2019年の世界SDGs達成度ランキングで日本は15位。(Sustainable Development Report(PDF)20ページを参照)
ランキングトップ20カ国中16カ国が欧州で、アジア地域では日本が最上位です。世界的に見てもまずまずの順位のように思われますが、日本では、実際にどんな政策を実践し、どんな成果を上げているでしょうか。
今回は、日本政府の取り組みについてご紹介します。
SDGsでは「途上国支援」と「自国の変革」を同時に推進
2000年にスタートしたMDGsは、世界の貧困や飢餓、感染症対策など主に開発途上地域の問題を解決するための目標でした。日本政府は先進国の一員として、二国間および国際機関経由の政府開発援助(ODA)、技術や人の供与を通じて積極的に貢献しました。
そして2015年、新たな枠組みとしてSDGsがスタート。政府は「SDGs推進本部」を設置して方針を協議し、各種の政策を実施しています。MDGsへの取組、およびその他過去の国際協力の枠組みと比較して、SDGsは大きく違う点がひとつあります。
SDGsの17の目標は先進国・開発途上国の区別なく世界全体で共有すべき目標であり、当事国は国内と世界の問題に同時に取り組む必要があるということです。SDGsの開発目標のなかには[5ジェンダー平等を実現しよう][12つくる責任 つかう責任]など、先進国こそ自国内で努力する必要がある目標もあり、日本政府としては自国の問題を解決することを国際社会に約束した形となっています。
特にSDGsの重要課題とされている[13気候変動に具体的な対策を]では、CO2排出量削減のために、今までの企業活動や個人のライフスタイルを大きく変革させるようなチャレンジが必要です。
グテーレス国連事務総長はSDGs達成のために常に「大胆なリーダーシップ」「野心的行動」「変革」の必要性を繰り返し説いています。それはSDGsの目標達成が容易ではないからに他なりません。G7のメンバーとして、日本には責任あるチャレンジが求められています。
SDGs採択からこれまでの、政府の主な取り組み
SDGsの採択を受け、内閣府は2016年に、総理大臣を本部長、官房長官、外務大臣を副本部長とし、全閣僚を構成員とする「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置しました。設置後、毎年2回政策会議を開催し、「SDGsアクションプラン」など、政府の基本方針を決定する場となっています。
SDGsアクションプラン
SDGs推進本部がSDGs目標達成のための政府の政策をとりまとめたものが「SDGsアクションプラン」です。2018年より発表され、「SDGsアクションプラン2020」が最新版です。
SDGsの達成に向けた取り組みには政府や省庁だけでなく、企業、NGO/NPO、自治体、教育機関その他各種の主体および一般市民の協力が不可欠です。国全体でSDGsを推進していくため、政府は様々な分野の代表から幅広く意見を集める機会を設置しています。
- 持続可能な開発目標(SDGs)推進円卓会議
行政、NGO、NPO、有識者、民間セクター、国際機関、各種団体などの関係者が意見交換を行う場です。2016年に開始されました。 - SDGs実施指針へのパブリックコメント募集
2019年には、「SDGs実施指針」について、パブリックコメントを募りました。集められた意見とSDGs推進本部の考え方が「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針(改定版)の骨子についての意見募集」 にまとめられています。
国際貢献と国内政策とを盛り込んだ「SDGsアクションプラン2020」の3つの柱
「SDGsアクションプラン2020」では、今後の10年を2030年の目標達成に向けた「行動の10年」とす べく、2020年に実施する政府の具体的な取り組みを盛り込みました。その概容とポイントについてご紹介します。
全体として、国際貢献策と国内政策が併記されているのが特徴です。
まず同プランで最初に設定された3つの柱について見ていきます。
- SDGsと連携する「Society5.0」の推進
- SDGsを原動力とした地方創生、強靭かつ環境にやさしい魅力的なまちづくり
- SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント
1. SDGsと連携する「Society5.0」の推進
1.の柱はビジネス・科学技術分野の方針です。
Society5.0とは、内閣府が提唱している日本の次世代社会のビジョンです。AI、IoT、ロボットなどを駆使した高付加価値社会で少子高齢化や過疎、貧富の格差などの社会課題の解決も可能にするというもの。
科学技術分野の「STI for SDGs」はSDGsの目標達成に貢献できるような科学技術イノベーションを推進していく国内外への支援の考え方を示しています。
また、ESG投資の後押し、中小企業がSDGsに取り組みやすくするために、関係団体・地域・金融機関との連携強化をめざします。
2. SDGsを原動力とした地方創生、強靭かつ環境に優しい魅力的なまちづくり
2.はタイトル通り地域活性化やまちづくりの分野です。
SDGsの達成を目指すことが同時に地方創生の推進となるよう、「SDGs未来都市」の選定、まちづくりへの民間参画の促進などの政策が実施されます。
強靭なまちづくりの面では、防災・減災、国土強靭化、エネルギーインフラ強化やグリーンインフラを推進します。
また、循環共生型社会を構築するために「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」実現に向けた海洋プラスチックごみ対策、「パリ協定長期成長戦略」に基づく施策を推進・実施します。
3. SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント
3.は若い世代や女性を支援するプランです。
働き方改革を着実に実施し、あらゆる分野における女性の活躍やダイバーシティ・バリアフリーを推進します。
具体的には、地球規模課題を主体的に捉え、その解決に向けて考え行動する力を育成する「持続可能な開発のための教育(ESD)」や食育を実施します。
SDGsアクションプランを具体化する8分野とその取り組み
「SDGsアクションプラン2020」では、具体策を以下の8分野に落とし込んで示しています。
- あらゆる人々が 活躍する社会・ジェンダー平等の実現
- 健康・長寿の達成
- 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
- 持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備
- 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
- 生物多様性、森林、海洋などの環境の保全
- 平和と安全・安心社会の実現
- SDGs実施推進の体制と手段
では各分野の具体策をみていきます。
1. あらゆる人々が 活躍する社会・ジェンダー平等の実現
- 働き方改革の着実な実施
- ジェンダーの主流化・女性の活躍推進
- ダイバーシティ・バリアフリーの推進
- 子どもの貧困対策
- 次世代の教育振興
- 次世代のSDGs推進プラットフォーム
- スポーツSDGsの推進
- ビジネスと人権に関する我が国の行動計画
- 消費者等に関する対応
- 若者・子供、女性、障がい者に対する国際協力 等
まず重視されているのは女性の活躍の機会を広げること、そのためには同時に男女問わずすべての人の働き方改革・ダイバーシティ促進も必要です。子どもや幼児の貧困対策・就学支援、教育内容の充実も実施。国際協力でも子ども・学生・女性への支援を推進します。
2. 健康・長寿の達成
- データヘルス改革の推進
- 健康経営の推進
- 医療拠点の輸出を通じた新興国の医療への貢献
- 感染症対策等医療の研究開発
- ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ推進のための国際協力
- アジア・アフリカにおける取り組み(アフリカ開発会議(TICAD)を通じたものを含む) 等
国内ではビッグデータを活用した医療の充実、国際協力では栄養改善・保健・医療サービスの充実を支援します。「母子手帳の普及」や医療現場の問題を改善し、保健医療の質強化を図る「カイゼン」手法による医療サービスの向上が特徴的です。
3. 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
- 情報通信技術・研究開発強化、人材育成
- 未来志向の社会づくり(「Connected Industries」「i-Construction」推進等)
- STI for SDGsや途上国のSTI・産業化に関する国際協力
- 地方創生や未来志向の社会づくりを支える基盤・技術・制度等
- 地方創生SDGsの推進
- 持続可能な観光の推進
- 農山漁村の活性化、地方等の人材育成
- 農林水産業・食品産業のイノベーションやスマート農林水産業の推進、成長産業化 等
地方創生や産業基盤の強化では多彩な政策を実施します。Society5.0の実現に向けたイノベーションやデータビジネスを支援するほか、地方創生のため農林水産業を積極支援。成長市場の創出と拡大を目指しています。
4. 持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備
- 持続可能で強靱なまちづくり(「コンパクト+ ネットワーク」推進)
- 戦略的な社会資本の整備
- 文化資源の保護・活用と国際協力
- レジリエント防災・減災の構築、災害リスクガバナンスの強化、エネルギーインフラの強靱化、食料供給の安定化
- 質の高いインフラの推進
- 環境インフラの国際展開 等
国内では災害のリスク研究や防災体制強化などを推進、国外向けには質の高いインフラを国際展開します。
5. 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
- 再エネ・新エネの導入促進
- 徹底した省エネ・新エネの推進
- エネルギー科学技術に関する研究開発の推進
- 気候変動対策・適応推進、災害リスク体制強化
- 循環型社会の構築(東京オリンピック・パラリンピックに向けた持続可能性等)
- 国際展開・国際協力
- 食品廃棄物の削減や活用
- 農業における環境保護
- 持続可能な消費の推進 等
産業分野ではZEH・ZEB(省エネ性能の高い家・建物)、省エネに資する研究開発、廃棄物再利用などを進めます。エシカル消費や食品ロス削減などでは一般市民の参加を促す必要もあります。地方自治体や市民団体の参画も欠かせない分野です。
6. 生物多様性、森林、海洋などの環境の保全
- 持続可能な農林水産業の推進や林業の成長産業化
- 世界の持続可能な森林経営の推進
- 地域循環共生圏の構築
- 生物多様性保護の国際協力
- 大気保全・化学物質規制対策
- 海洋・水産資源の持続的利用、国際的な資源管理、水産業・漁村の多面的機能の維持・促進
- 海洋ごみ対策(含む海洋プラスチックごみ)の推進
- 地球観測衛星を活用した課題解決
- 北極域の研究 等
環境保護対策では、日本の国土の3分の2を占める森林や日本の周囲をとりまく海洋の資源保全が主要な施策で、海洋プラスチックごみ対策も急務です。国際的には、海洋プラスチックごみの発生源や流出経路等、実態の把握や指導・啓発活動に取り組みます。
7. 平和と安全・安心社会の実現
- 子どもの安全(性被害、虐待、事故、人権問題等への対応、児童労働の撤廃)
- 女性に対する暴力根絶
- 再犯防止対策・法務の充実
- 公益通報者保護制度の整備・運用
- 法の支配の促進に関する国際協力
- 平和のための能力構築に向けた国際協力を通じた積極的平和主義
- 人道・開発・平和の切れ目のない支援
- 中東和平への貢献
- アフリカの平和と安定に向けた新たなアプ ローチ 等
安全・安心な社会実現では国内の子どもや女性を守る対策を実施。南スーダンの「国づくり」において、テントの供与や井戸掘削を行うなど、国際協力も積極的に実践します。2020年には日本で「国際連合犯罪防止刑事司法会議」が開催されるので、日本はホスト国として「法の支配」促進に貢献する準備をしています。
8. SDGs実施推進の体制と手段
- モニタリング(国連におけるSDG指標の測定協力、SDGグローバル指標の整備等)
- 広報・啓発の推進(「ジャパンSDGsアワード」の実施等)
- 2025年万博開催を通じたSDGsの推進
- 地方自治体や地方の企業の強みを活かした国際協の推進
- 市民社会等との連携(NGOを通じた開発協力事業の実施等)
- 適切なグローバル・サプライチェーン構築
- SDGs経営イニシアティブやESG投資の推進
- 途上国における国内資金動員のための税制・税務執行支援
- SDGs達成のための革新的資金調達(リーディンググループ、有識者懇談会、休眠預金)
- 途上国のSDGs達成に貢献する企業の支援
- DGs推進円卓会議を通じたあらゆるステークホルダーとの連携(国連大学、フューチャー・アース等) 等
SDGs実施推進の体制と手段の分野では、SDGsを広めるための広報・啓発やESG投資の推進、中小企業等のSDGs経営支援を進めていきます。国際協力ではSDGsモニタリング、資金調達への貢献などを実施します。
「ジャパンSDGsアワード」は中小企業やNPO、公立学校など様々な団体が受賞
ジャパンSDGsアワードは、2017年に創設され、同年12月に第1回表彰がありました。SDGs達成に貢献する優れた取り組みを行っている企業・自治体・団体・教育機関などを幅広く公募し表彰することで、SDGsへの取り組み促進と広く広報・啓発をする狙いがあります。受賞団体とその取り組み内容はすべて公式サイトに紹介されています。
受賞者の顔ぶれをみると、企業・地方自治体・NPO・組合・大学・小学校など非常に多彩で、誰でもそれぞれの立場からSDGsに貢献できることがよくわかります。
受賞した団体のいくつかの事例をご紹介します。
北海道下川町
第1回ジャパンアワード SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞
森林資源を活用する持続可能な地域社会をつくる
人口3400人(2017年時点)、少子高齢化が顕著だった下川町は、町を挙げて「持続可能な地域社会の実現に取り組んでいます。経済面では林業・林産業システム革新など森林総合産業構築、環境面では森林バイオマスを活用したエネルギー自給と低炭素化、社会面では限界集落再生など超高齢化対応社会構築に取り組み、地方創生のモデルとなっています。
一般社団法人ラ・バルカグループ
第2回ジャパンSDGsアワード SDGs副本部長(内閣官房長官)賞
チョコレートブランドで障がい者雇用を拡大し「すべての人々がかっこよく輝ける社会」を実現
愛知県豊橋市で障がい者雇用促進の事業を行っていた代表の夏目氏が、2014年「久遠チョコレート」ブランドを立ち上げ、わずか5年で全国38拠点に拡大。売上や障がい者雇用数を公開し、透明性の高い事業で経営的にも成功しています。
山陽女子中学校・高等学校 地歴部
第2回ジャパンSDGsアワード SDGsパートナーシップ賞(特別賞)
2008年から海洋ゴミに着目し継続して調査。日本代表として海外でも成果を発表
岡山県の山陽女子中学校・高等学校地歴部は、SDGsスタートより以前の2008年から瀬戸内海の海底のゴミに着目し、地元漁師と協働して海洋ゴミの回収と分析調査を実践。国内外での国際会議・学会でも報告し、ゴミを減らすための啓発活動も行っています。
企業の受賞事例は以下の記事で紹介しています。
日本のSDGs達成度を検証。今後、どう進むべき?
日本のSDGsへの取り組みは順調に進んでいるのでしょうか。
前述の通り、2019年の世界SDGs達成度ランキングでは日本は15位。日本より上位にはSDGs先進国である欧州諸国が並び、日本はアジアの国としては最上位となっています。ちなみに2018年は15位、2017年は11位なので、今後は再び順位が上がることをめざしていきたいところです。
報告書には17の目標それぞれの達成度も掲載されています。
以下は報告書に掲載されていた日本のSDGs達成度を表す図です。
出典:Sustainable Development Solutions Network"Sustainable Development Report 2019" https://s3.amazonaws.com/sustainabledevelopment.report/2019/2019_sustainable_development_report.pdf
上記の図で達成度が高い順に緑、黄色、橙、赤で示されています。また、矢印は前年と比較した数値の増減を表し、赤矢印は前年より遅れ、橙矢印は横ばい、黄色矢印はやや改善、緑色は順調であることを意味します。
最も達成度が低い赤色は[5ジェンダー平等を実現][12つくる責任 つかう責任][13気候変動対策][17パートナーシップ]の4つです。また、昨年より下がってしまったのは[10人や国の不平等をなくそう]です。
[5ジェンダー平等を実現]については、日本では国会議員や企業管理職に占める女性の割合が低く、労働環境で男女の機会平等が実現していないことがマイナス評価の要因となっていると思われます。男女格差を図るジェンダー・ギャップ指数は、日本は153カ国中121位です。
参照:内閣府資料『共同参画』2020年2月号
[12つくる責任 つかう責任][13気候変動]の2つは、他の多くの先進国も赤色評価となっていて、遅れが目立つ分野です。どちらもSDGsのなかでも緊急の課題なので、もう少し力を入れて取り組むべき項目です。
[17パートナーシップ]では日本は政府開発援助(ODA)などで国際貢献をしているものの、更なる資金と援助を必要とする国が多くあり、開発途上国向けの投資推進や輸出増大の支援などを各国と協力し合いながら進めることが課題です。
昨年より下がってしまった[10人や国の不平等をなくそう]では、先進国のなかでかなり深刻な貧困率がその要因と思われます。
日本のSDGs達成を目指す政策は、上記5項目に対してさらに力を入れるべきといえるでしょう。
こうした視点で先ほどご紹介した「SDGsアクションプラン2019」を再度振り返り、各プランの内容をより深掘りしてみましょう。また、自国のSDGsの取り組みを自分ごととして捉えるきっかけにしてみてください。
この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)
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