「環境」「社会」「企業統治」を重視するESG投資が、今、世界中の投資家から注目を集めています。2019年には、ESG債の発行額が初めて1兆円を突破しました。国内では、大企業を中心に幅広い業種において、ESG投資を意識する企業が増えています。
今回、コロナウイルスによってESG投資にどんな影響があるのか伊藤宏一教授に話を聞きました。
——新型コロナウイルスの感染拡大は、ESG投資にどのような影響を与えたのでしょうか。
国際的に見ると、今回のパンデミックにより、「ESG投資をさらに拡大させる必要がある」という認識が強まったと言えるでしょう。
今、ヨーロッパを中心に、新型コロナウイルスで影響を受けた社会や経済を、脱炭素、循環型経済など持続可能な方法で復興しようとする「グリーン・リカバリー」の機運が高まっています。
グローバル企業155社のCEOが、2050年よりも早くCO2の排出量を実質ゼロにする対策を踏まえた復興策を求める共同声明を発表し、「グレーな経済からグリーンな経済へ」と呼びかけたのです。
また、世界最大の資産運用機関であるアメリカのブラックロックは、2020年1月、CEOのラリー・フィンクは気候変動リスクを投資リスクとして認識し、ESG投資を抜本的に強化すると宣言したことも話題になりました。こうしたグローバルの趨勢が後押しとなり、ESG投資の必要性がますます叫ばれるようになったのです。
——これからのESG投資、どのような点に注目すべきでしょうか。
金融安定理事会(FSB)により設置されたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、企業に対して、気候変動が自社にとってどのようなリスクおよび機会となるのか情報公開すべきだと提言しています。
つまり、投資家に対して、気候変動によるリスクと機会を基準に投資判断するよう促しているわけです。ESG投資においても、E(環境)、S(社会)、G(企業統治)それぞれのリスクと機会を捉える必要があるでしょう。
これまで日本で「良い企業」といえば、儲けたお金の一部を社会にまわす企業であり、こうした社会的責任を投資基準に含めたSRI(社会的責任投資)の動きが顕著でした。儲けそれ自体についてはあまり考慮されていなかったのですね。
しかし、ここにきてようやく「EGSのリスクと機会」を鑑みて投資しようというグローバルな考え方が広がりつつあります。そのような投資でなければ収益が上がらず回収できないだろう、ということです。
最近は豪雨被害で工場が操業停止になるなど、自然災害の被害を受ける企業も少なくありません。もし海面上昇が進めば、海岸沿いの工場はどうなってしまうのか。こうした長期的な視点で見ていかないと、企業に対する正当な評価はできないのです。
——今後はE・S・Gのどれに着目していけばいいでしょうか。
やはり、SDGsのベースともなっている「E」に着目すべきです。そもそも、新型コロナウイルスが発生したのは、生物多様性の急激な破壊が原因だと言われています。今後終息したとしても、再び新たな感染症がもたらされる可能性は否定できません。
そうした事態を回避するためにも、CO2の排出を減らし、生物多様性を保全していくことが極めて重要です。環境をベースに、社会やガバナンスの課題を考えていく、というのが企業の基本スタンスになると思います。
——日本でESG投資はさらに加速していくと思われますか。
例えばアメリカ版のヤフーファイナンスのサイトでは、上場企業の全てにESGのリスク度を掲載しています。日本ではまだありませんが、今後こうした株価サイトが出てくる可能性はおおいにあり得るでしょう。
ジャーマンウォッチというドイツのシンクタンクの報告書によれば、2018年に気候変動による影響を世界一受けた国は日本だといいます。2018年といえば、広島県や岡山県などを中心に甚大な被害をもたらした豪雨や土砂災害、近畿地方を襲った台風21号が発生した年。
報告書が「効果的な気候変動の緩和策をとることが自国の利益にかなう」と指摘している通り、日本でも投資におけるリスク認識を変更せざるを得ないのではないかと感じています。
——未上場の中小企業はESG投資の対象にはなりませんが、特に影響はないのでしょうか。
むしろ、ESGのリスクにさらされるのは中小企業と言ってもいいかもしれません。大手企業のサプライチェーン上にある企業であれば、ESG指標を強化したい大手企業の動きに合わせて、提供するサービスや製品などを見直す必要が出てくるでしょう。
ものづくりでおさえておきたいのは、資源をどんどん採取して捨てるようなリニア(直線)型の製造方法ではなく、サーキュラーエコノミー(循環型経済)という発想が浸透しつつあること。
廃棄物を出さずに資源を循環させていく、という考え方ですね。江戸時代の日本はまさに循環型でした。日本人にはもともと循環のセンスがあるのです。デザイン思考の発想で、中小企業からいろいろな循環型のアイデアが生まれる可能性は大きいと思います。ESG投資の拡大を機に、そのような期待も広がっていきそうです。
伊藤宏一(いとう・こういち)
人間社会学部教授。日本FP学会理事。NPO法人日本FP協会専務理事。「金融経済教育推進会議」(金融庁・金融広報中央委員会等で構成)委員。(一社)全国ご当地エネルギー協会監事。専攻はパーソナルファイナンス、ソーシャルファイナンス、金融教育、ライフデザイン論。著書等に「シェアリング・エコノミーと家計管理」(『生活経営学研究』2018)、「人生100年とライフプラン3.0」(『月刊 企業年金』2017)、『実学としてのパーソナルファイナンス』(編著中央経済社)、H・アーレント『カント政治哲学の講義』(共訳 法政大学出版局)、アルトフェスト『パーソナルファイナンス』(共訳 日本経済新聞社)など。
この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)
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