世界が取り組むべきSDGsのスタートは2015年、ゴールは2030年。残された期間は10年です。その3分の1が過ぎようとする2020年現在、SDGsの取り組みは順調に進んできているのでしょうか。
今回は、世界の達成状況と、いくつかの国と地域の取組事例についてご紹介します。
世界のSDGs達成状況は?「深刻な気候変動」が最重要課題
2015年にスタートしたSDGsは、着実に進んでいるのでしょうか。国連は17の目標の達成度を様々な形で数値化し、検証しています。
「ハイレベル政治フォーラム(HLPF)」は国連が1年に一度、SDGsの進捗を確認するための国際会議です。2019年も7月、ニューヨーク国連本部で同会議が開催され、17の目標についての年次報告がなされました。
2019年報告書は非常に詳細なものですが、特に重要な指摘として以下がありました。
- よい成果として「極度の貧困の割合が低下」「予防接種の実績」「海洋保護区の倍増」などがあった。
- 最も大きな課題としては気候変動に歯止めがかかっていないことが挙げられた。
- 過去4年間は記録上最も温暖となった
- 同時に「海面上昇」「海洋酸性化」「土地の劣化」などが深刻化
- 絶滅の危機にある動植物は100万種
- 他の重要課題として、「紛争」「災害」などの背景もあり極度の貧困が固定化していること、国際間および各国内の不平等が解消しないこと、世界人口の半数に医療サービスが届いていないこと、ジェンダー不平等で不利益を被る女性が減っていないこと、などが指摘された。
報告書の全文は国連ウェブサイト(英語)に掲載されています。「持続可能な開発目標(SDGs)報告2019」には報告書の主な内容がわかりやすくイラストと日本語でまとめられています。
特に危機的状況を共有することとなった気候変動の問題については「気候変動は予想よりはるかに速く進行しており、持続可能な開発への緊急の課題」であるとされました。
2017年、大気中のCO2濃度は405.5ppmに達し、現在も排出量は増加傾向です。持続可能な開発と成長のためには、地球温暖化を1.5℃に制限する必要があり、そのためには一刻も早くCO2排出の増加を止め、次いで削減へと反転させていかなくてはなりません。しかし現在、その見通しが立っていないことが最大の問題です。
ではどのように対策をしていけばいいのでしょうか。国連は持続可能な開発目標(SDGs)報告2019のなかで以下のような図を示し、地球温暖化を食い止めるためには「NDCs」の今まで以上の推進が不可欠と強調しています。
NDCs(Nationally Determined Contribution、国が決定する貢献)とは、パリ協定にもとづいて各国が取り組む数値目標でINDC(International NDC)と表記されることもあります。外務省ウェブサイトには日本と各国のINDCが掲載されています。
報告書に示されてた「温室効果ガス年間排出量想定図」によると各国がNDCsで実績を上げなければ地球温暖化を止められないこと、危機的状況を回避するために残された時間はわずかであることを示しています。
2019年9月にはSDGs発効後初の首脳レベルレビュー「SDGサミット」が開催され、日本からは安倍首相などが参加しました。サミットでは次の10年でSDGs達成への取り組みを加速化させる各国のアクションなどが発表されました。
11月には、グテーレス国連事務総長の「SDGsへの歩みは、達成への軌道からかなり外れている」という主旨の寄稿がフィナンシャルタイムズ紙に掲載されました。ある程度の前進は確認できるものの、達成への見通しは厳しいことを示し、特にビジネスリーダーに向けて「一刻も早く行動を」と強く促す内容となっています。
以上のように2019年は、SDGsの取り組みの全体的な遅れと気候変動への対策が急務であることが再三にわたり確認された1年となりました。
欧州諸国が上位にランクイン。世界各国のSDGs達成度ランキング
「Sustainable Development Report 2019」というページで世界各国のSDGs達成度についての詳細な報告が公開されています。2019年6月発表のSDGs達成度ランキングで日本は15位でした。過去に日本は2017年11位、2018年に15位となっており、一昨年からはランクダウン、前年からは横ばいとなっています。世界全体のランキングトップ20と主な国の順位は以下の通りです。
世界のSDGs達成度ランキング
順位 | 国名 | 達成度 | 順位 | 国名 | 達成度 |
---|---|---|---|---|---|
1 | デンマーク | 85.2 | 35 | アメリカ合衆国 | 74.5 |
2 | スウェーデン | 85.0 | |||
3 | フィンランド | 82.8 | 38 | オーストラリア | 73.9 |
4 | フランス | 81.5 | 39 | 中国 | 73.2 |
5 | オーストリア | 81.1 | |||
6 | ドイツ | 81.1 | 55 | ロシア | 70.9 |
7 | チェコ | 80.7 | |||
8 | ノルウェー | 80.7 | 57 | ブラジル | 70.6 |
9 | オランダ | 80.4 | |||
10 | エストニア | 80.2 | 102 | インドネシア | 64.2 |
11 | ニュージーランド | 79.5 | |||
12 | スロベニア | 79.4 | 115 | インド | 61.1 |
13 | イギリス | 79.4 | 116 | バングラデシュ | 60.9 |
14 | アイスランド | 79.2 | |||
15 | 日本 | 78.9 | 130 | パキスタン | 55.6 |
16 | ベルギー | 78.9 | |||
17 | スイス | 78.8 | 153 | アフガニスタン | 49.6 |
18 | 韓国 | 78.3 | 154 | ニジェール | 49.4 |
19 | アイルランド | 78.2 | 155 | シエラレオネ | 49.2 |
20 | カナダ | 77.9 | 156 | ハイチ | 48.4 |
出典:Sustainable Development Report https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1193050_1501.html
上位10か国はすべて欧州の国で、20位までに入った欧州以外の国はニュージーランド、日本、韓国、カナダの4か国のみとなっています。また、日本は世界人口ランキングで10位ですが、中国、インド、アメリカなど人口が多い国トップ9か国は35位以下であることもわかります。そしてワーストランキングにはアフリカ諸国が多く並んでいます。
上位を占めるのはやはり環境政策や福祉政策の先進地域である北欧諸国です。しかし、上位国は17の目標について問題なく目標達成できているというわけではありません。
以下は先進国(OECD諸国)などの達成度を色で示した一覧表です。
SDG Dashboard for OECD Countries
出典:Sustainable Development Solutions Network"Sustainable Development Report 2019" https://s3.amazonaws.com/sustainabledevelopment.report/2019/2019_sustainable_development_report.pdf
上記のなかで緑色は「目標達成できている」項目、他は未達成項目で、黄色・オレンジ・赤の順に達成度が低くなります。
これを見ると、[2飢餓をゼロに][12つくる責任 つかう責任][13気候変動に具体的な対策を][14海の豊かさを守ろう]などで目標達成している国が1つもなく、かつ、達成度が最も低い「赤」評価がまだまだ多くなっています。
このように、ランキング上位の先進国においてもSDGsへの取り組みを加速化しなくてはならないということがわかります。
SDGs達成に向けた世界の取組事例
北欧諸国 デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン(フェロー諸島、グリーンランド、オーランド諸島)
北欧諸国は、各国それぞれにSDGsに取り組むほか、地域連携も進めています。
2017年9月、北欧諸国は共同で「Generation 2030」を立ち上げました。タイトル通り、子どもや若者など次世代を主役とし、SDGsへの取り組みは次世代のために特に重要であり、次世代が変革の担い手となるアクションをサポートする枠組みとなっています。
北欧各国がSDGs達成度ランキングで常に上位を占めているのは、2015年のSDGsスタートよりずっと以前から持続可能な社会づくりへの意識が高く、多くの先進的な取り組みを行ってきた成果です。例えば環境負荷の少ない商品を認証する「Nordic Swan(ノルディックスワン)」を5か国共同で1989年にスタートしました。国際的な多国間エコラベル制度としては世界初の導入でした。
北欧諸国では国、地域社会、企業などすべての主体がSDGs以前から「持続可能性」を強く意識し、再生可能エネルギー利用・資源リサイクルなどを推進してきました。子どものころから学校では地球環境の危機と持続可能性について教えられ、一般市民、特にミレニアル世代(1980年代~2000年代生まれ)には持続可能なライフスタイルが浸透しているようです。
そして同時に、各国とも高い生産性を維持して経済成長を続けています。今や北欧諸国は持続可能な社会のモデルを世界に先駆けて推進しつつ、SDGsの重要性を世界に発信する国際社会の主導的な役割を果たしています。
北欧地域では若い世代でもサステナビリティへの意識が高くなっています。
そのひとつの表れが、2019年世界の注目を集めたスウェーデンの学生環境活動家、グレタ・トゥンベリさんです。彼女が始めた気候変動への対策を求める活動は世界に広まり、国連でのスピーチを経て、同年9月27日に実施された世界一斉ストには600万人以上が参加。気候変動対策を訴えるために学校や仕事を休むことを意味する「気候ストライキ」は英英辞書「コリンズ」が選ぶ2019年の流行語大賞に選出されました。
北欧各国の取組事例
UN17 Village(デンマーク)
コペンハーゲン南部で100%持続可能な村を創るという野心的プロジェクト。エネルギーは再生可能エネルギーのみを使用し、雨水・建設資材などはリサイクル。
レゴ(LEGO)(デンマーク)
おもちゃメーカーのレゴ社は、サステナブルな素材を一部使用したモデル「ツリーハウス」の販売を2019年に発売。同社は2030年までにブロック商品をサステナブルな素材に代替するという目標を発表。
ベクショー市(スウェーデン)
“森林都市”ベクショーは1996年に2030年までに「化石燃料ゼロ」を達成すると宣言。石油の使用を減らし、森林資源を活用したバイオマスエネルギーなどへの代替を進めている。建設やプロダクト製造で地元産の木材を活用。同市は人口も増加傾向にあり、経済成長率もアップしている。
ハンマルビー・ショースタッド地区(スウェーデン)
ゴミや生活排水を分別し、処理場でバイオマスエネルギーを産出し暖房や発電、公共交通の燃料に使用。太陽熱利用も促進し、CO2排出量を大幅に減少した。
フィンランド
CO2排出量削減、厳正な環境基準を満たすフィンランドの製品、飲食店等の認証「Nordic swan エコ・マーク」、廃棄物ゼロ推進などを実施。ヘルシンキ市が運営するウェブサイト「myhelsinki」では、市民および観光客にサステナブルな情報を発信している。
フランス
フランスもSDGs始動以前から持続可能な社会へのアクションをしてきました。政府はSDGsに取り組むための情報を発信するサイトAgenda2030を開設し、今まで以上に対策を加速化させようとしています。
フランスでもオーガニック食品や再生可能エネルギーを選ぶ動きは盛んですが、世界を牽引するファッション業界の取組が注目されます。かつてファッションアパレル会社は「開発途上国の工場で安く製造して先進国で販売」というビジネスモデルでしたが、今はサステナビリティが重視されています。
パリでは古着市が盛んです。衣類を回収するリサイクルポストが設置されていて、処理後はエコ素材に生まれ変わって再生利用されます。エコでスローなライフスタイルが支持されていて、植物性原材料を使った素材を使用したエシカル・ファッションブランドに注目が集まっています。
フランスではレジ袋が2017年までに全面廃止になっていますが、これに呼応してさまざまなデザインのエコバッグが販売されヒットしています。
ケリング(KERING)(パリ)
グッチ、サンローラン、バレンシアガなどを擁しているファッション企業のケリングは、2015年に環境負荷を数値化して会計に組み込む「自然資本会計」の手法をオープンソース化。2017年には「グッチ」がリアルファーの使用を廃止した。2019年、同社はダボス会議で発表された、世界の持続可能な企業を評価する「Global 100 Index」で2位にランクインしている。
ドイツ
ドイツでもSDGs以前の2000年代より持続可能な開発に取り組んできました。再生可能エネルギー開発では1998年に電力市場が自由化され、環境団体グリーンピースが出資する「グリーンピースエナジー」など4社が再生可能エネルギーのみを提供しています。
2011年の福島原発事故の後、国を二分する議論を経て2022年を期限とする原発廃止を決定したのも記憶に新しいところです。
Unverpackt(ウンフェアパックト)(ベルリン)
2014年に量り売りの小売店をオープン。洗剤や化粧品、菓子類、乾物など様々な商品を取り扱っており、客が自分で持参した容器や店で販売している再利用可能な器を購入して商品を持ち帰るスタイル。
アディタス(バイエルン州)
海洋環境保護団体「パーレイ・フォー・ジ・オーシャンズ(Parley for the Oceans)」と共同で海洋プラスチック廃棄物の回収・再生事業を推進。回収したプラスチックごみを活用したスポーツウェア、スニーカーの製造、販売をしている。
アメリカ
アメリカ政府ではトランプ大統領が2019年11月、正式にパリ協定を離脱し、国際社会に衝撃を与えました。しかし州に一定の自治権があり多様な価値観が共存するアメリカでは、州・企業などがSDGsに引き続きコミットしています。
例えば、ハワイ州は2017年、パリ協定にコミットすることを宣言。ハワイは以前から温暖化によりワイキキ・ビーチ消滅や水害の多発が懸念されており、環境意識が高いSDGs先進地域のひとつで、再生可能エネルギー利用や食料の州内調達などで実績を上げてきています。
国連本部があるニューヨーク市は2018年、SDGsに取り組み、進捗報告をすることを宣言しました。リサイクル活動やエネルギー政策により、実際にCO2削減の実績を上げています。この他、米国内の多くの企業や大学などもSDGsへの協力姿勢を維持しています。
この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)
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