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コラム

「さきほど我々は第20期中央委員会第1回全体会議(1中全会)を開き、新しい指導部を選出した。私は引き続き総書記として選任を受けた」

10月23日、中国共産党の習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)は、第20回共産党大会(共産党大会は5年に1度開催される)を受けて開催された1中全会後の記者会見の冒頭、このように述べました。この瞬間、中国は歴史的な大転換を遂げたといっていいのではないかと思います。10年前、習近平氏が胡錦涛氏の後を継いで共産党総書記に就任して以来、着々と進められてきた共産党内での「習1強」化が完成したからです。

これまでの中国の統治システムは、経済成長を目指す改革開放路線を確立した鄧小平氏が主導した集団指導体制と指導部の任期制でした。新中国の創設者、毛沢東共産党主席ひとりに権力が集中した結果、文化大革命による社会の大混乱を招いたとの反省からです。ところが習氏は、腐敗撲滅を名目に政敵を追放し、一方で側近を取り立てるという方法で集団指導体制を切り崩してきたと見られています。

2018年3月の全国人民代表大会(全人代:日本の国会に相当)では、「国家主席の任期を2期10年とする」規制を撤廃する憲法改正を行いました。さらに今回の共産党大会で「党トップの総書記は2期10年までとする」「党大会の年に68歳以上なら引退する」という党規約を廃止し、69歳の習氏が党総書記3期目に入ることができたのです。さらに1中全会で決まった政治局常務委員をはじめ党執行部のほとんどを「習一家」で固めました。

この状況を日本経済新聞は「この半世紀、われわれが目にしたことのない究極の権力集中が隣国、中国で実現した。まさに「極権」である」(10月24日付社説)と表現しています。それではこの「極権」を使ってどんなことを成し遂げようとしているのでしょうか。1中全会終了後の会見で習総書記は次のように述べています。

「我々は予定通りに小康社会(ややゆとりのある社会)を作り上げ、最初の100年の目標を実現した。今まさに社会主義現代化国家を全面的に作り上げる新たな道のりに踏み出したところだ。第2の100年の奮闘目標に向けて、中国式の現代化によって中華民族の偉大な復興を推進する」。ここで言う「最初の100年」は、中国共産党の結党(1921年)から現在までの100年、「第2の100年」は、共産党による中華人民共和国建国から100年に当たる2049年までを指します。

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習近平総書記は2012年に就任以来、「中華民族の偉大な復興の実現が中華民族の最も偉大な夢である」と発言してきました。世界のGDP(国内総生産)の長期的推移を推計したことで有名なA・マディソン「世界経済史概観」(2015年 岩波書店)によりますと、いまから200年前、1820年時点の世界のGDPの約40%は中国が占め、産業革命が進行していたイギリスを含む西ヨーロッパは全体で27%程度、アメリカは2%に過ぎません。当時の中国は圧倒的なスーパーパワーだったのです。過去に本欄で紹介したことがありますが、ニクソン大統領時代に米中国交回復を成功に導いたH・キッシンジャー元国務長官は、「キッシンジャー回顧録 中国」(2012年 岩波書店)で次のように書いています。

——(当時の)中国の皇帝やエリートたちは、中国は特別であり、いくつかある文明の中での「偉大な文明」なのではなく、「中国が文明そのものなのだ」と考えてきた。

習近平総書記は、この時代の中国の栄光を取り戻すことを2049年に実現すべき目標に掲げたということになるのではないでしょうか。同氏は「中国式民主主義」、「中国式現代化」という表現を繰り返してきています。改革開放をスローガンに経済成長を優先し、国際社会に溶け込もうとした鄧小平路線を放棄し、中国式価値観による強国路線に大転換することを明確にしているのです。こうみればもともと支配下にあった台湾の統合は必然の目標だということになります。

強権・中国とどう向き合うべきか。とりわけ隣国・日本は、大いなる難問を抱えたことになります。

内田茂男

内田茂男(うちだ・しげお)
1965年慶應義塾大学経済学部卒業。日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、2000年千葉商科大学教授就任。2011年より学校法人千葉学園常務理事(2019年5月まで)。千葉商科大学名誉教授。経済審議会、証券取引審議会、総合エネルギー調査会等の委員を歴任。趣味はコーラス。

<主な著書>
『ゼミナール 日本経済入門』(共著、日本経済新聞社)、『昭和経済史(下)』(共著、日本経済新聞社)、『新生・日本経済』(共著、日本経済新聞社)、『日本証券史3』、『これで納得!日本経済のしくみ』(単著、日本経済新聞社)、『新・日本経済入門』』(共著、日本経済新聞出版社) ほか

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