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コラム

新型コロナウイルスの感染拡大により冷え切った経済からの回復の鍵となると言われているグリーンリカバリー。グリーンリカバリーに向けた日本の動きについて元日本経済新聞論説委員の内田茂男学校法人千葉学園理事長が全3回にわたって解説します。

GMが脱ガソリン車宣言

1月28日(現地時間)、アメリカから驚くべきニュースが飛び込んできました。アメリカ最大の自動車メーカー、GM(ゼネラルモーターズ)のメアリー・バーラCEO(最高経営責任者)が、「2035年までに同社の全車種でガソリン車生産を全廃する」と世界に発信したのです。GMといえば、かつて「晴れた日にはGMが見える」とまでうたわれた、自動車王国アメリカの象徴でした。いうまでもなく世界最大企業でした。超大国アメリカを中心にした戦後社会、「パクスアメリカーナ」の世界は石油文明で成立していました。その石油文明をリードしたGMが、ガソリン車に決別、電気自動車(EV)への転換を宣言したのですから、驚かざるを得ません。

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日本では4月23日、ホンダの三部敏宏社長が記者会見で「2040年までに世界での新車販売の全てを電気自動車と燃料電池車(FCV)に切り替える」と発表しました。同時に電動車の研究開発に今後6年間で5兆円投じることを明らかにしています。このような宣言をするのは日本ではホンダが初めてです。

ガソリン車廃止に主要国が足並み

このような動きの背景として各国政府が脱ガソリン車に向けて大きく動き出したことがあげられます。脱ガソリン車を宣言している主要国を整理しておきましょう。

  • 2025年目標国:ノルウェー
  • 2030年目標国:ドイツ、イギリス、アイルランド、スウェーデン、オランダ
  • 2035年目標国:中国、カナダ
  • 2040年目標国:フランス、スペイン
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アメリカはまだ明確な目標を定めていませんが、最近、12州の知事が、2035年目標の設定をバイデン大統領に要請しました。カリフォルニア州は昨年9月に2035年までにガソリン車の販売を禁止することを決めています。またこの4月にワシントン州が2030年までにガソリン車の販売を禁止する法案を可決しました。

一方、日本政府はいまのところ「2030年代半ばまでに電動車100%を実現する」という表現にとどまっています。自動車業界との調整に時間を要しているからです。主要国では日本とアメリカがやや遅れをとっていると言ってよいでしょう。

いずれにしろ「2050年カーボンニュートラル」(2050年までに二酸化炭素の排出を実質的にゼロにする)は世界のコンセンサスになってきていることから、既存の自動車メーカーはもちろん、さまざまな企業が脱ガソリン車に向けて走り出しています。この競争の勝者がポスト石油文明を担うことになるでしょう。

2兆円の「グリーンイノベーション基金」

グリーンリカバリーは脱炭素を主軸に画期的な技術革新が不可欠です。脱炭素社会という将来像が明確ですから、民間企業は黙っていても脱炭素社会をリードするビジネスの主導権を握ろうと激しく競争するはずですが、それに火をつけるために政府が支援する必要があります。アメリカのバイデン政権は3月、2030年までに50万カ所のEV充電施設を設置するなど環境インフラ整備を柱に総額2兆2,500億ドル(約240兆円)の「雇用計画」を発表しています。EU(欧州連合)は2019年12月に、2030年までに1兆ユーロ(約130兆円)のグリーン投資を実施する計画を決めています。

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日本政府も昨年12月25日に公表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(内閣府)で、総額2兆円の「グリーンイノベーション基金」の設置を見込んでいます。民間企業の脱炭素関連の研究開発を10年にわたって継続的に支援するというもので、4月9日、経済産業省が配分対象18事業を公表しました。欧米に比べ資金規模が小さいようにみえますが、経済産業省は15兆円の民間資金を誘発できるとみています。呼び水としての効果は十分に期待できるのではないでしょうか。配分対象事業は以下の通りです。

<グリーン電力>

  • 洋上風力発電の低コスト化
  • 次世代太陽光発電の低コスト化

<エネルギー構造転換>

  • 水素供給力・供給網の確立
  • 再生可能エネルギーによる水素製造
  • 水素製鉄技術の開発
  • 燃料アンモニアの供給力・供給網の確立
  • CO2利用のプラスチック原料製造
  • CO2を使った燃料製造
  • CO2を吸収するコンクリート製造の低コスト化
  • CO2の分離・回収
  • 焼却施設のCO2回収

<産業構造転換>

  • 電気自動車などの蓄電池開発
  • 電動化に伴う自動車網の変革
  • 旅客・物流の自動運転
  • データセンターや半導体の省エネ化
  • 水素・電動航空機の開発
  • 水素・アンモニア燃料船の開発
  • 農林・水産業でのCO2削減

グリーン成長の主役はどんな業種、どんな企業か、ある程度推測できそうです。

内田茂男

内田茂男(うちだ・しげお)
学校法人千葉学園理事長。1965年慶應義塾大学経済学部卒業。日本経済新聞社入社。編集局証券部、日本経済研究センター、東京本社証券部長、論説委員等を経て、2000年千葉商科大学教授就任。2011年より学校法人千葉学園常務理事(2019年5月まで)。千葉商科大学名誉教授。経済審議会、証券取引審議会、総合エネルギー調査会等の委員を歴任。趣味はコーラス。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

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