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特集

消費者行動研究が専門の千葉商科大学・大平修司教授とともに、今注目を集める2つの新しい消費スタイルについて考察し、「消費」と「サステナビリティ」、そして「幸福感」を両立するためのヒントを探る本連載。前回は、モノを持たない「ボランタリーシンプリシティ(=ミニマリズム)」について紹介した。

第2回目となる今回は、生産・販売の過程で社会への負荷が少ない商品を選ぶ「エシカル消費」について、ムーブメントの経緯や背景、ミニマリズムとの関連性などに触れながら、その全体像をとらえていきたい。

【第2回】[Style2:影響を考えてモノを選ぶ]
エシカル消費とは何か

SDGsでも問われる「使う側の責任」

2003年は日本の「CSR(corporate social responsibility=企業の社会的責任)元年」と言われる。多くの企業がCO2削減や環境保護、マイノリティの受容といった社会的課題の解決に乗り出し、CSR報告書やサステナビリティ・レポートなどでその活動を積極的に発信しはじめた。こうした動きは今、日本のビジネスマーケットですっかり定着している。

しかし、地球の持続的発展が叫ばれる現代において、企業だけでなく、私たち消費者も社会の一員としての自覚を持ち、行動しなければならないのではないか。その一歩として、「モノを買うこと=それを作り、販売した企業へ一票を投じること」と理解し、人や社会に負荷の少ない商品を、責任を持って選ぶべきだ——千葉商科大学で、消費者の社会的責任について研究する大平修司教授はそう主張する。

2015年9月、国連本部で開かれたサミットで、SDGs(持続可能な開発目標)が採択された。地球規模の問題を解決するために設けられた17のゴールのなかには、持続可能な生産・消費を目指す「12 つくる責任 つかう責任」が組み込まれている。「モノを使う側にも社会に対する責任がある」というのは、もはや世界共通の認識だ。

SDGs

そして私たち一人ひとりがこの課題に取り組む一歩として、「エシカル消費」が大きな注目を集めている。

社会を変えるのは、消費者一人ひとりの選択の積み重ね

エシカルは、「倫理的な」という意味。「倫理的であるとは、与えられた条件の中で可能な行為の中から最善なものを選択する態度である」。これは環境倫理学が専門の哲学者・加藤尚武氏の言葉だ。

「エシカル消費」を直訳すると「倫理的な消費」となるが、簡単に言えば「人や動物、社会、環境に配慮された商品を選ぶ」ということである。

例えば、結婚や誕生など、人生の節目に贈られるジュエリーについて考えてみたい。

ジュエリーに使われる金や原石はアフリカなどの鉱山で採掘されるのだが、紛争地域に近い場所もあり、多くの一般人が武力行使によって連行され、低賃金で働かされている。

アフリカなどの鉱山で採掘

また、採掘は狭い穴に潜る必要があるため、小柄な子どもたちが当たり前のように従事させられており、危険な重機との接触や落盤事故などで負傷・死亡する例が多発。国際労働機関(ILO)は、鉱山での児童労働を「最悪の形態の児童労働」だとし、中でも「危険有害労働」と認定した。

宝石店のショーケースの中できらきらと輝くジュエリーがこうした犠牲の上にできあがったと知れば、購入をためらう人もいるかもしれない。昨今では、人権や環境に配慮された適正な方法で採掘・生産された「エシカル・ジュエリー」が登場し、ニーズが増えている。

このように、モノを購入するときにその背景にまで心を寄せて選択することが「エシカル消費」であり、「消費者による一つひとつの選択の積み重ねが社会を変える力になる」と大平教授は強調する。

商品を選ぶとき、使うとき、使った後も社会への影響を考える

大平教授によると、消費者が社会的課題解決のためのとる行動、つまりエシカル消費は「購買行動」と「購買後行動」にわけられる。

消費者の社会的課題解決行動の類型:大平(2016)より編集部が作成

消費 購買行動
  • 寄付つき商品
  • フェアトレード商品
  • オーガニック商品
  • 環境配慮型商品
  • 応援消費
購買後行動
  • エネルギー消費量の削減
  • 保管
  • 廃棄
  • リサイクル

フェアトレード商品や環境配慮型商品といったエシカルな商品は「ソーシャル・プロダクト」と呼ばれるが、購買行動をとる際に、ソーシャル・プロダクトを見つける目安となるのが、パッケージに表示された「認証マーク」だ。

オーガニックの原料が使われた繊維商品に付けられる「GOTS(オーガニック・テキスタイル世界基準)」、持続可能な農業を行う農園で作られた商品に与えられる「レインフォレスト・アライアンス」、漁獲量などに配慮した漁業でとられた水産物に与えられる「海のエコラベル」など、多くの認証マークが存在する。
※エシカル消費に役立つ認証ラベル・マークは以下の記事を参照

また、上記の表では、購買時だけでなく、購買後の行動についても触れられている。例えば、「保管」。オーガニックの食品を購入しても、保管を怠り消費期限を超えてしまえば、それは食品ロスという社会への負荷を新たに生み出してしまう。

2020年に消費者庁がオープンした「エシカル消費特設サイト」でも、「マイバッグやマイボトルを使う」「不要になったらシェアやリサイクルをする」など、モノを買うときだけでなく、使うとき、処分するときにも社会への影響を考えよう、と呼びかけている。

世界で高まるエシカルへの意識

世界でエシカル消費をリードするのはイギリスだ。1989年、消費者や企業に対して倫理的な行動を促すための専門誌『Ethical Consumer(エシカル コンシューマー)』が創刊され、そのなかから「エシカル消費」という言葉が生まれている。

また、1997年に、ブレア首相(当時)が「エシカルな政権と外交を目指す」とスピーチし、エシカルの意味が世界中に知られるようになった。

『Ethical Consumer』によると、イギリスのエシカル消費の市場は成長の一途をたどり、2019年で約6.7兆円。スーパーマーケットに並ぶ多くの商品には、エシカルを示すラベルが貼られている。また同誌では、さまざまな商品やサービスを独自に調査し、「エシカル度」を付けて評価しており、イギリス人はこのスコアを参考に、何を買うか選ぶという。

エシカル消費

日本はどうだろうか。一般社団法人エシカル協会で代表理事を務める末吉里花さんは、著書『はじめてのエシカル』(山川出版社/2016年刊行)でこう述べている。

日本人は昔からエシカルでした。(中略)
「お互いさまだから」「おかげさまで」「もったいないよね」
日本独特のこの発想は、エシカルという知恵の核心を捉えたものなのです。

おもしろいことに、古くからこうした考えが日本人の中にあったという点は、質素倹約の風習がルーツにある日本のミニマリズムと同じだ。そして、この考えが近年、エシカルという名でムーブメントになったきっかけに、大規模な自然災害があると大平教授は分析する。

「企業行動」を変えた阪神・淡路大震災、「個人行動」を変えた東日本大震災

1995年、兵庫県を中心に関西一帯を襲った阪神・淡路大震災。凄惨な被災地の状況を知ってかけつけた災害ボランティアの人数は、震災後1年間で約138万人にのぼり、市民による社会貢献活動の重要さを問いかける出来事となった。

その後1998年、ボランティア団体などに対する「特定非営利活動促進法」、いわゆる「NPO法」が成立し、それまでなかなか認証が得られなかった非営利団体の法人化が加速。1999年に認証されたNPO法人数は、前年度23だったところ、一気に1,724となった。

NPO法人が存在感を増したことは企業活動にも影響し、社会に対する取り組みとその発信に注力する企業が増加。冒頭で述べた「CSR元年」を迎えることとなる。東洋経済新報社は2007年より、優れたCSR活動を行う企業をランク付けするようになった。

そんな中、2011年に東日本大震災が発生した。2万人以上の死者・行方不明者を出したこの自然災害は、「市民による社会貢献活動の重要性を日本人に再認識させた」と大平教授は言う。2012年の「社会意識に関する世論調査」(内閣府)では、「震災前と比べた、社会における結びつき」について、「前よりも大切だと思うようになった」と回答する人が約8割にのぼっている。

そして、注目すべきは、その思いを行動に移す人が増加したということだ。日本ファンドレイジング協会によると、震災前年の2010年、日本の金銭寄付総額のうち「個人」による寄付総額は33.7%だったのに対し、2011年は68.6%と大幅に増大している。

個人の消費活動にも変化が表れた。福島県の原子力発電所がメルトダウンし、特に小さな子どもがいる家庭などは、放射能に汚染されておらず、農薬が使用されていないオーガニック商品を積極的に購入するようになった。東京電力が計画停電を実施したことにより、節電に対する意識が高まり、環境配慮型商品が求められるようにもなった。

「環境配慮型商品については、それまでも政府主導のエコ・ポイント制度で、自動車などを中心に普及が図られていましたが、個人の積極的な行動にはなかなか結びついていませんでした。また、オーガニック商品も存在しましたが、生産する企業や販売するお店は限定されていました。

それが東日本大震災を機に、ソーシャル・プロダクトを求める人が急増し、さまざまな企業がこうした商品を世に送り出すようになりました。市場が大幅に拡大したのは、全国に販路を持つ企業がエシカル産業に進出したことが要因です」(大平教授)

全国区でスーパーマーケットを展開するイオンは、オリジナルブラント「トップバリュ」からオーガニック商品を次々と販売し、2016年にはフランス発のオーガニックスーパー「ビオセボン」の日本1号店をオープン。その後、着々と店舗数を増やしている。

オーガニック

また同じ年、世界中のソーシャル・プロダクトを厳選し、ものづくりの背景にあるストーリーとともに紹介したウェブサイト「SoooooS.」(※) がオープン。開設当初は商品紹介のみだったが、消費者のニーズを受けて、オンラインショップとしての機能を持たせ、大人気サイトへと成長している。
※SoooooS. (https://sooooos.com)

寄付つき商品は震災直後より、被災地支援の義援金を集める目的でも販売されるようになり、こうした取り組みは、消費することで災害復興を支援する 「応援消費」という新しいエシカル消費のカタチを生み出した(Stanislawski, Ohira and Sonobe, 2015)。

2016年に発生した熊本地震、そして今、私たちを脅かす新型コロナウイルスの感染拡大……。人々が危機に直面するたびに、応援消費は拡大を続けている。ホットペッパーグルメ外食総研が2020年11月に発表した調査結果によると、コロナ禍で約3割の人が飲食店に対する応援消費を経験しており、6割超の人が外食による応援消費を行ってみたいと考えているという。

SNS上でシナジーを生むミニマリズムとエシカル消費

日本で着実に広がっている「エシカル消費」。消費者庁が公表した2019年度の「倫理的消費(エシカル消費)に関する消費者意識調査報告書」では、人々のエシカル消費に対する「認知経路」について、次のような結果が示された。

エシカル消費の認知経路

エシカル消費の認知経路

出典:「倫理的消費(エシカル消費)」に関する消費者意識調査報告書(消費者庁/2020年)より編集部作成

最も多い情報源は、「ネット・SNS」(約44%)だ。

一方、総務省による2018年の「通信利用状況調査」によると、ネットやSNSを情報発信に活用する企業も多く、全体では36.7%、卸売・小売業は46.9%、サービス業・その他は43.4%となっている。

ソーシャルメディアサービス(※)の活動状況(企業)

ソーシャルメディアサービスの活動状況

ソーシャルメディアサービスの活動目的・用途(企業)

ソーシャルメディアサービスの活動目的・用途

※ソーシャルメディアとは、ソーシャルネットワーキングサービス、ブログ、動画共有サイトなどの総称。
出典:「平成30年通信利用動向調査の結果」(総務省)より編集部作成

SNSでの情報発信や収集に使われるのが、「#」=ハッシュタグ。発信者が、伝えたい内容に関連するキーワードをピックアップし、頭に「#」をつけて投稿することで、情報収集する側がそのキーワードで検索したときに、発信者の情報にたどり着けるというものだ。

エシカル消費について発信する企業やインフルエンサーは、第一に「#エシカル消費」と書き込むことが多いが、ハッシュタグは同じ投稿の中に複数入れられるため、以下のようなキーワードが並列される傾向にある。

「#サステナブル」
「#SDGs」
「#ていねいな暮らし」
「#ものを大切に」
「#ゼロウェイスト」
「#リサイクル」
「#環境問題」
など

「このほか『無印良品』など、ソーシャル・プロダクトのブランド名にハッシュタグがつけられることもよくありますが、こうしたエシカルに関連するキーワードは、同時にミニマリストが情報を発信したり収集したりするときに使うワードとも共通します。つまり、エシカル消費とミニマリズムは、興味の連鎖から共通テーマにたどり着くことが多く、SNSを通して互いの情報が自然と得られ、もう一方の実践のきっかけになり得るということ。ミニマリストへのインタビュー調査でも、情報を集める中でエシカル消費を知り、エシカルな暮らしを始めたという人が多くいました」(大平教授)

例えば、無印良品の衣類の多くは、シンプルで着回しのきくデザインであると同時に、オーガニックコットンを使っているため、ミニマリストにもエシカル消費の実践者にも好まれる。

エシカル消費を実践する人が、無印良品の衣類をSNSにアップする際、エシカルな考えとともに「#無印良品」と書き込んでいれば、その投稿はハッシュタグを通じてミニマリストの目にも止まる。そして、ミニマリストはエシカル消費へと興味を広げ、実践を始める可能性があるということだ。

2つの消費スタイルはこのようにSNSの中で相乗効果を生みながら、ともにムーブメントを加速させていていると言えるだろう。

エシカル消費

次回は、エシカル消費やミニマリズムを実践する人の姿に焦点をあてたい。実際に、社会に対してどう考え、「消費」をどのように捉えているのだろうか。その暮らしぶりはどんな様子なのだろうか。大平教授が行ったインタビュー調査などを紐解きながら、実践者のリアルに迫る。

大平修司(おおひら・しゅうじ)
商経学部教授。日本のボランタリー・シンプリシティ研究の第一人者。専門はマーケティング、消費者行動論。著書に『消費者と社会的課題』(千倉書房)、『ソーシャル・イノベーションの創出と普及』(NTT出版)など。普段から積極的に有機野菜や寄附つき商品、コートやジーンズは本当に気に入ったもの、長く使えるものを選ぶようにしている。

この記事に関するSDGs(持続可能な開発目標)

SDGs目標12つくる責任 つかう責任
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