
藤井紘司著(南方新社2024刊)
本書は、沖縄・八重山諸島の隆起サンゴ礁島に暮らす人びとが、限られた土地や厳しい自然条件のもとで、どのように暮らしを成り立たせてきたのかを、環境史の視点から描き出したものです。彼らは、卓越した操船技術を基盤に「高い島」の土地・資源を共同利用する「水平統御」や、子孫の途絶えた家の墓や土地を他家が預かる「預け預かり慣行」、私有地に対する独自のルールの設定など、巧妙な仕組みを創造してきました。そうした「生活の無事」を守り抜く自治の力と人びとの創造性に光をあてています。
離島での調査経験は、私の千葉商科大学人間社会学部の教育——特にゼミナールでの活動にも大きな影響を与えてきました。ゼミナールでは、観光や環境の課題にどう向き合えるかを考える場として離島を選んでいます。これまで伊豆諸島の新島・大島・三宅島、沖縄県の宮古島、竹富島などで、学生たちとともにフィールドワークを行ってきました。島で多くのことを教わってきたという私自身の原体験が、こうした活動の出発点になっています。
もちろん、ゆっくりと接岸し、また離れていくフェリーの旅路が、学生たちに特別な旅情や印象深い記憶をもたらす——そんな体験も味わってほしいと願っていますが、それ以上に、離島の人びとや文化との出会いを通して、リアルな現場からものを考えるという経験が、学生たちの大きな成長につながると信じているからです。私自身も、そのように育ってきました。
本書は、そうした私が島を歩き、見て、聞くなかで、「おもしろい」と感じたことを出発点に、島で生きる人びとの知恵を描き出そうとした試みです。それは、私にとって、自分に足りないものを教わる旅でもありました。
本書を通じて、島に生きるということの豊かさや困難さに、少しでもふれていただけたらうれしく思います。
藤井 紘司(ふじい・こうじ)
千葉商科大学人間社会学部准教授。専門は環境社会学・民俗学。著書に『隆起サンゴ礁島の環境史—沖縄・八重山諸島の地域コミュニティと土地制度—』(2024年)。論文「長崎・川平のカキノキと多以良家の生活史:暮らしのなかの被爆樹木」『BIOSTORY:人と自然の新しい物語』(2025年)、「沖縄ジュゴンの誕生:民俗学のパースペクティブ」『環境と公害』(2024年)ほか。
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