MIRAI Times社会の未来を育てるウェブメディア

イベント

2020年12月8日(火)、日本貿易振興機構アジア経済研究所(IDE-JETRO)が主催するオンライン対談イベント「『アフリカ経済の真実』の著者に聞く」が開催されました。

登壇したのは、2020年7月に『アフリカ経済の真実─資源開発と紛争の論理』(ちくま新書)を発表した千葉商科大学人間社会学部の吉田敦准教授と、IDE-JETROで長年アフリカ地域研究を専門とされてきた新領域研究センター上席主任調査研究員の平野克己氏。

イベントでははじめに、急速な経済成長によって「希望の大陸」と期待されるアフリカに依然として残る影の部分を吉田准教授が解説し、その上でアフリカのこれから、日本はアフリカとどのように向き合っていくべきか、ということについて議論しました。

イベントレポート

写真左:吉田敦准教授、写真右:平野克己氏

吉田敦(よしだ・あつし)
人間社会学部准教授。商学博士。明治大学商学部助教を経て、2014年から現職。専門は国際経済論、アフリカ経済論、資源開発論、国際関係論。大学生の時に語学研修でイギリスやフランスをまわり、北アフリカ移民のフランス人と友達になったことをきっかけに、アフリカ研究を始めた。学びは「知ること・出会うこと」を信条に、台湾、ベトナム、カンボジア、ミャンマーと、毎年スタディーツアーを開催し、学生を引率。現地の学生との交流を重視し、自主的な学びの姿勢の創造に努めている。

平野克己(ひらの・かつみ)
ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員 グローバル社会学博士
在ジンバブエ日本大使館専門調査員などを経てアジア経済研究所入所。在ヨハネスブルク海外調査員、アフリカ研究グループ長、ジェトロ・ヨハネスブルクセンター所長、地域研究センター長を歴任し、ジェトロ理事(2015~2019年)。2020年から現職。

アフリカに暮らす人々の苦悩を描き、収益構造に切り込む

イベント冒頭で吉田准教授は、マダガスカル・イラカカにある貧しい鉱山街の写真を紹介しました。イラカカはもともと寒村でしたが、サファイアやルビーの大鉱脈が発見されたことで、多くの鉱夫が一攫千金を狙って移住し都市化が進みました。しかし、鉱夫の暮らしを支えるのは雇い主から与えられるわずか150円の日当。吉田准教授は1枚の写真を通して、そこに住む人々の苦しい現実を伝えました。

イベントレポート

アフリカは石油や鉱山資源開発により、2000年代に入ってから3~5.5%という比較的高い経済成長率を見せています。外国投資も増え、エコノミストを筆頭に多くの人が「希望に満ちた大陸」ととらえるようになりました。しかし、現実は政治が安定せず武力紛争があちこちで勃発。資源開発は進むもののその恩恵を享受するのは一部の層のみで、国民のほとんどが貧しいままです。

「本当にアフリカは希望に満ちた大陸に生まれ変わったのでしょうか。その国で暮らす人が現実に抱える問題や苦悩などを描き出したいという思いで本書を執筆しました」と吉田准教授。

アフリカ経済の真実

『アフリカ経済の真実—資源開発と紛争の論理』吉田敦著(筑摩書房2020年刊)

著書の狙いは主に3つだと吉田准教授は解説を続けました。

1つめは、前出の「マダガスカル」をはじめ、紛争の中心地となっているサハラ砂漠南縁の「サヘル地域」、原油国でありながら経済が立ち行かない「アルジェリア」など、これまで政治経済について正面から論じてこられなかった国や地域について目を向けてもらうこと。

イベントレポート

2つめは、学問的には分けて研究されてきた「北アフリカ地域」と「サヘル地域」を一体としてとらえること。政治的、経済的に密接な関わりがある両地域においては、国家横断的なネットワーク分析が必要だと訴えました。

そして3つめに、資源開発の裏側にある収益分配構造に切り込むこと。例えば、豊富な石油に恵まれるアルジェリアは、製造業の多角化が進まず炭化水素資源収入に依存してしまい、その収益の再分配で経済が成り立っています。

しかし、その再分配は実に不平等で、官僚や国家企業のエリート、退役軍人などが富の受益者集団となっています。こうした不平等な収益分配のしくみが国民の不満を生み、紛争や政治的不安定につながる。つまり、豊かな資源が国を崩壊させてしまう「呪い」として作用すると吉田准教授は指摘しました。

資源開発におけるアフリカ諸国の課題と日本の向き合い方

イベントレポート

吉田准教授の解説を受け、平野氏は「"経済の低成長"と"資源賦存量"(※)は正に相関する。これは開発経済学では定説になっています」と切り出しました。
(※)賦存量:理論上は潜在的に存在すると算出される量

一方で、この定説には大きな反証もあると言います。「例えばノルウェーの輸出は6~7割が原油で、1割が鉱産物資源。これはアフリカ大陸全体とほぼ同じ構造なのですが、ノルウェーは世界でもっとも統治が優れた国のひとつですよね。また、ダイヤモンド収入の多いボツワナ共和国も、アフリカの中では統治が飛び抜けてよく、資源の呪いも起こりませんでした。そう考えると、やはりアフリカが抱える影は、ガバナンスの問題だと言えるでしょう」

そう分析した上で平野氏は、アフリカの国々は資源開発に対してどう取り組んでいくべきかと問いかけ、吉田准教授は、資源開発を担う強力な国営部門や省庁を整備することが不可欠だと言及。

イベントレポート

実際、アルジェリアには炭化水素部門の開発を一手に引き受けるソナトラックという国営公社が存在しますが、例えば、高速道路の建設事業があった場合、多くの部分は中国などの外国が請け負い、外国から労働力を派遣して完成させるのが一般的です。つまり、アルジェリアは自国の技術者を育てる機会を逃してしまっているということ。

またマダガスカルやガーナなどの資源富裕国では、ノウハウがないため開発における主導権を外国企業に握らせてしまい、彼らにとって不利な権益比率や制度設計ができあがっているといいます。

「そうは言っても、ビジネスというのは完全に準備を終えてからスタートするのでは遅い。ですから、国家のしくみを整備することと並行して、資源収入をしっかりと積み立て、資源価格の下落による債務危機などに備えることが大切です。国のトップが人気取りのために、資源収入を国民にばらまくのは一番やってはいけないことです」と平野氏。

外国の介入がアフリカの発展を妨げる可能性が指摘される中、対談は「日本はアフリカ諸国とどのように向き合っていくべきか」という議題へ。

イベントレポート

吉田准教授が、「国家全体というマクロの視点ではなく、まずはそこに住む人々に目を向けて理解し、どのような協力関係を築くことができるのか探ることが重要だ」と話すと、平野氏も賛同しました。

その上で、「アフリカでは、人の次に、村や部族といった共同体を見るべきでしょう。その統治に成功したあと、ようやく国家全体というステップに入っていける。そう考えると、アフリカとは国の枠組みを取り外して関わっていかなければいけないのでしょう。ある意味、もっともグローバリゼーションが進んでいる大陸ですね」と続けました。

民間が力をつけ経済を動かす、アフリカの未来像

最後はイベント参加者から質問があがりました。

—アフリカで自国産業を発展させるにはどうすればよいのでしょうか?

「最近では南アフリカについで北アフリカに位置するモロッコが注目されています。モロッコでは国王が主導して、外国企業が進出するときに税制が優遇されるフリーゾーンを設けています。また、欧州自動車メーカーの下請け工場をつくって、完成品を輸出できるようにするなど、産業も発展を見せています。ただし、製造業の下請けからさらに一歩抜き出てモロッコ独自の主要産業をつくっていくことが、経済成長の鍵となりますね。今後、絶対的な権力を握っている国王が、国民にとって満足度の高い政策を進めていくかどうか、引き続き注目していく必要があるでしょう」(吉田准教授)

—ガバナンスを改善させるために効果的なことは?

「個人的な意見としては、汚職が構造化しているアフリカでは、実は国のパワーを抑えることがもっとも効果的ではないかと思っています。生産者などの民間の力を強めて、彼らが主体になってアフリカ経済を動かしていけるといいですね」(平野氏)

そこに住む人々が主体的に生産と消費を担う、そんなアフリカの未来像を思い描いて、イベントは幕を閉じました。

イベントレポート

※画像の無断転載及び複製等の行為は禁止します。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標1貧困をなくそうSDGs目標2飢餓をゼロにSDGs目標4質の高い教育をみんなにSDGs目標8働きがいも 経済成長もSDGs目標9産業と技術革新の基盤をつくろうSDGs目標10人や国の不平等をなくそうSDGs目標16平和と公正をすべての人にSDGs目標17パートナーシップで目標を達成しよう
Twitterロゴ

この記事が気に入ったらフォローしませんか。
千葉商科大学公式TwitterではMIRAI Timesの最新情報を配信しています。

千葉商科大学公式Twitter

関連記事