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コラム

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こんにちは。
千葉商科大学、専任講師の枡岡です。

新型コロナウイルスは、寒くなって国内の感染者が増加傾向にあったり、流行が再燃している国もあったりなど、まだまだ気を緩めることができません。

今回は、こうした感染症やパンデミックと人間の闘いをテーマに、示唆を与えてくれる3冊を選びました。

1.『銃・病原菌・鉄』ジャレド・ダイアモンド著(草思社2000年刊)

銃・病原菌・鉄

「ヨーロッパの白人は、さまざまな技術や発明品をニューギニアに持ち込んだ。しかしその逆はない。なぜだろう?」 

進化生物学者である著者が、ニューギニアの高名な政治家からそう問われ、答えに窮したのがこの本の出発点です。最終的に著者が到達した結論は、「たまたまヨーロッパが地理的な条件に恵まれていたからだ」というものでした。

人類はアフリカを起源に世界に散って行ったわけですが、ヨーロッパは気候が穏やかで、穀類は豊かに実り、家畜に適した動物がたくさん生息していました。このため早くから、農耕集団生活が根付いて技術や文化が発達したのです。

また、東西に広がる大陸なので、文化や技術などの伝播においても優位性があり、文明が速やかに拡大していったといいます。

一方で、家畜を介し、動物由来の病気に人間が感染するという事態も起きましたが、それを繰り返すうちに、人々は多様な病原菌に対する耐性を身につけることになりました。そして大航海時代、ヨーロッパ人と共に上陸した病原菌が、耐性をもたない地域で猛威を振るったのです。

たまたま資源(鉄)に恵まれた地域で、技術(銃)を発達させることができたこと。図らずも病原菌の伝播が目に見えぬ武器となったこと。それが富とパワーの「地域格差」を生んだと、本書は説得力をもって語ります。

コロナ禍において、著名人の間でも話題になりましたが、まさに秋の夜長にふさわしい、知的興奮が味わえる1冊です。

2.『感染症の世界史』石弘之著(KADOKAWA2018年刊)

感染症の世界史

『感染症の世界史』石 弘之 KADOKAWA/角川ソフィア文庫

インフルエンザ、SARS、エボラ出血熱、AIDS、ペストなど、人類が経験した主な感染症の病原である微生物(ウイルス、細菌、寄生虫など)について、40億年の地球環境史の視点から探る本です。

地球規模では、人類の歴史はたかだか20万年に過ぎませんが、ウイルスは30億年くらい前から存在し、動物から人へと、次々に宿主を変えながら拡散してきました。

もともと至るところにいるウイルスが、ときに伝染病の大流行を引き起こすのはなぜなのか。それは、ウイルスが拡散しやすい条件を、人と自然との関係において、人間が自ら作ってしまっているからではないかと著者は考えます。

たとえば14世紀に大流行したペストでは、ヨーロッパの人口が3分の2に激減しました。すると人の手を離れた土地に自然が復活し、なんと地球の表面温度が下がったというのです。

地球にとっての厄介者は、ウイルスより人間なのかもしれないとさえ、思えてきませんか? 人口爆発、自然破壊、資源問題、気温上昇などがクローズアップされている時代に、新型コロナが発生したというのも暗示的ですが、果たして人間は、そこから何らかの教訓を得ることができるでしょうか。

3.『ペスト』カミュ著(新潮社1969年刊)

ペスト

感染症やパンデミックをテーマにした本といえば、アルベール・カミュの『ペスト』を思い浮かべる人も多いでしょう。1940年代のある年、ペストに襲われたアルジェリアのオラン市を舞台に、カミュは伝染病の脅威に立ち向かう人々の人間模様を、ドキュメンタリー風に描いていきます。

伝染病の蔓延は、人々を恐怖のるつぼに突き落とし、行政は混乱。ロックダウンされた町では、日々、死者の数が数えられ、買い占めや暴動、医療の崩壊が起こり、血清開発の懸命の努力が続くのです。その描写は、私たちが経験した今回のパンデミックと重なり、リアリティをもって迫ってきます。

医者、聖職者、記者、作家を志す男、犯罪歴のある人物など、さまざまな人が登場します。ある者は支援活動に奔走し、ある者は町からの逃亡を画策。ある者は、人々の不幸によって、自らの孤独な心を密かに満足させています。

極限の状況のもとで、罪のない人が死んでいく不条理や、個々の事情や思いを映した行動原理、死に向き合う人それぞれのあり方が見えてくるのです。

ようやく事態は収束に向かい人々は歓喜します。しかし生き残った主人公たちは、自分はこれからずっと、一抹の不安を胸の奥に抱えながら、生きていくのだろうと予感しています。

パンデミックは必ず繰り返されるのに、人類は感染を確実に阻止する術を、もっていないからです。この‘一抹の不安’と共に、人はどう生きるのかというカミュの問いかけに、読後も深く考えさせられます。

今回の3冊を改めて読んでみると、ヘルスリテラシーという言葉が、キーワードとして浮かんできます。ヘルスリテラシーとは、健康情報を調べ、理解し、効果的に活用する能力のことです。いざというとき、自分や家族、社会を少しでも守れるよう、私たちもこれを機に、自分のヘルスリテラシーを見直したいものですね。

枡岡大輔(ますおか・だいすけ)
基盤教育機構専任講師。専門は哲学。明治学院大学大学院博士前期課程修士(国際学)、早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学(地球社会論/生命倫理学専攻)。東京工芸大学、帝京平成看護短期大学、大阪経済法科大学を経て2013年より本学勤務。日本ヘーゲル学会会員、日本ミシェル・アンリ学会会員。共著として『高校生のための哲学思想入門:キルケゴール』(筑摩書房)、『知識ゼロからの哲学入門:デカルト、キルケゴール』(幻冬舎)。茶道の茶碗を愛好し、猫好きでもある。お気に入りの本は、『海辺のカフカ』と『100万回生きた猫』。

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