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インタビュー

内閣官房や地方自治体でエネルギー政策に取り組み、現在は本学で教鞭をとる田中信一郎准教授。今回は、SDGsやエネルギー問題に世界がどう取り組んでいるのか、日本の企業はそこから何を学び、実践すべきかについて話を聞きました。

田中信一郎准教授

世界経済において「ルールチェンジ」が起こっている

——まず、SDGs達成や脱炭素化に向けて、世界で何が起きているのか、その背景も含めて教えてください。

まず前提として、今、世界経済において新自由主義が崩壊し、ルールチェンジが起きている最中だということを認識しておかねばなりません。新たなルールにおいて重要になる観点が3つあります。

1つ目は、環境や資源には限りがあることを前提として認識することです。化石エネルギー等の安価な資源に飛び付くのではなく、創り出すことによって永遠に入手可能な自然エネルギー等の健全な資源で賄う経済に変わりつつあります。

2つ目が、弱者への配慮です。市場に任せた弱肉強食ではなく、途上国や低所得者にも所得を確保してもらいながら、社会保障も提供し、民主主義、あるいは人権にも配慮していくことが、新たな経済を発展させる道だと分かってきました。

3つ目が、垂直統合型から水平分散型へのシフトです。巨大な資本によって生産から販売までを1社で担う従来の大企業スタイル「垂直統合型」ではなく、機動力のある小さな企業や業務を分散する「水平分散型」のほうが発展し始めています。

田中信一郎准教授

このような世界で起こっているルールチェンジを、立体的かつ一目で分かるようにまとめたものがSDGsです。SDGsは、このルールチェンジを先取りし、内包しています。

ですから、SDGsに沿って行動することは、成長を阻害するものではなく、むしろ成長を促進するものなのです。これが、今の世界の共通認識です。その中で分かりやすい実例が再エネ利用だと言えます。

——世界で起こっているルールチェンジに対して、日本は遅れているのか、進んでいるのか? どのあたりの立ち位置にいるのでしょうか。

日本はこのルールチェンジに、非常に遅れをとっています。なぜならば、日本は明治維新以降、重工業を推進してきました。それらはまさに、旧来の垂直統合型のビジネスモデルでした。日本は、このモデルで大成功を収めた国で、社会全体がこれに沿うように構築されています。

だからこそ、そこからの脱却に遅れをとっているのが現状だと言えます。エネルギーに関していうと、日本は化石燃料を扱う旧来の方法が優先されており、再エネへのシフトに遅れています。

——日本は化石燃料で成功したからこそ脱却が難しいと。逆に、世界の新しい潮流にうまく乗っている国はどこなのでしょうか。

日本と同規模の国で挙げるならドイツです。ドイツでは、「ルールチェンジにより、新たな価値観が今後、世界の主流になる」という考えが、主要政党間で合意されています。また、水平分散型のテクノロジーを使いこなすことにも長けた国です。

再エネにおいてもそうで、ドイツでは再エネの約半分を、企業ではなく個人や地域が所有しています。個人が自宅に太陽光パネルを設置したり、あるいは地域で共同組合を設立して、風力発電に出資し収益を上げていたりするのです。再エネの担い手が、小規模分散し国土全体に広がっている点は、ドイツの大きな特徴です。

ドイツ住宅イメージ

ルールチェンジを理解し、経営戦略に反映させることが重要

——ルールチェンジが起こる中で、SDGsや脱炭素に向けた取り組みを企業レベルで行う場合、企業はどう考え、どう動いていけばいいのでしょうか。

まず、ルールチェンジが起きていること、それを凝縮したものがSDGsであることを理解し、経営層から末端に至るまで、浸透させる必要があります。そして、経営戦略に反映させ、ビジネスモデルを構築し直さねばなりません。

SDGsはこれまでのメセナ(企業による芸術文化支援)やCSR(企業の社会的責任)とは異なります。本業とは別の補助的な取り組みではなく、本業の企業経営に取り込むべきものなのです。そうしなければ、今後、世界のルールが変わっていく中で、企業として生き残れないからです。

実際に、アップルやグーグルは舵を切り始めています。アップルは「RE100(Renewable Energy 100%)※」に加盟し、再エネ100%利用を宣言しました。これは思いつきでやっているのではなく、経営戦略なのです。

太陽光パネルイメージ

彼らは、社会の課題を解決することに、ビジネスチャンスがあると捉えています。だからこそ、アップルの製品は社会の課題を解決した上で、提供されなければならないのです。

日本企業も、社会課題を解決することにビジネスチャンスがあること、そのヒントがSDGsに詰まっていることを理解し、ビジネスモデルを再構築する必要があるでしょう。

※国際環境NGOのThe Climate Group(TCG)が2014年に開始したイニシアチブで、事業運営を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す取り組み。

——アップルの例が出ましたが、他にどんな企業がSDGsに取り組んでいますか。日本企業の取り組みについても知りたいです。

世界銀行やIMFといった金融機関も積極的に取り組んでいます。具体的には、SDGsに反する企業への融資を辞めるダイメストメント(投資撤退)や、SDGsに叶う企業に投資を行うといった動きです。

また日本では、株式会社リコーさんや城南信用金庫さんが積極的です。両社ともにSDGsを経営戦略に取り込んで実践しています。いずれも「RE100」に加盟し、再エネ利用100%達成を掲げて再エネの導入や省エネにも取り組んでいますね。

——SDGsを社内に浸透させていくには、まず何から始めたらいいのでしょうか。

田中信一郎准教授

世界経済においてルールチェンジが起きていることを、多くの仲間と共有すること。これが第一歩です。今、時代の転換期にあり、脱炭素文明への移行期にあります。この変化に対応できない企業は、生き残れないという危機感を全員が理解する。まずは、そこから取り組めばいいのではないでしょうか。

田中信一郎(たなか・しんいちろう)
基盤教育機構准教授。国会議員政策秘書、大学での勤務のほか、内閣官房、横浜市、長野県、自然エネルギー財団での勤務経験を持つ。2017年より千葉商科大学へ。著書に『国会質問制度の研究』(日本出版ネットワーク)、『信州はエネルギーシフトする』(築地書館)、「政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない」(現代書館)などがある。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標7エネルギーをみんなに そしてクリーンにSDGs目標9産業と技術革新の基盤をつくろうSDGs目標12つくる責任 つかう責任SDGs目標13気候変動に具体的な対策を
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