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インタビュー

トランプ政権の誕生をきっかけに、「消費アクティビズム」の時代が到来しました。この動きを牽引するのはその自我の強さから皮肉を込めて「Me(ミー)世代」と呼ばれるミレニアル世代(※)です。その人口規模と購買力の大きさで影響力を持つようになった彼らが、消費を通じた社会運動を先導するようになったのです。

そして時代は「ミー」から「ウィ」へ。トランプ政権下に露呈したレイシズムやアンチ多様性の問題や地球環境に対する危機感は、ミレニアル世代とその後に続くZ世代(※)に広範囲な連携を生み出しました。彼らが共通して持つ「財布に入っているお金はパワーである」という価値観により、アクティビズムはますます効力を発揮するようになったのです。

——20年以上ニューヨークに暮らす文筆家の佐久間裕美子氏は、その著書『Weの市民革命』の中で、今のアメリカの消費者動向をこう記しています。

MIRAI Times編集部では佐久間氏にインタビューを行い、「消費アクティビズム」に注目した背景や、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした影響、これからの消費行動で私たちにできることなど、お話を聞きました。

※ミレニアル世代とは、1980年~1995年頃に生まれた世代。ミレニアム(新千年紀)が到来した2000年代に社会人になることからこの名がついた。1965~1980年頃に生まれた「X世代」に続く世代として「Y世代」と呼ばれている世代に重なる。「Z世代」とは、そのY世代に続く新たな世代で、1995年以降に生まれた若年世代を指す。

Weの市民革命

——まずはこの『Weの市民革命』の大きなテーマである「消費アクティビズム」について伺います。佐久間さんは「消費アクティビズム」を、購買による投票行為「バイコット」と、不買による投票行為「ボイコット」を通して、社会の変革を起こさせようとする動きと定義されていますが、佐久間さんがこうした「消費」を使ったアクションに注目された背景から教えていただけますか。

2014年に『ヒップな生活革命』という本を書いたのですが、これは、アメリカの消費文化がリーマンショックという金融危機を経てどう変わったのか、消費者マインドのシフトやインディペンデント文化の盛り上がりをテーマにしたものでした。

『Weの市民革命』は、その続編として書いたものですが、アメリカでミレニアル世代やZ世代を中心に広がりを見せている、購買を通じた市民運動に注目し、これを「消費アクティビズム」(最近では私は「消費」という言葉が持つ「使い捨てる」ニュアンスを避けるために、「購買アクティビズム」と言っています)として紹介しました。

私自身はベビーブーマーの子どもにあたる、いわばX世代ですが、私たち世代ぐらいまでは、資本主義が骨の髄まで染みついているようなところがあった。ところが、環境問題や人権問題への意識が高いミレニアル世代がマーケットの中心になったことで、購買を通じて企業や社会に変革を求める運動が起こりはじめたわけです。

今の世の中、私たちが生きる営みの中で、お金を使うということはかなり大きなウエイトを占める行動であって、それを社会変革のためのアクションとして使っていくということは有効なことだと思います。

——本の編集段階において新型コロナウイルスの感染拡大を起因とした社会変化が起こり、原稿のほとんどを書き直された、とありましたが、パンデミックの発生は、購買アクティビズムにどのような影響を与えたのでしょうか。

一つには、人々の企業を見る目がより厳しくなりました。
例えば、アメリカでロックダウンが起こった際に、エッセンシャル・ワーカーでもあるマイノリティーや貧困層の人たちが負担を引き受けたり、真っ先に働き先を失う、というような現象が起きたのですが、労働者を守るのではなく、労働力を削減してまで株主に配当金を払う会社ってどうなんだろう、とか、商品が売れなくなったからと、真っ先にインドやバングラデシュの工場への発注をキャンセルするブランドってどうなんだろう、とか……。そんな具合に、企業の姿勢が消費者からより突き詰めて見られるようになりました。

都市部の消費者の考え方として主流になりつつあるのは、そういう利益重視型の企業に加担するのが嫌だということなんですね。その結果、企業の信頼性が命綱になったと言えると思います。

それと、もうひとつ、日本ではあまり言われていませんが、コロナウイルスの感染拡大は、グローバリゼーションの行き着く先に起きたことであり、環境破壊の延長線上にある出来事なんですね。人々がそれに気付いたことで、意識改革がより進んだと感じます。

私は「Sakumag」という読者参加型のニュースレターを配信していますが、その中でもどんな企業にお金を使うかというトピックで、企業の取り組みに関する情報交換が盛んになっています。

Weの市民革命

——アメリカと比べてやや保守的で市民革命が起こりにくいといった印象がありますが、日本でもこうした変化が生まれてきているのですね。

それは強く感じています。
確かに、日本と比べアメリカのほうが、ミレニアル・Z世代が占める人口規模が多いことで、動きが顕著に見える部分はあるとは思います。しかし、日本の若い世代も気候変動に関しては特にもう後がないということを感じていると思いますし、とても積極的に行動している人たちがたくさんいます。特に、最近の環境運動は、若い世代が牽引しているものがとても多い。

それが伝わっていないのには、メディアの責任も大きいと思いますね。日本では市民運動は難しい、日本人は保守的などと決めつけているふしがありますが、改革のために頑張っている人はたくさんいるわけで、本来はそちらにこそ目を向けるべきだと思いませんか。

社会って私たちがみんなで作っているものだから、私たちが変えようとしなかったら変わらないんですよ。「日本ではまだまだですよね」なんて言っている暇があったら、ちょっとでも参加してみてほしい。「傍観者であってほしくない」というのが、いま私が一番伝えたいことですね。

だからこそ、私も今は啓蒙活動に力を入れていて、『Weの市民革命』という本の延長線上に先ほどご紹介した「Sakumag」があって、消費者の啓蒙や、企業に対する働きかけなどを組織的にやっていこうと考えています。
また、これから高齢化が進み、人口が先細りする中で、日本は若い世代に依存しなければならなくなりますから、彼らの声に耳を傾ける必要があると思います。

——まさに「Weの」市民革命なんですね。ミレニアル世代やZ世代の話、アメリカの話、などと傍観するのではなく、We「私たち」の話なんだ、という意識でこの本を読んでもらいたいですよね。

例えば「エシカル消費(※)」の話をしても、「そんなのは贅沢ができる裕福な人の買い方だ」とか、「そうはいっても物をたくさん買ってもらわないと経済が回らない」といったことを言う人は必ずいます。

でも、プラスチックを作るとき、廃棄するとき、燃やすとき、石油や天然ガスを燃やせば燃やすほどCO2排出量は増えていき、地球温暖化が進むわけですよね。温度が上がれば、冷房・冷却にさらにエネルギーを使うわけですから、悪循環です。こうしたことがすでに災害を引き起こしているわけですから、まずは一人ひとりに当事者意識を持っていただけたらなと思います。

※エシカル消費とは、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のこと。地域の活性化や雇用なども含む

Weの市民革命

——それを踏まえて、これからの消費行動で私たちに何ができるのか、ということを考えてみたいのですが、具体的に何から始めるのがいいでしょうか。

そうですね。まずは自分の家にあるもので何かひとつでもいいので、「これがどこから来て、何でできていて、どういう会社が売っているのか」ということを考えるところから始めてみるのがいいと思います。

洗剤を例に言うと、それがどういう容器に入っているのか、使い終わったらどうなるのか、などと考えながら調べてみる。すると最近になってライバル同士であるはずの2つのメーカーがプラスチック容器の再利用のために共同で開発に取り組んでいる、というような情報に行き当たるはずです。こうした情報に触れることで、買う商品を選ぶ目は変わってきますよね。

そして次の一歩として「Sakumag」でも取り組んでいるのが、企業に問い合わせを送るという活動です。「商品に使用しているプラスチックを減らしてほしい」とか、「プラスチック容器は希望者だけにしてほしい」とか。もっと日常的にできることで言うと、何か注文した時のコメント欄に「包装材は簡易にしてください」と書くなど、ほんの小さなことでいいと思います。

地道な活動ではありますが、企業に変革を求めて声を上げていくことが大切なのです。消費者だけでなく、労働者、経営陣のすべてがセットになることで本質的・実質的な変革が起きるのだと思います。

——なるほど。コメント欄に一言、であれば、今日からでもさっそく実践できそうです。

そうですね、少しでも多くの方に本を手にとっていただき、「私たち」のムーブメントに参加してもらえると嬉しいです。

Weの市民革命
『Weの市民革命』

『Weの市民革命』
アメリカの消費者動向に目を向け、金融危機後のインディペンデントな生き方を描いたロングセラー『ヒップな生活革命』(朝日出版社 2014年)の続編として、その後の市民たちによる社会変革を捉え新たにまとめた1冊。20年以上にわたりニューヨークに暮らし、アメリカ各地を見続けてきた佐久間氏が、アメリカで湧き上がった「消費」を通じた新たなムーブメントを追い、そのリアルな可能性と希望を、最前線から伝えている。

書名:『Weの市民革命』
著者名:佐久間裕美子
版元名:朝日出版社

佐久間裕美子

佐久間裕美子
ニューヨークに22年在住の文筆家。出版社、通信社などでの勤務を経て2003年に独立。ファッション、カルチャーから政治、社会問題まで幅広いトピックで、インタビュー記事、ルポ、紀行文などを執筆している。著書に『真面目にマリファナの話をしよう』(文藝春秋)、『ピンヒールははかない』(幻冬舎)、『ヒップな生活革命』(朝日出版社)など。社会、世界、地球などさまざまなテーマでトークを繰り広げるポッドキャスト「こんにちは未来」、「もしもし世界」の配信や、行動を促すニュースレター「Sakumag」の発信などの活動も行っている。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

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