エシカルファッションとは、「環境を破壊しない」「労働者から搾取しない」といったエシカル消費の考え方に配慮して生産されたファッションの総称です。
「エシカル」は、グッチ、エルメス、アディダス といった有名ブランドからユニクロのような量販ブランドまで、多くの企業がすでに実践している概念でもあります。
今回は、そんな「エシカルファッション」についてご紹介します。
エシカルファッションの起こりと日本の現状
これまで、衣料品や靴・バッグなどの衣料雑貨は低価格路線が主流でした。できるだけ低コストで大量生産することにより安い価格で販売されていました。
衣料品の生産は中国やベトナム、バングラデシュなど。企業は低価格を維持するため、生産地の生活水準が上昇して労働者の賃金が上がると、より安い労働力を求めて別の国に工場を移転する必要がありました。
こうした状況の中、2004年フランスでエシカルファッションショーが開催されるようになりました。 また、2006年にはロンドンでEthical Fashion Forumが設立されました。ファッション起業家やアパレル会社の経営者が集まり、人と環境に配慮したファッションビジネスを確立させようという試みです。
ヨーロッパを中心に、エシカルファッションのムーブメントが起こり、少しずつ世界に広まっていきました。
さらに、ある事件が起こります。
2013年4月、バングラデシュの首都ダッカ近郊の8階建の商業ビル「ラナ・プラザ」が崩落し、死者1,100人以上、負傷者2,500人以上の大惨事になりました。ビルには縫製工場が入居していて多くの従業員が犠牲になりました。
事故発生以前に壁などに亀裂が入っているのを工場従業員らが発見し、地元警察からは退去命令が出ていたのをビル・オーナーが無視したという事実があり、不慮の事故ではなく人災だったと認定されました。
事件から1か月後、世界のアパレル企業が「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全性に関する協定(The Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh)」に署名。日本企業ではユニクロも参加しています。この協定以降、アパレル企業は生産現場に責任を持つべきという原則が広まりました。
日本では、エシカルという言葉が知られていない頃から環境に配慮した素材や伝統技術を使用するブランドもありましたが、ファッション業界全体がエシカルファッションを重視するようになったのは最近のことです。
しかし、地球環境保全の重要性やSDGsが日本でも注目され、各企業が企業理念にエシカルを掲げるようになってきています。一人ひとりのエシカル消費行動のひとつとして、今後は「エシカルファッション」も重視されていくと思われます。
エシカルファッションの10の基準とは
Ethical Fashion Forumが示しているエシカルファッションの10の基準は以下の通りです。
- 安価で使い捨て型の「ファストファッション」に反対する
「ファストファッション」は、流行を取り入れた安価なファッションの総称です。安いけれども耐久性がなくシーズンごとに服を使い捨てするようなライフスタイルは限りある資源を無駄遣いしていることになるからやめよう、という考え方です。 - 生産する労働者の賃金・権利・労働環境を守っている
- 持続可能な生活を支える
- 有毒農薬や化学物質の使用問題に取り組んでいる
- 環境にやさしい素材を使用、または開発している
- 水の使用を最小限にしている
これらの項目は、主に生産現場が対象となります。原材料の生産現場で環境破壊が起きていないかの基準です。 - リサイクル、エネルギーやゴミ問題への取り組みをしている
原材料の生産・縫製・輸送などの過程を対象に、リサイクルや省エネが実践されていることが必要です。過剰包装の廃止も対象です。 - ファッションの持続可能性を開発・促進している
- 取り組みを報告し、解決策を広めようとしている
- 動物の権利を守っている
企業がエシカルファッションの製造販売だけでなく、企業理念として地球環境や動植物保護を掲げ、持続可能性のあるビジネスモデルを開発・実践・推進しているかどうかという基準です。
これらを短くまとめると、エシカルファッションとは、人・環境・社会にやさしいファッションであるといえます。
人・環境・社会にやさしいエシカルファッション(例)
人にやさしい | フェアトレードで生産者の労働環境を守っている |
環境にやさしい | 原材料・生産体制・輸送などにおいて環境負荷を最小限に抑えている 不要になった製品を回収しリサイクルも行う 動物を傷つける原材料を使用しない |
社会にやさしい | 消費者が住む地域の地場産業や伝統技術、雇用を守っている |
消費者として、このような条件を満たして製造されたエシカルファッションを選択することで、地球環境を守り持続可能な開発を維持できるといえます。
エシカルファッションの素材・デザイン・認証マーク
エシカルファッションとは具体的にはどんなものでしょうか。素材・デザイン・認証ラベルについてみていきます。
エシカルファッションの素材は植物系自然素材のほか、リサイクル繊維など
オーガニックコットン
エシカルファッションの素材として第一に挙げられます。オーガニックコットンは他の農産物と同じように農薬や化学肥料を3年以上使っていない土地で栽培される綿花を原材料とする綿織物がオーガニックコットンです。
片や、一般的な大量生産の綿製品では綿花農園における農薬使用、子どもの労働などが問題となっているので、「どんな綿素材を選ぶか」がエシカル消費のポイントとなります。
麻
麻は環境負荷が少ない天然繊維です。水をほとんど使わずに成長し、通常は化学肥料や農薬を必要とせず、収穫量が多いです。成長するにつれて雑草を排除し、土壌を改善することができます。
ジュート、バナナ、ラミーなどの靭皮(じんぴ)繊維
靭皮繊維とは、植物の内部にある繊維状物質のことです。これらの繊維は何前年も前から人類の間で使用されており、地球に優しい素材だと考えられています。
テンセル
持続可能な方法で調達した木材を原材料としており、製造過程で環境負荷が少なく、繊維製品は土壌で生分解されます。汎用性があり、コットンやウール、シルクなど幅広い布地・織物と組み合わせることができ、吸湿力や肌触りに優れています。
バイオ由来化学繊維
サトウキビやトウモロコシから生成した繊維です。石油などの化石資源とは異なり、植物は成長の過程において光合成で二酸化炭素を吸収します。このため、商品の生産や廃棄時に二酸化炭素を大気中に排出したとしても、それは原料の成長過程で吸収した二酸化炭素量で相殺され、商品のライフサイクル全体で見た際の二酸化炭素排出量は大きく削減されます。
ペットボトルのリサイクル
回収されたペットボトルから再生した原料を使ってポリエステル繊維を作ることができます。ペットボトルは容器包装の回収・資源化は法律で義務付けられており、各社がリサイクル技術を開発、活用しています。
このような素材を積極的に使用する大手ファッションブランドが増えてきています。一方で、使用しない傾向にある素材の筆頭がリアルファー、つまり動物の毛皮です。
プラダ 、グッチ 、マイケルコース 他多数のブランドが「ファーフリー」宣言をリードし、日本では、ユニクロ 、しまむらなど多数のブランドが同調しています。さらに皮革や羽毛などを不使用とする 「アニマルフリー」を宣言するブランドも増えています。
エシカルファッションはシンプルで普遍的なデザインが主流
エシカルファッションのデザインは、全体的にシンプルでベーシック。毎年流行に合わせて販売されるファストファッションとは対極的に、手入れをしながら長く着られるようなデザインとなっています。
染色においても化学物質を使わず「草木染め」をしている場合はナチュラルな色合い。アイテムのバリエーションは少なめで、ユニセックスブランドとなっている場合もありますが、近年はエシカルファッションと気づかないほどファッショナブルなデザインのブランドもあります。
消費者としてエシカルファッションを選ぶことを考えると、あまり凝ったデザインの洋服は出番が少なかったり飽きてしまったりすることも考えられます。長く大切に着ることを重視するなら、最初はやはり手持ちのファッションと合わせて着回しやすいシンプルなアイテムから取り入れてみるのがよさそうです。
エシカルファッション選びの参考になる認証マーク
洋服やバッグを購入するとき、商品の原材料や生産体制についての詳しい情報が添えられているわけではありません。しかし、各種の認証マークを参考にすることでエシカルファッションを選びやすくなります。
エコマーク
生産から廃棄までのライフサイクル全般で環境負荷が少ない商品につけられるラベルです。ラベルと一緒に「ちきゅうにやさしい」という言葉が表示 されていることもあります。
国際フェアトレード認証ラベル
製品の原料が生産され、輸出入、加工、製造されるまでの間に、国際フェアトレードラベル機構が定めた基準が守られていることを示しています。
世界フェアトレード連盟ラベル
世界フェアトレード連盟(World Fair Trade Organization)が示すフェアトレードの基準を満たす製品につけられるラベルです。
OCS認証
原料から最終製品までの履歴を確認し、その商品がオーガニック繊維製品であることを証明するマークです。
GOTS認証
GOTS(オーガニックテキスタイル世界基準)は、生態系、環境、社会に配慮したオーガニック繊維の加工における世界基準です。
エシカルファッションは割高…エシカル消費を上手に取り入れる7つの方法
大量生産・大量消費を想定したファストファッションはコストを極限まで削るからこそ低価格。それらと比較すると、エシカルファッションは少々値段が高く感じるかもしれません。
人それぞれ、ファッションに使えるお金には限りがあるので、エシカルファッションを貫くのは厳しいという人でも、「エシカル消費」の考え方のもと、できることはたくさんあります。以下は、「エシカルブランドで買う」以外にできる、エシカル消費の例です。
- 「安い物をたくさん」から「いいものだけを少なく」購入するスタイルへ
例えば、1,000円のTシャツを3枚買うのをやめて、少し質のいい3,000円のTシャツを1枚購入。シーズンごとに買い替えるのをやめて、少し価格が高くても長く着られる服を吟味して購入することはエシカルです。バーゲンなどで安いからといって余計なものを買わないようにすることも大切です。 - 手持ちの服を長く着る
今持っている服を手入れしながら大切に長く着ることは、限りある資源を大切にする行動です。 - リサイクルする
ヨーロッパでは古着はリサイクルマーケットに出すのが当たり前になっています。欲しい服をリサイクルマーケットで探したり、不要な服をリサイクルしたりすることはエシカル消費です。 - リメイクする
日本でも着物を何度もリメイクして着る文化があります。手持ちの服を別のスタイルにリメイクして長く活用することもエシカルです。 - レンタルする
近年日本でも増えてきた洋服や小物のレンタルサービス。毎日違う服を着てお洒落をしたい人はレンタルサービスを活用すれば洋服を過剰に持たなくてすむので、エシカル消費といえます。複数の人でモノを共有する「シェアリングエコノミー」もエシカル消費のひとつの選択肢です。 - 日本製を買う
遠い外国で生産されたものよりも日本国内、さらにできれば自分が住んでいる地域で生産されたものを選ぶのは「エシカル消費」といえます。その意義は2つあり、1つは地域の産業を保護できるから、2つめは、近くで生産されたものほど輸送距離が少ないので、CO2排出量がより抑えられるからです。 - オーガニック製品を買う
エシカルファッションブランドでなくごく普通のメーカーでもオーガニックコットン製品等を購入できます。洋服のほかタオルやマフラーなどの小物から取り入れてみることもできます。
国内外のエシカルファッションブランド
最後に、国内外の代表的なエシカルファッションブランドをご紹介します。
ピープルツリー
1990年に来日したイギリス出身の創設者が、環境・貧困問題に取り組むNGO「グローバル・ヴィレッジ」を立ち上げ、その後「ピープルツリー」を設立。 日本におけるエシカルファッションのリーダー的存在でもあります。洋服、ベビーグッズ、アクセサリー、雑貨、書籍など手ごろな価格で幅広い商品を揃えています。
ステラ・マッカートニー
ポール・マッカートニーの娘である代表ステラ氏はベジタリアンで、自らのブランドも「ベジタリアンブランド」と呼んでいます。皮革・毛皮不使用、オーガニックコットンや再生化学繊維の使用など原材料の調達で環境に配慮しています。原材料としてウールを使用するにあたり、持続可能なウールプロセスを構築しました。
ヴィヴィアン・ウエストウッド
大胆で斬新なデザインで知られる、イギリスのブランド。フェアトレードなどを通じてアフリカ支援を積極的に行っています。「Not Charity, Just Work(チャリティーではなく仕事)」をスローガンに、国連と連携してアフリカに持続可能な製造ラインを構築し、バッグや小物を製作・販売しています。
H&M
スウェーデンの大手アパレルブランド。「ファッションとクオリティを最良の価格でサステナブルに提供」が企業理念。オンラインストアでは各アイテムの「製品のサステナビリティ情報」として素材のリサイクル、製造工場情報などを見ることができます。
ユニクロ
服のリサイクル、生産拠点情報の公開、バングラデシュのグラミン銀行と共同でソーシャルビジネスを行う「グラミンユニクロ」設立など多方面でエシカルな試みを展開しています。同社の「Life Wear」というコンセプトは、あらゆる人の生活を、快適に便利に上質に、より豊かにするための服。長く使い続けることができるので、エシカル消費者からも選ばれているようです。
チチカカ
「HAPPY TRADE」を掲げてメキシコ、ペルー、ボリビア、インド、ネパールなどで製造された衣料品、雑貨品を販売しています。全国各地に実店舗の販売網を持ち、オンラインショップでも販売しています。これまで伝統技術継承を目的として、販売額に応じて5%を生産国に還元し、ミシンや老眼鏡の寄付などを行ってきました。最近では、サステナブルな取り組みとして、服のリサイクル、環境に配慮した素材を使用した製品づくりにも力を入れています。
この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)
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