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千葉商科大学の「ダイバーシティウィーク2021」のなかで行われた講演会「企業におけるLGBTQとダイバーシティ&インクルージョン~自分にあった職場をどう選ぶか~」。前半に引き続き、後半のレポートをお届けします。

柳沢正和

柳沢正和(やなぎさわ・まさかず)
外資系金融機関に勤務しながら、認定NPO法人グッド・エイジング・エールズでLGBTQの人々が自分らしくいられる社会づくりを支援。職場でのLGBTQ認知と環境整備を進める「work with Pride」にも参画している。2016年から3年連続で、ファイナンシャル・タイムスの世界の影響あるLGBTエグゼクティブ100人に選出。

LGBTQに対する姿勢を公に示すことが制度構築につながる

講演会後半では、柳沢さんが立ち上げた、LGBTQフレンドリーな企業を表彰する制度「work with Pride」の評価基準に沿って、先進的な取り組み例が紹介されました。

  1. Policy 行動宣言
  2. Representation 当事者コミュニティ
  3. Inspiration 啓発活動
  4. Development 人事制度・プログラム
  5. Engagement/Empowerment 社会貢献・社外活動

1つめの「Policy 行動宣言」では、LGBTQなどの性的マイノリティに対する方針を会社として明文化し、インターネットなどで社内外に広く公開しているか、ということが問われています。

「会社がしっかりと制度に落とし込んで公に示すことがポイントです。そうすると、異動したり上司が変わったりしたとたん理解されなくなった、というようなことが起こりにくい。また、制度が整っていなくても、会社がLGBTQフレンドリーを宣言していれば、何かあったときに当事者が人事や上司に相談しやすくなります」と柳沢さん。

実際に、宣言をしていたことがきっかけで、柔軟に制度をつくったある通信企業の例も紹介されました。

その通信企業では、ある同性愛者の社員に海外赴任の辞令がおりました。その人にはパートナーがいたのですが、海外への帯同が許されるのは、法的に認められた家族のみ。帯同ができないなら辞めるしかないと考えていたそうです。しかし、会社がLGBTQに対する取り組みを進めていることを知っていたため、人事に掛け合ってみたところ、パートナーの帯同が許可されました。

その通信企業では、現在、同性パートナーなどに対する制度を拡大しており、扶養手当や赴任時の家族移転費、育児・介護関連の諸制度など、結婚している夫婦と同様にサポートされています。

これはまさに4つめの「Development 人事制度・プログラム」にも相当するもの。ソニーも同様に、結婚祝い金や忌引き、家賃補助や家族イベントへの参加など、幅広い制度を同性パートナーに対して適用しています。

2つめの「Representation 当事者コミュニティ」は、当事者とその支援者に限らず、従業員全員が性的マイノリティに関する意見を言える機会をつくっているかどうか、ということです。

好事例として紹介されたのが、全世界で13万人以上の社員を抱えるオラクル。同社では、性の多様性への理解を促すコミュニティ「Oracle Pride Employee Network(略称:OPEN)」が社員によって運営され、会社も大々的にバックアップしています。

日本オラクルにも「OPEN Japan」が存在し、当事者かどうかは表明せずに誰でも活動に参加できるほか、コミュニティ外の社員向けにイベントを定期的に開催し、意見を吸い上げています。

性はグラデーション。正しい知識を社員に教育してほしい

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そして、3つめのポイントが「Inspiration 啓発活動」。従業員へLGBTQに関する教育を行なっているかどうか、です。ここで柳沢さんは改めて参加者に問いかけました。

「LGBTQの意味を知っていますか?」

参加者からは、「言葉はわかるけれど、意味が理解できていないかも」「Bがわからない」といった声があがり、「LGBとTは違うカテゴリーです」と柳沢さんは説明を始めました。

「Lのレズビアン、Gのゲイ、Bのバイセクシャルはどのような性を好きになるかという『性的指向』。一方でTのトランスジェンダーは、体の特徴と自分自身が認識する性が異なるという『性自認』です。まずは体の性があって、次に心の性にわかれる。そして、好きになる性には男性と女性と両性がある。性的指向と性自認の掛け合わせでその人の性が決まるのです」

例えば、体の特徴は男性で性自認は女性の人が女性を好きな場合は、トランスジェンダーのレズビアン、ということ。体の性×自認の性×好きになる性、と考えると、組み合わせはいく通りにもなります。

柳沢さんはさらに続けます。「でも、この分け方も実は便宜的で、自分のセクシャリティを定めない、まだわからないというQ=クエスチョニングの人もいます。ほかにも、性的指向や性自認が入れ替わる、という人も私の周りにはいます。性というのは非常に多様で、グラデーションのように濃淡があるもの。話は戻りますが、こうした情報をしっかりと社員が学ぶ機会を設けているか、ということが3つめのポイントでは問われています」

優れた啓発活動を行っている事例として、日本航空が紹介されました。同社は一般社員から役員までを対象にLGBTQについて学ぶ研修を継続的に行っています。社員が性について深く理解した結果、以前は法律上の家族でしか共有できなかったマイレージを同性パートナーにも適用するなど、新たなサービスが生まれました。

社外も巻き込んだコレクティブインパクトを

最後のひとつ、「Engagement/Empowerment 社会貢献・社外活動」は、社会に対して広く理解を促進する取り組みを行っているかどうか、という指標です。

先進的な企業として紹介されたイオンは、取引のあるパートナー約120社に対して、同社のLGBTQに対する施策についての講演を行っています。イオン社内で環境整備を図るだけではなく、同社に関わる企業を巻き込んで理解や行動を促す、いわゆる「コレクティブ(集合的)インパクト」の取り組みが大きな注目を集めています。

これらのほかにも、資生堂がトランスジェンダー向けに開催しているメイクアップ講座や、ゲイカップルとその子どもがお出かけするシーンを取り上げた米国トヨタの広告ポスター、ストライプインターナショナルが提供したトランスジェンダーが心のままにファッションを楽しむブースなど、世界の取り組み例が数多く紹介されました。

しかし、日本人の5~8%が性的マイノリティの当事者でありながら、カミングアウトできずに苦しい思いをしている人が多いのが実情です。

「誰もが自分らしく暮らしていける社会をめざして、参加された企業の方には、ご紹介した例を社内の環境整備に役立ててもらえたら。そして学生の皆さんには、5つのポイントを会社選びの基準として参考にしていただきたいと思います」。柳沢さんは参加者に次なる一歩を踏み出すことを促して、講演を終えました。

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マイノリティに優しいデザインはすべての人に優しい

最後に質疑応答がありました。

Q:LGBTQ当事者にとっては、カミングアウトするかしないかの見定めが難しいのでは?

A:私の場合、部下から打ち明けられた悩みに向き合うため、カミングアウトしようか悩んだとき、自分にとってゆずれないものは何か考え抜きました。友人に話して、意見をもらってまた考えるというのを繰り返しましたね。その結果、本気で人と向き合うには、本当の自分を公表することが私にとっては大事なことだとわかったのです。今は、相談ダイヤルやコミュニティセンターなど、話を聞いてもらえる場所が増えています。誰かから最適解をもらうのではなく、話すことで壁打ちのように考えをアウトプットしていたら、公表すべきかどうか答えが出てくるのではないでしょうか。

Q:性別に境界を設けないとすると、社内のトイレや更衣室といった施設はどうしたらいいでしょうか?

A:誰でも使える個室や多目的トイレをいくつか設置するのがいいのではないでしょうか。トランスジェンダーでなくても、みんなの前で着替えることに抵抗があるという人やお子さん連れの人にとってもありがたい設備です。マイノリティにとって優しい制度や設備は、すべての人に優しいデザインなのです。

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