBで提供しています。

こうした野心的なフードテック企業が増え、成功していくことで食の持続可能性が高まります。サステナブルな企業を応援するわたしたち一人ひとりの消費行動も欠かせません。このような積み重ねがあれば、安心でおいしく楽しい、サステナブルな食生活を続けていくことができるでしょう。

まとめ

食の持続可能性の課題は、人口増加局面における食料需給のひっ迫です。その大きな要因は、環境負荷の高い畜産業にあり、特に牛肉は1kgあたりのCO2排出量が多い食材です。

問題解決のため、「大豆ミート」に代表される各種のプラントベースフードが実用化され、手に入りやすくなってきました。

わたしたちにできることは食生活を見直すことです。肉食の割合を減らし、豆腐や味噌などの植物性食品が豊富な和食を増やすこともおすすめです。

食のサステナビリティ実現のため、「フードテック」にも期待が寄せられています。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標3すべての人に健康と福祉をSDGs目標12つくる責任 つかう責任SDGs目標13気候変動に具体的な対策をSDGs目標14海の豊かさを守ろうSDGs目標15陸の豊かさも守ろうSDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう
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