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Q&A

高校の「授業料無償化」、制度の概要

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——無償化の対象となる条件や支給額を教えてください。

2020年4月から、私立高校の「授業料実質無償化」と呼ばれる制度がスタートしました。

家族構成により条件は異なりますが、両親のうち一方が働いていて、高校生と中学生の4人家族の場合、年収590万円未満の世帯には、私⽴⾼校(全⽇制)の授業料のうち最⼤39万6,000円までが支給されます(同じ家族構成で両親共働きの場合は、年収660万円未満の世帯で同額が支給されます)。

私立高校(通信制)の生徒には29万7,000円、国公立の高等専門学校の1~3年生には23万4,600円とそれぞれ支給額は異なりますが、高所得家庭を除き、基本的にすべての高校生の授業料を国が負担する形となりました。

授業料無償化が始まった背景

——どうして高校生への支援が手厚くなったのでしょうか?

小中学校は義務教育であり、憲法で無償であることが規定されています。高校は義務教育ではありませんが、現在、進学率が約98%と、ほぼ全ての子どもが小中学校と同じように高校に通っています。

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この実情から、高校教育は「ナショナルミニマム」、つまり最低限受けるべきサービスと考えられるようになりました。またその一方で、毎年全国で1,000人~2,000人の高校生が、経済的事情で退学をしているという現実もあります。

どんな家庭に生まれても、ゆとりをもって高校に通い、卒業できるようにと、公⽴⾼校の授業料無償化からスタートし(2010年~)、今回(2020年)、私立高校の実質無償化へと支援の幅が広がった、という流れです。

「就学支援金」これまでとの違い

——2020年4月の改正で、何が変わったのでしょうか?

高校授業料無償化の根拠となる法律は「高等学校等就学支援金の支給に関する法律(通称、高校無償化法)」というもので、2010年民主党政権下において施行されました。

少子化対策としての側面も考慮され、子育て家庭の経済的負担を減らすため、「子ども手当」など、さまざまな対策をとる中で生まれたものです。

このときは、保護者の所得とは無関係に、公立高校の授業料は徴収しないこととし、私立高校の生徒にも公立高校の授業料相当額である11万8,800円が、低所得世帯にはその1.5~2倍の金額が「就学支援金」として支給されることとなりました。

自民党への政権交代後、支援の対象は年収910万円未満の世帯に限定され、その代わりに中低所得世帯向けの支援金を厚めにするなどの変更もありましたが(2014年)、この2020年4月の改正により、中低所得世帯向けの就学支援金を、授業料の実質無償化と呼べる水準にまで引き上げることとなったのです。

制度の課題と今後

——制度の問題点とは?

この改正により、私立高校生の家庭の負担は大幅に軽減されました。
しかし、高校進学によって発生する費用は授業料だけではありません。そのため、2014年の改正の際には、給付型奨学金の創設もあわせて行われました。

その一方で、制度上の課題もあります。上限となる年収が設けられていて、その前後で支給される金額は大きく異なります。このような⽀給⾦額の「段差」が存在すると、基準年収の境目にいる人にはとても不条理な現象が起こってしまうため、その改善が求められることになるかもしれません。

限られた財源を有効に活用するために本当に必要な制度とはどのようなものなのか、考えていかなくてはなりません。

小林航(こばやし・わたる)
政策情報学部教授。博士(経済学)。一橋大学大学院経済学研究科卒業後、財務省財務総合政策研究所で主任研究官を務め、2010年から千葉商科大学で教鞭を執っている。「日本経済論」や「地方財政論」など経済と財政に関する講義を担当。中学生の時にはじめて消費税が導入され、「みんながこれだけ嫌っているのになぜ消費税が必要なの?」という疑問を持ったことが、経済学を学び始めたきっかけ。

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SDGs目標4質の高い教育をみんなにSDGs目標10人や国の不平等をなくそう
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