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特集

少子高齢化に、未婚率・非婚率の高止まり、そして単身世帯の増加とともに、私たちが暮らす地域のつながりは、さまざまな原因で希薄になってきています。その一方、数多くのNPOやボランティア団体が、子育て支援を通じた地域活性化にむけ、精力的に取り組み始めているのも事実です。地域社会に人々の居場所を取り戻すことをめざしたその活動は、「誰一人取り残さない」というSDGsの理想とも重なります。本学の「市民活動サポートプログラム」を受講し、地域づくりの最前線で活動しているみなさんに、市民活動の今についてうかがいました。

石川紗樹さん
NPO法人市川子ども文化ステーションで19年間活動した後、松戸市で市民活動を支援する「まつど市民活動サポートセンター」に勤務。

佐藤鼓子さん
編集記者の傍ら、2020年に「助産宿」を立ち上げ、妊産婦が産み育てやすい環境づくりの推進と助産師と歩む妊娠出産の理解浸透を図っている。

ファシリテーター
千葉商科大学政策情報学部 朽木量教授

事業承継が難しい子育て関連の市民活動

市民座談会

朽木教授:おふたりとも子育てをしながら、地域に根づいた「子育て支援活動」に携わってこられました。今は主にどのような活動をされていますか?

佐藤さん:私は、2020年度に「CUC市民活動サポートプログラム」を受講し、同時期に広く自然なお産と子育てをサポートする「助産宿」を立ち上げました。今は、保育園などと協力して映画の上映会をしたり、お産や子育てについて気軽に話す場を提供したりしています。

石川さん:私は長年、子どもたちに創造的・文化的な活動を提供するNPO法人市川子ども文化ステーションの副代表をしていたのですが、半年前から松戸市の中間支援団体に転職し、私が行っていたような市民活動をサポートする側に回っています。「CUC市民活動サポートプログラム」を受講した当時は、ちょうど子育て支援活動の難しさをひしひしと感じていた頃でした。

朽木教授:今は共働き世帯が増え、専業主婦が多かったひと昔前に比べて子育てや女性を取り巻く環境は大きく変わりました。そうした意味からも、子育て支援活動は難しい局面にあるのでしょうか。

石川さん:はい、働く女性の多くは産休・育休を取得し、会社に戻っていかれます。ですから、特に女性や子どもが対象の市民活動には、働く人材も参加者もなかなか集まらなくなっています。私の団体でもスタッフのほとんどが専業主婦で、家事や子育てと両立しながらボランティアでやってくれているような状況でした。

朽木教授:そういった厳しい環境の中で、活動を維持していくにはどうされているのでしょうか。

石川さん:まさに「事業承継の難しさ」が、この分野の大きな課題ですね。先日、ある方が「自分が子どもを産んだときに参加したいサービスやサークルが地域になかった」とおっしゃっていました。なぜなら、子育て関連のサークルを運営する人の多くが、すでに子育てを卒業した一回り、二回り上の世代の方たち。子育てというものは時代が変わると価値観も流行も変わっていくものですが、運営側が少し前のやり方でしっかりと成功体験をおもちなので、今の時代に合ったサービスにアップデートできていなかったそうです。この世代間ギャップこそ、子育て事業の承継を阻む大きな要因です。

どんな団体も財源と人材が必要不可欠

朽木教授:では、どうすればよい形で事業をつないでいけるのでしょうか。

石川さん:やはりフレッシュな人材を入れ続けることと、財源確保ですね。阪神淡路大震災後に日本でNPOが誕生してから20年以上が経ち、ちょうど運営者の代替わりの時期になってスタッフを募集している団体を多く見かけます。きちんと求人広告を出せる団体はたいてい規模が大きく、お給料もきちんと出ますし、若い世代も生活を保ちながら、“仕事”として社会活動ができるから応募しやすい。こういう団体なら事業承継できますよね。

市民座談会

佐藤さん:どんな団体も財政がポイントですよね。そこが不安定では人材も確保できない。経営のノウハウがなくてお金が回らない小さなNPOは正直厳しいところが多いです。

朽木教授:このプログラムはまさにそういった運営上の悩みをもつ市民団体のサポートを目的としていますが、実際に受講してみていかがでしたか?

佐藤さん:管理会計やマーケティング、法律といった経営に必要なことを基礎から教えてくださるので、これから市民活動をしてみたいといった初心者の方でもついていけるし、実際の団体運営にも生かせる内容だと思いました。私のようにすでに市民活動に深くかかわっている方にとっては、自分たちの活動に根づいた学びが役に立ちますので、多様なバックグラウンドをもつ受講生とのディスカッションや実践的なワークショップが特に勉強になりましたね。

石川さん:自治体によって市民活動や支援の状況に共通点も相違点もあるので、自治体ならではのよいところを互いに教え、高め合える場があるといいなと思います。いろいろな地域から受講生が集まる「CUC市民活動サポートプログラム」は、その意味でも貴重な場でしたね。

社会貢献に興味のある若い世代に期待

朽木教授:最近、私のゼミ生が中間支援団体に就職しました。社会のために働きたいと考える若い人が増えていて、その点では未来は明るいと感じるのですが。

市民座談会

佐藤さん:そのように感じますね。知り合いに一部上場企業の人事担当者がいるのですが、NGOやNPOと、大手企業とで、就職先を迷う若者も増えているそうです。

朽木教授:新型コロナウイルスはおふたりの活動へどんな影響がありましたか?

石川さん:お芝居や音楽鑑賞といった密閉空間で行う親子向けの文化活動は軒並みできなくなりました。一方で、参加者が特定される子育てサークルなら安心だという考えから、入会者が増えた時期もあったようです。

佐藤さん:私の団体も活動が難しくなっていますね。2020年に企画していた映画の上映会を2021年5月に延期しましたが、再びまん延防止等重点措置が出てしまって…。難しい判断でしたが、人と人とのつながりがなくなってはいけないと思って、小規模で開催しました。過剰に家にこもることは孤独につながるので、親子で楽しく過ごせる方法を見つけてもらえるようサポートしていきたいですね。

市民座談会

地域でめざしたい「全世代参加型の子育て」

朽木教授:いろいろな要因で市民活動が制限されるなか、地域の中で子育てするには何を大事にすればよいでしょうか。市民団体には何ができるでしょうか。

佐藤さん:まずは親御さんを含め、地域のみんなが子育てに対して当事者意識をもつことが大切だと思います。

石川さん:昨今では核家族化が加速して、子どもの親だけが子育てをするようになっていますよね。

佐藤さん:私は子育てには全世代がかかわった方がいいと思っています。例えば、子どもたちが近所で生まれた赤ちゃんを抱いたりあやしたりすることで、「赤ちゃんってこんなに言うことを聞かないんだ」と知ると、自然と心構えができて、自分が親になったときにそれほど驚きません。

朽木教授:そういうことをみんなが知っていくと、地域全体の子育て世代へ向ける眼差しもあたたかくなりそうですね。

市民座談会

佐藤さん:はい。新型コロナウイルスはお産にも影響しています。自然に陣痛が始まるのを待ちたいと思っている妊婦さんに対しても、とにかく安全が優先されるため、タイミングを管理する計画分娩をすすめるケースが増えています。こういうことも、妊婦さんやご家族以外は知らないと思いますが、お産をめぐる実情についても地域全体でしっかりと関心をもって、サポートしていけたら。私たち市民団体は、地域が「大家族」となり、血のつながりに関係なく育て合える場を作っていけたらと思います。

石川さん:市民活動には人と財源を確保できる経営力が必須ですが、一方で、ハードルが高いと感じている人も多いので、空いた時間に簡単に誰でも参加できる企画や、運営のお手伝いができる仕組みを行政が作っていくことも必要だと思います。

朽木教授:本日はおふたりとも、貴重なご意見をありがとうございました。

市民座談会

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標11住み続けられるまちづくりをSDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう
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