2021年3月に「ダイバーシティ推進宣言」を掲げた千葉商科大学は、「障がい支援」「グローバル」「ジェンダー」「職場環境」の4つの領域において、多様性を推進する取り組みを進めています。
2022年11月には前年に続き「ダイバーシティウィーク2022」を開催。プログラム最終日に「『多様な性』から考える、誰もが過ごしやすい社会とは。」をテーマにオンライン講演会が催されました。
講師を務めたのは、NPO法人共生ネット副代表理事の渡邉歩さん。LGBTQ関連の研究や相談支援に携わる立場からお話いただきました。講演会の様子をレポートします。
渡邉歩(わたなべ・あゆむ)
共生社会を作るセクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク副代表理事。公認心理士。主にLGBTQ関連の研究と相談支援、居場所づくりに携わる。早稲田大学教育学研究科博士後期課程「ジェンダー・セクシュアリティ×学校心理学」、専修教員免許(英語)。そのほか自治体LGBT相談員、GID(性同一性障害)学会教育系コーディネーター、一般社団法人にじーず(10代~23歳までのLGBTユースのための居場所づくり)理事など。
LGBTQをはじめとする「多様な性」のあり方
「性」や「多様な性」と言われて、皆さんどんなイメージが思い浮かびますか?
講演会は渡邉さんの問いかけからスタート。画面には「ジェンダー」「LGBTQ」「セックス」「性別」と性に関連する言葉が並び、そこから多様な性として「LGBTQ」の解説が始まります。
LGBTQは「性」のあり方がマイノリティとされる人たちの総称で、Lは「レズビアン」、自分のことを女性だと思っており、かつ女性とされる人に魅力を感じる人のこと。同様にGは「ゲイ」で、自分のことを男性だと思っており、かつ男性とされる人に魅力を感じる人。Bの「バイセクシャル」は男性と女性、そのどちらにも魅力を感じる人。Tは「トランスジェンダー」で、自身の生まれ持った身体や出生時に割り当てられた性別に対して違和感があり、それとは異なる性自認や性表現と共に生きている人のこと。
LGBTQの人口割合はおよそ3.3~10パーセントで、よくある名字(佐藤、鈴木、高橋、田中、伊藤、渡辺)の合計が7パーセントであることから、「これらの名字の人と出会ってきたのなら、当事者にも出会っているはず。周りにいないのなら、気づいていないだけ」と渡邉さん。
また、LGBTQのQには「クエスチョニング」と「クィア」の2つの意味があり、前者は自分の性別や性自認、性的指向が定まらない人を指し、後者は自身の性のあり方が既存のものにあてはまらない人が自ら使うものです。これらのほかにも、魅力を感じる相手に性別は関係ないという「パンセクシャル」、他者に性的魅力を感じない「アセクシャル」、自分自身を男女どちらでもないと認識している「Xジェンダー」や「ノンバイナリー」など、さまざまなセクシュアリティについても説明がありました。
「性」は4つの要素の組み合わせからなるグラデーション
冒頭の一連の説明の後、画面には10人の男女が横一列に並んだ画像が映し出されます。「この中でLGBTQはどの人でしょう?」
服装、髪型、体つきなど外見から見分ける手がかりはありません。「そうですね、LGBTQは見た目ではわからないとされています」と渡邉さん。そこから、私たちが日ごろ性別に関する情報をどのように得ているのか、また、LGBTQ以外を「ふつうの人」と呼ぶのなら「ふつう」とはいったい何なのか。そもそも何をもって自分を「女性」だ「男性」だ、あるいはそのどちらでもある、どちらでもないと思うのか……と参加者に質問を投げかけます。
「まず、性別に関する情報を『性の構成要素』にわけて整理しましょう。そして、『個人の性のあり方』と、出生時の性別と『ジェンダー』との関係について考えていきましょう」
渡邉さんは、性の構成要素には「性自認」「身体的性」「性表現」「性的指向」の4つがあるといいます。
「性自認」とは、自らをどのくらい「男/女である」「どちらでもある/どちらでもない」と思うかというジェンダー・アイデンティティのこと。状況によっても度合いは変化します。
「身体的性」は「からだの性」です。胎児期にいわゆる「ふつう」とされる男性/女性とは少し違った発達プロセスを踏むこともあります(インターセックス)。身体はグラデーションで、同じ男性/女性でも身体的な特徴はさまざま。
「性表現」は、どんな服装やふるまい、言葉づかいをするかのこと。「性自認」と混合されがちですが、それらが必ずしも一致しないことを、タレントで「ゲイの女装家」を自認するマツコ・デラックスさんを例に説明。
「性的指向」は、どの性別に魅力を感じるかの自己認識。経験の有無に関係なく、「性自認」を軸として判断します。例えば自分を男性と認識している場合、女性に魅力を感じる人を「異性愛者」、男性に魅力を感じる人を「同性愛者」といいます。
「ジェンダー」による性別規範が差別・偏見を生み出す
続いて、渡邉さんからクイズが1つ出題されます。
「ある父親とその息子が交通事故に遭い、父親は即死。少年は病院に運ばれたが、彼を見た手術担当医は言った。『この手術は担当できない。彼は私の息子だから』と。これは一体どういうことでしょう?」
もちろん「父親と医者がゲイカップルだった」も正解ですが、クイズの答えは「この医者は母親だった」とそれだけのことでした。医者には男性も女性もいると当たり前にわかりながら、医者イコール男性との思い込みが盲点になっていると渡邉さんが指摘します。
職業や地位などに対するイメージのほか、周囲や自分が持つ規範やメディアからの情報の影響によって、私たちは「男性/女性とはこう」と枠に押し込めて考えがちです。このような社会にある性別に関する価値観をジェンダーと言い、それは教育においても見られるといいます。
本来、子どもは多様ですが、集団から外れないように、好みから進路選択にいたるまで、男/女らしさのイメージが与え続けられます。結果、無意識に身につけたジェンダーバイアスが、性別規範の強化につながり、社会の中のいわゆる「ふつう」が形成されていくことに。
「なぜこのようにジェンダーについての理解が大切かというと、社会において当然とされるこのような規範や役割が、LGBTQに対する差別や偏見、不平等を生み出す原因となっているからです」と渡邉さん。
たとえば「女性なのに化粧しないの?」「男なのに家事するなんて」など、この性別はこうあるべき、そうでなければおかしいといった考えは、この社会にいる全員を規範の中に押し込め、監視し、排除しあう社会を作り出します。
「ただ、LGBTQの困難は氷山の一角にすぎません。もちろん、LGBTQへの偏見や差別が既にあって当事者に困難が生じているのですが、根本的には『性別はこうあるべき』という前提により、個人のあり方が制限される社会に問題があります」
誰もが「多様な性」の中のひとりである「SOGIE」
ここで渡邉さんは、障害分野における「医学モデル」と「社会モデル」という考え方を提示。前者は「障がい」は個人の問題なので自己責任とし、後者は障壁を取り除くのは社会の責務とするものです。
「皆さんが『社会モデル』の恩恵を受けているものに、バリアフリーのスロープがあります。もともと車椅子の人のために作られたものですが、加齢や怪我などで足が悪くなった時に使える環境があるというのは、とても大事なことです」
先のジェンダーの話もLGBTQに限ったことではなく、私たち自身のためにも「こうあるべき」という性別規範を解消していくことが大切だといいます。
そして、多様な性のあり方を推進する考え方として「SOGIE(ソジイー)」が紹介されました。
SOGIEとは、性的指向(SO)、性自認(GI)、性表現(E)の頭文字を取ったもので、誰もが持つ属性です。どんな人も多様な性の中の一人であるとの視点に立ち、これら3つの要素の組み合わせから、一人ひとりの性のあり方を表す考えが広まっています。
「性のあり方は、誰かに強制されたり、決めつけられるものではなく、自分で決めることができる大切な権利です」
講演会の後半では、LGBTQの長い差別の歴史と社会運動や国内外の現状について講演されました。
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