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特集

世の中で大量消費が繰り返されるなか、断捨離やミニマリスト、エシカルライフといった言葉が身近になり、人々のモノに対する向き合い方に変化が起こっている。この連載では、消費者行動研究が専門の千葉商科大学商経学部の大平修司教授の協力のもと、学術的な知見を交えながら、今注目される2つの消費スタイルについて考察。地球の持続的発展が叫ばれる現代において、「消費」と「サステナビリティ」、そして「幸福感」を両立するためのヒントを探る。

【第1回】[Style1:持たずに暮らす]
ボランタリー・シンプリシティ(=ミニマリズム)とは何か

1936年にアメリカで初めて提唱

インターネットで「片付け」や「断捨離」と検索すると、数えきれないほどの書籍やブログがヒットし、その多くに「今すぐ実践したい」といった前向きなコメントが寄せられている。
テレビ局は、「お片づけのプロがモノであふれた部屋を整理整頓する」という主旨の番組を制作し、高視聴率を記録している。

片付け

2015年には、編集者・佐々木典士さんが『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス)を発表。発行から半年で16万部を売り上げた。佐々木さんは著書の中で、最小限のモノだけで暮らす人を紹介して「ミニマリスト」と名付け、次のように定義している。

ミニマリストとは
1.モノは自分にほんとうに必要な最低限にすること、2.大事なモノのためにそれ以外を減らすことを「ミニマリズム」とし、そうする人のことを「ミニマリスト」と呼ぶ

このミニマリズムは、学術的な言葉で「ボランタリー・シンプリシティ(自発的簡素)」と言い換えられ、研究の歴史は85年前まで遡ることができる。

「1936年、政治経済学者リチャード・グレッグ(アメリカ)がボランタリー・シンプリシティを『外見はシンプルで、内面は豊かに暮らす方法である』と説明し、提唱したのが始まりです(Elgin and Mitchell, 1977)。その後、あまり研究は広がらなかったものの、1981年に消費者行動を研究している学者のレオナルド・バートン(アメリカ)がカリフォルニア州に住む主婦812人に対して消費に関するアンケート調査を行ったことで、再び研究が進みました」(大平教授)

レオナルド・バートンの調査結果からは、「資源のリサイクル」「製品の手作り」「自然への回帰」といったボランタリー・シンプリシティの特徴が明らかになり、それまで不鮮明だった消費者像の輪郭が浮かび上がっている。

同じ年、教育者デュエイン・エルジン(アメリカ)が、簡素に生きることで人と社会の再生を促した『Voluntary Simplicity: Toward A Way Of Life That Is Outwardly Simple, Inwardly Rich)』を出版。1987年に日本語訳『ボランタリー・シンプリシティ(自発的簡素)』(ティビーエス・ブリタニカ/星川淳訳)が刊行されたことで、その概念が初めて日本に輸入された。

その後、国内では1999年、徳島大学の岩田紀教授(当時)が日本人女性250人にアンケート調査を実施。このときに以下のようなボランタリー・シンプリシティの特徴が示され、今でも世界中の研究者に引用されている。

ボランタリー・シンプリシティのライフスタイル:Iwata(1999)より大平(2016)が作成

消費の制限
  • シンプルに生活し、必要のないモノを購入しない
  • 衝動買いをしない
  • お店に行ったとき,モノが私にとって必要かどうかを熟慮した後に購入を決定する
物質的充足
  • 物質的豊かさより精神的成長により関心がある
  • 複雑な機能が備わった製品よりもシンプルな機能の製品の方が好きである
  • 便利さと快適性を助長するようにデザインされた製品は人を駄目にする
環境への意識
  • 野菜を自給自足するのが望ましい
  • できる限り自給自足するのは,望ましい人間の生活である
  • 環境を汚染・破壊しないよう努めている
道徳的関心
  • 買ったモノをできる限り長く使うよう努めている
  • 大量のゴミの中にまだ使用できるモノがあることに我慢できない
  • お店に行ったとき,飽きずに長期間に使用できるモノを重要視する

そして2010年以降、これらの理論的研究を、本格的に人々のリアルな暮らしにまで落とし込み、土地で受け継がれる風習や思想、幸福感など、多様な切り口から「消費を減らす」というライフスタイルを実証分析しているのが、大平修司教授だ。

ボランタリー・シンプリシティのライフスタイル

学術的な経緯を見ると、ボランタリー・シンプリシティは1冊の訳書となって海外から日本へ伝わった。しかし大平教授は、日本にはもともと「消費を減らす」「モノを持たない」という暮らしの土壌があったと分析する。

日本で古くから続いてきた質素倹約の考え[奈良~江戸時代]

「昨年、消費者行動に関する海外の学会で、『日本で続いているミニマリズムブームの背景には質素倹約という文化がある』という論文を発表すると、好意的な評価がありました」と大平教授。

「日本では古くから度々、国の政策として贅沢が禁止され、庶民は質素な暮らしをしてきました。国政がある種の思想となって生活の中で受け継がれ、現代まで残っている。これは世界で類を見ない日本特有の歴史です」(大平教授)。過去と現代の暮らしを質素倹約という軸で繋いだ教授の見解は、海外から評価された。

質素倹約の始まりは721年、奈良時代。当時は馬を持つことは非常に贅沢で、名馬を所有して富を競う公卿らを案じた元正天皇が、馬の頭数を制限したことが最初だと言われている。

平安時代には、太政官が国民の贅沢を禁止。庶民の間で信じられていた「贅沢をすると災害が起こる」という言い伝えを利用して、999年に質素倹約が布告された。

江戸時代に入ると、度重なる自然災害などにより幕府の財政事情が悪化し、その度に倹約令が発布されている。

江戸時代の暮らし

「しかしこの時代には、あかぬけた『粋』という美意識が好まれ、庶民は、モノはなくても活気ある心豊かな生活を送っていました。ここにボランタリー・シンプリシティの本質があります」と大平教授は言う。

著書『「捨てる!」技術』(宝島社新書)のミリオンヒットにより断捨離ブームの立役者となった辰巳渚さんは、『ミニマリストという生き方』(宝島社)でこう述べている。

特別なことがなくても毎日が笑顔とともにあり、ゆったりとした時間のなかで、家族や大切な仲間に愛情を持ち、感謝しながら生きる。(中略)私には、そういう生き方は、かつて日本にあったのだと思えてならない。それは、江戸時代のふつうの人々の暮らし方だ。(中略)かかあ天下で子宝を大切にし、一家で家業にいそしむ。(中略)野心やこだわりを野暮と呼び、飄々とした粋を好む。(中略)お隣さんやお向かいさんとは相身互いで付き合って、おすそ分けしたり物を借りたりする。残るものを買うときは何度も考えてから買い、旬の食べ物や旅行のような消えモノにはパッとお金を使う。モノは繰り回し、使い切ってから捨て、供養する。家には大きな家具はなく、身の回りのささやかな道具とともに暮らしている。

こうした生活はまさに、リチャード・グレッグが提唱した「外見はシンプルで、内面は豊かな暮らし」そのものだ。

耐乏生活の中で受け継がれたモノを大切にする心[明治時代以降]

明治時代になると産業化が進み、近代的な暮らしを楽しむ人が増えた。しかし、日本人を再び質素倹約の暮らしに戻したのが、世界大戦だ。1938年、日中戦争が長期化するなかで、政府は国家のすべてを統制・運用するために国家総動員法を制定。「欲しがりません勝つまでは」「ぜいたくは敵」というスローガンのもと、人々は耐乏生活を余儀なくされた。

「国家総動員法なんて人権を無視する内容なので、海外だと暴徒化してもおかしくありません。でも日本ではこうした度重なる抑圧が、モノを大切にする心、モノがなくても幸せに暮らすというプラスの考えに転じていった。それが不思議だし、非常におもしろい歴史だと思います」(大平教授)

バブル崩壊期から約30年続くブームの実情~「捨てる」は生き方

第二次世界大戦後、日本は高度経済成長期を迎え、大量消費時代が幕を開ける。テレビや洗濯機、冷蔵庫といった耐久消費財が次々と登場し、飛ぶように売れた。

現代のミニマリズムやお片づけブームに火がついたのは1990年代前半。バブル崩壊により消費を引き締める家庭が増加した。

そして2000年、辰巳渚さんが『「捨てる!」技術』を出版。平成不況が続き、モノを捨てることが否定的にとらえられていたにもかかわらず、ミリオンセラーとなった。辰巳さんは出版の目的について、「あえて捨てる作業を通して、自分なりの生き方の価値観を見つめなおすことを提案した」と『ミニマリストとしての生き方』の中で振り返っている。

その後、アメリカ同時多発テロ、リーマンショック、阪神淡路大震災、東日本大震災、新型コロナウイルスの感染拡大……と激動の2000年代が流れ、今もなおこうしたブームは続いている。

シンプルライフの実例が紹介された書籍が売れ、モノを減らして暮らしを最適化する「ライフオーガナイズ」という新しい言葉が生まれる一方で、「断捨離疲れ」といった現象まで起こっている。

モノを持たない暮らし、昔と今の違い

では、現代のミニマリストは実際にどのような暮らしをしているのだろうか。

「ミニマリストの部屋の多くは、江戸時代の長屋を彷彿とさせます。部屋の真ん中には机がひとつだけ置いてあって、少ない道具で食事し、布団で寝る。でも、置いてあるモノ一つひとつは選び抜かれた高価なもの。実は豪華主義の方が多いですね。これこそ、昔の質素倹約と現代のミニマリズムの間で決定的に違う点です」と大平教授は指摘する。

倹約令が敷かれていた時代は物理的にモノがなく、消費したくてもできなかったが、現代はモノがあふれており、好きなものにはお金をかけることができるのだ。

また、ミニマリストたちは、結婚や出産、引っ越しといったライフイベントがきっかけで持たない暮らしを始める人が多いと大平教授は言う。「ミニマリストのカリスマが脚光を浴び、整理整頓の資格が生まれ、SNSやブログを介してブームが広がっていることも大きな特徴です」。

シンプルな暮らし

「こんまり」のヒットに見る、海外の消費に対する意識変化

先に述べたように、ボランタリー・シンプリシティ(=ミニマリズム)の学術研究は海外が先行していたが、日本と違って実際にそうした暮らしをする人は少なく、なかなか根付かなかった。しかし昨今、日本のお片づけブームの波が海外にも到達し、大きなムーブメントとなっている。

片付けコンサルタントの「こんまり」こと近藤麻理恵さんが2010年に出版した『人生がときめく片付けの魔法』(河出書房新社)は世界40カ国で翻訳され、累計1100万部を超える大ベストセラーに(2021年4月時点)。オンラインショッピングモールのAmazon USAには、2万5000を超える書籍レビューが投稿され、「これは単なる片付けではない、人生を変える方法だ」といった感激のコメントと、“こんまりメソッド”を実践してスッキリと変貌を遂げた部屋の写真が並んでいる。

2015年に、彼女はアメリカの『TIME』誌で「世界で最も影響力のある100人」に選出。「KONDO」という言葉は「片付ける」の意味でも使われている。

世界中で活発化する「消費を減らす」ムーブメント

ほかにも、海外では消費活動を見直す取り組みが活発化している。

2009年、ショッピングが大好きなアメリカ・シアトル在住の女性が「1年間新しい服を買わない」と宣言し、「ザ・グレート・アメリカン・アパレル・ダイエット」というブログを立ち上げて活動を発信。メディアでも多く取り上げられ、彼女に共感した人々が世界中から数百名参加する大規模な取り組みに成長した。

同年、インド人女性が大量消費に異議を唱え、賛同者から募った寄付を慈善団体に送るという目的で、黒いワンピース1枚を1年間、毎日着回してウェブ上で発信する「ユニフォーム・プロジェクト」を実施。多くの寄付が集まり、着回しに優れた彼女のワンピースを求める人まで続出した。

2014年にはフィンランドで、映画『365日のシンプルライフ』が公開。監督のペトリ・ルーッカイネン自身が体験した、モノをもたないという実験生活を映画化したもので、「人生で大切なもの」を見つけていく過程に感銘を受けた“実験フォロワー”が多数生まれ、話題となった。

シンプルな暮らし

確実に世界的なトレンドとなっている、「消費を避ける」「モノを減らす」という動き。

「モノがあることは一見豊かで便利ですが、大量に作って消費し、捨てるといった現代の社会システムは地球環境や生態系に歪みを生み、非常に問題視されています。私が行ったミニマリストへのアンケート調査でも、環境問題への高い関心が明らかになったほか、『消費することに疲れた』という声も多く聞かれました。大量消費社会にいるからこそ、モノに縛られないことが精神的な解放や自己肯定感、幸福感などを生むのです」(大平教授)

次回は、もう一つの新しい消費スタイル「エシカル消費」について紹介する。

大平修司(おおひら・しゅうじ)
商経学部教授。日本のボランタリー・シンプリシティ研究の第一人者。専門はマーケティング、消費者行動論。著書に『消費者と社会的課題』(千倉書房)、『ソーシャル・イノベーションの創出と普及』(NTT出版)など。普段から積極的に有機野菜や寄附つき商品、コートやジーンズは本当に気に入ったもの、長く使えるものを選ぶようにしている。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

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