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コラム

近年、まだ食べることができる食料が廃棄される「フードロス」を削減しようという取り組みが、日本でも少しずつ広まりつつあります。

そんななか、2020年は大きな問題が発生しました。
コロナ禍での小中学校の休校や店舗の休業により、全国各地で行き場を失った食材が大量のフードロスとなる恐れが生じたのです。それはたとえば、給食用の食材、レストランで使う高級食材、観光客向けのお土産などです。

そこで、給食向けの野菜や業務用の食品をネットで紹介し、必要な人に届ける「マッチングサービス」の需要が高まり、フードロスビジネスが注目を集めることになりました。

フードロスビジネスには、マッチングサービスや廃棄食品を活用するニュービジネス、フードロスが発生しにくい賞味期間の長い商品の開発などさまざまな種類があり、今後も成長が見込まれる分野です。

今回は、フードロスビジネスを大きく5種類に分類し、それぞれの事例とともにご紹介します。

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フードロスを生み出す一因となっていた「3分の1ルール」とは?

廃棄予定の食品を有効活用するビジネスは以前からありましたが、2019年10月の「食品ロス削減推進法」成立以降、さらに拡大しています。法案が制定されたことは、もうひとつ大きな意義がありました。それは、食品「3分の1ルールの見直し」のきっかけになったということです。
では、この3分の1ルールとは何でしょうか。

日本のフードロスの全体量は612万t(2017年)、一人あたり年間48kg。日本人一人あたり毎日茶碗一杯分のご飯を捨てているのと同じ量です。

この背景には、「3分の1ルール」という、日本特有の商習慣があります。

3分の1ルールとは、
「賞味期間の3分の1以内を期限として小売店に納品しなければならない」
というものです。

具体的には、たとえば賞味期間が6カ月の商品があったとすると、製造してから2か月以内に売場に並べるということです。4月1日製造、10月1日が賞味期限の食品の納期限は6月1日となります。

商品は納品卸売業者などを経て小売店に納品されることが一般的ですが、どこかで流通が滞るなどしてこの期限が過ぎてしまった食品は、フードロスになってしまう可能性が高いのです。

もともとは、「賞味期限切れの商品が店頭に並ぶのを避けるため」という業界の姿勢から生まれた商習慣ですが、現代ではフードロスを発生させるというデメリットのほうが大きくなってしまいました。

このルールを改めようという動きが始まっています。
農林水産省は2019年、イオングループ、イトーヨーカドー、コンビニ各社などが商慣行の「3分の1ルール」を改め、2分の1に緩和(延長)した事例をとりまとめました。この動きは広がっています。わたしたちも、「賞味期限が短い商品より長い商品を選びたい」という意識を改めていく必要がありそうです。

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拡大するフードロスビジネスを5つに分類

フードロスビジネスはビジネスチャンスのある新しい分野で、今後も成長が期待できます。
現在のフードロスビジネスを大きく5つに分けてご紹介します。

1.食品メーカーや飲食店チェーンなど、食品関連企業の新しい取り組み

食品メーカーや飲食店はフードロス削減に取り組むことで消費者に「環境保全に配慮する企業」であることをアピールできます。食品保存の新技術など、関連の事業も含みます。

2.食品廃棄物などを原材料とするニュービジネス

賞味期限切れとなってしまった食品や、食品製造過程で生じる食品残さ・加工残さなどを活用するビジネスは、新技術の開発や新たなビジネスモデルの構築で注目を集める分野です。

3.フードロスになりそうな食品を主にネット経由で販売するEコマースやアプリ

ネット通販などのEコマースは、フードロスを出さない販売方法として適しているので、この分野では多くのサービスが生まれています。2020年にコロナ禍で生じたフードロス問題においても、多くのECサイトやアプリが登場しました。

4.フードバンクのビジネス版

フードバンクは寄付により集まった食品を必要とする人・団体に無償で提供するのが基本です。しかし一部のフードバンクは集めた食品を格安で販売するなどのビジネス的な視点も取り入れて事業を拡大し、かつ持続可能にしています。

5.他業種からの参入

「フードロスをなくしたい」との理念から、他業種から参入して商品やサービスを開発する企業もあります。

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1.食品メーカーや飲食店チェーンなど、食関連企業の新しい取り組み

食品メーカーの取り組み事例

カップ麺メーカー

業界団体である日本即席食品工業協会では賞味期限延長について検討を重ね、2013年にガイドラインを改訂しました。翌年の2014年には日清食品、明星食品がカップ麺の賞味期限を従来の5カ月から6カ月にするなど、業界全体で食品ロス削減に取り組んでいます。

ミツカン

クラウドファンディングで、普段は使われない野菜の皮や芯まで使用したシリアルバー「ZENB STICK」、着色料や保存料も使用せず、野菜丸ごとと、オリーブオイルのみを原材料にした濃厚ペースト「ZENB PASTE」などを発売し、さらに原材料が黄えんどう豆100%で、豆の薄皮まで全部使った麺「ZENB NOODLE」を開発。食材を丸ごと食べてロスを出さず、環境にも健康にもいい新ブランドを提案しています。

永谷園

食品ロス削減の観点から2017年より一部商品の賞味期間延長を行っています。また、2021年5月から賞味期間9カ月以上の商品を対象に賞味期限の表示を「年月日」から「年月」に順次変更し、サプライチェーン全体での食品ロス削減に取り組んでいます。

国分グループ

日持ちがしないチルド食品の流通は、予測製造が非常に難しい商品カテゴリーです。これら商品を冷凍商品として製造することで消費期限を延ばすとともに、物流センターでの長期保管が可能となります。注文があった時点で、物流センターでチルド帯へ温度変更する「フローズンチルド」の技術が使われ、天候による需要の変化に対応するとともに、店舗でも解凍作業が必要なく、スピーディーな提供が可能となっています。

スーパー、コンビニエンスストアの取り組み事例

ファミリーマート

2021年4月より全国のファミリーマート店舗で「ファミマフードドライブ」を展開しています。家庭にある食べきれない食品を店舗で回収し、地域の自治体やNPOなどの協力パートナーを通じて、支援が必要な方に提供しています。また、季節商品(うなぎや恵方巻など)の予約販売強化による製造数の適正化や容器包装の改良による商品のロングライフ化などにより、店舗から排出される食品ロスの削減に取り組んでいます。また、それでも発生してしまう食品ロスは、飼料や肥料へのリサイクルを積極的に推進しており、食品リサイクル率は2020年度で60.8%となっています。

ローソン

2019年より店舗への納品期限が切れたオリジナルのお菓子、加工食品などを全国フードバンク推進協議会へ寄付しています。また、売れ残り食品や店舗から排出される廃油の再利用への取り組みで、食品リサイクル率が2020年度で58.4%となっています。

イオングループ

地域の自治体・団体と協力したフードドライブの推進と、店舗で発生する食品残渣を堆肥に加工し、その堆肥を使ってイオン農場で野菜を栽培、店舗で販売する「イオン完結型食品リサイクルループ」の構築に取り組んでいます。2019年12月には、2030年までに食品ロス半減という目標に国際的に取り組む「10×20×30食品廃棄物削減イニシアティブ」へのアジア唯一の参画小売業として、主旨に賛同した国内の食品メーカー21社と活動を開始すると発表しました。

飲食店の取り組み事例

くら寿司

2015年より、定置網漁船と年間契約し、その漁船で獲れた魚はすべて一定の基準で買い取るという画期的な取り組み「一船買い」を開始し、今まで流通に乗らなかった地元の天然魚も捨てずに寿司ネタとして提供。2018年からは、骨やアラなどの部分は養殖魚の餌の一部に加工するなど、使い切りを実践しています。
こうした取り組みとともに、詳細な売上データなどをもとにレーンに流すメニューを管理するシステムを導入することで、廃棄率を3%に抑えています。

松屋

関東地方の約600店舗から排出された食品廃棄物を自社トラックで回収し、静岡県の自社堆肥場で自然発酵させて堆肥化する、独自のリサイクルシステムを運用しています。2020年度はグループ全体で、食品利用法に基づく再生利用等実施率82.7%を達成しました。

すかいらーくホールディングス

ガスト、バーミヤン、ジョナサンの各店舗の注文用タッチパネルに、無料の持ち帰り容器「もったいないパック」のボタンを設置し、食べきれない料理の持ち帰りを推奨しています。また、工場での加工度を高めた高加工度商品の割合を高めることで、店舗での調理工程を減らし、店舗での食品ロス削減を図っています。削減努力をした上で発生した食品廃棄物は、肥料または飼料にリサイクルされており、工場でのリサイクル率は約90%です。

日本マクドナルド

作り置きをやめ、注文を受けてからできたてのバーガーを提供する「メイド・フォーユー」システムを2005年から導入。そのために調理時間を短縮できるトースターやスチーマーを新たに開発し、スピーディーな調理を実現。その結果、システム導入前と比較して完成品商品の廃棄量がほぼ半減になり、食品ロスを抑制しています。

その他の団体の取り組み事例

うどんまるごと循環プロジェクト(香川県)

香川名物のさぬきうどんはできたて重視で、時間が経ったうどんは廃棄されていました。この「うどんロス」を解決するため、自治体、企業、NPO、ボランティアなどでコンソーシアムを立ち上げ、うどんの廃棄物からバイオガスをつくり「うどん発電」に利用したり、固体・液体肥料をつくって小麦やお米の栽培に役立てるなど、「うどんを循環させる」ことに成功しました。

食に関連する企業・団体の事例

ミートエポック

明治大学農学部微生物化学研究室との産学連携でプロジェクトを立ち上げ開発した新素材「エイジングシート」は、菌の繁殖を防ぎ誰でもかんたん安全に熟成肉を作ることができるので、消費期限が迫った余剰在庫などこれまで捨てられていた食材が活用でき、フードロスの削減にも役立っています。

デイブレイク

急速冷凍機販売の業界大手であるデイブレイクは、廃棄されてしまう野菜や果物を特殊冷凍の特性を生かし添加物を一切使用せずに長期保存を実現。高品質なフローズンフードに転換し原材料として活用する「ARTLOCK FOOD」に取り組んでいます。

日本気象協会

高精度の気象予測データと、販売データ(POS)などのビッグデータを解析し需要予測データを企業に提供する「eco×ロジ」事業を展開。作りすぎや過剰供給によるフードロスを削減し、製造業、小売業、配送業での実績が報告されています。

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2.食品廃棄物、未利用食材などを使ったニュービジネス

フードロスを資源としてとらえ、最新の技術で飼料やたい肥に加工したり、新たな加工食品を作ったりする新事業が登場しています。

日本フードエコロジーセンター

食品廃棄物を独自技術で殺菌・発酵処理し、栄養価の高い液体飼料を製造。養豚向けの飼料として、輸入穀物を使用した一般配合飼料より約50%安い価格で提供しています。さらに、養豚事業者と協力して同社の液体飼料で育てた付加価値の高いブランド豚を生産し、食品廃棄物を提供した事業者がブランド肉として販売するなどの食品リサイクル・ループ(循環システム)を作り上げています。

アルフォ

首都圏の廃棄物問題の解決と、循環型社会への変革を推進することを目的とした東京都の廃棄物処理施設「スーパーエコタウン」に工場を持つ同社は、食品廃棄物、産業廃棄物を受け入れ、乾燥処理することにより家畜用配合飼料の原料「アルフォミール」を製造しています。また第2工場では家畜用配合飼料原料に加えバイオガス発電も行っています。

dot science(ドットサイエンス)

雑魚として捨てられてしまうことが多い「シイラ」を老舗干物店の技術とコラボしフレンチのレシピを取り入れて加工。真空パックのお洒落なパッケージの洋風干物、「アタラシイヒモノ シイラ ハーブ&ガーリック」として開発。ネット販売しています。

エシカル・スピリッツ

日本酒造りの工程でこれまで廃棄されていた酒粕をリユースし、さまざまなボタニカル(植物由来成分)を使ったレシピで、「飲む香水」と表現されるほどのフレーバーを実現した『LAST』。バドワイザーがコロナ禍の影響で廃棄予定だった約8万杯のビールを提供し、酒造メーカーの月桂冠がそのビールを蒸留しジンに再生させた『REVIVE from BEER』など、「エシカルだけど良い」ではなく「エシカルだから良い」のスピリッツで世界をリードするサステナブルなスピリッツブランドをめざしています。2021年7月にグランドオープンした、世界初の再生型蒸留所「東京リバーサイド蒸溜所」では、蒸留器の見学やクラフトジンの購入ができます。

3.フードロスになりそうな食品を主にネット経由で販売するEコマースやアプリ

Eコマースはフードロスを出さない販売方法として適しているので、この分野では多くのビジネスが生まれています。従来からのサービスに加え、2020年にコロナ禍で生じたフードロス問題においても、多くのECサイトやアプリが新たに登場しました。

フードシェアリングとは、行き場のない食材や料理と消費者を最適にマッチングさせるしくみのことで、この分野で多くのサービスが生まれています。

フードシェアリングサービス

TABETE(タベテ)

TABETEは、パン屋、洋菓子店、ホテル、スーパーなどで、まだおいしく安全に食べられるのに廃棄の危機に面している商品を、ユーザーとマッチングするアプリです。店舗は閉店までに店頭で売り切れない商品をアプリ上に出品し、お得で環境負荷の少ない食事を探しているユーザーが購入・テイクアウトします。「フードシェアリングサービス」と呼ばれるこの仕組みを通し、店舗は無駄を減らして売上を増やすことができ、ユーザーもおいしいくお得に食べながら社会貢献ができます。2022年6月時点で登録ユーザーは約52万人、登録店舗は有名店や大手チェーンを多数含む2,100店舗以上にのぼります。

Kuradashi(クラダシ)

株式会社クラダシが運営する、フードロス削減を目指す「ソーシャルグッドマーケット」。フードロス削減への賛同メーカーから賞味期限が近づいて流通が難しくなった食品などを協賛価格で提供を受け最大97%OFFで販売し、売上の一部を社会貢献活動団体へ寄付しています。
通常取引に影響を及ぼさない1.5次流通という全く新しい市場を形成し、920社以上の企業が出品しています。

ロスゼロ

さまざまな理由で行き場を失った「もったいない食品」に付加価値を加え、消費者につなげるフードシェアリングサイト。ワクワク福袋感覚で楽しむ食品ロスのサブスク「ロスゼロ不定期便」や、未利用原材料を使ったアップサイクル食品の開発などを行い、食品ロスをポジティブに解決する。食にまつわるSDGsなどの情報発信も充実しています。

WakeAi(ワケアイ)

消費者が求めやすい価格で購入するだけでフードロスを回避し事業者を支援する、「買って応援、食べて応援」を実現する社会貢献型通販モール通販モールです。もともとはコロナ禍で打撃を受けた事業者を支援することからスタートし、現在はフードバンク事業も手掛けるなど、SDGs実現に向け活動の輪を広げています。

その他のECサイト

rebake(リベイク)

合同会社クアッガが運営するパンの通信販売マーケット「リベイク」では、閉店後まで残ってしまうと、まだ食べられるのに廃棄せざるをえないパン屋さんのパンをサイトの会員に販売しています。会員になると、「おすすめパン(普通のパンの通販)」と、「ロスパン(そのままでは廃棄になるパン)」を事前予約でお得に購入、の2通りの買い方が選べ、わたしたち消費者が、全国各地の美味しいパンを購入しながら食品ロスの削減に協力できる仕組みを作っています。

食べチョク

市場やスーパーを介さず、生産者が"チョク"で商品を届けるので、作り手と買い手、お互いの声が直接届く産直通販サイト「食べチョク」は、鮮度が高く美味しいものが手に入るだけでなく、食べることで生産者の応援につながります。生産者は、こだわり食材やお花などを販売しています。規格外のため市場に出回らない野菜や果物、海産物や、それらを加工したお菓子なども出品しており、作り手と買い手双方で、フードロスの削減やSDGsの実現に貢献できるようになっています。

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4.フードバンクのビジネス版

フードバンクは寄付により集めた食品を必要とする人や団体に無償で提供するしくみです。しかし、日本では欧米ほど「寄付文化」が浸透していないため、資金不足・マンパワー不足で厳しい運営を余儀なくされている団体も少なくありません。
そうしたなか、ビジネス的な視点を取り入れて事業を拡大しているフードバンクもあります。

NPO法人日本もったいない食品センター

まだ食べられるのに廃棄される可能性の高い食品を買取り、もしくは貰い受け、必要とする人や団体に届ける、大阪を拠点とするフードバンクを運営しています。また、集めた食材を説明しながら販売する食品ロス削減ショップ「ecoeat(エコイースト)」を展開。現在、関西を中心に東京から沖縄まで16店舗を展開中。ecoeatの売上(剰余金)を活動資金に充て、持続可能な慈善事業の確立を目指しています。

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5.他業種からの参入

「フードロスをなくしたい」との理念から、他業種から参入して商品を開発する企業も増えています。

ニチバン

キッチンで使用するラベルや日付が書き込めて手で簡単にちぎれるテープ「ディアキチ™ワザアリ™テープ」を活用したフードロス削減へ取り組んでいます。2020年には、千葉市と連携し食品ロス削減啓発キャンペーンを実施したり、さいたま市の食品ロス削減プロジェクト「チームEat All」に参画し、フードロス削減の取り組みを推進しています。テープを活用し、何がどこにあるのか一目でわかる楽しい食材管理術を食品ロス削減アドバイザー/冷蔵庫収納家とともに「美人冷蔵庫収納術」として提案。公式Webサイトでは、「美人冷蔵庫」の作り方をシーンや使い方別に紹介しています。

以上のように、フードロスビジネスは他業種も巻き込んで新しい展開が広がっています。
2020年はコロナ禍でもたらされた「フードロス」が大きな問題となりましたが、一方で、そうした課題を解決するための新ビジネスも数多く生まれました。「フードロスをなくそう」という理念が多くの人に共有されたことで、2021年以降も、フードロスビジネスは成長していくと期待できます。

フードロス削減のために私たち個人ができることは? についてはこちらフードロス8の記事へリンクの記事でご紹介しています。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標2飢餓をゼロにSDGs目標12つくる責任 つかう責任SDGs目標13気候変動に具体的な対策をSDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう
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