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コラム

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元日本経済新聞論説委員の内田茂男学校法人千葉学園理事長が、11月3日に行わる大統領選挙についてSDGsの視点で解説します。

コロナショック・新冷戦・分断

国連が2015年9月のサミットで全会一致で採択したSDGs(持続可能な開発目標)は、いうまでもなく各国協力のもとに国際的に取り組まなければならない課題です。今年は地球温暖化防止のための行動計画「パリ協定」の実施初年度でもあります。ところが世界情勢は、SDGs達成を阻む方向に大きく動き始めているようにみえます。

まず、今年に入って突如出現した「コロナ・ショック」です。

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「世界はこの3カ月で劇的に変わりました」。4月中旬、IMF(国際通貨基金)が3カ月ごとに改定する「世界経済見通し」の記者発表の席で担当者がこう述べました。3カ月前の1月の見通しでは、2020年の世界経済は実質3.3%で拡大するとみていたのですが、新型コロナ・パンデミックに覆われた4月見通しでは、世界経済はプラス成長どころか、戦後最悪のマイナス3.0%に落ち込むと、前代未聞の大幅改定を行ったのです。

さらにIMFは7月の公表を前倒しして6月下旬に、2020年の実質経済成長率をマイナス4.9%に大幅下方修正したのです。アメリカはマイナス8.0%、日本はマイナス5.8%と予測されています。

経済が悪化すれば、国も企業も目先の対応に追われ、経済社会構造を長期的に改革しようというSDGsへの関心は薄れがちになります。

第2は、アメリカと中国の関係が「新冷戦」といわれるほどに悪化していることです。

世界の2大大国がこれでは国際的な協調行動など絵空事になりかねません。加えてトランプ政権のもとで顕著になった「一国主義」「自国主義」の考え方が各国に蔓延する気配がみえます。世界は国際協調の精神から離れつつあるようにみえるのです。

第3は、次に見るように各種各様の社会的「分断」が大きな社会現象になってきていることです。

「誰一人取り残さない」「すべての国が行動する」ことを目指すSDGsを取り巻く環境はきわめて厳しいと言わざるを得ません。こうした中で超大国、アメリカの大統領選挙が行われるのです。その帰趨は、SDGsはいうまでもなく、世界の政治、経済、社会の将来に大きな影響を与えるはずです。

「分断」をあおり利用するトランプ大統領

「トランプ支持者は何者か?」

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4年前、アメリカはもちろん世界のほとんどすべての専門家の予想に反してトランプ氏が大統領に当選して以来、この問いは発し続けられてきました。その答えは?

もっともわかりやすいのは、アメリカ経済の発展に取り残された人々、典型的にはペンシルベニア州やミシガン州などいわゆるラストベルト(さびついた工業地帯)の貧しい労働者が、声を挙げたというのです。

1970年代までアメリカの製造業を支え、アメリカを世界のスーパーパワーにした立役者たちはその後の産業構造の変化に追いつけず、長い間、雇用不安にさらされています。社会の底辺に追いやられていたこうした人々が、「アメリカ第一」を掲げ、中国など貿易相手国から工場を取り戻す、と宣言したトランプに拍手を送ったのです。これらの製造業労働者は、労働組合を通じて伝統的に民主党支持者でした。この「取り残された人々」はおおむね、学歴のない白人層だということが分かっています。

トランプ氏はさらに、これらの人々を追い詰めているのはメキシコなどからの移民だとして南部国境地帯に壁を構築し始めました。こうした動きは、黒人差別、人種差別主義を誘発しています。

このほか銃規制や産児制限の是非など、これまでも共和党に代表される保守派と民主党支持者の間で厳しい対立軸はありましたが、トランプ氏はこうした対立をあおる発言を繰り返し、社会をさまざまに分断しようとしていると見られています。

それによって分断の一方の側、極端な保守主義に走る人々を岩盤支持層として固めようとしているのだと考えられます。トランプ大統領の支持者集会の様子がテレビで放映されることがありますが、集まっている人々の異常な熱狂ぶりに驚きます。トランプ批判が高まれば高まるほど、ますます熱狂するという感じにみえます。

最近、こうしたトランプ現象を支えているのは、教育のない貧しい白人層というよりは、「違い」を嫌う「権威主義者」だとする分析が注目されています。権威主義者というのは、「違い」を嫌い、同じことを求める人々です。

「分断」で鮮明になっているように、社会の共通の価値観が失われているいまの社会では、同じ価値観を持つ仲間が集まり、他を排除する集団が生まれやすい、というのです。事実、学歴が高く豊かなトランプ支持者も珍しくないようです。いわゆる「隠れトランプ」と言われた人々の多くはここに入るのかもしれません。

SNS全盛時代の選挙とは

前回の2016年選挙と同様、今回の大統領選挙は、SNSが日常生活に欠かせなくなった時代の選挙という特色を持っています。「違い」を嫌う、同じ価値観を持つ人々が集まりやすくなっているわけですが、このことがどう影響するのか、注目されます。

フェイク・ニュース(嘘の情報)が横行するのもSNS時代の特色です。CNNテレビやニューヨークタイムズでは、大統領就任以来のトランプ氏の虚偽発言の回数を定期的に報道していましたが、自分に不利な情報は根拠もなくすべて嘘、と断言するトランプ氏の性癖は最近も改まっていないようです。

フェイク・ニュースイメージ

もう一つ注目されているのは、投票率です。これまでの分析では、高齢で大学卒の白人の投票率が高いといわれています。今年の選挙では、コロナショックで経済状況が一気に悪化したことから、投票率が高まると予測されています。そうするとこれまであまり投票しなかった低所得の若い非白人層の投票率が高まる可能性があります。このことが選挙結果にどう影響するか、大いに注目されます。

※本コラムは全3回の連載となります。次回は10月中旬に公開予定です。

内田茂男

内田茂男(うちだ・しげお)
学校法人千葉学園理事長。1965年慶應義塾大学経済学部卒業。日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、2000年千葉商科大学教授就任。2011年より学校法人千葉学園常務理事(2019年5月まで)。千葉商科大学名誉教授。経済審議会、証券取引審議会、総合エネルギー調査会等の委員を歴任。趣味はコーラス。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標1貧困をなくそうSDGs目標2飢餓をゼロにSDGs目標3すべての人に健康と福祉をSDGs目標4質の高い教育をみんなにSDGs目標5ジェンダー平等を実現しようSDGs目標6安全な水とトイレを世界中にSDGs目標7エネルギーをみんなに そしてクリーンにSDGs目標8働きがいも 経済成長もSDGs目標9産業と技術革新の基盤をつくろうSDGs目標10人や国の不平等をなくそうSDGs目標11住み続けられるまちづくりをSDGs目標12つくる責任 つかう責任SDGs目標13気候変動に具体的な対策をSDGs目標14海の豊かさを守ろうSDGs目標15陸の豊かさも守ろうSDGs目標16平和と公正をすべての人にSDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう
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