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インタビュー

もったいないキッチン
©UNITED PEOPLE

SDGsの目標にも掲げられている「食品ロス」の減少。世界中で毎日のように、大量の食品が生産されては捨てられています。中でも日本の食品ロスは世界トップクラス。その量は毎年643万トンにも達するほどです。

この食品ロス問題に斬り込むのが、オーストリア在住の映画監督で、フードアクティビストとしても知られるダーヴィド・グロス(以下、ダーヴィド)氏。彼は自身が監督を務めた映画『0円キッチン』で、ヨーロッパ各地のユニークな食に触れながら、廃棄食材で料理をする様子を描き、高い評価を獲得しました。

本記事で紹介する映画『もったいないキッチン』は、『0円キッチン』の旅の舞台を日本へと移したもの。日本の食と食品ロス問題を優しく描くロードムービーです。

作品の中では、ダーヴィドと通訳のニキがキッチンカーで日本を旅しながら、各地のユニークな「食」や「食の担い手たち」と触れ合います。交流を通して、日本の「もったいない精神」や、それと相反する「食品ロス」について考えていくストーリーです。MIRAI Times編集部では、今年8月の映画公開にあわせ、本作に出演した通訳の塚本ニキさんに単独インタビュー。その内容をお届けします。

——ニキさんが、この映画に出演することになったきっかけを教えてください。

映画『0円キッチン』の上映ツアーにあわせて、ダーヴィド監督が来日したのですが、その時の通訳を担当したのが私だったんです。それがきっかけとなってお話をいただきました。

ダーヴィドは、上映ツアー中に日本の「もったいない」という言葉や食品ロス問題について知り、興味深いと思ったんでしょうね。本作のプロデューサー関根とも意気投合して、「日本でも、同じような映画をつくろう」という話になったんです。

でも、オーストリア人のダーヴィドが日本の人たちと交流するには、通訳が必要ですよね。普通のドキュメンタリー映画だと、わざわざ通訳が表に立つこともないんですが、「ハッピーで楽しい映画にしたい」という意図もあり、「じゃあ、ダーヴィドと通訳のニキが交流しながら旅するストーリーにしよう」という話になったんです。

それで、私に声がかかりました。私はこのテーマに興味がありましたし、「やらせていただきます!」とすぐに返事をしましたね。

もったいないキッチン
©Macky Kawana

——ニキさんはもともと、このような社会問題に興味をお持ちだったのでしょうか。

はい、私はニュージーランドの大学で社会学と映像学を専攻しましたが、その頃から環境問題や貧困、人権といった社会問題に強い関心を持っていました。大学卒業後も、フェアトレードの小物や食品などの商品を扱うお店で副店長を務める傍ら、地域の学校やコミュニティイベントに出向いて、アドボカシー活動なども行ってきました。

——これまで、映画に出演されたご経験は?

海外の旅番組に通訳として出演したことはありますが、ドキュメンタリー映画に主演として出るのは初めてです。なので、とても緊張しましたね。カメラを向けられながら通訳もして、リアクションも取っていくわけですから。常に色んなところにアンテナをはりながら撮影に臨みました。

——旅先で出会った中で、とくに印象に残っている人物やエピソードはありますか。

とくに印象に残っているのは、浅草にある緑泉寺住職の青江覚峰さんです。青江さんはとてもユーモラスな人柄で、英語も流暢にお話になる方です。そのお寺では、目隠しをして精進料理をいただくという体験をしました。

口に入れて、鼻で息を吸い込んで、匂いや味を感じ、自分の頭の中のデータベースを探って、「この味は何だ?」と探りあてるんですね。そうしているうちに「私、今食べている!」という強い実感が湧いたんです。この集中している時間が、日常生活では得られない感覚でした。

もったいないキッチン
©UNITED PEOPLE

——青江さんとのお話の中で、心に残っている言葉は?

青江さんに対して「私たちは食品ロスの問題を解決できると思いますか」と尋ねるシーンがあるのですが、その答えが心に残っています。青江さんはしばらく目を閉じて、「それは、みんなが本当に望めば可能だと思います」と静かに答えてくださいました。

住職ということもあって、言葉を丁寧に選ぶ様子が印象的でしたし、ただ単にキレイな耳ざわりのよい言葉ではなく、「まさにそう、本当にそれしかないんだよね」と改めて感じさせられるものでした。

——個性的な料理がたくさん出てきますが、どの料理や素材が印象的でしたか。

「地球少年」の祐太くんたちと食べた昆虫食ですね。川でザザムシを捕って餃子にしたり、調達してきたセミを素揚げにしたり、コオロギでラーメンをつくったりしたんですけど、やはり抵抗は拭いきれなくて…(笑)。

でも、私たちが普段口にしている、商品として育てられた家畜と、自然界にいる昆虫とでは、そこまで大差ないんだろうな、とも感じたんです。慣れていないので違和感を覚えますが、動物の命をいただく点では同じ。昆虫を「気持ち悪い」と感じるのは、私の偏見なのかもしれないと思いました。

——私も昆虫食のシーンだけ目を背けてしまいました(笑)。ニキさんは映画に出演することで、昆虫食に対する意識は変わりましたか。

そうですね、日常的に昆虫を食べようとは思わないですが…(笑)。

この話と少し関連して、私は生まれが東京で、9歳の時にニュージーランドへ移住したんです。むこうの小学校には、午前中にスナックを食べる時間があって、各自おやつを持っていきます。

移住したばかりの頃、「かっぱえびせん」を持たされたんですね。友人に「それ何?」と聞かれたので、「シュリンプ・クラッカーだ」と答えました。すると、ドン引きされたんですよ。「エビを粉末にして、クラッカーにしたの?残酷!」と。

これはニュージーランドに「シーフードはシーフードらしく食べる」という常識があるからなんです。おそらく、私たちがコオロギラーメンを「気持ち悪い」と感じるのも、同じ感覚なんですよね。

——日本には「もったいない」文化がある一方で、食品ロス問題も深刻です。どうしたら、この課題を解決できるとお考えですか。

もったいないキッチン
©UNITED PEOPLE

まずは、知ることが何よりも大事だと思います。「無知は罪だ」という言葉がありますが、私はそうは思いません。無知なのは、人それぞれのペースやタイミングがあって、たまたまそういう情報にめぐり会えなかっただけ。でも、こうした問題を知って、自分のアンテナが動いたら、もっと突き詰めていけばいいと思うんです。

たとえば、映画にも登場する井出留美さんは食品ロスに関する本をたくさん出版されていますし、映画の公式SNSでも食品ロスを削減するためのノウハウを発信しています。関心を持てば、どんどん情報が自分の視界に飛び込んでくるようになるはずです。

——食品ロス削減について、ニキさんご自身が心がけていることはありますか。

居酒屋に行くと、たくさん頼みすぎて結局食べきれないことってよくありますよね。私自身は「もったいない意識」が強いほうなので、残っていたら無理してでも食べようとします。

でもよく考えたら、最初から注文しすぎなければいい話なんです。なので、「とりあえず、これとこれだけにしよう」とひと声かけるようにしていますね。自分がひと声かければ、「そうだね、そうしよう」と周りも賛同してくれます。

——ひとりひとりが食品ロスの問題に興味を持って行動を変えていけば、この問題は解決できそうですね。

はい、きっと解決できると思います。日本では企業が消費者のニーズや安心・安全のために、厳しいルールを設けています。欠品は絶対NGであったり、少しでも古いものは捨ててしまったり…。その陰で大量の食品ロスが出ていることを、消費者である私たちが問題視すれば、少しずつ変わっていくでしょうね。

もったいないキッチン
©UNITED PEOPLE

——最後に、これから映画を観る方に向けてメッセージをお願いします!

『もったいないキッチン』は、社会問題を扱ったドキュメンタリー映画ではありますが、おいしそうな料理やニコニコした笑顔の人がたくさん登場して、幸せな気分になれる映画です。力を入れず気楽に楽しめるストーリーなので、ぜひたくさんの方にご覧いただきたいです。そして、少しでもヒントや気づきを得ていただけるとうれしいです!

もったいないキッチン
©UNITED PEOPLE

塚本 ニキ
1985年東京生まれ。9歳から23歳までをニュージーランドで過ごす。オークランド大学で映像学と社会学を専攻し、卒業後帰国。人権擁護団体、動物保護NPO、フェアトレード啓発、美術モデルなど様々な職業を経て、現在は英語翻訳・通訳業を中心にフリーランスで活動中。TBSラジオ「もったいないカイギ」(8月毎週日曜17:30~18:00)にも出演中。

もったいないキッチン
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『もったいないキッチン』
"もったいない精神"に魅せられ日本にやってきた映画監督ダーヴィド・グロス。食材救出人の異名も持つダーヴィドが、旅のパートナーで通訳のニキと共に福島から鹿児島まで4週間で1600kmを旅するドキュメンタリー映画。2人はコンビニエンスストアや一般家庭を突撃し、次々に食材を救出。もったいない精神を大切にする日本のシェフや生産者たちの助けを得ながら、各地で「もったいないキッチン」をオープン。食品ロスの問題を美味しく楽しく解決しながら、次第に「もったいない」がもたらす多くの恵みに気づいていく。2020年8月8日(土)より全国順次ロードショー。吹替版は、本作アンバサダーを務める俳優・斎藤工がダーヴィド・グロスの声を担当。
https://www.mottainai-kitchen.net/category/news/

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標2飢餓をゼロにSDGs目標12つくる責任 つかう責任
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