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コラム

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元日本経済新聞論説委員の内田茂男学校法人千葉学園理事長が、11月3日に行われたアメリカ大統領選挙についてSDGsの視点で解説します。

大統領交代で世界に明るさ

この原稿の執筆している2020年11月23日時点では、トランプ現大統領が敗北を認めていないので、まだ正式には決まっていないのですが、アメリカ大統領選挙は民主党のバイデン候補の勝利で終わったことは間違いないとみられています。

バイデン政権の誕生は、世界のSDGs行動を大きく前進させる推進力となるはずです。

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バイデン氏は11月7日夜(現地時間)の勝利演説で「再び世界に尊敬される国になる」と宣言しました。「アメリカ中心主義」のトランプ大統領は、覇権大国として急速に台頭する中国と真っ向から対立し、対中貿易戦争に火をつけました。

自由で多角的な貿易体制の下で、2008年のリーマンショック後も順調に拡大してきた世界経済は、彼の露骨な保護主義によって失速してしまいました。世界経済成長率(実質)は2018年の3.6%のあと2019年に2.9%とリーマンショック以降の最低に落ち込んだことがそのことを示しています。

そこに今年に入って突如として新型コロナが襲い掛かったというのが現状です。なお10月に公表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しによりますと、2020年の世界経済成長率は、マイナス4.4%に落ち込む見込みだということです。

アメリカの民主党はもともと労働組合を支持母体としてきましたから、本来は自由貿易主義の共和党より、保護貿易主義の色彩が強い政党だとみられています。だからバイデン大統領の登場でトランプ政権の下で強力に推し進められた広範な関税引き上げなどの保護主義政策が全面的に改められるとは考えられません。

ただ「国際協調」を政策の柱に据えていますから、これまでの敵対的保護主義政策は緩和されるとみてよいと思います。このことはコロナショックからの早期回復を目指す世界経済にとってきわめて明るい材料といえましょう。経済の再生・活性化はそれだけで政府、企業のSDGs行動の実効性を高めることはいうまでもありません。

それだけではありません。新型コロナの世界的蔓延(パンデミック)によってわれわれは「世界はつながっている」ことを痛いほど肌で感じました。コロナ対応にしろ、地球温暖化対応にしろ、一国の努力では解決しない地球規模の難題、まさにSDGsが解決を目指す課題が山積しています。世界のスーパーパワーであるアメリカが、国際社会に復帰することによって、これらの課題に各国が協力して立ち向かう環境が整うことになります。

地球温暖化対応の足並み揃う

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バイデン次期大統領は、「パリ協定」への復帰を公約しています。「パリ協定」というのは、2015年12月、パリで開かれた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択された、2020年以降の温室効果ガス排出量削減のため国際的枠組みのことです。

この「パリ協定」は1997年の京都会議(COP3)で採択された「京都議定書」に代わるもので、世界共通の長期目標として、世界の平均気温の上昇幅を産業革命前に比べ2℃より低く、できれば1.5℃以内に抑えることを大きな目標として定めています。

ちなみに2014年に公表されたIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)第5次報告書(第6次報告書は2021年公表予定)によりますと、1880年から2012年までの132年間に世界の平均気温は0.85℃上昇(日本は約1℃上昇)しました。

トランプ大統領は2019年11月4日に「パリ協定」からの離脱を正式通告し、1年後の今年11月4日(大統領選挙投票日の翌日)、離脱の効力が発効しました。しかしバイデン氏は、来年1月20日の大統領就任後、ただちに協定に復帰することを確約しています。

SDGsの目標13は「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」とうたっています。「パリ協定」はこの目標達成のための長期的枠組みといえるでしょう。

EU(欧州連合)はすでに2050年に域内の温室効果ガス排出を実質ゼロとする目標を定めています。日本はこれまで2030年度までに温室効果ガス排出を2013年度比26%削減するという方針を掲げたにとどまり、主要国から消極的だとの批判を受けていましたが、菅首相は10月の所信表明演説で、「2050年までに温室効果ガス排出量を実施ゼロとする」方針を内外に宣言しました。

このような日欧の動きに呼応するように、バイデン次期大統領も「2050年温室効果ガス排出量実質ゼロ」目標を表明しています。これによって地球温暖化防止に向けて欧米日の主要先進国の足並みが揃うことになります。世界の将来にとってこのことの意味は極めて大きいといえましょう。

課題は「分断」、中間層を再構築できるか

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200年前に作られた大統領選挙制度では全米で538人の選挙人の過半(270人)を獲得した候補が次期大統領に選ばれることになります。結果は、バイデン候補が306人、トランプ候補が232人をそれぞれ獲得したと報じられています。

バイデン候補の圧勝なのですが、空前の投票率のもとでトランプ候補に投票した有権者は7,100万人を超えたと推計されています。バイデン候補との得票差は数百万票です。

トランプ大統領が好き勝手な発言をしても「何がなんでもトランプ」という"トランプ教"支持者が全有権者の半数近くも存在するという事実は決して無視できません。民主党政権となっても"トランプ教"は勢力を維持し続けるという見方も有力です。その多くは、1970年代後半からはっきりしてきた製造業の衰退という産業構造の変化に取り残され、不満のはけ口を見いだせなかった人々だと考えられます。

70年代まで自動車産業を中核に労働組合を通じて結束していた製造業労働者がアメリカ社会の分厚い中間層を形成していました。この人々は労働組合を通じて民主党を支持してきたはずですが、その民主党政権のもとでも一向によい仕事につけず生活は改善しませんでした。地方農村部の岩盤支持者に加えて、このように民主党に嫌気がさした「取り残された労働者」が加わったことがトランプ支持増を増やす原動力になっていると思われます。 

バイデン次期大統領はこの点を十分に意識しているようです。勝利宣言の場で「アメリカの屋台骨を立て直し、中間層を再構築する」と述べています。

またバイデン氏は、トランプ政権が廃止を求めている、いわゆるオバマケア(医療保険制度適正化法)を強化し、すべての国民が医療保険に加入しやすい環境を作る方針を表明しています。SDGsの目標3は「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を増進する」ですが、まさにこの目標に沿った政策といえましょう。

バイデン次期大統領は、「分断」ではなく「団結」、「孤立」ではなく「協調」を政策のバックボーンに置いています。SDGsの推進にとってはきわめて歓迎すべきアメリカの方向転換というべきでしょう。しかし、トランプ支持層が強大な勢力を維持し続ける限り、政策運営は容易ではないと思われます。

内田茂男

内田茂男(うちだ・しげお)
学校法人千葉学園理事長。1965年慶應義塾大学経済学部卒業。日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、2000年千葉商科大学教授就任。2011年より学校法人千葉学園常務理事(2019年5月まで)。千葉商科大学名誉教授。経済審議会、証券取引審議会、総合エネルギー調査会等の委員を歴任。趣味はコーラス。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標1貧困をなくそうSDGs目標2飢餓をゼロにSDGs目標3すべての人に健康と福祉をSDGs目標4質の高い教育をみんなにSDGs目標5ジェンダー平等を実現しようSDGs目標6安全な水とトイレを世界中にSDGs目標7エネルギーをみんなに そしてクリーンにSDGs目標8働きがいも 経済成長もSDGs目標9産業と技術革新の基盤をつくろうSDGs目標10人や国の不平等をなくそうSDGs目標11住み続けられるまちづくりをSDGs目標12つくる責任 つかう責任SDGs目標13気候変動に具体的な対策をSDGs目標14海の豊かさを守ろうSDGs目標15陸の豊かさも守ろうSDGs目標16平和と公正をすべての人にSDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう
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