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特集

少子高齢化に、未婚率・非婚率の高止まり、そして単身世帯の増加と、私たちが暮らす地域のつながりは、さまざまな原因で希薄になってきています。その一方、数多くのNPOやボランティア団体が、地域活性化にむけ、精力的に取り組んでいるのも事実です。地域社会に人々の居場所を取り戻すことをめざしたその活動は、「誰一人取り残さない」というSDGsの理想とも重なります。今回は、千葉商科大学の「市民活動サポートプログラム」を受講し、地域づくりの最前線で活動している皆さんに、市民活動の今についてうかがいました。

伊藤直子さん
NPO法人鎌ヶ谷Jumpupの会・相談支援事業所ジャンプアップ代表。地域づくりコーディネーターとしても活躍。

甲斐貴子さん
市民活動の自立や継続に向けた支援を行う、一般社団法人・鎌ケ谷マネジメントラボ代表。地域づくりコーディネーターでもある。

小出卓也さん
行政書士として仕事を続けるかたわら、主に年配の人たちを対象に、昔の写真をめぐる語り合いや自分史制作といった活動に取り組んでいる。

ファシリテーター
榎戸敬介
千葉商科大学 地域連携推進センター長、政策情報学部教授

三人三様のやり方で、地域社会を舞台に活動中

市民活動サポートプログラム

榎戸教授:「CUC市民活動サポートプログラム」を履修後、皆さんは現在、どのような活動に取り組んでいますか?

伊藤さん:私は「鎌ヶ谷Jumpupの会」を通じて、障がい者支援、老人ホーム慰問、被災地ボランティア、鎌ケ谷市の清掃美化活動、各種イベント開催、猫の保護活動と、さまざまな活動をしています。また地域づくりコーディネーターとして、NPOや地域活動を運営する方たちへのサポート、活動に参加したい方への対応にも力を入れています。

小出さん:お年寄りの"生きがいづくり"を、お手伝いしています。写真を囲んで思い出を語っていただく会を開催しているのですが、コロナでずっと中止が続き、再開できる日を心待ちにしているところです。

甲斐さん:私も伊藤さんと同じく、地域づくりコーディネーターで、「鎌ケ谷マネジメントラボ」という中間支援団体を運営しています。中間支援というのは、NPOや市民活動が円滑に進むよう、市民の視点からサポートや助言を行う活動です。ほかには、子育て中のママたちが、いつでも自由に訪れて、子どもを見てもらいながらゆっくりお茶を楽しみ、リフレッシュして帰っていける場づくりなどにも、取り組んでいます。

非営利活動でも、継続には資金が不可欠!

市民活動サポートプログラム

榎戸教授:サポートプログラムに参加してみて、どんなことが役に立ちましたか?

小出さん:地図の活用法を教わったのはよかったですね。お年寄りに自分史を書いていただく活動のなかで、古地図と新しい地図を重ねて見る手法を紹介したところ、その方が育った地域の変遷がよくわかると好評でした。私自身も、経産省のデータをマッピングするシステムを講座で知り、事業計画を立てるときなど、たいへん役立っています。

伊藤さん:私は会計の授業がすごく勉強になりました。NPOの活動というのは、どうしても「思い」が先行しがちなんです。でも「思い」だけでは事業展開ができず、尻すぼみになっていく団体がけっこうあります。活動の継続性を考えると、お金のことはとても大事だと思いました。

榎戸教授:お金の問題は、突き詰めると活動の継続性、サステナビリティの問題なんですよね。数年前、貧困対策に取り組む世界的なNPO、オックスファムの日本法人が、経営難で解散してしまいました。こんな有名な団体でも、お金のやり繰りで苦労しているのかと、ショックでしたし、日本のNPOの実情を見せつけられたようでもありました。

甲斐さん:私がこのプログラムに参加したのも、資金の調達や運用、マーケティングなどについて、きちんと学びたかったからです。イベントひとつやるにも、本来は事前のマーケティングが必要ですが、マーケティング戦略なんて立てたことがないので、よくわからないのです。活動をしていくと、ボランティアの方たちへの謝金なども、必要だと実感します。完全に無料奉仕だと、手伝いを頼みづらくなってしまいますから。非営利活動であっても、運営を継続するためには、お金の話は避けて通れません。同じ問題を抱える多くの団体が、そのことに気づいてくれるといいと、強く思いました。

コミュニティーに参加する意味とは?

市民活動サポートプログラム

榎戸教授:NPOや地域活動というのは、成功したといわれるケースでも、それが誰にとっての成功かが、よくわからないところがあるんです。何をもってゴールとするか、何をもって成功とするか、微妙ですよね。

小出さん:「持続性」は、ひとつの指針ではないでしょうか。ある一定レベルで長期間、活動を続けられたら、市民活動では成功だと思います。

甲斐さん:すると自治会も成功例でしょうか? 自治会はずっと続いていて、よほどのことがない限り、なくなりません。災害時には自治会単位で支援物資が来るし、身近にあって参加しやすい。そういう意味では、自治会は地域活動の第一歩になると思うのですが。

小出さん:私は今の町に住んで、7、8年ですが、正直、自治会の活動は敷居が高いです。その土地に長く住んでいる皆さんが取り仕切っていることが多く、自分の存在が場違いのように思えてくるのです。

榎戸教授:古参会員と新しい会員の力関係で、"サル山"を作ってしまってはだめなんですよ。私たちがNPOという言葉をあえて使うのは、オープンでフラットな組織であることを、重視するからです。経歴や役職に関係なく、共有する目的に向かってみんなで取り組む。ひとりひとり自分の得意なことを生かして、気持ちよく参加できる。市民活動の場は、風通しがよくて明るい場であることが大事です。

甲斐さん:人はコミュニティーに属していると、幸福度が増すといいます。今回のコロナ禍では、「在宅勤務をしたら、近所の人を誰も知らないことに気づいた」とか、「病気になったとき、誰に助けを求めればいいんだろう」とか、不安の声をたくさん聞きました。そんな誰もが居場所を見つけられるコミュニティーが、小さくてもいいから、周りにたくさんあってほしい。そういうコミュニティーづくりができる人も、もっと増やさなくてはと思います。

身近な問題に取り組む団体を、地域に増やそう

NPO法人市川子ども文化ステーション

小出さん:先日あるNPOから相談があったんです。コロナ禍でもできるイベントをやってほしいと、自治会から資金を託されたものの、営利事業扱いになるのかどうか、会計処理の方法がわからない。何度も会議を開き、3カ月悩んだというのです。どうしようもなくなって、私に声をかけたわけですが、気軽に相談できる場が他にないというのは、問題だなと思いました。

伊藤さん:私たちがよく相談されるのも、まさにそういう小さな悩みごとなんです。行政の相談窓口に持ち込むような大問題ではないので、かえって誰に相談すればいいかわからず、皆さん困っていらっしゃる。私たちのような地域づくりコーディネーターが、互いに連携できる組織でもあれば、NPOの日々の問題や悩みに、丁寧に対処できるのにと、いつも思います。

榎戸教授:今のお話も、市民活動を持続させるうえで、見逃せない課題ですね。その「持続」についてですが、私は同じ団体でも、時間の経過とともに活動の形態が変わったり、スピンオフが発生したりしてもよいと思うのです。いろいろ挑戦し、ダイナミックに展開していかないと、長く続けるのは難しいですから。

小出さん:半年ほど前、NPOがいくつか集まって、Zoomでミーティングを開催したんです。NPOの事業承継がテーマでした。たとえば子育てママの会などでは、子どもが成長すると、初期の会員は離れていきます。そこで大切なのは、若い世代に従来のやり方を押し付けるのではなく、ニーズに応じた新しい活動を、取り入れてもらうことだというのです。それを先輩たちがどうサポートするのか、あるいは上手にフェードアウトし、次の世代に委ねていくのか、そういう視点が必要だというお話に感銘を受けました。

榎戸教授:創業者はどう消えるべきか。そして次の世代の芽を、どう育てるか。長く続く活動を目指すなら、その点も考える必要がありますね。

甲斐さん:NPOの事業オークションなんかが、あってもいいと思います。「うちはもう第一線を退きますから、この事業をやりたい団体はありませんか?」、「ではうちが引き継いで、刷新させていきますよ」と。すでに実績がある事業を引き継いで、活かしていってもらえれば、団体が消滅しても、活動は持続することになります。

伊藤さん:市民活動って、身の回りの小さな課題を解決するための活動なんですよね。それがSDGsという、世界レベルの大きな目標にも、つながっているわけです。だから末端の地域活動の部分でこそ、しっかりと持続して活動できる団体を、もっともっと増やしていかなくてはと思いますね。

榎戸教授:本日は皆さん、意義深いお話をありがとうございました。

NPO法人市川子ども文化ステーション

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標11住み続けられるまちづくりをSDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう
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