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コラム

SDGsの目標のひとつに、以下があります。

SDGs目標14海の豊かさを守ろう

14 海の豊かさを守ろう

今、海の汚染が深刻な問題になっています。その元凶が「マイクロプラスチック」。ポイ捨てされたプラスチックごみが、風や雨によって川に入り、海に流れ込んで小さな破片となり、「マイクロプラスチック」なります。

海の生物がエサと間違えて「マイクロプラスチック」を食べてしまうなど、生態系を含めた海洋環境への影響が懸念されています。海のプラスチック汚染問題は、気候温暖化などとともに世界の緊急課題となっています。
今回は、マイクロプラスチックの問題について解説します。

海を脅かすマイクロプラスチック問題とは

世界中から出る膨大なプラスチックごみのうちの一部は海に流出します。プラスチック製の容器などのごみは海に浮かんで流され、はるか遠い海岸に大量に漂着します。

プラスチックごみ

プラスチックは人工的に作られた化合物で、自然界に出ても容易に分解されません。劣化したプラスチックは細かく砕けて海面を浮遊し、一部は海中や海底に沈んでいきます。

プラスチックごみのうち、直径5mm以下の破片を「マイクロプラスチック」と呼んでいます。細かい砂粒ほどの大きさや0.001mm~0.1mmくらいの微細で肉眼では見えない「マイクロビーズ」もあります。

マイクロプラスチックは2つに分類されます。

1次的マイクロプラスチック
微小なサイズで製造されたプラスチック。洗顔料や歯磨き粉などのスクラブ剤等に利用されているマイクロビーズなどをいいます。排水溝などから海に流出します。

2次的マイクロプラスチック
発砲スチロールやペットボトルなど、大きなサイズで製造されたプラスチックは、紫外線や波にさらされて劣化、破砕、細分化されます。このように2次的に細かくなったものを2次的マイクロプラスチックといいます。2次的マイクロプラスチックになりやすいものの1つにレジ袋があります。風に飛ばされやすく海に流れ込み、早期に劣化してマイクロプラスチックとなります。

マイクロプラスチックはなぜ有害なのか?

マイクロプラスチックは、PCB、ダイオキシン、DDTなど、残留性有機汚染物質(POPs)と呼ばれる海中の有害化学物質を取り込みやすいことが分かってきました。マイクロプラスチックは海洋を広い範囲で移動するので、有害化学物質の運び屋となって海に汚染が広がってしまうのです。

研究では、海の生物がエサと間違ってマイクロプラスチックを食べてしまうと、炎症反応、摂食障害などにつながる場合があることがわかっています。また、マイクロプラスチックを摂取したプランクトンを小魚が食べ、中型の魚が小魚を食べ、さらに大型の魚が中型の魚を食べ…という食物連鎖を通じて、有害化学物質が生き物の体内に蓄積する可能性も懸念されています。

小魚

これは、海の生物を食べる人間にも言えることです。人間が魚介類を通してプラスチックを食べても、プラスチック自体は排泄されますが、有害化学物質は体内に蓄積される可能性があり、ガンの発生や免疫力低下を引き起こすと考えられています。また、プラスチックには「環境ホルモン」作用がある物質が含まれており、生殖能力の低下などの作用を及ぼす可能性が指摘されています。

世界と日本のマイクロプラスチック汚染問題の現状

近年、多くの研究チームがマイクロプラスチック汚染の状況について調査や研究を行い、しばしば衝撃的なレポートが発表されています。

「2050年、海洋プラスチックごみは魚の量を上回る」という予測

世界経済フォーラム(スイス、ダボス)は2016年1月、現状のペースでプラスチックごみが増え続ければ、2050年までに海のプラスチックごみは魚の量を上回るという試算を発表しました。

世界のごみベルト

環境省の資料「プラスチックを取り巻く国内外の状況」に、海洋プラスチックの密度分布マップが掲載されています。

太平洋ごみベルト

上の図で、北太平洋上に横に伸びている赤いエリアは「太平洋ごみベルト」と呼ばれています。2011年の東日本大震災で流出したがれきなどもこのごみの蓄積に影響を及ぼしていると推測されています。世界が排出する多量のプラスチックごみは、海面の相当の面積を覆い尽くしつつあることがわかります。

プラスチックごみ発生量ランキングと「廃プラスチック取引」問題

上記とおなじ環境省の資料にある、陸上から海洋に流出したプラスチックゴミの発生量が多い国ランキングでは、中国、インドネシア、フィリピン、ベトナムが1~4位と、上位がすべて東・東南アジアでした。

日本はこのランキングでは30位ですが、この問題は他人事ではありません。日本は「廃プラスチック」の輸出大国なのです。廃プラスチックはプラスチック製造の原材料にもなるため、主に中国へ輸出していました。

しかし中国は2017年に廃プラスチックの輸入を実質禁止。その後、日本の廃プラスチックは東南アジアや台湾へ輸出されるようになりましたが、これらの国・地域も2018年以降、輸入制限を決めています。日本は今まで輸出することで処理を終えていたプラスチックごみを国内で資源循環させる体制の確立が急務となっています。

世界のペットボトル入りミネラルウォーターにマイクロプラスチックが混入との報告

各国のさまざまな研究によれば、ペットボトルに入れて販売されている一般的なミネラルウォーターにも微量のマイクロプラスチックが含まれていたと報告されています。

ペットボトル

日本周辺海域のマイクロプラスチック汚染は世界の海の27倍

2014年、環境省の海洋ごみの実態把握調査(マイクロプラスチックの調査)において、日本周辺海域のマイクロプラスチックは北太平洋の16倍、世界の海の27倍であると報告されました。

日本のプラスチックリサイクルの現状と課題

日本のプラスチックごみのリサイクルの現状はどのようになっているでしょうか。

環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況」にデータ(2013年)が紹介されています。
プラスチック廃棄物は全廃棄物の2%、そのうち材料・ケミカルリサイクルされているのは25%、熱回収されているのが57%、未利用が18%と示されています。

プラスチックのリサイクルと処理

プラスチックのリサイクルと処理

また、PETボトルリサイクル推進協議会のデータ(2018年度)では、ペットボトルの販売量(総重量)626,000トンに対し、リサイクル量529,000トン(国内再資源化量334,000トン、海外再資源化量195,000トン)で、リサイクル率は84.6%と算出されています。

2つの例に示されるようなデータを参照すると、日本のリサイクル率は高く見えますが、以下3つの点で課題があることを知っておく必要があります。

日本のプラスチックリサイクルの課題

1.廃プラスチック輸出の限界

前項で紹介したように、従来の廃プラスチック輸入国の禁止措置により、国外へ輸出することは難しくなっています。国内でリサイクルできる体制の整備が急務となっています。

2.材料・ケミカルリサイクルの限界

リサイクルのうち材料リサイクル(マテリアルリサイクル)は、廃プラスチックから他の樹脂製品にリサイクルしたり、ペットボトルから再度ペットボトルを作ったりすることです。ただし、廃プラスチックの汚れや混入された異物を取り除く必要があり、コストや品質の面で難しいとされています。

材料、ケミカルリサイクル

また、ケミカルリサイクルとは、廃プラスチックを化学反応させて、油化やガス化など組成変換した後にリサイクルすることです。こちらもコスト等の問題で、活用はあまり進んでいません。

3.熱回収の限界

熱回収とは別名「サーマルリサイクル」ともいわれる処理方法で、廃棄物を単に焼却するのではなく、燃やしたその熱量を利用するというものです。この焼却という手段は持続可能ではなくCO2を排出するのでSDGs達成へ向けて減らしていくべき方法です。

サーマルリサイクル

世界では、熱回収はリサイクルのカテゴリーには含まれていないことが一般的で、世界的な基準で日本のリサイクル率を見ると、上述した通り約25%となります。

世界と日本の脱プラスチック対策

世界では使い捨てプラスチックへの規制が進んでいます。対象はプラスチック製のレジ袋、食品容器、ストロー、カトラリーなど。規制の方法は有料化、課税、使用禁止などです。

アフリカ諸国は「脱プラスチック」を推進

アフリカ大陸諸国のうち半数以上がすでにプラスチック規制を導入しています。ケニア、ルワンダなどではプラスチック袋の使用に厳しい罰則を規定。

背景には、不法投棄されて各地にできてしまったゴミの山があります。こうした国には高機能のごみ処理施設がないため、「Reduce」という選択肢を推し進めた結果です。今、アフリカ諸国は脱プラスチック先進地域ともいわれています。

レジ袋規制は多くの国で実施済み

レジ袋規制は先進国、途上国を問わず多くの国ですでに導入されています。

手法 主な導入国・地域
有料化・課税 韓国、ベトナム、インドネシア、イスラエル/ボツワナ、チュニ ジア、ジンバブエ/フィジー/コロンビア/ベルギー、ブルガリ ア、チェコ、デンマーク、エストニア、ギリシャ、ハンガリー、 アイルランド、イタリア、ラトビア、マルタ、オランダ、ポルト ガル、ルーマニア、スロバキア、キプロ
製造・販売・使用等の禁止 バングラデッシュ、ブータン、中国、台湾、インド、モンゴル、 スリランカ/アフリカ25カ国(コートジボワール、エチオピア、 ケニア、モロッコ、セネガル、南アフリカ等)/パプアニューギ ニア、バヌアツ、マーシャル諸島、パラオ/アンティグア・バー ブーダ、ハイチ、パナマ、ベリーズ/フランス
レジ袋

2030年までに域内の使い捨てプラスチックをゼロにする「欧州プラスチック戦略」を採択

EUは各国がそれぞれ使い捨てプラスチックの規制に取り組んでいますが、2018年1月、2030年までにEU域内で使用されるすべてのプラスチック製の容器や包材をリユースまたはリサイクル可能なものにし、使い捨てプラスチック製品を削減するなどの「欧州プラスチック戦略」を採択しました。同時に、域外に対しても働きかけて国際的なプラスチックごみ削減を進めるリーダーシップをとっていくことを確認しています。

シャルルボワ・サミットでG7は「海洋プラスチック憲章」を採択。日本とアメリカは署名せず

2018年6月、カナダで開催されたG7サミットで海洋プラスチック問題が議論され、「海洋プラスチック憲章」が採択されました。カナダと欧州各国が承認しましたが、アメリカと日本は署名しませんでした。

アメリカやヨーロッパで無料給水スポットが増加、日本でも始まる

ペットボトルごみ削減のため、欧州、アメリカ、中国、台湾などで「無料給水機」が増えています。無料給水スポットを簡単に検索できるアプリも登場しました。日本でも国際環境NGO団体「FoE Japan」が進める、マイボトルを持つことと給水スポットづくりを推進する「リフィルジャパン」のような取り組みが今後増えていくと思われます。

マイボトル

環境省が「プラスチック資源循環戦略」を策定

2019年5月、環境省はプラスチック資源循環戦略をとりまとめました。2030年までに使い捨てプラスチックを累積25%排出規制、2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクルする、2030年までに再生利用を倍増するなどの指針が示されました。

達成に向けた第一歩として、2020年7月1日より全国一律でのレジ袋有料化が開始。生活に身近なレジ袋の有料化をきっかけに、使い捨てのプラスチックに頼らないライフスタイル変革をめざすことが重要になります。

G20大阪サミットで「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を採択

2019年6月、G20大阪サミットが開催され、海洋プラスチック問題が議論されました。ここで海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにする目標を導入する「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が採択されました。

私たちにできる有効な対策は「Reduce」、私たちができる6つのこと

これ以上プラスチックごみが海を汚染することがないよう、一刻も早く対処しなくてはなりません。海を汚染しているごみはもともと、生活ゴミや産業ゴミなど、陸上で排出されていますから、私たちのゴミ処理対策が重要です。

ゴミを減らす対策は3つのRとされています。

Reduce(リデュース):ごみを減らす、ごみを出さない
Reuse(リユース):繰り返し使う
Recycle(リサイクル):資源として再利用する

3R

このなかで、私たちがすぐにできて且つ優先度が高いのは「Reduce」、できるだけごみを出さないことです。ごみになるものを買わず、長く使えるものを選ぶことが大切です。

また、プラスチックごみのかなりの割合を使い捨て容器とレジ袋などの包装材が占めています。したがって、マイボトルやマイバッグの持参といった具体策によりこうしたゴミの総量をできるだけ減らすことで、マイクロプラスチック削減に貢献できます。

マイクロプラスチック削減のために、私たちにできること

1.マイバッグ、マイボトルを持参する

「使い捨て」のものはできるだけ買わない、もらわないことを徹底しましょう。多くの消費者がマイバッグ、マイボトルを使うライフスタイルになれば、量り売りの店や給水スポットが増えて、社会全体のごみ削減が進みます。

2.ゴミの捨て方は確実、適切に

ポイ捨てされたごみ、特にレジ袋などの軽いゴミは飛ばされて簡単に海まで運ばれてしまいます。ゴミはルールにしたがって適切に出しましょう。

ごみ

3.できるだけ包材の少ない商品を選ぶ

食品・日用品・雑貨などを購入するとき、できるだけパッケージがシンプルでゴミを出さない商品を選びましょう。また、会計のときに過剰包装を断りましょう。

4.プラスチック製品を買わない

使い捨てではなくても、プラスチック製品はやがてゴミになります。おもちゃ、食器、文房具、収納家具その他あらゆる商品を購入する際、プラスチック製品よりもできるだけ木・紙・金属など他の分解されやすい素材でできた製品を選びましょう。

5.環境に配慮されていない素材の衣類を買わない

化学繊維でできているフリース等の衣類は、洗濯するときにマイクロプラスチック繊維が流出してしまいます。サステナブルな素材を使った衣類を選ぶことが大切です。

6.ものを大切に使う

ゴミを減らす(Reduce)ためには、手持ちのものを再利用(Reuse)することも大切です。修理して長く使う、洋服はリメイクする、不要になったものは必要とする人に有償/無償で譲るなど、一昔前の「もったいない」が基本のライフスタイルを思い出して実践していきましょう。

参考

  • 世界経済フォーラム資料 http://www3.weforum.org/docs/WEF_The_New_Plastics_Economy.pdf
  • 環境省資料 プラスチックを取り巻く国内外の状況 http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/y031201-s1r2.pdf
  • Plastic waste inputs from land into the ocean(2015.Feb. Science) https://www.iswa.org/fileadmin/user_upload/Calendar_2011_03_AMERICANA/Science-2015-Jambeck-768-71__2_.pdf
  • 環境省資料 海洋ごみとマイクロプラスチックに 関する環境省の取組 http://www.env.go.jp/water/marine_litter/00_MOE.pdf
  • 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ) https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2019/0101/820e6f02ed651777.html
  • 経済産業省資料 欧州プラスチック戦略について http://www.3r-suishinkyogikai.jp/data/event/H29R22.pdf
  • 環境省 プラスチック資源循環戦略 https://www.env.go.jp/press/106866.html

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