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こんにちは。
千葉商科大学、専任講師の枡岡です。

新型コロナウイルスの広がりで、日々の暮らしにも次々と新しいルールが加わり、何かと制約も増えて、いつになく多くのストレスを抱える人が少なくないようです。

精一杯暮らしと向き合うなかで、ふと疲れを感じたときに脳裏をよぎる、「私は何のために、こんなに頑張っているのだろう?」という思い。そんな「自分の本当の気持ち」にしっかり耳を傾けてみることで、心の安らぎや、居心地のよさを取り戻せることは少なくありません。

そこで今日は、疲れた心をリフレッシュさせてくれる、身近な哲学の本をご紹介しましょう。哲学は小難しい学問だと思われがちですが、実は全ての哲学は「私の気持ち」から出発しています。誰かのためではなく、あなただけの宝物を探すナビゲーターとして、3冊の本をお役立てください。

1.『嫌われる勇気——自己啓発の源流「アドラー」の教え』 岸見一郎・古賀史健共著(ダイヤモンド社2013年刊)

嫌われる勇気

大ベストセラーとなった『嫌われる勇気』は、青年と哲人の対話形式を通じて、アドラー心理学をわかりやすく紹介しています。アルフレッド・アドラーとは、フロイト、ユングと並び「心理学の三大巨頭」と評される人物です。

彼は人間の悩みの原因は、すべて対人関係にあると断言し、人間関係を解きほぐす方法を提示してみせます。答えは難しいことではなく、他人の期待に振り回されない「勇気」が必要だ、というのがメッセージです。

哲学には「自由の相互承認」という言葉があり、「承認」が重要だとされていますが、アドラーは他者からの承認を明快に否定します。「承認」とは「その人に認めてもらえるか否か」ですから、傷つくことをおそれる私たちは、何とか相手に認められようと、がんばってしまうのです。そして気がつくと、人間関係でがんじがらめになり、疲弊しきってしまいます。

「嫌われる勇気」とは、対人関係に呑みこまれないための処方箋です。本書を読了後、「目からウロコが落ちた」、「承認欲求や同調圧力からの解放を助けてくれた」といった感想をもつ人が少なくありません。「もっと楽な人間関係を作れないかな?」と思っているあなたも、気軽にページを開いてみてください。きっと前向きに生きる勇気が湧いてきますよ。

2.『自分を知るための哲学入門』竹田青嗣著(筑摩書房1993年刊)

自分を知るための哲学入門

次にご紹介するのは、自分を知るための哲学入門書です。著者の竹田先生は、人生に絶望した人が哲学でどう生きる道を見出していくかを語っていきます。

読み進めるにつれ、「私はこういうことにうんざりしていたんだな」とか、「自分は本当は、こうしたいと思っていたんだな」など、自分の真の願望や気持ちに気づくことができるかもしれません。

自分を理解すると肩の力が抜けて、呼吸が楽になります。無意識に無理を重ねていたこと、我慢を続けていたことに気づき、その原因を理解して取り除くことで、息苦しい状況から抜け出す道も見えてきます。

家族のため、仕事のため、社会のため、役立つ自分でいることは素晴らしいことです。でもその前に、自分自身を大事にすることも、忘れないようにしましょう。

家族、友人、職場などの人間関係の中で、自分が大切だと思っていることを、あなたはきちんと大切にできていますか? 迷いや不安を感じている方は、ぜひこの本を読んでみてください。肩の張らない哲学入門書としても最適です。

3.『反哲学入門』木田元著(新潮文庫2007年/2010年刊)

自分を知るための哲学入門

最後に取り上げるこの本は、「反哲学」というくらいですから、ちょっとひねくれた哲学入門書です。アカデミックな面からも、少し踏み込んで、哲学を勉強してみたい人にお勧めです。

そもそも西洋哲学は、「超自然(あるいは神)」の高みから、俯瞰するようなものの見方をします。しかし古代ギリシャや、ドイツ哲学のロマン主義後期には、こうした西洋哲学的なものの見方に否定的な、「反哲学」の哲学者も存在しました。著者の木田先生は、ニーチェやハイデッカー以降を「反哲学」と位置づけます。

西洋哲学と対照的に、「反哲学」では人は自然の中で生きていると捉え、「人と自然が調和できる生き方があるのではないか」と考えます。これは私たち日本人の思想に、よく似ています。このため木田先生は、「日本人には西洋哲学はいらない」とまで言い切っています。

しかし「反哲学」を知るには、「哲学」も理解しなくてはなりません。そういうわけで、本書は図らずも、哲学と反哲学の両方をカバーする、二重の意味での入門書になっています。様々な哲学者の考え方が、「この人のこの考えは、こういう世界観ですよ」と解説されており、初心者でもざっくりと、主要な哲学者の考え方を学べます。学術的にもしっかりした内容ですので、多少なりとも哲学を勉強したことがある人なら、 さらに深く読み込めるでしょう。

哲学は、私たちに活きる力を与えてくれる学問です。哲学を通して自分を知り、人生の主役である「私」が、少しでも居心地よく、健やかに過ごせる環境をつくっていきましょう。

枡岡大輔(ますおか・だいすけ)
基盤教育機構専任講師。専門は哲学。明治学院大学大学院博士前期課程修士(国際学)、早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学(地球社会論/生命倫理学専攻)。東京工芸大学、帝京平成看護短期大学、大阪経済法科大学を経て2013年より本学勤務。日本ヘーゲル学会会員、日本ミシェル・アンリ学会会員。共著として『高校生のための哲学思想入門:キルケゴール』(筑摩書房)、『知識ゼロからの哲学入門:デカルト、キルケゴール』(幻冬舎)。茶道の茶碗を愛好し、猫好きでもある。お気に入りの本は、『海辺のカフカ』と『100万回生きた猫』。

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