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イベント

2020年12月12日(土)、千葉商科大学にて、「公益社団法人日本不動産学会・資産評価政策学会 2020年度秋季全国大会シンポジウム」がオンラインで開催されました。

シンポジウムでは、本学が所在する千葉県市川市の村越市長による基調講演のほか、行政関係者や大学研究者らによるパネルディスカッションが催されました。パネルには日本不動産学会会長を務める本学の原科学長も登壇。「持続可能なまちづくりと不動産価値」をテーマに、活発な意見交換を行いました。この記事では、シンポジウムの様子をダイジェストで紹介します。

※日本不動産学会は、不動産に関する総合的・学際的な研究・教育の促進を図り、その成果を社会に提供する事業を行うことをもって、学術の振興と国民生活の向上に寄与することを目的とする団体。

市川市長による基調講演—「持続可能なまちづくり—災害を中心にして—」

市川市長、村越祐民氏が登壇し、「持続可能なまちづくり—災害を中心にして—」をテーマに、同市の災害対策や持続可能なまちづくりについての基調講演を行いました。

持続可能なまちづくりと不動産価値

村越市長は、かつて市川市はJR総武線付近にまで海が迫っていた事実に注目しています。土地が持つ記憶を十分に意識したうえで、今後の水害対策を行っていくことが重要であるとの考えを示しました。また、急速な都市化に伴い、都市型水害が発生し、その対策に取り組み続けてきた過去を振り返りました。

具体的には、排水機場や遊水池などを増設するとともに、とくにポンプ場を集中的に整備したことで、状況が劇的に改善し、大雨で商店街が冠水することも大幅に減少していることが報告されました。

持続可能なまちづくりと不動産価値

また、近年は日本各地で気候変動による豪雨災害も頻発しています。カスリーン台風時には、旧江戸川が決壊しました。こうした教訓から可動堰を新たに設け、水量をコントロールできるよう対策が取られているとのことでした。加えて、災害時の避難が迅速に行えるよう、橋や剣道の整備を計画していることが発表されました。

こうしたまちづくりが、市川市の不動産価値向上に寄与していると村越市長は指摘します。現在、市川市は最先端技術を活用したスーパーシティを目指しています。直近では、都市間協定の充実を図るほか、中核市への移行準備を進めていることも表明されました。

パネルディスカッション—持続可能なまちづくりと不動産価値

続いて5名のパネリストが登壇し、それぞれの専門的見地から「持続可能なまちづくりと不動産価値」について持論を展開しました。その様子を抜粋してお伝えします。

登壇者

  • 東京都立大学 名誉教授 中林一樹 氏
  • 市川市危機管理監 水野雅雄 氏
  • 電気通信大学 教授 山本佳世子氏
  • 明海大学 不動産学部長、日本不動産学会常務理事、資産評価政策学会理事 中城康彦氏
  • 千葉商科大学 学長、日本不動産学会 会長 原科幸彦氏

最初に登壇した中林教授は、「複合災害の時代、どんな街づくりをめざすのか」をテーマに話しました。

中林教授は、近年の大規模災害を振り返りながら、自然災害が甚大化する一方で、日本は超高齢社会に突入し、高齢者の災害関連死が増加していると指摘します。直接死に加えて災害関連死をいかに防ぐかが重要であり、今後の課題だと問題提起しました。

また、複数の災害が同時に発生し、同時に対応を余儀なくされる複合災害も増加。例えば東日本大震災では、地震の後に津波が襲いました。新型コロナ禍中に発生する災害も、複合災害と同質だとし、こうした複合災害を想定したうえで、短期的かつ中長期的に備えていく必要があると述べました。

またポストコロナのまちづくりに話が及ぶと、中林教授は新型コロナによるテレワークの普及がまちづくりに影響を与えると予測。一極集中から地方分散へと変化していくなかで、新しい国土インフラとして、交通や高速情報インフラを整えると同時に、都市が拡がる下流部を守るために上流部をグリーンインフラに整備することも重要だと語りました。

最後に持続するまちづくりとして、複眼的に防災に取り組み、複合災害に強い新しい国土・都市・街へと変えていくことの重要性を伝え、講演を締めくくりました。

持続可能なまちづくりと不動産価値

続いて、約10年に亘り市川市の防災対策を担当し、現在は市川市危機管理監を務める水野氏が登壇。市川市の防災対策について紹介しました。

水野氏は、「どのような災害が起こり得るのか」「自分の地域にどのような災害リスクがあるのか」を分析したうえで準備・計画しておくことが重要だといいます。市川市の場合は、地域特性から北部の土砂災害リスク、中部の都市型水害リスク、南部の津波・高潮リスク、落橋などによる避難経路分断リスク、帰宅困難者発生リスクなどがあると説明。それぞれに対して、ハードとソフトの両面から対策を行ってきたそうです。

ハード面では、建物の耐震化や排水施設の増設などに取り組んできました。一方、ソフト面ではハザードマップの作成・周知や、帰宅困難者の発生を想定した訓練などを行ってきたそうです。

今後の取り組みとして、自助・共助・公助が三位一体となって対応していくことの重要性について述べ、最後に、「まず守るべきは人命、そして社会システムが機能不全に陥らないよう、迅速に復旧・復興を行う」——これが実現できてこそ、その地域の不動産価値向上につなげられるとの見解を示しました。

持続可能なまちづくりと不動産価値

山本教授は、東京都三鷹市で行っている防災情報可視化の取り組みも交えながら、情報通信技術を用いたリスクコミュニケーションについて紹介しました。

山本教授は、これまで石碑・神社・伝承などによって、世代をこえた災害のリスクコミュニケーションが行われてきたといいます。こうしたリスクコミュニケーションを、情報通信技術を用いて平常時から行うことが、個々人の防災意識を高めるうえで重要だと指摘。こうした考えから、自治体と連携して災害情報システムを開発してきたそうです。

災害情報システムとは、行政や専門家の「専門知」のほか、地域住民の「経験知」をデーターベース化し、デジタル地図上に表示するもの。地域住民はSNSを通じて「危険性に関する情報」と「安全性に関する情報」を投稿することができます。

デジタル地図上には、それぞれが色分けされた状態で表示されます。現在、東京都三鷹市で実際に運用を開始しており、複数の投稿が寄せられているそうです。このように、情報通信技術を活用したリスクコミュニケーションを行うことで、幅広い世代の防災意識向上につなげていきたいとのことでした。

持続可能なまちづくりと不動産価値

続いて登壇した中城教授は、不動産取引時における水害ハザードマップ説明の義務化について話しました。

2020年8月に、宅地建物取引業法が一部改正され、不動産取引の重要事項説明時に水害ハザードマップを提示し、対象物件の概ねの位置を示すことが義務づけられました。あわせて、付近の避難所を示すことが望ましいとされたほか、浸水想定外エリアでも水害リスクがないと誤認しないように配慮することが定められました。

この法改正の意義として中城教授は、「安全な地区への居住誘導が進むこと」「災害リスクが不動産価格形成要因として重要性を高めること」「水害リスクの高い土地において対策が促進されること」などをあげます。

従来の不動産取引においては、対象不動産個々の情報提供が主軸でしたが、今後は周辺地域を含めた「面」情報が提供されることとなるため、広域的な視野に立って判断・購入できるといいます。一方で、水害リスクの情報提供が不動産取引を行う一度だけ、つまり「点」情報にすぎないことが課題だとし、販売時だけではなく、継続的・定期的に水害リスクを「刷り込むこと」が重要だと述べました。

持続可能なまちづくりと不動産価値

最後に原科学長が登壇。「被災経験から学ぶ今後のあり方」をテーマに、千葉商科大学のSDGs達成に向けた取り組みや災害に強いまちづくりについて話しました。

原科学長は、SDGsの目標12番「つくる責任 つかう責任」について触れながら、電力源を小規模分散型の再エネに変えていくことで、災害に対して強靭なまちづくりができるとしました。

千葉商科大学は、実際にエネルギーを「つくる責任 つかう責任」を果たすべく、学長プロジェクトの1つとして活動を行ってきました。第一段階は、電力に関して自然エネルギー100%の目標。「自然エネルギー100%大学」をめざし、大学所有のメガソーラー発電所や市川キャンパス内建物の屋上に設置した太陽光パネルなどによる発電量と大学の使用電力を同量にすることに成功。2019年のことです。

現在、他大学にこの取り組みを広げていくため、「自然エネルギー大学リーグ」の設立準備を進めているところです。さらに、他の「学長プロジェクト」として、「安全・安心な都市・地域づくり」活動を実施。大学のある国府台地区(高台)を地域の防災拠点にするため、国府台コンソーシアムを形成し、日常的に地域での交流を育んでいることなどを紹介しました。

持続可能なまちづくりと不動産価値

講演終了後、参加者から寄せられた質問に対し、パネリストが回答しました。ここでは、その中の1つについて紹介します。

「学生にも取り組める、共助の活動はありますか?」との質問が出ました。これに対して水野氏(市川市危機管理監)は、東日本大震災の際、多くの学生がボランティアに参加したことを紹介しながら、「災害が起こったことを想定して、共助の準備をしておくこと。さらに共助を行うために自分自身を守るという自助の準備もしておいてくれるとうれしい」と答えました。

※画像の無断転載及び複製等の行為は禁止します。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標11住み続けられるまちづくりをSDGs目標12つくる責任 つかう責任SDGs目標13気候変動に具体的な対策をSDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう
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