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こんにちは。
千葉商科大学、専任講師の枡岡です。

マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏は、精力的な読書家としても知られていて、毎年夏と冬には、自分が読んだ本から数冊を選んで公開しています。今回はそのビル・ゲイツ氏の「2020年夏のおすすめ本」から、3冊を取り上げます。

1.『絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか』アビジット・V・バナジー&エステル・デュフロ著(日本経済新聞出版2020年刊)

絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか

コロナ禍で深刻さを増す、経済の低迷と社会不安。この危機を、私たちはどう乗り越えればよいのでしょう。本書では、共に2019年のノーベル経済学賞を受賞した2人の経済学者が、経済と社会政策についてさまざまな問題提起と提言を行ないます。

おもしろいのは、「最先端の経済学でも経済の成長原理はわからない、GNPなど経済学的な数値だけでは、人間の幸福を測ることはできない」と、今をときめく経済学者が、あっさり認めていることです。そして、人間の幸福感は生活の質にあるとの前提で、世界の実相を踏まえた未来像を描く必要を、彼らは示唆して見せるのです。

理論的に事実を検証する本書の学術的アプローチは、少しとっつきにくく感じるかもしれません。しかしゲイツ氏が、「幸い2人の著者は、一般人が経済学を理解しやすいように書くことにかけても長けている」と評しているように、教育、移民、環境など、私たちにも身近な課題を取り上げ、政策の実例を引いて紹介していますから、経済学の知識がなくても興味深く読めると思います。

たとえば貧富格差の問題に関しては、政治指導者が本気にならない限り、富の再分配は進みません。消費の活性についても、私たちの思いこみや一方的なものの見方、リスクを冒そうとしない姿勢が、消費を硬直化させていると指摘します。このように、目次から気になる項目を拾って、少しずつ読み進めるのも一案でしょう。

2.『クラウド・アトラス』デイヴィッド・ミッチェル著(河出書房新社2013年刊)

クラウド・アトラス

19世紀末から24世紀の未来にわたり、6つの物語が展開する壮大な小説です。「この本の筋を説明するのは少々難しい」とゲイツ氏も述べているように、6つの物語は一見バラバラですが、実は深いところで絡み合っていて、なかなかに複雑です。

本作から浮かび上がってくるのは、シンギュラリティ(技術的特異点)の問題への警告です。最新鋭の技術革新が統一化され、AI(人工知能)が人間を超える転換点、あるいはそれにより人間の生活に大きな変化が起こることを、シンギュラリティといいます。

作品では、シンギュラリティにおける秩序が、大きな矛盾や苦しみを伴うものとして描かれています。その秩序を破るものが「自由」であり、「自由を知る」こと、「自由を失う」ことであり、犠牲の痛みや、苦しみ抜いた末の決断と重なっていきます。

僕がこの作品から受け取った大きなメッセージは、「通じ合うこと」です。たとえ犠牲を払っても、ルールや秩序を破っても、誰かと通じ合おうとすることにこそ、人間が生きる本質があるのです。

日々の生活のなかで、ふと感じる命の結びつきや、人間のつながりの不思議さ。それを時間や空間を越え、さまざまな観点から見せてくれる作品です。2012年には映画化もされていますので、機会があったら原作とあわせて楽しんでください。

3.『頭を「からっぽ」にするレッスン 10分間瞑想でマインドフルに生きる』アンディ・プディコム著(辰巳出版2020年刊)

頭を「からっぽ」にするレッスン 10分間瞑想でマインドフルに生きる

「毎日忙しくて、頭も心も、いっぱい、いっぱい」という皆さん! たまには自分を、「からっぽ」にしてみませんか?

というわけで、3冊目は瞑想の本です。瞑想(メディテーション)の効果は科学的に立証されていて、スポーツジムやヨガ教室で取り入れられ、医療の現場でも役立っています。本書によると、政策の決定に影響を与えることさえあるそうです。

著者のプディコム氏は元僧侶。神経質で完璧主義者だった自分が、10分間の瞑想を取り入れるようになったことで、世界がガラリと変わったと語ります。

前半は、修業時代のエピソードが満載で、科学的な裏付けも示されており、読み物として楽しめます。後半は、瞑想のやり方や注意点が書かれた実践編です。

瞑想とはいわないまでも、僕も時々自分を「からっぽ」にしています。哲学には言語化という手法が不可欠ですが、言語に縛られ世界観が凝り固まってしまっては困ります。

そこでときどき、非言語的な意識のゾーンに身を置くのです。意識と無意識のあいだに身をおくと、雑念が取り払われ、物事の本質がすっきりと見えてきて、集中できるようになります。それはとても心地よく、楽しい時間です。

ゲイツ氏もこの本を読んで、実際に瞑想をしているとか。心を開放するのにお金はかかりません。ほんの10分、自分を「からっぽ」にして、疲れた心を労わってあげましょう。

世界有数の実業家で、エンジニアで、ビリオネアで、慈善活動家や教育者の顔ももつビル・ゲイツ氏。彼がどんな本を読んでいるか、その一端を知って身近に感じられました。

生活を軸に経済や社会を考える、自分の運命や人との関係に思いを馳せる、心を「からっぽ」にしてリフレッシュする。いずれも世界の見え方を新しくしてくれそうな、今回の3冊でした。

※記事中で紹介しているゲイツ氏の言葉は、同氏のブログGates Noteより引用。
https://www.gatesnotes.com/About-Bill-Gates/Summer-Books-2020

枡岡大輔(ますおか・だいすけ)
基盤教育機構専任講師。専門は哲学。明治学院大学大学院博士前期課程修士(国際学)、早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学(地球社会論/生命倫理学専攻)。東京工芸大学、帝京平成看護短期大学、大阪経済法科大学を経て2013年より本学勤務。日本ヘーゲル学会会員、日本ミシェル・アンリ学会会員。共著として『高校生のための哲学思想入門:キルケゴール』(筑摩書房)、『知識ゼロからの哲学入門:デカルト、キルケゴール』(幻冬舎)。茶道の茶碗を愛好し、猫好きでもある。お気に入りの本は、『海辺のカフカ』と『100万回生きた猫』。

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