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インタビュー

人、社会、環境にやさしい商品やサービスを選ぶ「エシカル消費」が注目されています。この考え方をさらに進化させて、消費だけでなく、生産から流通、販売、消費に至るまで、すべて「エシカル」であることを目指そう──そんなエシカル消費の未来のカタチとも言えそうな「エシカル経済」を提唱するのが、千葉商科大学、人間社会学部の伊藤宏一教授です。

伊藤 宏一教授

——エシカル経済というのはどのようなことでしょうか。

まずエシカル消費というのは、例えば「環境に良くないものは使わない」「途上国の労働者に重労働させて作った洋服は買わない」というような、消費者が消費をエシカル(倫理的)に行おうというムーブメントで、元々は北欧で始まりました。SDGsとも深い関連があり、最近では日本でも注目を集めています。

消費に焦点を当てることは非常に重要だと思いますが、現在のように気候変動が予断を許さない状況にあっては、消費に留意するだけでは足りないのではないかと考えています。

つまり、資源の採掘、生産、流通、販売、消費という経済の仕組み全体を自然の摂理に従うようにエシカルにできないか、私たちが消費者・生活者として、経済全体をエシカルにしていく視野を持とうということです。私はこれを「エシカル経済」と名付け、広く提唱していきたいと考えているのです。

——エシカル経済を実現する上で重要となるのはどのようなことでしょうか。

エシカル経済のコンセプトとして重要なキーワードの一つに挙げられるのはサーキュラーエコノミー(循環経済)です。

資源の採掘から消費まで、経済の流れそのものを循環型にするということで、廃棄物を出さずに、一度採った資源で作る・使う・分解して再び使うという循環で回し続ける経済のことを言います。

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モノや熱の廃棄を限りなくゼロにするのが目標となりますから、初めからゴミと汚染を出さない設計を行うこと、製品と原料を使い続けること、自然のシステムを再生することが原則となります。

これと対極にあるのがリニアエコノミーです。モノやエネルギーが直線的に流れる経済で、使った後は捨ててしまう=ゴミが出るということですね。

ゴミは何か別物のように思われがちですが、元々は自然素材から作られたものです。自然界にゴミはありません。ゴミが出るという考え方をやめようというのが、サーキュラーエコノミーの真髄です。

サーキュラー・エコノミーはいわゆるリサイクルとは違います。かつて、東京工業大学の林雄二郎先生は「リサイクルは廃棄物の再生利用とされているが、それは消極的なリサイクルである。今日必要なのは、最初から循環を前提にしたプロセスを考えて製品を作ることであり、それは「工業の農業化」である」と指摘されていました。これはサーキュラー・エコノミーの本質を見抜いた先駆的な指摘でした。

——他に、エシカル経済を実現するためのキーワードがあれば教えてください。

「シェア」という考え方も重要な切り口になると思います。近代化以前の日本には共有原理がありました。例えば、農業用水を確保するために人工的に造られたため池などは水のシェア、沖縄で今なお続いている模合(もあい)はお金のシェア、飛騨高山では茅葺屋根の補修にあたって労働のシェアが行われていました。

近代化が進むにつれて共有原理は失われていきましたが、最近では復活しつつあります。インターネットなどを介してモノやサービスを貸し借りしたり交換したりする「シェアリングエコノミー」が急速に拡大しているのです。

——エシカル経済はこれから日本で広がっていくでしょうか。

古来から「自然が神仏」という文化観を持つ日本だからこそ、エシカル経済への転換を推進できると思います。東日本大震災後、全国各地で再生可能エネルギー事業が多彩に始まり、中小企業のレベルで広がりを見せています。

エシカル消費の意識も進み始めています。ここでもう一段レベルアップして、『循環』を軸に経済全体をエシカルにしていくというムーブメントを大手企業・中小企業の別なく推進していく時期となっていると思います。長野県上田市の株式会社アトリエ・デフによる『循環の家』は、その良い事例です。

太陽光発電で蓄電し、日中は電気をつけなくても大丈夫な設計になっています。また、雨水を地下タンクに貯めてトイレや畑に使用し、トイレの汚水も自然の力でろ過して水耕栽培に活用しています。

ファッション業界でも、サフィア・ミニーさんが日本で始めたピープル・ツリーを始めとして、全国各地にエシカル・ファッションの動きが広がっています。国際的にはエレン・マッカーサー財団のリーターシップの下、「Make Fashion Circular」グルーブにナイキ、H&M、バーバリー、ギャップが参加したり、「The Jeans Redesign」グループにWrangler、ICICLE、Banana Republicなど17のジーンズブランドが参加したりしています。伊藤忠商事の再生素材「RENU」が、H&Mのサステナブルコレクションに採用された、というニュースもあります。

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——エシカル経済とESG投資の関連について教えてください。

エシカル経済を推進していくために、ESG投資は必要不可欠です。アメリカの投資運用世界大手のブラックロックは、サーキュラーエコノミーを推進するイギリスのエレン・マッカーサー財団とともに初のサーキュラーエコノミー・ファンド(循環経済ファンド)を立ち上げました。

投資対象はサーキュラーエコノミーに貢献している企業などで、石炭事業と石油・ガス製造業は投資対象外としています。

来たるべくアフターコロナの時代は、グリーン・リカバリー(持続可能な方法で社会や経済を復興させること)をベースに経済を進展させていく必要があります。そのためにエシカル経済へのイノベーションは避けて通れません。現在の危機を希望に変えるためにも、この10年が重要な分岐点だと考えています。

伊藤 宏一教授

伊藤宏一(いとう・こういち)
人間社会学部教授。日本FP学会理事。NPO法人日本FP協会専務理事。「金融経済教育推進会議」(金融庁・金融広報中央委員会等で構成)委員。(一社)全国ご当地エネルギー協会監事。専攻はパーソナルファイナンス、ソーシャルファイナンス、金融教育、ライフデザイン論。著書等に「シェアリング・エコノミーと家計管理」(『生活経営学研究』2018)、「人生100年とライフプラン3.0」(『月刊 企業年金』2017)、『実学としてのパーソナルファイナンス』(編著中央経済社)、H・アーレント『カント政治哲学の講義』(共訳 法政大学出版局)、アルトフェスト『パーソナルファイナンス』(共訳 日本経済新聞社)など。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標9産業と技術革新の基盤をつくろうSDGs目標11住み続けられるまちづくりをSDGs目標12つくる責任 つかう責任SDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう
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