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インタビュー

「環境」「社会」「企業統治」を重視するESG投資が、今、世界中の投資家から注目を集めています。2019年には、ESG債の発行額が初めて1兆円を突破しました。国内では、大企業を中心に幅広い業種において、ESG投資を意識する企業が増えています。

このような動きを鑑み、企業は今、何に取り組むべきなのか? これからの企業に求められることとは何か? ESG投資に詳しい伊藤宏一教授に聞きました。

伊藤 宏一教授

日本を含めた世界が、ESG投資を重視し始めている

「ESG投資」とは、E(Environment=環境)、S(Social=社会)、G(Governance=ガバナンス)を基準に企業に投資することです。従来のように、企業の収益性だけで投資を決めるのではなく、環境問題や社会問題への取り組み、企業統治の適正度も鑑み、投資を行うことをESG投資と呼びます。

ESG投資を行う前提となるのがSDGsです。SDGsに掲げられた17個の目標を達成するには、資金の動員が必要です。資金の流れを、SDGs達成に向けた取り組みに向かわせるために、ESG投資が注目されるようになりました。

ESG投資イメージ

——ESG投資が世界的に注目されるようになったのは、いつ頃からでしょうか。

ヨーロッパでは先行して、SRI(社会的責任投資)という動きがありましたが、世界的にESG投資が広がったのは、SDGs元年である2016年からだと言えるでしょう。SDGsの目標に世界各国が本格的に取り組むようになったことで、ESG投資が活発化しました。

SDGsの開始に伴い教育のあり方も見直され始めています。OECD(経済協力開発機構)が新たな教育のフレームワーク「教育2030」を提示しました。そこには、全人類の繁栄や持続可能性、ウェルビーイングを重視した教育をすべきだと明記されています。

ウェルビーイングとは、従来の金銭的な満足や消費による満足だけではなく、所得、財産、環境、生活の安定、心身の健康、社会的なつながりなど、幅広い視点を含めた幸せのことで、個人、家族、コミュニティそして地球のウェルビーイングをめざしています。

今後、人間がいかにウェルビーイングを実現していくかが、OECDが示した教育に関する新たな方向性です。こうした世界の動きの中で、企業活動もウェルビーイングの実現に向けた活動へと変わっていくことが求められます。

——国連が掲げるSDGsに端を発し、OECDによる教育改革、そしてESG投資の拡大と、世界の潮流が変わっているのですね。一方で、日本のESG投資の状況はどうでしょうか。

伊藤 宏一教授

実は、20歳以上の日本国民はESG投資を行っています。というのも、20歳になると支払う義務が生じる国民年金保険料の運用部分が、ESG投資に回されているからです。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)という機関が実際の運用を担っているのですが、GPIFは世界最大とも言われる約169兆円の運用資産を保有しています。

GPIFは運用資金の全体をESG投資に充てると言っていますし、投資先に対してはESGを意識した経営を行うよう促しています。GPIFの本格参入に伴い、日本におけるESG投資は2016年から2018年にかけて約3倍に増加しました。

この結果、上場企業はESGを意識した経営を行うように変化しています。この動きは、国際的にも評価されていますね。

——日本でもESG投資が拡大しているとのことですが、世界的に先行する国はどこですか。

やはり、ヨーロッパとアメリカでしょうね。特にヨーロッパでは、EU全体の政策が、限りある資源の中で経済成長を実現する方向に向かっていますから、ESG投資が盛んです。

ESG投資の拡大に対して、企業が意識すべきこと

伊藤宏一

——投資家がESG投資を行う際、どんな指標を見て判断するのでしょうか。

ひとつは、MSCI(米・モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル社)が作成するグローバルな株価指標です。その中の、「ESGセレクト・リーダーズ」に選出されることが、企業にとっては誇るべきことで、アップル、マイクロソフト、VISA、トヨタ、ソニー、キーエンス、オムロンなど名だたる企業が選ばれています。

それ以外では、アメリカ版のヤフーファイナンスのサイトで、企業ごとに「サスティナビリティ」という項目があり、「環境」「社会」「企業統治」のそれぞれがスコア化されています。また、再生可能エネルギー100%に取り組む「RE100」に加盟することも、企業価値を高めるために有効でしょう。

加えて日本では、ESG投資に関連する指標、たとえば年間CO2削減量や女性の管理職比率、障がい者雇用率などをまとめた「非財務報告書」を作成する流れも広がっています。投資家はそれらの開示情報をもとに投資判断を行っています。

——なるほど。企業は、ESG投資を取り込むために、どのような取り組みを行っていくことが有効ですか。具体的な事例も含めて教えてください。

たとえば、伊藤園では耕作放棄地を茶畑として再生する事業を展開していますし、オムロンは「太陽の家」という障がい者の自立を支援する工場を保有しています。また、H&Mを始めとしたアパレル企業は、古くなった服を再利用し、「Make Fashion Circular」というサーキュラーエコノミー(循環型経済)を実現する取り組みを始めました。

大企業以外でも、中島重久堂(大阪府松原市)という鉛筆削りメーカーが、短くなった鉛筆を長い鉛筆とドッキングする鉛筆削りを開発し、海外でもたくさん販売されました。

こうした環境や社会問題を解決できるイノベーションはたくさんあるはずです。紙や本、音楽などをデジタル化することも、資源を大切にする方法のひとつでしょう。

ESG投資を意識するなら、環境・社会問題に取り組むこと、そしてウェルビーイングの実現に向けたイノベーションを起こしていくことが有効だと言えます。

伊藤宏一(いとう・こういち)
人間社会学部教授。日本FP学会理事。NPO法人日本FP協会専務理事。「金融経済教育推進会議」(金融庁・金融広報中央委員会等で構成)委員。(一社)全国ご当地エネルギー協会監事。専攻はパーソナルファイナンス、ソーシャルファイナンス、金融教育、ライフデザイン論。著書等に「シェアリング・エコノミーと家計管理」(『生活経営学研究』2018)、「人生100年とライフプラン3.0」(『月刊 企業年金』2017)、『実学としてのパーソナルファイナンス』(編著中央経済社)、H・アーレント『カント政治哲学の講義』(共訳 法政大学出版局)、アルトフェスト『パーソナルファイナンス』(共訳 日本経済新聞社)など。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

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