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千葉商科大学は2021年3月、人権を尊重し、性別や障がい、人種、国籍、宗教などにもとづくいかなる差別も生まないことを掲げた「ダイバーシティ推進宣言」を発表しました。

学内の環境整備を進めるとともに、11月には多様性への理解を促す「ダイバーシティウィーク2021」を開催。イベント内で大きな反響があったのが、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズの柳沢正和さんを講師にお招きしたオンライン講演会「企業におけるLGBTQとダイバーシティ&インクルージョン~自分にあった職場をどう選ぶか~」です。

学生や教職員のみならず、同大と業務提携関係にある企業や団体の人事担当者の方々も多く参加された講演会の様子をレポートします。

柳沢正和

柳沢正和(やなぎさわ・まさかず)
外資系金融機関に勤務しながら、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズでLGBTQの人々が自分らしくいられる社会づくりを支援。職場でのLGBTQ認知と環境整備を進める「work with Pride」にも参画している。2016年から3年連続で、ファイナンシャル・タイムスの世界の影響あるLGBTエグゼクティブ100人に選出。

人は1つのことに注目していると、他の変化に気づくことが難しい

講演会の冒頭、画面に映し出されたのは、「The Monkey Business Illusion」という一本の動画。服の色で分けられた2組の学生グループのうち、1組がバスケットボールを投げ合うもので、最後に「何回投げたでしょう?」という問いが視聴者に投げかけられます。人が入れ替わりながら投げ合うためカウントが難しく、参加者の多くが苦戦した様子でした。

続いて柳沢さんは、「実は動画の途中で、学生の背後にあるカーテンの色が変化したのですが、気づいた人はいますか?」と問いかけます。参加者の中に気づいたという人がいないことを受けて、柳沢さんはこう切り出しました。

「この動画が本当に伝えたいのは、『人は何かに注意を向けているとき、他の変化には気づきにくい』ということです。それは就職活動やビジネスにおいても言えること。例えば、ある特徴に注目して気に入った企業があったとしても、まだ気づいていない側面がきっとあるのです。今日は、まさにさきほど色が変化したカーテンのように、日本企業における多様性がモノクロからレインボーに変わってきている、ということをお話ししたいと思います」

嘘をつき続けてきた背景にある、同性愛者を嘲る風潮

これまでいくつかの外資系金融機関で働いてきた柳沢さん。国籍も人種も性別もさまざまな人が働く職場で長年の間、「"彼女"がいます」と偽り続けてきたといいます。

「私は同性愛者です。でも社会人になった数十年前、職場でそんなことを言えば驚かれ、白い目で見られるのは当たり前。とても言えるような時代ではありませんでした。周りから女性を紹介されたり結婚を勧められたりしたときに断る理由として、ずっと"彼女"がいると言い続けていたのです」

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今でこそ自身の性的指向などをカミングアウトする人が増えてきていますが、ひと昔前は社会全体に同性愛者を蔑む風潮がありました。柳沢さんの子ども時代にも、国民的に人気のあるテレビ番組で、同性愛者の男性が登場し、周りが嘲ることで笑いをとるというコーナーがあり、そういった風潮に柳沢さんは苦しんでいたといいます。

現代の日本における性的少数者を取り巻く環境

時代は移り変わり、ダイバーシティ推進が声高に叫ばれるようになった昨今、LGBTQという言葉がよく聞かれるようになりました。

「Lのレズビアン、Gのゲイ、Bのバイセクシャルはどのような性を好きになるか、これは性的指向に関するマイノリティのことになります。一方でTのトランスジェンダーは、体の特徴と自分自身が認識する性が異なるという性自認に関するマイノリティのことです。性に関して、体の性と自認の性を分けてみる。そして、好きになる性には男性と女性と両性があるとして分けてみる。つまり性的指向と性自認の掛け合わせにはたくさんのパターンがあると考えると、その人のセクシュアリティは多様だと見えてくるのではないでしょうか?」

しかし、日本の教育現場では、まだこうした性の多様性に触れられることはほとんどないと柳沢さんは指摘します。

画面越しに共有されたLGBT Youth Japan(※1)が発表した調査データによると、日本の学校教育で同性愛について「肯定的な情報」として扱うのは、わずか6.5%。「一切習っていない」が約76%と大半を占め、いまだに「否定的な情報」として扱っているケースも約10%で見られます。

※1大学生が中心となり、LGBTに関する情報発信と学びの場の提供を行う団体。2019年に活動を終了。

さらに、学校での「いじめや暴力を受けた経験」について尋ねた調査では、性別違和のある人で「言葉による暴力を受けた」のが約80%(男子)と約50%(女子)、「無視・仲間はずれ」の経験を持つのが約60%(男子)と約50%(女子)ということもわかりました。「こうした環境下で、性的少数者が自身を肯定することは難しい」と柳沢さん。

続いて、2018年に三重県の高校生1万人を対象とした性に関するアンケートが紹介されました。

それによると、自身をLGBT当事者だと答えたのは、全体の約10%にものぼります。

「高校生になると性に対する自覚が強くなり、LGBT当事者は自身がマイノリティだということを意識し出します。そして、別の調査では、LGBT当事者は非当事者に比べて、自殺を試みた人が約7倍もいるということもわかっています。彼ら彼女らを追い込んでいるのは、日本社会ではないでしょうか」

この調査は高校生に限定していますが、自治体などが行う全世代対象の調査になると、性的マイノリティの当事者と認識する人は全体の5~8%だといいます。「日本でよく見られる名字の佐藤さん、鈴木さん、高橋さんを足すと人口の4%程度になる(※2)ということを考えると、LGBT当事者は決してめずらしくないとわかりますよね」

(※2)参考:「名字由来net」https://myoji-yurai.net/prefectureRanking.htm
総務省統計局「人口推計」https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202110.pdf

優秀な人材を逃さないためにマイノリティ受容に対する取り組みを

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かつては職場で同性愛者だということを隠していた柳沢さんですが、いちプレイヤーとして働くうえでは、カミングアウトする必要性を感じていなかったといいます。しかし十数年前に公表したのは、マネージャーになって部下と本気で向き合うためだった、と自身の経験を振り返りました。

「就職したばかりの部下が妊娠して、産休をとってもいいのか、会社をやめるべきなのか、悩んでいると相談してくれました。そのとき、自分もこれまで悩みながらキャリアを続けてきたという経験をもとにアドバイスするには、本当のことを打ち明けるしかないと思ったのです。彼女のようにプライベートとの折り合いがつかずに悩む人はどの企業にもいると思いますが、優秀な人材が誰にも相談できずに人知れず会社を辞めてしまっては会社にとって大きな損失となります」

これがきっかけとなり、柳沢さんは2012年、登壇の機会があった世界的イベント「TEDxTokyo」で、自身のセクシャリティをカミングアウトします。イベントは世界に配信され、柳沢さんの勇気ある行動は「史上最大級のカミングアウト」と報道されました。

その後、柳沢さんは企業のLGBTQに対する取り組みを後押しする試みとして、マイノリティの受容に先進的な企業を表彰する「work with Pride」を創設。「Policy 行動宣言」「Representation 当事者コミュニティ」「Inspiration 啓発活動」「Development 人事制度・プログラム」「Engagement/Empowerment 社会貢献・社外活動」の5つの評価指標を満たす企業を選出し、2021年現在、ゴールドに輝いた企業は200以上となりました。

多くのLGBTQが存在することが明らかとなるなかで、「企業は『新しい人材確保』『生産性向上』『離職防止』のためにも、マイノリティの受容と環境整備に積極的に取り組むべき」、そう柳沢さんは訴えました。

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