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こんにちは。
千葉商科大学、専任講師の枡岡です。

家族旅行どころではなかった夏が去り、秋の訪れと共に、Go To Travelキャンペーンも全国的に動き出しました。張り切って旅行の計画を立てている方も、まだ旅はお預けという方も、まずは本のページを開いて旅情を感じてみませんか?

青春のほろ苦い旅。自然に抱かれる旅。日常を離れて1人で出かける海外旅行。3者3様の旅が始まります。

1.『深夜特急』1~6 沢木耕太郎著(新潮社1986年刊~)

深夜特急

路線バスや乗り合いの高速バスを乗り継ぎ、ユーラシア大陸を踏破してロンドンまで行く—。

著者の1年以上におよぶ放浪の旅をもとに書かれた『深夜特急』には、1970年代前半の若者の剥き出しの旅情や、悶々とした青春が詰まっています。

行く先々で珍しい文化に出会っても、そこに著者の感動はさほどありません。若い彼にとって、この一人旅は世界を見るという以上に、自分の内面への旅だからでしょう。

あちこちで図らずも巻き込まれてしまう、ちょっと胡散臭い人たちとの人間関係に、困ったり、怒ったり、悔しがったり、ときには感謝したりしながら旅は続いていきます。そうするうちに、旅行者という「人種」になっていくのです。

彼は一杯の<茶>を飲み、虚空を見つめて無を感じます。移動するにつれ周りの民族や人種が次々と変わり、呼応するように、<茶>の呼び方も、Chai、Cay、Thé、chá、Teaなどと移り変わっていきますが、お茶の文化はどこでも同じように根付いていることに気づき、人間には共通するものがあるのだと思ったりもします。

出発のとき、ロンドンに着いたら「ワレ・トウチャクセリ」と電報を打つと、友だちと約束をしますが、実際に彼が打った電文は、「ワレ・トウチャクセズ」でした。それはなぜか。答えは本を読んで発見してください。

2.『旅をする木』星野道夫著(文藝春秋1995年刊)

旅をする木

星野道夫は80年代から90年代にかけて活動した写真家です。1996年に、カムチャツカ半島の湖畔で、ヒグマによる事故で亡くなりました。

星野は若くしてアラスカの大自然に魅せられて、そこに生きる動物たちを題材に、数多くの写真を発表してきました。本書ではその彼が、美しく雄大で、ときに残酷でもある自然のなかで暮らす生き物や人々の営みを、33篇の短い物語として、静観的で深い言葉で綴っています。

何万頭ものカリブーが、圧倒的な迫力で大移動しています。

トウヒの倒木は鳥たちの小さな命を育んでいますが、その卵を狙って狐が潜んでいるかもしれず、背中合わせの生と死が、1本の木に同居しているかのようです。

星野の文章は、映像を言語に置き換えたように瑞々しく、てらいがありません。それだけに、写真家であった彼がファインダー越しに何を見ていたのか、何に惹かれ、何を追い求めていたのかが、ストレートに伝わってきます。

僕は大学時代に初めて星野道夫の写真展を見たのですが、アラスカの自然というテーマが素直に自分と繋がり、同時に、生命を育む自然の優しさや写真家の眼差しの温かさに、胸が熱くなりました。

『旅をする木』は、あなたを居ながらにして、アラスカの大自然のなかへと運んでくれます。もし星野氏の写真を目にするチャンスがあれば、その「旅」は、より感動的なものになるでしょう。

3.『美しいものを見に行くツアー ひとり参加』益田ミリ著(幻冬舎2017年刊)

美しいものを見に行くツアー ひとり参加

最後に紹介するのは、40歳になってふと「美しいものを見ておきたい」と思い立ち、ひとりでパッケージツアーに参加して、海外旅を楽しむようになった女性のエッセーです。

「行きたいところに行き、見たいものを見て、食べたいものを食べる」をモットーに、40代で彼女が訪れたのは、オーロラの北欧、ドイツのクリスマスマーケット、フランスのモンサンミッシェル、赤毛のアンの舞台・プリンスエドワード島など、いずれも人気の観光スポットです。

ライト感覚の文章は読みやすく、写真やイラストも満載なので、「こんなスーツケースを買った」「こんな料理を食べた」など、ディテールも含めた旅のワクワク感が、楽しく共有できると思います。

愉快なのは、旅の最後にどこが一番よかったかと自問自答して、立派な建物や名所ではなく、移動の途中で見たフィヨルドや、自由時間にぼんやり眺めた海と海鳥だと振り返ることです。その感性が、僕にはとてもおもしろく感じるのです。

こんなふうに軽やかで、のびのびとした旅は、やはり男性よりも女性のほうが、上手なのかもしれませんね。旅に出ようか、出まいかと迷う背中を、ポンと元気に押してくれる一冊です。

私たちは旅を通して、自分のなかのMissing Pieces(欠けている何か)を見つけようとしているのかもしれません。『美しいものを見に行くツアー ひとり参加』の益田さんも、「この旅で一番心に残ったフィヨルドが、自分にとって何を意味するのかはまだわからない」といった意味のことを書いています。そういう心の動きも含めて、私たちは旅に憧れるのです。「久しぶりに旅行したいな」と思ったときが吉日。さあ、荷物を詰めて出かけましょう!

枡岡大輔(ますおか・だいすけ)
基盤教育機構専任講師。専門は哲学。明治学院大学大学院博士前期課程修士(国際学)、早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学(地球社会論/生命倫理学専攻)。東京工芸大学、帝京平成看護短期大学、大阪経済法科大学を経て2013年より本学勤務。日本ヘーゲル学会会員、日本ミシェル・アンリ学会会員。共著として『高校生のための哲学思想入門:キルケゴール』(筑摩書房)、『知識ゼロからの哲学入門:デカルト、キルケゴール』(幻冬舎)。茶道の茶碗を愛好し、猫好きでもある。お気に入りの本は、『海辺のカフカ』と『100万回生きた猫』。

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