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こんにちは。
千葉商科大学、人間社会学部専任講師の小口広太です。

年間およそ612万トン—これは、何の数字だと思いますか?

答えは、日本で1年間に発生した「食品ロス」の量です(2017年度/農林水産省)。食品ロスとは、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品のこと。日本で話題となったきっかけは、恵方巻でした。コンビニで売れ残った大量の恵方巻が、ゴミとして捨てられる映像が記憶に残っている方もいるのではないでしょうか。

大量の食品ロスが発生している一方で、日本はたくさんの食料を輸入しています。現在、日本の食料自給率はカロリーベースで38%(2019年度/農林水産省)。多くの食料を輸入に頼りながら、同時に、まだ食べられるたくさんの食料を廃棄しているというわけです。

ところで、612万トンの食品ロスのうち284万トンは一般家庭から出ています。買いすぎてしまった、冷蔵庫に入れたまま忘れてしまったなど、小さなことが積み重なって大量の食品ロスが発生しているのです。言い換えれば、小さな積み重ねで確実に解決することができる、ということ。一人ひとりの気づきや行動が、食品ロス問題の解決につながります。

今回は、こうした気づきを得るためにぜひ読んでいただきたい3冊の本をご紹介しましょう。

1.『フードバンクという挑戦 貧困と飽食のあいだで』大原悦子著(岩波書店2016年刊)

フードバンクという挑戦 貧困と飽食のあいだで

フードバンクとは、まだ食べられるのに廃棄されてしまう食品を、食べ物に困窮している人たちに届ける活動のこと。ジャーナリストである著者は、「もったいない」を「ありがとう」に変える取り組みと表現し、丹念な取材を積み重ねて、各地に広がるフードバンク活動を紹介しています。

フードバンクが誕生したのは、今から50年以上前のこと。アメリカで、スープキッチン(生活困窮者のための無料食堂)のボランティアをしていた男性が、まだ食べられる食品がスーパーで捨てられていることを知り、スーパーに頼み込んで食品を譲り受けたのが始まりでした。

現在、日本でも貧困が大きな問題となっています。子ども食堂などさまざまな活動が生まれ、メディアでも大きく取り上げられるようになりました。学生と話していると、「日本には飢餓問題なんて存在しませんよね」という声を聞くことがあります。

でも、それは違います。2007年に「おにぎりが食べたい」と日記に書き残して亡くなった男性もいました。日本でも、今なお餓死する人がいるのです。

食品ロスという問題を抱えながら、一方で貧困に苦しむ人が増えている。このミスマッチを解決するフードバンクの取り組みを通じて、日本の貧困問題についてぜひ考えてほしいと願います。とても読みやすい本なので、食に関する問題を考える「入り口」としてもおすすめです。

2.『フード・マイレージ新版 あなたの食が地球を変える』中田哲也著(日本評論社2018年刊)

フード・マイレージ新版 あなたの食が地球を変える

日本は多くの食料を輸入しているとお話ししました。では、輸入食料に依存していると、どのような問題が起こるのでしょうか。それを考えるために読んでいただきたいのが、この本です。

フード・マイレージは輸入食料の輸送量と輸送距離をかけ合わせた数値です。食料の生産地が遠ければ、輸送に必要な燃料や二酸化炭素の排出量が多くなる。つまり、フード・マイレージが高いほど、地球環境に負荷をかけているということになります。

日本は大量の食料を遠くから輸入しているという特徴があり、フード・マイレージは世界でトップ。日本の食料自給率が低いことはよく知られていますが、自分たちの食生活が地球環境にどんな影響を与えているのかを知っている方は少ないかもしれません。

本書には、環境にやさしい食卓とはどのようなものかを考えるヒントがたくさんつまっています。例えば、地産地消。これは地元で生産された農産物を地元で消費しようという取り組みで、直売所や学校給食など各地に広がっています。地域のものを愛着を持って選択することが、食と農のつながりを意識し、食品ロスを減らすきっかけにもなります。

誰がつくったのか、顔が見える関係のなかで食べ物を選ぶことが、食の問題を解決するポイントの1つと言えそうです。

図版や表などを使って、視覚的にも理解しやすいように工夫された1冊。ぜひ、今自分ができることは何か、考えてみてください。

3.『地産地消と学校給食 有機農業と食育のまちづくり』安井孝著(コモンズ2010年刊)

地産地消と学校給食 有機農業と食育のまちづくり

最後にご紹介するのは、愛媛県今治市で行われている学校給食、地産地消、有機農業などの取り組みについて、実際にこれらの活動に従事している行政の職員の方が書かれた本です。

本書を読むと、学校給食の特性が浮かび上がってきます。現在、地場の農産物を給食に使う取り組みが広がっていますが、学校給食は地産地消の核として期待されています。給食が地域の農家を支え、農家が子どもたちの食を支えるという関係性ができれば、非常に優れた地産地消のモデルになるのではないかと思います。

また、給食に地域の特産物が出ると、子どもたちの記憶に残ります。給食というのは重要な食育の場なのです。実際に、地域の食料を大切に食べなければいけないという思いが芽生え、食べ残しが減ったという結果も出ているそうです。

給食で地元の食材に親しんだ子どもたちは、卒業しても地域のものを食べようと思うでしょう。将来的な食生活への意識の改善にもつながっていきます。

こうした取り組みを地域ぐるみで行っている今治市の事例を知ることで、自分の地域はどうなっているのだろうと考えるきっかけなればいいと思います。地域の直売所、スーパーの地場野菜のコーナーなど、地元の食材をどのように取り入れることができるか、楽しみながら調べてみてはいかがでしょうか。

1日3回、食をどのように選択するかで、社会のあり方も、地域のかたちも変わってきます。個人が変わらないと社会も変わりません。一人ひとりの行動の積み重ねによって、社会を変えることができるのです。自分たちの食と社会のつながりについて意識すれば、社会問題を解決する糸口が生まれてくるはずです。

小口広太(おぐち・こうた)
人間社会学部専任講師。1983年生まれ。日本農業経営大学校専任講師を経て、2018年から現職。日本有機農業学会事務局長。農林水産省・農林水産政策研究所客員研究員。専門は地域社会学、食と農の社会学。共著に『生命を紡ぐ農の技術』(コモンズ、2016年)、『有機農業大全』(コモンズ、2019年)、『はじめての人間社会学』(中央経済社、2020年)などがある。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標1貧困をなくそうSDGs目標2飢餓をゼロにSDGs目標3すべての人に健康と福祉をSDGs目標11住み続けられるまちづくりをSDGs目標12つくる責任 つかう責任
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