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インタビュー

内閣官房や地方自治体でエネルギー政策に取り組み、現在は千葉商科大学で教鞭をとる田中信一郎准教授。今回は日本のエネルギー政策のあらましや問題点、脱炭素化に向けて日本企業が取り組むべきことについて話を聞きました。

田中信一郎准教授

化石燃料で完璧な状態を実現した日本だからこそ、再エネで遅れている

——まず、日本のエネルギー政策の現状について教えてください。

日本は、原子力を含む化石エネルギーを上手く使いこなし、完成形態に達していた国です。巨大な資本で生産から販売までを1つの企業内でコントロールする「垂直統合型」のビジネスモデルで、まさにパーフェクトな状態を構築していました。

それが、大きなリスクを内包していることに気づいたのが、2011年の東日本大震災でした。福島で起きた原発事故により、これまで構築してきた垂直統合型のシステムの弱点に、私たちは気づかされました。

垂直統合型システムの弱点とは、予期できない事故が起きた場合に、その大きな柱が崩れることによって壊滅的なダメージを受ける点です。本来、リスクを想定して柔軟に対応することが重要ですが、大きな組織は官僚化します。

官僚化された大企業の中で、権威や形式を重視し、これまで通りのやり方で間違いないと妄信すると、リスクを想定し、対応することができなくなります。

これが巨大組織の弱点となるのです。福島の原発事故では、その弱点が大きな被害を生んでしまいました。つまり、日本は垂直統合型で成功したからこそ、垂直統合型で失敗したと言えます。

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——確かに大震災では原発の抱えるリスクが表面化しました。あの原発事故から再エネへとシフトする流れが生まれましたが、順調に進んでいると言えるのでしょうか。

化石エネルギーの活用で躍進した日本だからこそ、再生可能エネルギーへの転換に遅れているのが現状です。意思決定権のある経営層が、いまだに化石エネルギーをよいものと信じきっているということがあります。

例えばドイツのように、大企業だけではなく、個人や地域の共同体など複数のグループが再エネを導入し、その担い手となる「水平分散型」にシフトすることも必要ですが、日本の社会では、そうした小さなグループが活動しやすい環境が整っていないのです。

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また、発送電を分離するエネルギー業界のルールチェンジも不十分です。以前は、「発電・送電・小売」を垂直統合型でコントロールすることがうまくいく方法だと、世界でも考えられてきました。

しかし現在は、「送電」は公のものとして管理し、「発電」と「小売」は自由化する。特に発電では、再エネを優遇する。これが基本的な考え方です。

日本は、発送電を分社化したものの、同じホールディングス内にあることを許容しました。結果として、自由な競争が担保できていません。そうすると、新たな事業者も増やし、育てていくことができないのです。

FITは不完全、炭素税や断熱規制は導入に失敗

——東日本大震災以降、日本は具体的にどのようなエネルギー政策を実施してきたのでしょうか

田中信一郎准教授

まず、2011年に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)※がスタートしました。これは日本における再エネの普及に大きく貢献しました。しかし一方で、一部の地域において森林伐採などの行き過ぎた環境破壊が問題になっています。それを防ぐ法整備もセットで行うべきでしたが、できていません。

また、「送電網はみんなのものだ」という送電の公共化をすべきでしたが、これも不十分です。これらが現在、再エネ普及の足枷になっています。

もう1点、環境税や炭素税といったエネルギー消費の効率化を促す政策の導入には失敗しました。日本の石油・石炭・天然ガスの価格には、環境負荷コストが含まれていません。

それを含める方法が「炭素税」です。バッド課税(悪影響をもたらすものに課税する)を導入することで、消費削減を促す政策は有効です。しかし日本は導入に踏み切れず、化石エネルギーによる電力が不当に安い状況が続いています。

加えて、建物の断熱規制の導入も見送りになりました。これは、建物から熱を逃がさない最低限の設計を義務化するもので、省エネにつなげる狙いを持つ規制でした。

ドイツではすでに導入され、かなりのペースで断熱リフォームが進んでいます。日本では既存産業への配慮から実現しませんでした。

※再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)で発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度。

脱炭素化に向けて、企業が取り組めることとは?

——日本のエネルギー政策が遅れている中で、一般企業は脱炭素に向けてどのような取り組みができそうですか。成功している企業の取り組み事例を教えてください。

田中信一郎准教授

一般企業が取り組めることは、基本的には「再エネの導入」と「省エネ」の2つです。具体的には、自社工場や屋根で自家発電を行なったり、LEDあるいは断熱リフォームによって省エネに取り組んだりすることです。

日本で成功している企業は、株式会社リコーと城南信用金庫でしょう。この2社は、「RE100(Renewable Energy 100%)※」にも加盟し、事業運営に必要なエネルギーを100%再エネ化する宣言も行っています。海外ではアップルも加盟しています。まずは、再エネの導入と省エネから取り組んでいくべきですね。

※国際環境NGOのThe Climate Group(TCG)が2014年に開始したイニシアチブで、事業運営を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す取り組み。

田中信一郎(たなか・しんいちろう)
基盤教育機構准教授。国会議員政策秘書、大学での勤務のほか、内閣官房、横浜市、長野県、自然エネルギー財団での勤務経験を持つ。2017年より千葉商科大学へ。著書に『国会質問制度の研究』(日本出版ネットワーク)、『信州はエネルギーシフトする』(築地書館)、「政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない」(現代書館)などがある。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

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