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千葉商科大学の「ダイバーシティウィーク2022」の中で行われた講演会「『多様な性』から考える、誰もが過ごしやすい社会とは。」。前半に引き続き、後半のレポートをお届けします。

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渡邉歩(わたなべ・あゆむ)
共生社会を作るセクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク副代表理事。公認心理士。主にLGBTQ関連の研究と相談支援、居場所づくりに携わる。早稲田大学教育学研究科博士後期課程「ジェンダー・セクシュアリティ×学校心理学」、専修教員免許(英語)。そのほか自治体LGBT相談員、GID(性同一性障害)学会教育系コーディネーター、一般社団法人にじーず(10代~23歳までのLGBTユースのための居場所づくり)理事など。

LGBTQの長い差別の歴史と社会運動

講演は後半に入り、渡邉さんのお話は「LGBTQの長い差別の歴史」へと移ります。

かつて同性愛とトランスジェンダーは一括りにされ、犯罪や精神疾患として扱われてきたといいます。
長い苦難の中で、後年、同性愛とトランスジェンダーは別の「病気」として独立する形となり、トランスジェンダーへの医療行為と性別変更の法整備が進められてきた経緯が語られました。

日本では2001年にTVドラマで「性同一性障害」が広く知られ、「病気だから仕方がない」とのイメージも流布しましたが、2022年にようやく精神疾患から除外されるように。

一方の同性愛も、トランスジェンダーに先立ち1990年代後半に治療対象から除外されましたが、いずれも当事者の運動があってのことです。

というのも、社会は「異性愛」「シスジェンダー(出生時の性別が性自認と同じ人)」を中心に作られ、LGBTQは長らく不可視化されてきたからです。

「男女はこうあるべき」「これが普通」というあり方から外れるLGBTQは社会にいない前提で、いても排除され、当事者は不当な暴力や刑罰から身を守るために、異性愛・シスジェンダーを装い、隠れているほかありませんでした。

中には社会を変えてきた当事者もいますし、近年では世界各国でLGBTQに関するイベントやパレードも行われていますが、反対派によって命を奪われてきた活動家もいます。

「そうした社会運動のおかげで、現在は国際人権規約において、性的指向・性自認・性表現・からだの性の特徴が、人権として守られるようになったのです」と渡邉さん。

この後、演題の一区切りに、渡邉さんからLGBTQのインタビュー動画『この性を生きる』が共有されました(※YouTube「東海テレビ 公式チャンネル」で視聴可能)。5組の当事者とその家族の深い苦悩と切実な思いが画面ごしに伝わり、講演内容への理解が深まりました。

LGBTQを取り巻く国内外の現状について

さて、それではLGBTQを取り巻く現在の状況はどのようになっているのでしょうか。

まず画面に映し出されたのは「性的指向に関する世界地図」。性的指向に関する法律は国によってもさまざまで、同性婚ができる国もあれば、同性間の関係を死刑とする国もあります。

「同性婚は2001年にオランダで初めて認められ、現在は欧米諸国を中心に31カ国で可能ですが、G7の中で同性パートナーへの法的保障がないのは日本だけです」と渡邉さん。

そして、ここから数々のデータとともに、日本国内の厳しい現状が示されます。

日本にも「同性パートナーシップ制度」はあるものの、法的な効力はなく、全国各地で同性婚をめぐる裁判が行われていること。また、日本は性別変更のハードルが高く、不妊手術や多額の費用などの諸要件があり、国際的にも批判されていること。

さらに、大きな問題とされるのが、日本には「差別」を禁止する法律がないことです。

根強い偏見や差別から守るために「差別禁止」は不可欠であり、世界各国で法整備が進む中、日本の立ち遅れを渡邉さんは指摘します。

そんな中にあって、近年「SOGIハラ」と「アウティング」がパワハラ防止法の中に盛り込まれるようになりました。

「SOGIハラ」というのは、性的指向や性自認に対して侮蔑的な発言をしたり、性のあり方について嘲笑や嫌がらせ、差別的な発言などをしたりすることで、相手の性的指向や性自認は問いません。

また「アウティング」とは、本人の同意なく、第三者にその人の性のあり方を勝手に暴露することで、本人の安心安全な居場所を奪う、重大な侵害行為になります。「一橋大学アウティング事件」(2015年)をはじめ、相手を死に追い込んだり、訴訟になったりするケースが後を絶たないとして、渡邉さんは参加者に注意を促します。

このようなことが起こる背景には、当事者が自分のセクシャリティを自覚するのは思春期かそれ以前であるのに対し、学校教育で「性の多様性」を学ぶ機会が圧倒的に少ないといった要因があるといいます。

LGBTQ当事者は、シスジェンダーの異性愛者と比べて、いじめ被害、不登校、自傷行為、自殺念慮、自殺未遂の生涯経験率が高く、職場でも差別的言動を感じる頻度が高い傾向にあります。また、日本は諸外国と比べてジェンダーギャップが大きいことも、生きづらさを助長しています。

「誰もが過ごしやすい社会」の実現に向けて

それでは、「誰もが生きやすい社会」を実現するには、どうしたらよいのでしょうか。

「LGBTQへの差別をなくし、格差を是正していくことはもちろん大切ですが、より根本的なところでは、夫婦別姓、選択的シングルマザー、法律婚ではないパートナーシップ、恋愛や性愛がないパートナーシップ、シングルなど、どんな性のあり方であっても、どんなライフコースを選んでも、生きやすい制度・風土をつくることが重要になります」と渡邉さん。

LGBTQでいえば、LGBTQも包摂するジェンダーギャップの解消や、SOGIEへの差別・偏見への対策をしっかり制度面に落とし込むこと。そして、LGBTQも「いる」との前提に立ち、「多様な性」に対するリテラシーを高め、偏見を表面化しない、つまり差別をしない風土を作っていくこと。

制度面の改革は責任ある立場の人でないと難しいとしても、風土づくりなら誰にでもできるといいます。

「日ごろからどんな属性にも決めつけをせず、性の多様性についても積極的に学び、ポジティブな姿勢を示していくことが大切です」

そのほか、「いろんな性のあり方の人がいる」という前提で考え行動する、相手の発言を否定しない、自分の中の偏見を見つめ直す、学んだことを誰かにシェアし対話するなど、私たち一人ひとりが日々できることを渡邉さんは挙げていきます。

また、差別の現場に立ち会ったときの対処法についてもアドバイスがありました。
例えば、いわゆる「ホモネタ」に困惑している人がいた場合

  • 話題を変えるなどして、その場の注意をそらす
  • 上の立場の人など第三者に助けを求める
  • 「それはセクハラですよ、やめましょうよ」と直接介入する
  • 映像、音声、メモなどで証拠を残す
  • 後から本人に声をかける

その場で行動できなくとも、後から「大丈夫でしたか?」「できることはありますか?」などと声をかけるだけでも、当事者には大きな救いになるといいます。

渡邉さんは参加者にぜひ行動してほしいと呼びかけます。

一人ひとりが当事者として、できることを実践

講演も終わりに近づき、渡邉さんは繰り返します。

「多様性というものは、LGBTQ、障がい、外国籍などのように、違いがわかりやすく表面化したものばかりではありません。本当にさまざまな『違い』があります。そこに差別や偏見が生じるのは、『そもそも人はみんな違う』という大前提が制度や風土から無視されているからです」

人は性のあり方以外でも、家族ならこう、友達ならこう……とさまざまな属性に対して、無意識の偏見を持ちやすく、それは「こういう人はこうだろう」とわかった気になり安心したいからですが、目の前の相手がそれに当てはまるかどうかは別問題だと渡邉さんは強調します。

そして、私たち個人の中にも多様性があり、経済状況、学歴、障がい、居住地など、自分の中にマジョリティ性とマイノリティ性をあわせ持っていることを一人ひとりが意識することも大切だといいます。

また、「平等」と「公平」の違いについても触れ、不当な扱いを受けている人が皆と同じ権利を得ることは、特別扱いには当たらないとの説明もありました。

最後に「ぜひ皆さん、身近にあるできることを実践してください」と参加者にメッセージを送り、渡邉さんは講演を終えました。

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