最近ニュースなどで耳にする機会が増えた「SDGs」をご存知ですか? SDGsとは、国際社会全体が取り組むべき「持続可能な開発目標」のことで、日本でも企業や地方自治体、大学などでSDGsの達成に向けた積極的な取り組みが始まっています。
今回は、「SDGsとは何か?」そして「なぜ今SDGsが話題になっているのか」について解説します。
SDGsとは? 読み方は?
SDGsは「エスディージーズ」と読み、英語のSustainable Development Goalsの略称です。日本語訳である「持続可能な開発目標」のほうも合わせて覚えましょう。外務省のSDGs紹介サイトなどでSDGsについての基本情報を入手することができます。
SDGsは、2015年の国連サミットにおいて全会一致で採択された、国際社会全体が取り組む目標です。17のゴール(目標)とそれをさらに具体化した数値目標を含む169のターゲットが採択され、「地球上の誰一人として取り残さない」ことを誓い、2030年までに達成することをめざしています。
SDGsに取り組むのは誰でしょうか。まず、国連に加盟しているすべての国がその当事者です。しかしこの大きな課題は政府や省庁だけで進めていけるものではありません。企業、NPO/NGOなどの各種団体、地方自治体、教育機関、市民社会、そして各個人と、すべての主体がこの目標を共有し、それぞれの立場から取り組んでいくことが求められています。
「持続可能な開発目標」ってどういうこと?
SDGs(Sustainable Development Goals)の冒頭のSustainable(サステナブル、持続可能な)とはどのような意味でしょうか。
「sustain」という英単語は〔維持する、続ける〕といった意味なので、それに「able」がついた「sustainable」は〔続けることができる〕と訳され、つまり「持続可能な」という意味になります。
「持続可能な」とは、地球や社会の環境が将来にわたって維持されることを指しています。たとえばガソリンで走る車は、やがて枯渇する石油燃料を使っていること、CO2排出により地球環境にダメージを与えていることにより「持続可能」とはいえません。つまり、ガソリン車を減らして他のエネルギーで走る車を推進することが「持続可能な開発」の一例ということになります。
さらに、今では日本語にもなっている「サステナブル」は、現在では「環境を破壊しない」という意味合いだけでなく、非常に多岐にわたる内容を示して使われます。
たとえば「sustainable company(持続可能な企業)」とは、単に業績がよくて今後も事業が継続できる企業というのではありません。サステナブルなカンパニーとは、
- 地球環境を破壊しない企業活動をしている
- 消費者にとってその企業の商品やサービスは継続的に購入したいものである
- 従業員にとってその企業はずっと働きたい職場である
といった要素をすべて含めて「サステナブル」と呼んでいます。結局、「今業績がいい」というだけでなく、こうした条件を満たす企業が永続して、最終的に「持続可能」なのだ、と考えれば納得しやすいのではないでしょうか。
この例と同じように、「持続可能な開発」「持続可能な社会」といった表現でも、「持続可能という言葉が意味するものはとても多様で幅広い」と思っておけば理解しやすいでしょう。
SDGsが話題になっている3つの理由
2015年に国連で採択されたSDGsですが、最近メディアなどで話題になることが増えてきました。なぜ今注目を集めているのでしょうか。3つの観点からその理由をみていきます。
1.世界全体が共有する危機意識の高まり
地球環境は深刻な課題を数多く抱えています。エネルギー問題ではCO2排出量の増加による温暖化、異常気象や自然災害の増加、森林の砂漠化と水不足など。
一方、人が生活する社会においては、国際紛争の影響もあり貧困や差別などの問題が未解決です。それにもかかわらず、世界人口は現在の77億人から2050年には97億人へと増えるとも予測されており、もしかすると貧困層が増え、環境破壊が進み、足りない食料や資源を奪い合って争いが絶えなくなるという事態が起こるかもしれません。
今や、「このままではいけない」という意識が多くの人にはっきりと認識されていることが、SDGsの採択とその推進という行動に表れています。
2.先進国・発展途上国に共通する、わかりやすい目標設定が成功
SDGsの前身として、2000年に採択された「MDGs(ミレニアム開発目標)」がありました。開発途上地域における課題を取り上げ、2015年までに達成すべき8つの目標を設定したものです。
MDGsは2015年までに極度の貧困や飢餓の減少、感染症対策などで一定の成果を上げましたが、教育・医療など目標達成できなかった分野もあります。またこの間、先進国でも国内に貧困問題を抱えていたり、環境破壊や自然災害の問題に直面したりといった状況が増えました。
国連では次なるアクションを検討するにあたり、先進国も発展途上国も歩みをそろえて課題を解決する枠組みを策定しました。それがSDGsです。
SDGsの目標設定はMDGsの倍以上の17の目標を掲げることとなりましたが、結果的にはどの国や地域にとっても取り組みやすいような包括的かつ具体的な内容となっています。
この17のゴール設定がわかりやすく、かつ、それを表現するカラーロゴのデザインが印象的で、SDGsの内容とともに効果的に世界に広まったことにより、SDGsの認知はより加速化されたと思われます。
3.ビジネスチャンスとしての重要性が認知された
SDGsは国際社会が合意した共通の価値観であるとみなすこともできます。そして2015年の採択から後、現在までにSDGsという名称とその内容が徐々に広まってきているということは、一般社会に受け入れられた証拠。
企業は今、SDGsが指し示す方向性はビジネスの指針としても信頼に足る、いやむしろ、経営やマーケティングなどの観点からSDGsを無視できないと認識し始めています。
こうした状況から、SDGsへの取り組みを積極的にアピールする企業が増えています。今後さらに投資家や消費者にもSDGsが認知されることにより相乗効果が生まれ、SDGsの目標にかなうマーケットがいっそう拡大していくことが期待できます。
SDGsの17のゴールとは
SDGsの17のゴール(目標)とはどんなものでしょうか。
17の目標は横の段ごとに大まかなテーマが分かれているので、順にみていきましょう。
まず一段目の6つのゴールは、最も初歩的な、基本的人権や生活水準に関連する内容ということができます。
- 1 貧困をなくそう
- 2 飢餓をゼロに
- 3 すべての人に健康と福祉を
- 4 質の高い教育をみんなに
- 5 ジェンダー平等を実現しよう
- 6 安全な水とトイレを世界中に
これらは主に発展途上地域の課題と考えがちですが、日本にも貧困やジェンダー不平等といった問題があり、先進国も含めてすべての国が当事者として取り組むべき目標であるといえます。
2段目のゴールは、経済的・社会的な豊かさに関する内容です。
- 7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- 8 働きがいも経済成長も
- 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 10 人や国の不平等をなくそう
- 11 住み続けられるまちづくりを
- 12 つくる責任 つかう責任
かつて経済活動はコストの最小化・利益の最大化を目指していましたが、それは環境破壊につながり、働く人にとって負担を強いている場合もあり「持続可能ではない」ため、働く人にとっても地球環境にとっても望ましい、現代とこれからの経済活動のあり方を追求する内容となっています。先進国とっても開発途上国にとっても、それぞれのフェーズで取り組むべき目標といえます。
3段目は、2つの内容について記載されています。
最初の3つは地球環境に対するさらに踏み込んだアクションを記しています。
- 13 気候変動に具体的な対策を
- 14 海の豊かさを守ろう
- 15 陸の豊かさも守ろう
最後の2つは、すべての目標を達成するために欠かせない「平和」と「パートナーシップ」を明文化しています。
- 16 平和と公正をすべての人に
- 17 パートナーシップで目標を達成しよう
以上17のゴールと、それを細かく具体化した169のターゲットについて、詳しくは次の記事で解説します。
SDGsの「5つのP」とは
SDGsのめざすものとして国連は「5つのP」をキーワードとして挙げています。
- 人間(People)
すべての人の健康的な生活、平等、教育環境などの保障をめざしています。 - 地球(Planet)
温暖化、海水面の上昇など多くの危機に直面する地球環境を破壊から守り育てます。 - 豊かさ(Prosperity)
すべての人が経済的に持続し、充実した生活を送れるようにします。 - 平和(Peace)
あらゆるレベルで暴力や恐怖を排除し、平和な世界をめざします。 - パートナーシップ(Partnership)
国際機関、政府、企業、社会、市民など多様な参加者がグローバルなパートナーシップを維持・推進します。
SDGsの5つの特徴と、「変革」の重要性
SDGsの特徴として、国連は以下5つを提示しています。
普遍性
すべての国が同じ目標を共有し、行動する
前述したSDGs以前の枠組みであるMDGsは主に開発途上地域の問題を取り上げていましたが、SDGsでは17のゴールを世界共通の課題として設定し、先進国・開発途上国を問わずすべての国が同じ目標に取り組むという制度設計になっています。
包摂性
「誰一人置き去りにしない(no one will be left behind)」ことを明記
仮に、「貧困撲滅を90%以上達成」のようなゴール設定のみがされていた場合、アクションを起こす対象は優先順位の高い順ということになり、最も優先順位の低い最後の1%の貧困層には支援の手すら差し伸べられない可能性が高くなってしまいます。
このような「置き去り」の事態をなくし、年齢やジェンダーに関係なくすべての人へ向けたアクションをすることが求められています。すべての弱者に意識を向けるこうした姿勢は「包摂性」と呼ばれ、近年重視される価値観です。
参画型
すべてのステークホルダーが役割を持つ
ステークホルダーとは関わりのある主体のことで、具体的には国、企業、各種団体、一般市民などが含まれます。SDGsという大きな目標は、国や大企業だけで達成できるものではなく、一人ひとりが当事者意識をもつ必要があります。
統合性
社会・経済・環境は不可分であり、統合的に取り組む
世界の課題は互いにリンクし合っています。たとえば[13気候変動に具体的な対策を]に取り組むことは、同時に[11住み続けられるまちづくりを][12つくる責任 つかう責任]への取り組みにも重なります。
また、[1貧困をなくそう][2飢餓をゼロに]への取り組みは途上国の経済成長につながり、[13気候変動に具体的な対策を][14海の豊かさを守ろう][15陸の豊かさも守ろう]などの環境対策もしやすくなります。SDGsへのアクションは、いくつかの目標を意識して同時進行的に取り組むべきものです。
17のゴールが関連し合っているということは、国連が提供する円形のロゴでも表現されています。
透明性
モニタリングにより進捗を確認しながら進める
SDGsには法的な拘束力はありません。その代わりに、各国の進捗状況は数値化され公開されます。年に一度の「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」などが各国の成果を検証し、達成へのプロセスをフォローアップしています。
また、国によって重点的に取り組むべき目標は違うので、各国ごとの目標値の設定とその達成度の検証も行われます。
SDGsにおける「変革」「野心的な試み」の重要性
さらに、上記5項目には含まれませんが、採択文書で強調されている「変革」あるいは「野心的」という文言は、SDGsへの取り組みですべての当事者に求められている重要なマインドです。SDGsのスキーム(枠組み)では、今までとは違う方法の模索と実践が求められています。
企業活動の例で考えてみましょう。低コスト・大量生産という従来の方法のままでは[12つくる責任 つかう責任][13 気候変動に具体的な対策を]といった目標にアプローチできません。さらに、企業で働く従業員のために[5ジェンダー平等を実現しよう][8働きがいも経済成長も]といった目標も意識しなくてはなりません。単純にコスト計算をしたらビジネスが成り立たない、だからできない、という結論になってしまいます。
ここで「変革」が必要となります。従業員に配慮しつつ、CO2排出量の少ないエネルギーを使い、自然を破壊しない、といった条件を満たすような、ビジネスモデルの変革やイノベーションが不可欠です。難しい課題ではありますが、実際に「変革」に成功した企業こそが次世代にまで「持続可能」であるといえるでしょう。
国の公共事業やまちづくりにも同じようなことがあてはまります。さらに、一市民の毎日の行動にも「変革」が必要です。毎日何を食べ、どんな交通機関を利用し、どのようにゴミを出しているか。すべてがSDGsと関わってくるということを踏まえ、一人ひとりが根本から生活を見直してみることも大切なアクションのひとつです。
SDGsの最新状況
2015年にスタートしたSDGsは、当初は一般に広く認知されていくかどうかについて懸念もされていましたが、2017年位までにかなりメディアでも頻繁に取り上げられるようになりました。
日本国内では政府が「SDGsアクションプラン2019」を策定し、財界や地方のSDGsへ向けての取り組みを推進しています。2017年度より、企業や団体の取り組みを表彰する「ジャパンSDGsアワード」も開始されました。
企業、自治体、教育機関など個別主体の取り組みについては、外務省の取組事例にとりまとめられています。千葉商科大学がめざす「自然エネルギー100%大学※」の取り組みも事例として掲載されています。
※大学所有のメガソーラー発電所などの発電量と大学の総エネルギー使用量を同量にするもので、日本国内の大学で初の試み。
一方、世界のSDGs達成への取り組みをリードしているのは欧州、特に北欧諸国です。2022年の「SDGs達成度ランキング」では1位フィンランド、2位デンマーク、3位スウェーデン。そしてトップ10はすべて欧州の国々です。
一方、日本は同ランキングで日本はで19位と報告され、SDGs達成度は世界的に見ると遅れている傾向があります。
しかし上位の国々を含めて、世界のSDGsの歩みは決して順調というわけではありません。2019年9月、ニューヨークの国連本部においてSDGs採択以降4年間のレビューを行う「SDGsサミット2019」が開催され、日本からは安倍首相などが出席。
ここでは、多くの分野で進捗の遅れがみられ、2030年の目標達成への見通しが厳しいという認識が共有されました。個別には海洋プラスチックの問題や平均気温上昇の問題などが緊急課題として挙げられました。
世界のSDGsへ向けての歩みは着実ではあるものの十分とはいえず、今後へ向けてさらなる加速化、各国・各ステークホルダーの知恵と力の結集が求められています。
この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)
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