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コラム

食べ物の調達はもちろん、発電し家を建てるなどのすべてをまかなう自給自足生活を選ぶ人は世界にも日本にもいます。サステナビリティの理想形ではありますが、農業や力仕事、ものづくりなどの高いスキルが必要とされるので、多くの現代人にとっては困難です。

自給自足は無理でも、自分にできる範囲でサステナブルなくらしを選びたいとしたら、どんな選択肢があるでしょうか。

今回は衣食住のうち「住」のサステナビリティについて考えていきます。

サステナブルな循環型社会だった「江戸」のしくみとは?

江戸の人口は18世紀に100万人を超えたとされています。人口は当時の国際都市とされたロンドン、パリ、北京を上回り、世界最大級の都市であったと推定されます。
そんな江戸は、世界的にも、歴史的にもあまり例のない「サステナブルシティ」でした。

江戸の最大の特徴は「ゴミがない」ということです。着物、道具、紙など、何一つ捨てるものはなく再利用されていました。

江戸時代初期はゴミがそのまま投棄されていました。しかし人口が増えてくると、ゴミを再利用できる資源として買い取って売る、つまりリサイクル業者が増えていきました。人の排泄物が肥料として農村に買い取られていたことは有名です。
ほかにも、誰かにとって不要となったものを売買する職業がたくさんありました。

  • 「古着買い」
    回収業、問屋など古着のリサイクルシステムが確立されていました。
  • 「古傘買い」
    竹でできた傘の骨組は回収され、新しい傘の材料になりました。
  • 「灰買い」
    灰は肥料がメインで、ほかに染め物や洗剤としても使われました。
  • 「紙屑買い」
    不要となった和紙は、「漉き返し」され、再生紙になりました。世界ではまだ再生紙技術が確立されていなかった時代です。
  • 「蝋燭の流れ買い」
    溶け残った蝋を集めてリサイクル蝋燭を売りました。

道具類を修繕する修理業も多様でした。以下はその一部です。

  • 「竃師(へっついし)」
    竈(かまど)を修理する職人です。
  • 「たがや」
    桶のたがを修理します。
  • 「錠前直し」
    壊れた錠前を修理します。

このように、多種多様なリサイクル・リペアを専門にする職業が成立していたということが江戸の特徴のひとつです。リサイクルやリペアの単価は低く、大量に受けなければ生計を立てることができません。江戸が大都市だったからこそ成立した循環経済モデルといえるかもしれません。

さらに、江戸のエネルギー源は植物資源のみで、化石燃料はありませんでした。世界最大の人口を再生可能エネルギーだけでまかなっていたというのは驚くべきことです。植物資源も使いすぎれば不足しますから、ともすれば江戸が地方へ進出して資源を奪う争いが起きていたかもしれません。そんな争いごともなく300年にわたってサステナブルな社会を維持した江戸の人々の智恵には見習うべきものがあります。

最後に、江戸の「もったいない」精神が育んだ伝統技術をいくつかご紹介します。

刺子(さしこ)

もとは東北地方で盛んだった、重ね合わせた布を細かく縫って耐久性・防寒性を高めた布地です。「刺子半纏」は江戸の火消しのユニフォームとして使用されました。

金継ぎ

金継ぎは室町時代から伝わる陶磁器、漆器の修復技術。修復する継ぎ目に金を使うことで、割れ目をデザインとして楽しみます。

継手(つぎて) / 仕口(しぐち)

江戸では鉄が貴重だったため、釘を使わない建築技術が発達しました。柱と柱を複雑に切り出してつなぐ「継手」「仕口」は日本の木造建築で今も使われています。仕上がりの美しさも魅力です。

「刺子」の布小物、「金継ぎ」された陶器、「継手仕口」が施された家具などは、現在、伝統工芸として再評価され、海外からも注目されています。遠い時代のサステナビリティの技術が現代にも通じる価値を創出した事例といえるでしょう。

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サステナブルな住まいとは

江戸から一転、現代のわたしたちの住まいについて考えていきます。

「サステナブル住宅」は、その名の通り持続可能な住まい。SDGsの17の目標にも沿う住宅のあり方です。以下のような特徴をそなえています。

建築段階でCO2排出量が少なく、廃棄物の総量も少ない

家の建て替えで家屋を解体すると、膨大な量の廃棄物が生じます。それらをリサイクルしてできるだけ廃棄物を抑え、建築段階でも環境に配慮することが大切です。建築による環境負荷を減らすという意味では、建て替え・新築するよりも、中古住宅をリフォームするほうがより望ましい選択です。

省エネ・創エネ・蓄エネができ、CO2排出量が少ない

家庭のエネルギー需要の大きな割合を占めるのが冷暖房です。高気密・高断熱素材を使うことや夏の遮熱を高めることにより、省エネが可能です。創エネは太陽光パネルなどにより電力を創ること、蓄エネは発電したエネルギーを蓄積する技術です。「ZEH(ゼッチ)」はネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略で、使うエネルギーと創るエネルギーの差し引きがゼロ、つまりCO2を排出しない住宅のことです。

耐久性があり長期で住み続けられる

日本の住宅は30年ほどで建て替えることが多かったのですが、環境への配慮から長期で住み続けられる住宅づくりが進んでいます。住宅を地域の資産とみなし「長期優良住宅」の普及促進が推奨されています。

地域の素材、人にやさしい素材を使っている

国産木材を使った家づくりを推進することで、適切な資源活用により日本国内の森林をメンテナンスでき、外国の自然環境の保全にも貢献します。和紙や珪藻土、漆喰などは防臭・調湿効果があり有害化学物質を放出することもありません。自然素材は将来廃棄することになったときにも環境にかける負荷が少なくてすみます。

住む人が豊かな気持ちで過ごせる

子や孫の世代まで住み続けるためには、その住まいが美しく快適な空間であることも重要です。「人が訪れるにぎやかな家」「落ち着ける和の空間」「子の成長を見守る場」など、住む人の価値観を反映したデザインが求められます。

リフォームがしやすいデザイン

50年、100年と住み続けることを想定し、住む人が変わったときにはリフォームしやすい間取りや構造にしておくことも大切です。

世界と日本のサステナブルな建築物

サステナブル住宅に近い概念で「サステナブル建築」というものもあります。こちらは居住用だけでなく商業用・公共の建築物なども対象に含まれます。
一般社団法人日本建設業連合会は以下のように定義しています。

  1. 建築のライフサイクルを通じての省エネルギー・省資源・リサイクル・有害物質排出抑制を図っている
  2. その地域の気候、伝統、文化および周辺環境と調和する
  3. 将来にわたって人間の生活の質を適度に維持あるいは向上させていくことができる

いくつかのサステナブルな建築物をご紹介します。

People's Pavilion(オランダ)

イベントの9日間のために造られた施設。壊すときに環境負荷が最小限となるよう、100%中古資材を使い、「資材は加工しない」というルールのもと、組み立てには建築家の創意を結集させました。

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写真 「Image via IDEAS FOR GOOD」(https://ideasforgood.jp/2020/03/17/bureausla/)

ブロックコモンズ(カナダ)

ブリティッシュ・コロンビア大学の学生寮。この18階建ての木造高層建築は、軽量で強く作業効率がいい次世代の木質素材「マスティンバー」を使用しています。

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画像提供 Canada Wood

ラ コリーナ近江八幡(滋賀県)

周囲の自然と調和する「草屋根」が特徴の建物。内部は飲食店や店舗の複合商業施設です。

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画像提供 たねやグループ

ふれあいキューブ(埼玉県)

多目的ホール、市民活動スペースなどからなる施設。CO2排出量を建設時約25%、運用時約60%削減を実現。「木造のドミノシステム」によりビルでありながら森を感じる空間となっています。

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画像提供 ふれあいキューブ

EKIMISE(東京都)

東部浅草駅の駅ビルであるEKIMISEは、1931年竣工。その後外壁が劣化したため全体をアルミルーバーで覆われていました。耐震改修工事をするにあたり、往年の外装を復活させる方針となり、駅として営業しつつ内装・外壁の大規模改修工事を完成させました。建物を解体せずリフォームとすることで、廃棄物とCO2の削減に貢献しています。

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画像提供(右) 清水建設株式会社

スマートシティとは? サステナブルとの違い

スマートシティとは、「ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場と定義されています。(内閣府)」

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引用:「スマートシティガイドブック(内閣府)」(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/index.html)

定義づけのなかに「持続可能な都市や地域」と入っているように、サステナブルに近い概念にも思われますが、どんな位置づけでしょうか。

スマートシティの「スマート」は、「スマートフォン」のスマートと同じです。「デジタルテクノロジーを駆使して各分野の課題を解決し、くらしを快適にできる」都市や地域をスマートシティと呼びます。スマートシティではエネルギーやゴミ処理も最適に管理され、持続可能になる、と考えられます。

スマートシティの取り組みが成功している都市として長野県伊那市があります。
伊那市では山間地に住む“買い物難民”のために大手通信会社や地元企業などとともにドローン配送システムを開発。伊那ケーブルテレビの通販サービスで買い物をするとその日の夕方にドローンで配達されます。ドローンは農地の生育や橋梁の老朽化のチェックにも役立っています。このしくみは今後災害時などにも役立つと期待されています。
ほかに、オンライン医療の「モバイルクリニック」やAI自動配車の「ぐるっとタクシー」なども実施。地域の課題を最先端テクノロジーで解決しています。

他にもスマートシティの取り組みは以下のような地域・都市で始まっています。

DATA-SMART CITY SAPPORO

札幌市は市民の健康福祉のため徒歩や交通機関利用を促進。歩数をデータ化してポイント付与、冬でも歩ける地下空間の拡充などで市民の歩数アップを実現しています。

加古川スマートシティプロジェクト

「見守りカメラ」「次世代見守りサービス」などを導入し、同時に個人情報保護も厳格運用。2年で犯罪件数の半減を実現しました。

大手町・丸の内・有楽町地区スマートシティ

地域まちづくり団体と共同し、エリアの価値向上を図っています。

スマートシティ会津若松

市を中心に産業振興や生活利便性の向上に取り組みます。

加賀市スマートシティ宣言

デジタルを駆使し、クリエイティブで人が主役のまちづくりを目指しています。

柏の葉スマートシティ

柏市内の大規模商業施設を運営する三井不動産と共同でインフラ整備などを進めています。

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スマートシティの取り組みはサステナビリティに直接関連するものもあればそうでないものもあるようです。しかし市民と自治体、地元企業などが連携する枠組みやそこでの経験が蓄積されることはサステナビリティ推進に役立つと期待できます。

世界と日本のサステナブルなまちづくり

サステナブルなまちづくりを推進している国内外の事例をみていきます。

コペンハーゲン

デンマークの首都コペンハーゲンは2025年までに世界初のカーボンニュートラル都市となることを宣言。カーボンニュートラルとは、CO2の排出量と吸収・除去量が差し引きゼロになることです。
多くの人が自転車を利用するため、自転車専用道路が整備され、シェアリング自転車も充実しています。街には緑が多いですがさらに緑化を進め、CO2吸収力を高める予定です。食はオーガニック、衣類はリユース。一人ひとりがサステナビリティを実践しています。市内ではSDGsの17目標すべての達成を目指す「The UN17 Village」というプロジェクトの計画も進んでいます。

フライブルク

ドイツの都市フライブルクは、酸性雨で森林が枯れたり、原発建設計画に反対したりといった経験を経て、1970年代以降、環境に配慮した都市づくりへシフトしました。乗用車を規制し公共交通と自転車の利用を促進。省エネ、新エネ技術の開発と導入も早くから実施していきました。現在はドイツを代表するサステナブルシティとなり、市民にも環境に配慮したライフスタイルが定着しています。

下川町(北海道)

北海道の北部の内陸に位置する下川町は、土地の9割を森林が占めています。2007年、下川町基本条例の前文で「持続可能な地域社会の実現を目指す」と定め、森林資源を活用する施策を実施。今では森林バイオマスを使ったエネルギー自給を達成し、近隣自治体にもエネルギー供給しています。森林は計画的に伐採と植林を行う循環型森林経営システム、木材ビジネス、定住促進住宅などで地域への移住者も増える好循環が起きています。

Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(神奈川県)

約1000世帯の街でCO2排出量70%削減、生活用水30%削減、再生可能エネルギー利用率30%以上などの数値目標を掲げ、「100年ビジョン」でサステナブルタウンを構想しています。パナソニックをはじめ多くの企業、慶應義塾大学も連携。チャレンジングな試みが注目されています。

TOYOTA Woven City(静岡県)

トヨタの「Woven City(ウーブン・シティ)」が2021年に着工しました。Woven Cityは自分以外の誰かのためにという思いをともにする発明家が未来のための新しいモビリティを生み出していく、テストコースの街です。カーボンニュートラルを目指し、サステナビリティへの貢献に向けて、水素エネルギーなどの実証を行う予定です。

サステナブルな住まい方とは?

最後に、わたしたちひとりひとりが住まいやくらし方を選ぶときのサステナビリティについてまとめます。

住まいを購入したり借りたりするときは、サステナブルな家を選ぶ

家庭から排出されるCO2の割合は全体の14.4%。これだけのCO2を生活の中で削減していくことがわたしたちに求められています。
新しい家を建てるときは「ZEH」「長期優良住宅」などの基準を満たす、長く住み続けられてカーボンニュートラルな住まいを選びましょう。

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出典:温室効果ガスインベントリオフィス/全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(https://www.jccca.org/)より

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出典:温室効果ガスインベントリオフィス/全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(https://www.jccca.org/)より

持ち家が古くなってきたら、建て替えの前にリフォームも検討してみる

家の解体と建て替えは多くのCO2とゴミを排出し新たな資源を使います。今あるものをできるだけ活かすリフォームも検討しましょう。住まいのCO2排出量を減らせる「エコリフォーム」の選択肢も増えています。

賃貸物件を探しているなら、エネルギー効率のいい住まいを選ぶ

賃貸物件に住むときにも、冬は断熱性され夏は涼しい「冷暖房をあまり使わない」住まいをできるだけ探しましょう。省エネ性能の高い「オール電化住宅」「スマートマンション」という選択肢もあります。

マンションや戸建てを購入するなら「リノベーション住宅」に注目

「リノベーション物件」は、古いけれどまだ使用できるビルや住宅に省エネ化や耐震化とともに大規模内装工事を行うもの。最新の工法やデザインの工夫で住みやすい空間が実現され、価格が割安というメリットもあります。リノベーションは古い建物ならではの良さが住まいの魅力となっています。

カーテン選びや家電のメンテナンスでくらしのCO2を削減

遮熱・断熱の機能性の高いカーテンにより冷暖房使用を減らせます。省エネ家電を選び、定期的にエアコンのフィルターや換気扇を清掃する、冷蔵庫に食材を入れすぎないなどの配慮も大切です。もちろん、節電・節水・ゴミの削減も忘れずに。

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まとめ

江戸は100万人がくらす大都市でありながら、サステナブルな循環型社会を実現していました。その最大の特徴は、不要となったすべてを再利用するシステムが確立されていたということで、現代からも参考になります。

サステナブル住宅は、持続可能な住まいのことです。CO2排出量が実質ゼロの「カーボンニュートラル」な家をZEH住宅といいます。長く住み続けられる家であることもポイントです。

サステナブル建築とは、排出するCO2や廃棄物が少なく、地域の気候・伝統・文化・環境に調和し、将来にわたって人の生活に役立つ建物のことです。街や地域、都市全体のサステナビリティを向上させるスマートシティやサステナブルシティの事例が増えています。

わたしたちはサステナブルな住まいを選び、サステナビリティを実現できるようくらし方にも工夫をしていくことが大切です。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標3すべての人に健康と福祉をSDGs目標9産業と技術革新の基盤をつくろうSDGs目標12つくる責任 つかう責任SDGs目標15陸の豊かさも守ろうSDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう
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