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イベント

2021年6月15日、千葉商科大学サイエンスアカデミー特別客員准教授を務める平田仁子氏が、「環境部門のノーベル賞」とも称される「ゴールドマン環境賞」を受賞しました。
この賞は、環境保護に功績のある草の根環境活動家に対して授与されるもので、1989年の開始以来、毎年6人が大陸ごとに選ばれています。日本では過去に、熱帯林保護や木材貿易問題に取り組んだ黒田洋一氏(1991年)、諫早湾干拓問題に取り組んだ山下弘文氏(1998年)が受賞。平田氏の受賞は、日本人としては23年ぶり、女性としては初めてとなる快挙です。本記事では、去る7月4日、ゴールドマン環境財団・気候ネットワークの主催によって開催された「受賞記念シンポジウム」の様子を、イベントレポートとしてお届けします。

平田仁子氏:NPO法人 気候ネットワーク国際ディレクター・理事 /CAN-Japan代表 /千葉商科大学サイエンスアカデミー特別客員准教授/社会科学博士

各界のリーダーたちが、平田氏と気候ネットワークの活動を賞賛

シンポジウムは、ゴールドマン環境財団事務局長を務めるマイケル・サットン氏によるビデオメッセージからスタート。同氏は「石炭火力に立ち向かい、再エネを推進することは、気候変動対策には不可欠」と強調した上で、石炭火力の廃止に向けて取り組む平田仁子氏と気候ネットワークの活動を賞賛しました。

続いて、アル・ゴア米元副大統領、アヒム・シュタイナー国連開発計画総裁、タズニーム・エソップCAN International代表、ジェニファー・モーガン グリーンピース・インターナショナル代表など、海外の錚々たるリーダーたちが、ビデオメッセージで本受賞を祝福しました。

ビデオメッセージ

国内からは、小泉進次郎環境大臣、河野太郎行政改革担当大臣が、活動を賞賛するビデオメッセージを寄せました。

ビデオメッセージ

クリーンな産業と雇用を生み出し、持続可能な地域をつくる

ビデオメッセージの後、平田氏が「ゴールドマン環境賞」の表彰盾を持って登壇。「日本の市民社会とNGO」「気候変動に取り組む上での石炭問題の重要性」の2つのテーマで講演を行いました。

「日本の市民社会とNGO」について

学生時代、気候変動に関心を持ち、アメリカへと渡って、気候変動への関わり方を考えた末にNGOを選んだと話す平田氏。気候変動の課題はさまざまなしがらみと経済構造の中にあり、それを解決するためには、独立した立場での監視や提言、世論形成が不可避だと考え、NGOを選んだそうです。

平田氏は、世界ではNGOで活躍する人たちが数多く存在し、市民社会に支えられる形で時代を創る担い手になっていると言います。一方で日本は、市民社会の中にNGOが根づいているとは言いづらく、限られた人材・予算の中で、熱意と使命感のあるスタッフが活動を続けているのが実情だと訴えます。

「日本が環境政策で主導的立場に立つには、NGOコミュニティの成熟とシンクタンクの設立が必要だ」というアメリカの政治学研究者の言葉を紹介しながら、気候変動の解決には、市民社会の成熟と多くの人たちの主体的な参加が重要だと持論を展開。今回「ゴールドマン環境賞」が、日本のNGOに光をあて、活動の認知度を高めてくれたことには大きな意味があると語りました。

「気候変動に取り組む上での石炭問題の重要性」について

平田氏は、6月に開催されたG7サミットで「石炭火力は気候変動の最大の要因だ」と述べられていると話します。日本においても、温室効果ガスの2割以上が石炭火力によるもので、とくに福島原発事故後、石炭火力発電所の新設がどんどん計画されてきたことを指摘。この状況に対応するため、気候ネットワークと地域の人たちが連携して活動を展開。現状、50基にものぼった新規計画のうち、およそ3分の1にあたる17基の計画が中止されるに至っています。

しかし、残る3分の2は稼働開始・建設開始に進んでいることから、今後は活動の軸足を、新規計画の中止から国内に160基以上ある石炭火力の全廃へと広げ、取り組みを強化していくと語りました。こうした活動は、産業革命以来の地球の気温上昇を1.5度に抑制するために必要であり、国連からの要請でもあると言います。さらに平田氏は、次のように意気込みを語り、受賞の挨拶としました。

「企業や自治体、労働組合、金融機関、市民が、一緒に地域の未来を考え、経済や雇用への影響を予測して対応を図りながら、速やかな変革を進めていかねばなりません。これから新しいクリーンな産業と雇用を生み出し、持続可能な地域をつくるプログラムを、コロナ禍からの復興とあわせて、社会問題の解決とともに進めていきたいと思っています」(平田氏)

ビデオメッセージ

日本の排出ネットゼロと脱石炭に向けて

受賞挨拶の後、有識者を交えたパネルディスカッションが催されました。その様子をダイジェストで紹介します。

登壇者
  • 高村 ゆかり 氏(東京大学教授/環境省中央環境審議会会長/国際法・環境法等の研究者)
  • 水口 剛 氏(高崎経済大学学長/ESG投資等の研究者)
  • 平田 仁子 氏(気候ネットワーク国際ディレクター/理事)
司会・進行
  • 井田 徹治 氏(共同通信社論説委員)
ビデオメッセージ

パネルディスカッションは、司会を務める井田氏による「日本の気候変動政策の現状はどうか」という質問からスタート。

高村氏は現状について、日本の温室効果ガス排出量は2013年をピークに減少傾向にあると説明。省エネ化と電力分野での低炭素化が2大要因だと言います。ネットゼロに向かうには、かつてない規模での脱炭素・低炭素化が必要であり、日本の場合はエネルギー分野の排出量が約85%を占めるため、この領域の変革が不可欠だと述べました。

水口氏は金融の観点から、1970年代にアメリカで生まれた責任投資(ESG投資)の流れが徐々に規模を拡大し、日本にも波及していると言います。近年は概念を変えて、インパクト投資という形に進化していると説明。インパクト投資について水口氏は、(1)ネガティブなインパクトを生む分野(石炭火力など)への投資を減らすこと、(2)ポジティブなインパクトを生む分野(グリーン技術など)への投資を増やすこと、(3)産業転換の中で苦労する地域の中小企業に寄り添い、ソフトランディングできるよう金融支援をすることがポイントだと見解を語りました。

続いて平田氏は、高村氏の説明につけ加える形で、日本の温室効果ガス排出内訳のうち、石炭火力が約22%を占め、最大の問題であることを強調。この問題の解決なくして、日本の脱炭素は語れないと言います。にも関わらず、国内では162基の石炭火力発電所が運転中で、9基が建設中。石炭火力の設備容量は増え続けていると指摘します。この現状を打破するため、電力会社に資金を提供する金融機関に株主提案も行っていると、活動内容を紹介しました。

続いて井田氏は、2050年のネットゼロ(カーボンニュートラル)達成など非常に高い目標が掲げられているが、「目標の実現可能性はどうなのか」と問いを投げかけました。

口火を切った高村氏は、「今の社会の延長線上では、絶対に辿り着かない未来だ」と断言した上で、この目標の意味合いは、社会のあり様を変革するための努力の方向性を示す北極星のようなものだと返答。水口氏は、今の延長線上では無理だとしつつも、対策を講じてイノベーションを起こすことで可能性は高まるはずだとし、変革に向けたマインドセットが大事だと答えました。平田氏も同調する形で、変革は困難ではあるものの、放置していても問題は解決しないため、頭を切り替えるマインドセットが重要だとの認識を示しました。

議論をさらに深める形で、井田氏が「2030年の石炭火力全廃に向けて、課題と取り組むべきことは何か」と尋ねたところ、高村氏は省エネ化と代替エネルギー(再エネなど)の最大限導入を図るための具体的な道筋を明確にすることが重要だと返答。水口氏は、長期的には石炭火力はなくなり再エネ中心のマーケットになることは明らかだとし、企業の競争原理を利用すること、それを後押しする政策枠組みを構築することを、石炭火力に関わる雇用の手当をしながら、推進していくことが重要だと述べました。平田氏は、国が旗を上げ、地域・労組も一緒になって、いち早く問題に向き合い、準備を進めるべきだと語りました。

最後に、「(目標達成に導く)主体は誰か」という問いに対する、平田氏の返答を紹介します。

「結果的に政策が動かないとダメなのですが、政策に辿り着くことを支えるものが、幅広い認識です。認識とは何かというと、いろいろなアクターの認識、つまり市民社会の声ではないかと思います。先ほど、シュタイナーさん(国連開発計画総裁)が、『市民社会が方向性を示す必要がある』とおっしゃっていましたが、私たちがもう一段高い認識を持って、他人事にせずに関わっていくことが、根っ子として大事であると思います」(平田氏)

平田仁子

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この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標7エネルギーをみんなに そしてクリーンにSDGs目標11住み続けられるまちづくりをSDGs目標12つくる責任 つかう責任SDGs目標13気候変動に具体的な対策を
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