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特集

地球温暖化対策として取り組みが進む「省エネ」。その中で、無駄な電力消費を極限まで抑えるゼロエネルギーハウスと呼ばれる省エネ住宅が、北欧やドイツで進化しています。

今回は、エネルギー政策に詳しい田中信一郎准教授と、環境問題に興味を持つ3名の学生による座談会を通して、環境に優しい未来の住宅について考えます。

学生座談会

座談会参加者
(左から)湯原海月さん(茨城県出身)、桑原竜矢さん(群馬県出身)、保科友紀さん(長野県出身)
モデレーター
田中信一郎准教授(千葉商科大学基盤教育機構)

集中力を維持するために重要な 「3つの要素」とは?

田中准教授:これまでに、暑い、寒い、不快だと感じたエピソードを教えてください。

桑原さん:出身地の草津は冬になると氷点下になります。高校生の時は、登校すると暖房が効いていないのでとても寒かったですね。それに、1年生の時はクーラーがなく、夏は暑くて集中できないこともありました。

田中准教授:家で勉強をしていて、集中できないことは?

保科さん:実家は風通しのいい日本家屋なのですが、夏は暑くて集中できませんでした。冬の寒さはなんとか耐えられました。

田中准教授:肌の乾燥はどうですか。

湯原さん:冬は肌が乾燥しましたね。のども痛くなるので、暖房はあまり使いませんでした。

田中准教授:では、教室で合唱をしていて、酸欠で苦しくなったり、授業中にだんだん眠くなったりするようなことはありませんでしたか。

保科さん:どちらも、ありました。

学生座談会

田中准教授:実は、勉強する環境において重要な要素が3つあります。温度、湿度、二酸化炭素濃度です。人間は動物なので、これらによって集中力が違ってきます。この3つが最適な数値でコントロールされている環境では、眠くなることもほとんどありません。そうすると、学力が伸びます。同じ学力の人が、同じ先生に、違う教室環境で学ぶと、学力に差が出ると言われています。

北欧やドイツで進化する 「無暖房住宅」

田中准教授:もう少し住まいについて聞きます。今、どんな建物に住んでいますか。室内の温度や冷暖房の使用状況はどうでしょうか。

桑原さん:平屋の学生寮に住んでいます。夏の暑い時は、常に冷房をつけていますね。冬の寒い日は、アウターを着て凌いでいます。

保科さん:私が住んでいるのは、コンクリート造の学生マンションです。暑さや寒さを感じることもありますが、冷暖房をつけると体調を崩すので、あまり使いません。

田中准教授:実は、室温は建物の構造に影響されます。一般的な住宅だと、約6割の熱が窓から逃げると言われています。熱が逃げると、常に冷暖房を稼働させていないと、最適な温度を維持できません。でも、北欧やドイツには、こんな住宅があります。

夫婦2人暮らしで、「今日は寒いね」となると、友達を呼んで4人でワインを飲みます。すると、人が発熱しているので、発熱量で部屋が暖まるのです。熱が逃げない建物だと、それで十分。このような「無暖房住宅※」と呼ばれる家が、ドイツでは増えています。

※厳しい住宅性能基準をクリアし、断熱性能に優れた住宅のこと。冷暖房機器は設置されているが、ほとんど使わなくて済むのでこのようによばれている。

学生座談会

田中准教授:学校やホテルなども「無暖房建築」が増えています。ベルリンで見学したある学校は、その日の外気温がマイナス10度だというのに、全館21度に保たれていました。さすがに暖房を使用しますが、暖房機器に使う電力は学校で発電しており、プラスマイナスでプラスに転じています。つまり、学校で消費するエネルギーよりも、創るエネルギーの方が上回っているというのです。

ドイツでは、そんな学校が当たり前になりつつあります。一方で、日本にはありません。この違いはなぜ生まれると思いますか。

保科さん:日本では建設コストがかかりすぎるのと、規制がまだ緩いからでは?

田中准教授:正解です。今、日本でドイツのような住宅を作ろうとすると、お金がかかります。ルールについても、建物の断熱を義務づける法律が、日本では不十分です。ドイツには住宅の断熱規制があり、高断熱住宅を建てる技術を持つ企業が数多く存在します。

つまり、マーケットができているのです。マーケットが生まれるには、供給する企業と購入する顧客の両方が必要ですが、どうすればこの2者を生み出せるのでしょう。最初の第一歩は何だと思いますか。

湯原さん:ドイツの取り組みを知ってもらうことがスタートではないでしょうか。

田中准教授:それも正解ですが、実はこんな方法があります。建物にかかる光熱費を開示するようルールで義務づけるのです。EUでは最初にこれを行いました。「2,000万円で光熱費が年間20万円の家」と「2,200万円で光熱費が年間10万円の家」というように、比較できるようにします。多くの人は10年~20年程度でローンを組むので、ローンを組んだ全期間にかかる、光熱費を含めたトータルコストを比較し、一番安いものを選べるようにしました。

その結果、光熱費の安い省エネ住宅が選ばれるようになりました。同時に、省エネ技術が発展し、マーケットが膨らみました。ドイツでは今、室内の快適な温度を維持するビジネスや湿度や二酸化炭素濃度をコントロールするビジネスがとても盛んです。

バリアフリーではない、高齢者に優しい住宅とは?

田中准教授:話は変わりますが、ご自身のおじいさん、おばあさんに関して、何が一番心配ですか。

桑原さん:足腰が悪いので、お風呂で転倒しないか心配です。

学生座談会

田中准教授:高齢者になると運動能力が落ちるため、転倒が原因で亡くなる方は多いです。これは、どうすれば防げますか。

湯原さん:家のバリアフリーでしょうか。私の家では手すりをつけました。

田中准教授:一方で、福祉の世界ではバリアフリーではなく、バリアありにした方が、身体能力を鍛えられて効果があるという見方もあります。今、日本ではこの2つの考え方が存在しています。

でも、実はもうひとつ、確実に転倒を防ぐ方法があります。それが、先ほどの話に戻りますが、室内の温度なんです。温度が21~25度だと、冬の転倒が減ると言われています。

なぜかというと、筋肉は寒さで固くなります。筋肉が固くなると、自分が10センチ上げたと思っていても、実際は5センチしか上がっていなかったりする。そうすると、転倒するんです。筋肉がきちんと動けば、転倒しません。他にも、例えばぜんそく。呼吸器の動きも温度差によって違います。冬に咳込むのは、寒さが原因です。

北半球では、夏より冬の方が死亡率が高くなります。夏冬間の死亡率の差を都道府県別で比較すると、興味深い事実が見えてきます。ここで質問ですが、夏冬間の死亡率の差が、一番大きい県はどこでしょうか。

湯原さん:北海道では?

学生座談会

田中准教授:実は、死亡率の差が最も小さい都道府県が、北海道なんです。逆に、差が大きいのは、1位が栃木、2位が茨城、3位が山梨、4位が愛媛です。鹿児島や静岡、熊本も10位以内に入っています。みかんが収穫できる温暖な地域で、夏冬間の死亡率の差が大きくなることが分かっています。つまり、冬の寒さで亡くなる人は、寒冷地よりも温暖地に多い。

なぜかというと、北海道では冬の間、家中24度程度に保たれています。一方、温暖地は、居間は24度、廊下やトイレ、寝室は10度と、温度差があります。その結果、急激な温度変化により、血管が詰まり、心筋梗塞や脳梗塞になってしまうのです。

あるいは肺炎や風呂場での溺死により死亡するケースもあります。死に至らなくても、重い障害を負うことも多いです。

これらを防ぐためには、全館暖房にして家の温度差を小さくすることが大事です。しかし、全館暖房にする場合、光熱費が気になりますよね。どうすればいいのでしょうか。やはり、先ほど話した、ドイツやEUのような制度を導入するべきでしょう。そうすれば、断熱性の高い建物が増え、脳梗塞なども減らせます。

これらは、エネルギーの話ではあるものの、「勉強をする際の集中力」や「家族の健康」にも関わる話なのです。皆さんは将来、「2,000万円で光熱費が年間20万円の一般的な住宅」と、「2,200万円で光熱費が年間10万円の高断熱住宅」、どちらを選びますか。

学生座談会

全員:1割高くても、光熱費の安い高断熱住宅を選びたいです。

田中准教授:若干、誘導した感もありますが……(笑)。ここまでの話を聞いて、「将来、こんな家に住みたい」というイメージは沸いたでしょうか。率直な感想などがあれば、聞かせてください。

湯原さん:ドイツの話を聞いて、よい取り組みはつながり、好循環が生まれる。意識ひとつで全部変わるんだと思いました。

桑原さん:日本はすでに「長寿の国」と言われていますが、耐熱性能の高い建物を作れば、住む人の健康が保たれてさらに長寿になる。高齢者もずっと元気に活動できますね。よい建物を作れば、よいこと尽くめだと感じました。

保科さん:私の出身地である長野県では、減塩の促進に力を入れていますが、その前に家の改築をすべきですね(笑)。ドイツの住宅の話を聞いて、将来はそんな高断熱な家に住みたいと思いました。

学生座談会

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